29 遭遇
俺は{気配感知}で感じる気配のほうへ走っていた。
こうしている今も4つの気配は激しく動き回っている。右へ、左へ。
2つの気配がくっつくほど近づいたかと思えば、残る2つの気配が近づいて、1つの気配が離れる。
ここ数日で身に着けた感覚と気配の動きからして、3つが冒険者で、1つはモンスターの気配だろう。
モンスターが一人に襲いかかったところを、仲間がフォローしたから離れたってとこか。
「もうすぐだ!」
凝った作りの通路を進み続け、最後の角を曲がる。
「グルルルル・・・」
駆けつけた俺が目にしたのは白っぽい体毛の狼と、どこかで見覚えのある3人の冒険者の姿だった。
「大丈夫ですか!?」
どこで見たのか気になりつつも、とりあえずは3人の冒険者を心配する。
一人は右腕から血を流し、残る二人も肩で息をする状態だったからだ。
「おぉ!助かっ・・・って!なんだてめぇかよ!!」
顔に漢字の"犬"のような傷のある男が、露骨にがっかりした声で叫んだ。
「あなたは・・・」
あー!思い出した!俺がホブゴブリンを倒した時にギルドで絡んできた、チンピラみたいなやつだ!
こいつらもガムーザに来てたのか。
それにしても、あの狼はなんなんだ・・・?とりあえず{鑑定}してみよう。
{シルバーウルフ 魔力の多い土地に生息するモンスターで、主に魔族領に分布している。高い敏捷性と優れた嗅覚に、鋭い牙と爪が特徴。討伐証明部位:牙}
{弱点:胸、頭}
{種族 :モンスター}
{Lv :15}
{力 :45}
{耐久 :39}
{器用 :37}
{敏捷 :57}
{魔力 :12}
{スキル: }
{ユニークスキル: }
つ、強い・・・!それに、ステータスも気になるけど、魔族領に分布ってとこも引っ掛かる。
ダンジョン内の様子と、やけにこの人たちが苦戦しているところからして、この狼は本来ここじゃ出ないんじゃないか・・・?
「この狼って、普通ここで出るんですか!?」
「んなこと聞かれても知らねーよ!」
まあ、この人たちもガムーザに来たばっかりだろうしな。
色々気になるけど、とりあえずなんとかしないと・・・!
「チィッ!来るぞ!」
狼も休めていた攻撃の手を再開させるようだ。
俺も{アイテムボックス}からバゼラードを取り出し、構える。
「ワオーン!」
タタッタタッ、と4足歩行特有の足音を響かせながら駆けだす狼。
「早っ!!」
思わず素直な感想が飛び出る。
それもそのはず、シルバーウルフの"敏捷"は今までに遭遇したどのモンスターよりも高い。
敏捷の伸びがいい俺に迫るほどの数値だ。
ちなみに今の俺のステータスはこんな感じだ。
{サイトウ サイト}
{種族 :ヒューマン}
{Lv :17(+1)}
{ジョブ:盗賊}
{力 :42(+2)}
{耐久 :36(+1)}
{器用 :55(+2)}
{敏捷 :61(+3)}
{魔力 :0}
{スキル:鑑定(S) アイテムボックス(S) 気配感知(C) 忍び足(D) 剣術(C) 観察眼(D) 罠感知(C) 鍵開け(D) 急所突き(D)}
{ユニークスキル:言語理解 成長加速 モテスキル(男性用)}
{獲得可能スキル: }
{使用可能スキルポイント:13}
ステータス的には互角に近いけど、一番怖いのは"骨格"だ。
今まで俺が戦ってきたモンスターはどれも人型だった。だが、コイツは違う。
人型のモンスターよりも縦横無尽に駆け回るあいつを捉えるのは、ステータス以上に厄介だ。
現に、俺達は4人がかりなのに狼の動きに翻弄されていた。
まるで俺がゴブリン相手に速度で攪乱したときみたいだ・・・。
「くっ・・・」
「くそ!当たらねぇ!」
俺も他の3人も、目の前を通る狼に向けて得物を振り続けるが、その剣筋は虚空に描かれるだけだった。
でも、あいつからも大きな攻撃は仕掛けられていないんだし、そう焦ることもないか・・・?
俺がそんなことを考え始めた時。
「めんどくせぇ!おらああああ!」
一人が仲間たちから離れ突撃した。
「バカ!よせ!」
仲間の制止の声を無視し、剣を前に突き進んだ彼の切っ先が、狼をかすめる。
何本かの毛が宙を舞い、遅れて血が飛び散る。
「ギャアアアア!」
血を流しているのは、彼のほうだった。
彼の剣は狼の体毛を何本か切り裂いた。その代償としてがら空きになった脇腹に、狼の鋭い爪が吸い込まれたのだ。
痛みでうずくまる彼に、狼は追い打ちをかけるように鋭い牙でもって食らいつかんとする。
「クソ!」
今にもトドメを刺されそうな仲間を前に、リーダー格の男――カマセーヌが突撃する。
「ひぃいい!」
「やぁめぇろぉおお!」
大きな両手斧を振りかぶりながら近づくカマセーヌに気付いた狼は、すんでのところで離れた。
まずいな・・・一人は右腕から血を流してるし、二人目も今ので相当な深手を負ってしまった。
満足に動けるのは俺と・・・カマなんとかさんだけになってしまった。
「おいガキ!てめぇなんかねぇのか!?」
「なんかって言われても・・・あ」
爆炎石!そうだ、爆炎石がある!
確かアリスは・・・衝撃を与えたり火に近づけたりすると爆発するって言ってたな。
「こ、これがあります!」
俺は取り出した爆炎石を見せた。
「いいもんあんじゃねぇか!それを使え!」
「こ、こんなところで使って大丈夫なんですか!?」
今俺たちが居るのは比較的長めの通路のど真ん中だ。
爆発の規模によっては生き埋めになったり、帰り道がなくなったりするかもしれない。
「いいからやれー!」
「っ・・・!」
こうなったらやぶれかぶれだ!
俺は爆炎石をシルバーウルフに向かって投げつけた。
大きな音を警戒し、思わず耳を塞ぐ。
その直後、爆炎石はドカーン!と盛大な音を立ててシルバーウルフごと爆散!
・・・はしなかった。
・・・・・・あれ?
コロコロと地面を転がる爆炎石に、全員の視線が集まる。
いつまで見つめても爆発しない爆炎石。
視線の先が、投げた俺に向く。
「えーっと・・・えへ?」
「えへじゃねぇよ!!何やってんだお前ェ!!!」
「ワオーン!」
まずいまずいまずい!起死回生の切り札が!どうして!?