23 勇者と魔王
用が済んだ俺は再び魔法陣に入り、ダンジョンの外に出た。
って、あれ?屋内に出たぞ?ダンジョンの入り口に雰囲気が似てる袋小路だ。
クリアした人だけが出てくる、専用の出口みたいな場所なのかな?
「おかえりなさい、時間がかかっていたようだけど、何かあったのかしら?」
周りをきょろきょろ見ていると、アリスに話しかけられた。
石板の裏に書かれてた悪戯書きについて考えていたから、待たせてしまったらしい。
「ああ、待たせてごめん。ちょっと気になることがあってさ」
「あら、何かしら?」
とは言ったものの、石板の裏に日本語が書かれてたんだけどーなんて聞くわけにもいかないし、どうしようか。
とりあえず、先に宝箱から出てきた石について聞いてみようか。
「宝箱からこんなものが出てきたんだけど、何かわかるかな?」
「あら、これは爆炎石ね。強い衝撃を与えたり火に近づけたりすると爆発するわ」
「あぶな!{アイテムボックス}に仕舞っておいたほうがいいな・・・」
俺は慌てて爆炎石を{アイテムボックス}に仕舞った。
「そうね。・・・そういえば{アイテムボックス}のランクは上げているのかしら?」
「ん、ああ。結構上げてるよ」
ほんとは最初からSランクなんだけどね。
でもそうか、『スキルポイントを3ずつ貰えてるから高ランクに出来てる』って言えば、わざわざマジックバッグを使って誤魔化す必要もないんだな。
「なるほどねー、それならマジックバッグはお金に変えちゃってもいいかもしれないわね」
「あぁ、そうだな・・・でも、特別欲しいものがあるわけでもないし、いったん保留にしようと思う」
「そうね、すぐに決める必要もないわね」
「あ、あとさ」
「あら?」
「勇者について、何か知ってたりするかな?」
そうだ、なにも『石板に勇者の悪戯書きがあったから気になった』なんて話す必要はない。そもそも勇者って存在が、この世界の人に認知されているのかもわからないしな。
「勇者?そうねー、極稀に転職できる人が現れる特殊なジョブよ。全ステータスが伸びやすくて、スキルも勇者しか使えない特別なものが多いらしいわ。でも、それがどうかしたの?・・・まさか、サイトちゃんがそうだったりするのかしら」
「あぁいやいや!流石にそれはないよ!」
特典次第では本当にそうなるとこだったけど・・・。
しかし、レアなジョブって感じで認知はされているみたいだな。
「ふーん?」
色々秘密にしているからか、アリスが疑いの目で見てきている。身長的に軽く見下ろされる形になってるから、圧がすごい。
「その、他には何か知らないかな・・・?」
「あら、というと?」
「実際に勇者のジョブに就いてた人がどんな人だったかー、とか・・・今勇者のジョブに就いてる人のこととか」
本命は後者のほうだ。過去の勇者についても気になるけど、一番知りたいのは恐らく今勇者に就いてる勇人って人のことだ。
「うーん、私も会ったことがないし、どんな人だったかはよくわからないわね。でも、変わった人が多かったらしいわ。あと、今勇者のジョブに就いてる人は多分いないと思うわよ」
「え、なんでそう思うんだ?」
「勇者というのは魔王が人類と敵対したときに、対抗戦力として異世界から来る"転移者"が就く職業だからよ。魔族との関係は決して良好とは言えないけど、今の魔王が人間と敵対するとは思えないわ」
「え・・・」
『極稀に転職できる人が現れる』って、そういうこと!?
それに、今の魔王ってそんなに悪いヤツじゃないのか・・・?一応、女神様には魔王を倒せって言われてるんだけど・・・。
と、とりあえず1つずつ質問していこう。
「じゃ、じゃあもともとこの世界にいる人は、勇者になれないのか?」
「おそらくそうね、少なくとも前例はないと思うわ」
なんてこった!じゃあ勇者は全員、俺と同じ転移者なのか・・・!
やっぱりこの世界に来たのは俺だけじゃないんだ・・・でも、勇人って人はどうしたんだろう?
さっきの話的に、たまに悪い魔王が現れて、その度に勇者が異世界から来たみたいだよな。
ってことは、過去の勇者たちは大昔にいた別の魔王と戦ったって考えれば、説明が付く。
けど、石板に悪戯書きをしていた勇人さんは、俺とそんなに世代が離れているとは思えないんだよな。
そんな昔の人が『いえーい!』なんて書かないだろうし・・・。
勇人さんが悪い魔王を倒したのなら、勇者として知られているはずだし、負けたのなら今の魔王は悪いヤツのはずだ。
頭がこんがらがってきた・・・。
「なぁ、最後に魔王が勇者に倒されたのって、いつなんだ?」
「確かちょうど100年ぐらい前だったはずよ」
「100・・・!?そ、そうか・・・」
じゃあ、勇人さんは一体どうなったんだ・・・?
単にまだ魔王と戦ってないから、知られてないのかな・・・?
そもそも、今の魔王が悪いヤツじゃないなら、なんで俺や勇人さんが異世界に呼ばれたんだ?
俺の場合は、ほんとはカイトとかいう一文字違いの人だけど。
とりあえず、過去の勇者について聞いてみようか。
「過去の勇者って、どんなことをしたんだ?」
「うーん、さっきも思ったのだけど、サイトちゃんはあまり歴史に詳しくないのかしら?」
「え、あ、うん・・・。そうなんだ」
まずい、気になりすぎて迂闊に聞いちゃったけど、この世界の人にとっては常識レベルの話だったのかもしれない。
勇人さんの行方も魔王の得体も知れない今、俺が異世界から来たってことがバレるのは避けたいな。
アリスになら話してもいいかもしれないけど、この世界じゃ魔法やスキルで誰かに聞かれてるかもしれないし、気を付けないと。
「そうねぇ、過去の勇者たちは何百年も昔に、人類と敵対した悪い魔王と戦ったと伝わっているわ。知らなかったかしら?」
「う、うん・・・」
「ふーん・・・?」
うっ、アリスがものすごいジト目で見てきている。だがすまん!まだ情報が少なすぎて安易に話すわけにはいかないんだ!
とりあえず1つわかったのは、やっぱり過去の勇者たちは大昔の魔王と戦ったってことだ。
残る謎は今の魔王がそんなに悪いヤツじゃないらしいってことと、勇人さんの行方、それからなぜ俺(本当はカイトさんだけど)や勇人さんがこの世界に来ることになったのか、だな。
そもそも、少なくとも俺のときは、勇者への転職権は数ある特典の中の1つだったし、そこもよくわからないよな。
一体どういうことなんだろう・・・?
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