22 クリア報酬と謎
「さて、ボスは倒したけど・・・この後はどうするんだ?出口とか無さそうだけど」
「それなら、もうすぐ魔法陣の色が変わるはずよ」
「魔法陣?」
言われて部屋の中央を見ると、さっきまで赤く光っていたそれが、ちょうど緑色に変わっていくところだった。
あの色合いはどこかで・・・そうか、この部屋の扉と、この世界に来るときに女神様がいた謎の空間で見たな。ってことは、転移用の魔法陣か?
「なるほど、あれで外に出るわけか」
「少し違うけど、まあそんな感じね」
「ん、そうなのか?」
少し疑問に思いつつ、魔法陣へと足を踏み入れようとした俺だったが
「ちょっとまって!」
アリスに呼び止められた。
「ん?なんかあるのか?」
「先に説明しておくわね。この魔法陣に乗ると小部屋に飛ばされるのだけど、このダンジョンを過去に攻略済みの人と、そうでない人で転移先が変わるのよ。具体的に言うと、初回クリア者の転移先には必ず宝箱があるわ」
「おぉ、そうなのか!それは嬉しいけど・・・じゃあどうしたらいいんだ?」
わざわざ呼び止めたってことは、アリスはこのダンジョンをクリアしたことがあるんだろうな。
「転移先の部屋にも同じように魔法陣があるから、用が済んだらすぐに入ればいいわ、そうすれば外に出られるから。私もすぐに入るけど、もし居なかったら少し待っていてくれるかしら」
「わかったー、もっかい魔法陣に入れば出れるんだな」
「ええ」
初回クリア報酬まで用意されてるなんて、ダンジョンって至れり尽くせりだな。そりゃあ国も権利を欲しがって戦争するわけだ。
なんて思いつつ、今度こそ俺は魔法陣へと歩を進めた。
目の前が光に包まれていく。
うおっまぶしっ!!そうだ、転移はこれがあるんだった。
光が晴れ、目を開けた俺が見たのは縦に長い小部屋だった。
「アリスの言った通りだな・・・お、あれは」
宝箱だ!流石にさっき大当たりを引いたから、またいいものが出るってことはないだろうけど・・・それでもやっぱりワクワクするな。
念のため{気配感知}と{罠感知}で探ってみるが、特に違和感や気配は感じない。
まあ、初回クリア報酬の宝箱に罠が仕掛けられてたり、ミミックだったりしたら流石に性格が悪すぎるし、平気そうだな。
「どれどれ・・・」
箱から出てきたのは黒っぽい石だった。ひび割れて中身が見えている箇所は微かに赤く、手に持つとほんのり温かい。
「なんだろうな?これ・・・」
とりあえず{アイテムボックス}に仕舞っておいて、後でアリスに聞いてみることにしようかな。
よし、後は外に出るだけだ。
「魔法陣は・・・お、なんだ目の前にあるじゃん!・・・ん?なんだあれ、石板か?」
さっきは宝箱に気を取られて気付かなかったが、宝箱の後ろには緑色の魔法陣があり、さらにその後ろには石板があった。
あの魔法陣に入れば帰れるけど、石板が気になるな。
「なになに?」
[ツェンノインのダンジョン、クリアおめでとう]
[初クリアの報酬を受け取りたまえ]
石板には異世界の言葉でそう書かれていた。
アリスの言ってた通り、宝箱はちゃんと初回クリア者用に用意された報酬なんだな。
「ていうか名前あったんだ、このダンジョン」
勝手に初心者ダンジョンとか呼んでたけど、ダンジョンにはちゃんと名前があるらしい。
誰もそう呼んでなかったから、初めて聞いたな。
「こういうの見ると裏も見たくなるんだよなー」
配置は転移してきた場所から考えると、手前から順に宝箱、魔法陣、石板と並んでいる。見ようと思わなければ、石板の後ろは誰も見ないはずだ。
ゲームだとよくあるんだよな、石板の裏に何か重要なことが書いてあるパターン。
「お・・・?」
石板の裏には、刃物で無理やり削ったような痕があった。
[いえーい!勇者の勇人様、参上!]
「なんだ、重要なことかと思ったのに」
ただの悪戯書きか。どこの世界でもこういうことをやるヤツはいるんだなー・・・って、あれ?
勇人って日本人の名前じゃ・・・っていうかこの悪戯書き、日本語じゃねぇか!?
「どういうことだ・・・?他にも転移者が居るのかな・・・?」
女神様は特にそんなこと言ってなかったけど・・・しかも勇者って・・・。
そういえば、俺が選ばなかった特典に"勇者への転職権"とかあったな。もしかしたら、それを選んで勇者に転職した人が書き残したのか?
でもそんな人がいるなら、なんでわざわざ女神様は俺をこの世界に転移させようと思ったんだろう?
正しくは、カイトとかいう一文字違いの人だけど。
「んー・・・アリスに勇者についても聞いてみるか」
とりあえず今わかったことは、この世界にはどうやら俺以外にも転移者がいて、その人はおそらく勇者のジョブについてるってことだな。
いつこっちの世界に来た人かわからないけど、文章的にそんなに歳も離れて無さそうだから、縁があったら会えるかもしれないな。
いつもいいねありがとうございます!