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31 一縷の望み

 次回の更新は遅れます、申し訳ありません。

 苦労してやっと1匹倒した白い狼が2匹に、もっと強い黒い狼が1匹。


 逃げ場のない一本道の通路で、完全に挟まれている。


 控えめに言って"詰み"だけど、緊迫した状況に一縷の望みがあったことを思い出した。


「こ、これを使いましょう」


 ジリジリと距離を詰めてくる狼たちに意識を集中しながら、襲い掛かってこられるまでの僅かな時間でこそこそと作戦会議をする。


「それぁ・・・」

「臭い袋です」


 ホブゴブリン戦でも大活躍した臭い袋。

 こいつらは狼ってだけあって嗅覚が優れてるらしいから、きっとよく効くはずだ。


 爆炎石が不発に終わった今、頼みの綱はもはやこれしかない。

 一度使った手だけど、何度だって使ってやる!


「グルォーン!」


 黒い狼の遠吠えを合図に、白い狼達が速度を上げる。

 貴重な作戦会議の時間が、あっという間になくなった。


「そらっ!」


 俺は即座に臭い袋を2つ開封し、地面に1つ、もう1つを白い狼達に向けて投げつけた。


 キャンキャンとちょっとかわいらしい鳴き声を上げながら嫌がる白い狼達。


「全員で白いほうを!」

「よ、よっしゃ!いくぞお前ら!」

「「うおおおお!」」


 幸いなことに黒い狼も臭いを嫌っているのか、それとも指揮官的な立場なのか、一定の距離を取り続けている。


 黒いほうが本腰を入れて襲い掛かってくる前に、せめて白いほうだけでも倒すんだ!

 なんとか、挟まれている状況だけでもどうにかしないと・・・。


 俺もやれるだけやってやる・・・!


 {急所突きのランクが上がりました}

 {観察眼のランクが上がりました}


 {急所突き}に5ポイント、{観察眼}に10ポイントを使いランクを上げる。

 {観察眼}で確実に弱点に{急所突き}を当てる心算だ。


 ほんとは{剣術}も上げたかったけど、流石にポイントが足りなかった。


「うらああああ!当たれ!当たれええ!!」

「死んでたまるかァ!!」

「まだ結婚もしてねぇんだぞー!」


 思い思いの言葉を口にしながら、一心不乱に得物を振るカマセーヌ一行。


 追いつめていたはずの獲物の思わぬ反撃に、2匹がたじろぐ。




 今だッ!!


 ランクが上がった{観察眼}のおかげか、一瞬の隙を見逃さない。


 レベルが上がったことで上昇した"敏捷"に物を言わせて、一瞬で彼我の距離をゼロにする。


「!?」


 驚愕で見開かれた狼の瞳孔に映る才人の姿があっという間に大きくなり、視界の端で閃く"白"が胸に吸い込まれる。


 {レベルが上がりました}

 {Lv20になりました}


 まずは1匹!


 バゼラードを引き抜き、2匹目の獲物に狙いを定める。


 2匹目も仲間が瞬く間にやられたことに驚き、反応できずにいる。


 取った!これで狼達の布陣を切り崩せる!


 そう確信する俺の前を、()()()が駆け抜けた。




 ・・・!?


 気付けば2匹の狼に、再び挟まれていた。



 ()()()()



 白い狼を、運んだ・・・?あの一瞬で?


 なんだかんだ今まで、敏捷のステータスだけは負けたことがなかった。

 けど、コイツにはLvが上がった今でも大きな差をつけられている。


 その上、仲間を倒した俺から一番遠い位置に、白い狼を陣取らせている。

 今俺の目の前にいるのは、黒いほうの狼だ。


 頭まで回るのか、こいつ・・・!


 カマなんとかさん達に加勢して白い狼を倒してから、黒いほうに4人がかりで挑むつもりだったけど・・・。

 これじゃあ3人VS白い狼、俺一人VS黒い狼の図になってしまう。


 正直、分が悪いとしか言えない。


 なんとかさん達は俺が来る前から白い狼と戦ってたけど苦戦してたし、今じゃ一人は左腕を、俺と同じ盗賊っぽい人は脇腹をやられてる。

 手負いじゃ勝てる見込みはさらに薄い。


 どうする・・・!?


「お、おい!どうすんだよ・・・!」


 狼達はもう臭い袋の臭いに慣れてしまったのか、もう大きな隙を見せてくれそうにない。


 まずい、もう打つ手がない・・・!無策で戦うしかないのか・・・!?


「グルォオーン!」

「!」


 頭をフル回転させて策を練る俺に、再び風になった黒い狼の牙が迫る。


「くっ・・・!」


 咄嗟に剣で受けた。両腕で柄を持ち、衝撃を堪える。


 ギリギリと音を立てながら、火花さえ散りそうな鬩合が始まった。


 なんて"力"だ・・・!"敏捷"すら圧倒的に負けているのに、純粋な力比べでもこんなに強いなんて・・・!


