表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/51

30 狼

「ワオーン!」


 切り札だった爆炎石が不発に終わり、茫然としていた俺に狼の鋭い牙が迫る。


「しまっ・・・くっ!」


 咄嗟にプロテクターを付けている肘と剣を前に出し、防御の姿勢を取る。


 これは避けれない・・・!




 ・・・・・・あれ?


 いつまで経っても来るはずの衝撃が、痛みが来ない。


 なんだ・・・?


 気になって狼の様子を見てみると、なぜかスンスンと俺の匂いを嗅いでいた。


 おいおい、まさかモンスターにまで{モテスキル(男性用)}の効果があるとか言わないよな?


「アオーン!アオアオーン!」


 ひとしきり俺の匂いを嗅いだ狼が今度は、俺達から距離を取って遠吠えを始めた。

 なんだっていうんだ・・・?


「お、おい何してる!チャンスだぞ!」

「!」


 カマなんとかさんに言われてハッとする。なんだか知らないが確かにチャンスだ。


 なんとかさんが遠吠えする狼に向けて、両手斧を思いっきり振り下ろす。


 その攻撃は惜しくも紙一重で避けられてしまったが・・・逃げた先には、俺が居る!


「もう外さないぞ!」


 渾身の力を込めた{急所突き}が、狼の胸へ吸い込まれる。


「ギャイン!?」


 ふぅ・・・この手の素早いヤツは、攻撃が当たりさえすれば倒せるって相場が決まってるんだ。


 勝ちを確信し、胸からバゼラードを引き抜く。


「やったか!?」

「あのそのセリフやめてもらっても」

「グルルルル!」


 案の定というべきか、狼は怒り心頭の様子で佇んでいる。


「・・・・・・」


 えー・・・これ俺が悪いのか?


「くそ、まだか!」

「やったか!?とか言うからですよ!」

「関係あんのかそれ!?」


 いや確かに、狼の身体構造とかよくわからないから、急所を外したという可能性もあるけど。


 とはいえ、確実に弱ってはいる!


 ヤツの動きは明らかに先ほどよりも精細さと俊敏さに欠けている。

 これなら普通に攻撃が当たる!


「あいつは弱ってます!一気に畳みかけましょう!」

「言われなくてもわかってらぁ!」


 俺となんとかさんの連続攻撃をギリギリのところで回避し続ける狼。

 立ち位置が一歩、また一歩と後ろに下がっていく。


 トン、と。


 後ろ脚が何かに当たる。


 気付けば狼は壁際に追い込まれていた。


「今度こそ終わりだな」

「グルルルル・・・」


 逃げ場を失った狼に、もう一度{急所突き}を撃ちこむ。


「キャン!」


 {レベルが上がりました}

 {Lv19になりました}


 ふぅ・・・今度こそ終わったようだ。


「ハァ・・・ハァ・・・なんとかなったな」

「はぁ・・・そうですね!」

「おぉ・・・!」

「流石カマセーヌだぜ!」


 狼が倒されたのを確認したからか、さっきまで辛そうにしていた二人まで起き上がってきた。

 なんだ、結構元気そうじゃないか。


「・・・あれ?狼の死体、消えませんね」


 妙だな、ダンジョンでモンスターを倒したらすぐに光の粒子になって消えるはずなのに。


「ま、まさかまだ生きてるんじゃ・・・」


 元気を取り戻したはずの、腕にケガをした男が心配そうな声を上げる。


「いやちげぇ、こいつは確実に死んでる」

「じゃあなんで・・・」

「こいつはこのダンジョンの生まれじゃねぇってことだ」

「そうなんですか?」

「ああ。ダンジョンのモンスターは死んだらすぐに消えるだろ?そうならねぇってことは、こいつは()()()()()んだ」


 外から・・・?でも、このダンジョンって街の中にあるんだよな。

 そもそもこのガムーザって街は、このダンジョンを中心に栄えてるらしいし。


「でも、街の中をこんな狼が通ったら目立ちませんか?」

「ああ。一体どうなってんだか・・・」




 苦労してモンスターを倒したというのに、奇妙な感覚が残った。




 その時、


「ワオーン!」


 背後からさっき倒した狼とそっくりな鳴き声が聞こえてきた。


「「「「!?」」」」


 その場に居る全員が反射的に振り返る。


「お、おいまさか・・・」

「冗談だろ・・・!?」






 2匹。


 白い狼が、通路の奥から歩いてくる。


 まさか、さっき俺の匂いを嗅いだ後にしてた遠吠えって・・・!?


「流石にあんなのともう戦えねぇぞ!?」

「に、逃げるぞ!」


 その声を受け、一も二もなく反転する。




 ――ゾクッ。


 心臓が、握られるような圧迫感。


「あ、ああ・・・」




 黒い狼が、居た。




 {ダークウルフ 魔族領の中でも特に魔力量の多い地域にのみ生息する狼。ウルフ系モンスターの中でも高い身体能力を誇る。討伐証明部位:牙}

 {弱点:胸、頭}

 {種族 :モンスター}

 {Lv  :25}

 {力  :73}

 {耐久 :65}

 {器用 :63}

 {敏捷 :91}

 {魔力 :31}

 {スキル: }

 {ユニークスキル: }




 強すぎる


 圧倒的な威圧感に気が付きつつも、僅かな希望をもって{鑑定}した。

 どうか、せめて白い狼よりは弱くあってくれ、と。


 肌で感じていたプレッシャーが、覆しようのない数字となって表出しただけだった。



 絶望



 その二文字だけが残る。


 前門の虎、後門の狼ならぬ、前門の狼、後門の狼。

 違うのは、前門にはとても強い狼が1匹で、後門は強い狼が2匹というところだ。


 完全に挟まれた・・・!


「ど、どうすんだよ!」

「俺たちが何をしたっていうんだ!」


 マジックバッグを奪おうと画策しておきながら、カマセーヌ一行の盗賊――アルセーヌが、まるで不運に見舞われた善良な市民のように天を仰ぐ。



 でも、ほんとにどうすんだこれ・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