21 ダンジョンボス
{罠感知}や{気配感知}の感覚に慣れるという目的を達成し、マジックバッグという予想外のお宝まで入手した俺達は、いよいよボスを討伐しにいこうということになった。
今はアリスに連れられて、ボス部屋のある場所まで向かっているところだ。
「そういえば、さっきの宝箱って結構豪華だったけど、あれ自体を持ち帰っても売れないのかな?」
マジックバッグのことで頭がいっぱいで、さっきは聞きそびれた質問をしてみた。
「それは無理ねー、宝箱は大抵床に固定されているし、もし動かせてもダンジョンから出たら消えるわ」
「そうなのか・・・」
結構綺麗だったから売れそうだと思ったのに、残念だ。
「昔同じことを考えて、装飾部分を持ち帰ろうとした冒険者がいたらしいわ。バックパックがパンパンになるまで詰め込んだのに、出口から出た途端に中身が消えて、前のめりに倒れたという逸話が有名ね」
あっぶねー、同じことやるとこだった。なんて痛ましい事件なんだ・・・!
そうこうしているうちに大きな扉が見えてきた。
魔法陣の刻まれた黒い鉄の両扉は時の流れを感じさせ、重々しい雰囲気を纏っている。
ここまで代わり映えのない灰色一色の光景が続いたダンジョン内では、かなり異彩を放っていた。
「もしかしてあそこか?」
「ええそうよ、10秒以内じゃないと一緒に入れないから気を付けるのよ」
「ん、そうなのか」
「ええ。扉に魔法陣が刻まれているでしょう?あれの力で、ボス部屋と呼ばれる特殊な部屋に転移するのよ。10秒以内なら同じ部屋に転移できるのだけど、それ以上経ってから扉をくぐると別の部屋に転移させられるわ」
なるほどな。同じパーティならすぐに入れば一緒に挑めるし、違うパーティなら少し待ってから入れば、また違うとこでボス戦に挑めるわけか。
「それで、この奥には何が居るんだ?」
「コボルトよ」
「ほーん」
コボルトか。結構色んな作品に出てくるけど、俺の中だとゴブリンみたいな人型のモンスターで、外見は犬に近いイメージだな。
最近だと普通に獣人の一種として人間と仲良くやってたりする作品もあるけど、この世界だと普通にモンスターなんだな。
なんにせよ、大きさも強さもゴブリンとそんなに変わらない雑魚モンスターってイメージだし、正直あんまり強くはなさそうだな。
――訂正、この世界のコボルト怖ぇわ。 by 1分後の俺
扉を通った俺達はひと際広い空間に出た。
「薄暗くてよく見えない・・・」
どうなっているのか把握しようと一歩前に進むと、手前から順に壁の燭台へと火が付き始めた。
「うお、なんだ?」
ともかく、これで壁は見えるようになった。内側に湾曲しているから、円形の部屋だろうか。
遅れて、部屋の中央が妖しく光る。床にはここ二日ですっかり見慣れた魔法陣が描かれていた。
「さあ、出てくるわよ」
「出てくるって・・・ん?」
魔法陣の上に煙がもくもくと広がる。
時間が経ち、煙が晴れるにしたがってうっすらと人のような影が見え始めた。
「そういうことか・・・!」
まあ、コボルトなんてちょっと見た目が犬っぽいゴブリンみたいなものでしょ。
よゆーよゆ・・・あれ?
なんか、デカくね?
出現したボスと思しき影に一歩、また一歩と近づくに連れわかってくるサイズ感。
想像していたゴブリンのそれとは大きく異なる体躯。
なんか、俺の知ってるコボルトと違うような・・・。
「ウォオオオオオオン!!」
滝汗。
どう見ても俺と同じぐらいの身長。顔も犬というより狼に近い。
え、思ってたよりデカくね!?デカいよね!?俺の中の全俺が満場一致で肯定する。『あれはでかい』と。
俺のイメージではせいぜい小学生ぐらいの大きさなんですけど!?
いやまあ、たまにいるけどね!?君ほんとに小学生?みたいなめちゃくちゃでかい子・・・ってそうじゃなくて!
「あれ狼男かなんかじゃねぇの!?」
「いえ、あれはコボルトねー」
目の前の現実を疑う俺に、アリスが冷静に真実を突き付ける。
拝啓1分前の俺へ、訂正があります。この世界のコボルト怖ぇわ。
さーて・・・どう倒したもんかな。
まずは冷静に{鑑定}からだ。
{コボルト 森やダンジョンに生息するモンスター。鋭い嗅覚と聴覚を持ち、敏捷性に優れる。討伐証明部位:耳}
{弱点:胸、頭}
{種族 :モンスター}
{Lv :8}
{力 :23}
{耐久 :18}
{器用 :25}
{敏捷 :30}
{魔力 :2}
{スキル: }
{ユニークスキル: }
おー・・・ん、あれ?なんか・・・弱い?
確かに説明文にあるように敏捷は高いけど、他のステータスはそこまでだし、何より負けているステータスが魔力以外ないぞ?
「ワオーン!」
ステータス欄を読むのに集中している俺にコボルトが駆け寄り、鋭い牙で噛みつこうとしてきた。が・・・
「――遅い」
そうだ、考えてみれば簡単な話だ。ホブゴブリンの討伐依頼を受けるのに必要なランクはE、それに比べてこのダンジョンに入る条件はFだ。
ホブゴブリンの強さが異常なだけで、こいつも初心者からしたら弱くはないんだろう。
だけど・・・。
「あいつはもっと早かった!」
どうしても比べてしまう、死闘を繰り広げたアイツと。
ステータス的には敏捷の一点だけみればさして変わらない。
けど、あの力、あの巨体。何より、今よりもステータスの低かった俺では、到底勝てるビジョンの見えなかったあの圧倒的な威圧感と比べると、どうしたって見劣りしてしまう。
「ギャオン!?」
即座に背後に回り込み、首を刎ね飛ばす。
完全に油断していると思っていた俺に軽く躱され、呆気に取られたコボルトが俺の動きに反応することは出来なかった。
刎ね飛ばした頭が、動かなくなった毛むくじゃらの体が、光の粒になって消えていく。
{レベルが上がりました}
{Lv17になりました}
どうやら本当に終わったようだ。
「お見事ね!」
パチパチと手を鳴らしながらアリスが褒めてきた。
「ああ・・・なんか、思ってたよりデカくてびっくりしたけど、あんま強くなかったな」
「まあ、そうでしょうね。ホブゴブリンを倒せたあなたなら余裕だと思ってたわ」
なんだよもー!もっと小さいかと思ってたからびっくりしたじゃないかー!
拝啓2分前の俺へ、もう一度訂正があります。コボルトは思ったよりデカかったけど、大したことはなかったです。
・・・ま、俺も確実に強くなってるってことだな、うん。
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