 かと思えば、剣にかかる圧が弱まった。


 なんだ・・・?


 狼が俺から距離を取り、もう一度駆けだす。


 右に、左に。

 シュンシュンと風を切るような音と共に、まるで反復横跳びでもするかのように動き回る。


 また"敏捷"で攪乱するつもりか・・・!


 ランクが上がった{観察眼}の力で、攻撃に転じる瞬間を見極める。


 右、左、右、左、右・・・来た!


 速度の乗った一撃を、再びバゼラードで受け止める。

 キィーンと、一際甲高い音が辺りに響く。


 腕が痺れる・・・!

 "敏捷"と"力"の合わせ技に、思わず剣を落としそうになる。


「ぐぅっ・・・!」


 それでもかろうじて攻撃を受け止める俺に痺れを切らしたのか、狼は前足を高く振り上げ追撃の構えに転じた。


 まずい、剣を握ったままじゃ避けれない・・・!


 コンマ1秒にも満たない葛藤の末、泣く泣く剣を手放し、後方へ跳んだ。


「おい、爆炎石はもう持ってねぇのか!?」


 突然真横に飛んできた才人に、カマセーヌが声をかける。


「さ、さっきの1個だけです!」


 予備の剣を取り出しながら答えた。


「チッ・・・おい!"アレ"を使え!」


 なんとかさんが白い狼に応戦しながら、左腕を怪我した人に呼びかける。


 アレってなんだ・・・?


「はぁ!?あんなのなんの役に・・・」

「ビビらせて1か所にまとめんだよ!"2つのほう"ならいっぺんに出来んだろ!」

「っ!そうか・・・!」


 なんだかわからないが、なんとかさん達には考えがあるらしい。

 頼む、それでうまくいってくれ・・・!




「燃えろよ燃えろ、焼き尽くせ!全部燃やせよ体に心!」


 急になんだ・・・?まさか、詠唱・・・!?もしかして、魔法が使えるのか!?


 なんだ、そんな切り札があるなら最初からやってくれれば良かったのに!


 さっきは勝てる見込みが薄いなんて思ったけど、意外と頼もしいじゃないか!


「ツインファイア!」


 詠唱が終わり、魔法が発動する。


「おぉ・・・お・・・?」




 術者の手には、ライターから出たような小さな火が2つ浮かんでいた。


 ・・・・・・。


 え、小さくね?遠近法とかじゃないよね?なんか、人魂みたいな・・・。


「やれー!」


 小さな火が1つ、白い狼に向かって飛んでいく。

 ゆらゆらと近づいてくる火に、白い狼が予想以上にたじろいだ。


 お・・・?もしかして、火が苦手なのか?

 そういえば、爆炎石を投げた時もすぐには襲い掛かってこなかったな。


 自身を追いかけてくる火に追い詰められ、白い狼は黒い狼のほうへ逃げ出した。


 その足元には・・・さっき投げた爆炎石がある!


「今だ!!」

「!!!」


 2つ目の火が爆炎石に向かって飛んでいく。


 おぉ!そうか、アリスは火でも起爆出来るって言ってた!それが狙いか・・・!


「伏せろー!!」


 カマなんとかさんの叫びに全員が爆炎石から距離を取り、伏せる。


 直後、今度こそドカーンと盛大な音を立てて爆炎石が起爆した。


 白い狼はもちろん、黒い狼も名前通りの爆炎に身を包まれる。


「やった!」

「へへ、ざまぁみやがれ!」


 燃え盛る炎。あまりの熱に、炎の向こう側の通路が揺らいで見える。





 {レベルが上がりました}

 {Lv21になりました}


 どうやら終わったようだ・・・。


「はぁ・・・今度こそダメかと思いましたよ。皆さんありがとうございました!」


 緊張の糸が切れ、共に戦った3人の冒険者に礼を言った。


 ギルドで会った時は嫌な人達だと思ったけど、意外と頼りになってくれた。

 なんだか変な縁が出来ちゃったな。


「ふん、まあ、おめぇもなかなかやるじゃねぇか」

「あはは・・・」


「じゃあ、はぎ取って街に戻りましょっか」

「そうだな」


「ん・・・?なんだ・・・?」

「・・・?どうかしましたか?」


 脇腹をやられた盗賊風の男が指を差す。方向は・・・先ほど大爆発を起こしたほうだ。




 ゆらり。


「ん・・・?」



 熱のせいか、何かがゆらいで見え・・・――ッッ!!!




 煙から飛び出した黒い風が、弾丸となって迫りくる。




 『オマエダケハコロス』 そう言わんばかりに、剥き出しの殺意キバエモノの首筋目掛けて突き立てる。



 剣でガードは・・・――間に合わないッ!!




 飛び散る鮮血。


「ぐっ、あああああああああ!!」


 いくつもの鋭い牙が肉に食い込む激痛に、俺は思わず絶叫した。

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[良い点] ★5評価しました! 面白い小説に出会えて幸せです。 いつか男の娘ヒロインとか出ないかなぁ……(日和った考え)
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