27 次の街
時は数分前に遡る。
才人達はヴァレッサの街で食べる最後の料理を堪能し、ガムーザへと続く道に出ていた。
「いやー、冒険者カードがあるとスムーズに通れていいね」
「ええ。そのためだけに冒険者登録する人も居るぐらいなのよ」
「へぇー、まあ便利だもんなぁ」
身分証があるとお金もかからないし、冒険者になったのは大正解だったな。
「ところで、どこで馬車を借りるんだ?」
「何言ってるのよ、もう外に出ちゃったんだから徒歩よ、徒歩」
「え?」
てっきり街の外に出てから、タクシーみたいに馬車を借りるシステムなのかと思ってたんだけど・・・。
「でもたしか、馬車でも半日かかるって・・・まさか」
ギルドでしたやり取りを思い出す。・・・あれって冗談じゃなかったのか!?
「ええ、私が抱えて走ってあげるわ」
「ちょ、ちょっとま」
俺が制止するよりも早く、アリスはひょいっと俺を持ち上げた。
気が付けば肩に乗せられ、落ちないように背中を腕で捕まれる体勢になっていた。
所謂お米様抱っこというやつだ。
「行くわよー」
「う、嘘だろ!?心の準備が」
アリスの体を光の粒子が包み込む。全身を覆っていた粒子は徐々に移動し、脚部に集まった。
わー、抱えられてるから光ってる足がよく見えるー、って!そんなこと考えてる場合じゃ――
ダンッ!
大きな音を立てながら、アリスの足が地面にめり込む。
異様に深い靴の跡を残しながら、莫大な推進力を得たアリスは、出鱈目な速度で駆ける。
「ッッッ!!!」
速ッ!!いや、速すぎッッ!?!?
およそ生身の人間が出せるとは思えない速度で、ヴァレッサの街が遠ざかる。
俺がバイクの免許とか持ってたら、こんな感覚を味わえたのかなー。
いや、味わえるわけないな。だって俺・・・後ろ向きだもん。
アリスは当然進行方向を向いているが、抱えられている俺は体を起こしても、せいぜい後方が見えるだけだ。
だからこそ、尋常じゃないスピードで遠ざかっていくヴァレッサの街が見えたわけだけど。
「ちょ、これ酔うんだけど!?」
バイクや車と違い、乗っているのは人の上だ。ものすごい振動が伝わってくるし、後ろ向きだから感覚がおかしい。
「それぐらい我慢なさい」
「そんな・・・うっ、あんなにいっぱい食べるんじゃなかったあああ!」
「ほら、もっとスピード上げるわよ」
「降ろしてくれえええ!!!」
ガムーザに着くまで、あと2時間。
一方カマセーヌ達は・・・。
「おい、もうすぐガムーザだぞ!起きろ!」
「んん・・・あぁ・・・」
「体がいてぇ・・・もうちょっと寝心地のいい馬車はなかったのか」
「しょうがねぇだろ、夜の馬車は割高なんだから。少しでも安いのにしねぇと割に合わねぇだろ」
「そうだけどよぉ・・・ん?お、見えてきたぞ!あそこがガムー・・・あ?なんだこの音は」
「音?」
「ダダダダッ、ってなんかが走るような・・・」
「まさか・・・」
「もうすぐよ!」
「ぎぼぢわ゛る゛い゛!!」
カマセーヌ達が見たのは、馬車の真横をピンク色の道着を着た大男が走り抜ける所だった。
彼の肩には、哀れにも真っ青な顔になった才人の姿もあった。
「「「・・・・・・」」」
「もうすぐガムーザだな」
「そうだな、降りる準備をしねぇと」
(こいつら見なかったことにしやがった・・・)
「さぁ、着いたわよ」
「うっ・・・おえぇ・・・」
数日ぶりにすら思える地面の感触。
確かに自分の足で立っているはずなのに、まだ不安定な何かに乗っているかのような錯覚に陥る。
「油断すると吐きそう・・・」
未だに吐かずに居ることが奇跡だった。
「しょうがないわね、少し休んでから入りましょ」
「うん・・・」
街へは門の近くの木陰で休憩してから入ることになった。
休んでいる間に、馬車でやってきた3人組の冒険者が先に入っていった。
いいなぁ、俺も普通に馬車が良かった・・・。
「ふぅ・・・落ち着いてきた」
「それなら行きましょ。冒険者カードを準備しておくのよ」
「あぁ」
ガムーザもヴァレッサと同じく、大きな石壁で囲まれた街だ。
冒険者が集まる街らしいから、ここもきちんと関所を設けているみたいだな。
カードを見せるだけで、特に苦も無く入ることが出来た。
「ここがガムーザか・・・お?でかい時計塔がある!」
明らかに周りの建物よりも数段大きなそれには、入ってすぐのところからでもはっきりと見えるほど巨大な時計が付いていた。
何気にこの世界では初めて時計を見たな。ちゃんとあったのか。
「あそこがここのギルドなのよ」
「へぇ!そうなんだ!」
「なんでも、ここのダンジョンで初めて発見された魔道具は時計だったらしいわ。あれはそれを参考に、当時の魔道具士が作り上げた傑作という話よ」
「ほぇー・・・」
この世界じゃ時計は魔道具なのか。
なんにせよ、あれだけ目立つ建物がギルドなら、この街で迷う心配はなさそうだな。時間も簡単に確認できるし、便利そうだ。
ドンッ
通行人と肩がぶつかる。
「あ、すみません!」
しまった、時計台に気を取られて前をよく見てなかった!
思わずぶつかった相手に振り向くと、目に飛び込んできたのは白みがかった銀髪に空色の瞳。
それから・・・ボブカットの間から覗く、ちょこんと尖った耳。
エルフ、という言葉が浮かぶほど、整った顔立ちの女の子だった。
いや、もしかしたら本当にエルフなのかもしれない。
「っ・・・ごめんなさい」
そう言うと、薄い水色のワンピースを着たその子は、足早に去っていった。
「大丈夫?」
アリスに声を掛けられはっとする。あまりに可愛い女の子だったから、見惚れていたらしい。
「あ、ああ。大丈夫」
すごく可愛い子だったな・・・と思いつつ。
ヴァレッサよりも人通りが多いみたいだから、気を付けないと。
よく見るとヴァレッサよりも武装している人の割合も高い。
ダンジョン目当てに、色んなところから人が集まってきてるんだろうな。
「とりあえずどうしよっか、宿でも探す?」
「ええ、宿ならいくつか知ってるから行きましょ」
「おぉ、助かるわ」
アリスは色んな街にいったことがあるみたいで、いつも案内してもらってばっかりだな。
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