3 初・異世界コミュニケーション
「ふぃー、やっとついた。」
最初の場所から街が見えなかったので、日が暮れる前にたどり着けるか心配だったが、杞憂だったようだ。
異世界は早朝だったのか、まだ太陽の位置は高く、真昼間といった様子だ。
「それにしてもでっかい街だなー!」
俺が辿り着いたのは、周りを城壁のような立派な石の壁で囲われた大きな街だった。石壁がわずかに内側に湾曲していることから、おそらくは円形なのだろう。
道の先には大きな門と、門番らしき人が二人見えるので、とりあえず話しかけてみようと思う。
「こんにちは。ここがヴァレッサの街で合ってますか?」
「ああ、そうだ・・・んん!?なんっっってかわいい顔だ!」
「はい?」
「結婚しよう」
「は?」
このおじさんはいきなり何を言っているんだろう、かわいい顔?俺が?俺は一度も女に間違えられたことなんかないし、このおじさんもどう見たって男だ。
辺りを見回しても俺以外にはもう一人の門番しかいないし、俺に話しかけているのは明白だ。
「この出会いは運命だ」
「何言ってんだこのおっさん!?」
異世界に来て初めてのコミュニケーションで、知らないおっさんに求婚されるってどんな状況だよ!?もう一人の門番に視線で助けを求めてみようか・・・。
「あぁ、すまない。そいつは男好きでな、特に君ぐらいの青年がタイプらしいんだ」
「いやそういう問題じゃないだろ!?なんで初対面の相手に求婚すんだよ!?この街の第一印象がなんか変な感じになったわ!」
「まあまあ、落ち着いて」
「落ち着けないですよ!」
「それで返事を聞かせて欲しいんだが」
「ノーに決まってんだろ!あんたはもう黙っててくれ!」
「破局だー!!」
「付き合ってすらいねぇよ!!」
なんなんだこの街は・・・。なんでよりによってこんな変人が門番をしてるんだ・・・。
もしかして俺、物凄くやばい異世界に来てしまったんじゃ・・・いやいや、まだ判断するには早い!俺はモテスキルで異世界ハーレム生活を送るんだ!どうせこの街以外に行くあてもないし、さっさと中に入ってしまおう。
「それで、街に入りたいんですけど!」
俺は気を取り直して、まともそうなほうの門番さんに話しかけた。
「ああ、悪い悪い。街に入るにはいくつか方法があってね、身分証明書か紹介状は持ってないかな?」
「え、えーと」
まずい、どっちも持ってないぞ。適当に嘘でもつくか?うーーーーん、思いつかない!知能が上がるスキルとか貰ってないしな。
なんでラノベの主人公って、こういう時すぐにいいアイデアが浮かぶんだろうね、俺は全く出てこないよ。仕方ない、ここは正直に話そう。
「その、どっちも持ってない場合って入れないんですか?」
「そんなことはないよ。ただ、入るのに手数料がかかるのと、もしこの街で何か悪さをした場合、刑が重くなるってことぐらいかな。」
良かった!街に入る前に詰んだかと思った。ほっと一安心だ。
「なるほど。ちなみにいくら必要なんですか?」
「10シルバーだよ」
値段を聞いてから気付いたが、お金の単位がわからない。でもなんとなく、ゴールドのほうがシルバーより高そうだよな。多分足りるとは思うけど、心配だから何枚か出しておこう。
「ええと、これで足りますか?」
俺はそう言いながら、ポケットから取り出すフリをして、{アイテムボックス}からゴールドを3枚取り出した。
「おいおい出しすぎだぞ。もしかしてあんまり使い慣れてないのか?」
「あ、えーと、実はそうなんです!」
うん、もう変に誤魔化そうとするのはやめよう。嘘つくの下手だし。
「やっぱりそうか、来た方角からして田舎の出だと思ったんだ。あっちじゃ今でも物々交換が多いんだろ?」
「そ、そうなんです、だからよくわからなくて」
よし、なんか勝手にいい感じに解釈してくれたぞ。
「そういうことなら、順番に教えてあげよう。まず、お金には種類があってな、上からプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズの4つがあるんだ。プラチナはゴールド100枚分、ゴールドはシルバー100枚分、シルバーはブロンズ10枚分の価値があるぞ」
ふむふむ、つまり
プラチナ1枚 ⇔ ゴールド100枚
ゴールド100枚 ⇔ シルバー10000枚
シルバー10000枚 ⇔ ブロンズ100000枚
ということか。
「なるほど、プラチナとゴールドは1個下の100枚分の価値で、シルバーだけ1個下の10枚分なんですね?」
「そうだ。少し間違いやすいから気を付けたほうがいいぞ。兄ちゃんが出したのはゴールドだから、シルバー100枚分の価値だな」
これは大事な情報だな、しっかり覚えておかないと。ていうかなんで全部100枚分じゃないんだよ、覚えにくいな!
「じゃあすみませんが、ゴールド1枚でお願いします」
今の話を聞いた感じ、多分あんまりゴールドで支払う人はいないはずだ。女神様が細かいのも用意してくれていればよかったんだけど・・・。俺は若干申し訳なく思いながら、ゴールド1枚を手渡した。
「あいよ、ちょっと待っててくれ。おーい!お釣り用意してくれー!シルバー90枚だ!」
案の定お釣りの準備をするために、おじさんが後ろでしょぼくれていたさっきの門番に話しかけている。
いきなり求婚してきたわりに、俺にフラれたのが結構ショックだったらしい。
「待たせたね。はいよ、シルバー90枚と、通行許可証だ。それはそうと、街には何をしにいくんだい?田舎から出てきたのなら、やっぱり冒険者になりに来たのかな?」
そういえば、とりあえず街を目指してきたけど、まず何をするかは決めてなかったな。
冒険者か・・・世界中を旅しては、危険なモンスターを倒したり、未知なる秘境を探索したりする、男なら誰もが一度は憧れる職業。少なくとも、俺の中のイメージはそんな感じだ。
魔王を倒すからには冒険者になるのが一番良さそうだし、そうしよう。そうと決まれば、冒険者になるにはどうしたらいいか聞かないと。
「そうなんですよ。ただ、冒険者ってどうしたらなれるのかよくわかってなくて、どこに行けばいいんですかね?」
「なんだ兄ちゃん、そんなことも知らずに来たのか!いいか、冒険者ってのはな、ギルドってとこに行って、登録してなるものなんだ。ギルドは各地に支部があって、この街のはここをまっすぐ進めば見えてくるから、すぐにわかるぞ」
「わかりました、色々ありがとうございます!」
「おうよ、まあ頑張んな!」
初異世界コミュニケーションでおじさんに求婚されたのには困惑したが、もう一人の門番さんがいい人で良かった。
俺は胸の高鳴りを感じながら、ヴァレッサの街へと入った。