20 苦労の報酬
「さて、それなら進みましょうか。私の勘が正しければ、この奥には宝箱があるはずよ」
「お、そうなのか?」
「ええ。仕組みは不明だけど、ダンジョン内の罠と宝物は、ある程度再配置されるようになっているのよ。そして大抵、罠は宝箱の近くに設置されるようになっているわ。まるで宝物を守るようにね」
「なるほどな。2個も罠があったから、このやたら長い道の奥には宝箱がある可能性が高いってことか」
「そういうことよ」
よーし!苦労したからな、いいものが手に入るといいな。
まだ見ぬお宝に向け歩を進める二人の背後に、3人の冒険者が居た。
「この辺からだったよな?大きな音がしたのは」
「ああ、そのはずだぜ」
「おいカマセーヌ、見ろよあれ」
「ん・・・?金碧と、昨日のガキじゃねぇか。この岩の破片は・・・なるほどな。ガキのほうがドジって、アイツが助けたってとこか」
「けっ、やっぱあんなガキがホブゴブリンを倒せるわけがねぇ。一緒にいるとこを見るに、上手くアリスに取り入ってるみてぇだな」
「ああ、ムカつく野郎だぜ。アイツがいねぇ時を見計らって、冒険者の"ルール"ってやつを教え込んでやろうぜ」
「へへ、そりゃいいや」
「そうと決まれば、後を追うぞ」
俺達は長い一本道を進み、罠を起動してしまったところまで戻ってきた。
「っと、そうだ、床の罠はまだ残ってるから、気を付けないとな」
「そうね、他にもまだあるかもしれないから、警戒しておくのよ」
「わかった」
{罠感知}に引っ掛からないか辺りに意識を集中するが、近くにはさっき見つけた罠以外の違和感は無かった。
「今のとこはなさそうだな」
「そう、ならいいわ。行きましょ」
少し進み、突き当たりの角を曲がる。罠を起動したときにもちらっと見えていたが、ここも一本道だったようだ。
「ん!あれは・・・!」
宝箱だ!
黒檀の木目はやや古ぼけているが、枠に使われている金属は黄金色で、これ自体に価値があるのではないかと思えるほどに美しい。
装飾が綺麗だからか、木製の部分もなんだか味があるように見えてくる。
「やっぱりあったわね。気を付けるのよ、宝箱にも罠が仕掛けられていたり、あれそのものがミミックというモンスターのこともあるわ」
「わかった!」
そうだ、浮かれちゃいけない。見た目は豪華だけど、まだ中身が入っていると決まったわけじゃないんだ。
でも、仮に中身がなくても、この箱自体が売れそうだよな。誰もそういうことはしないんだろうか?
そんなことを考えつつ、宝箱に意識を集中してみる。
「んー・・・!{気配感知}も{罠感知}も引っ掛からないな。ミミックでもなければ、罠も仕掛けられてないと思う」
「そう、じゃあ開けてみましょうか」
宝箱には鍵がかかっているなんてこともなく、そのまま開けることが出来た。
人生初の宝箱!いったい何が出てくるんだ・・・?
「ん?なんだこれ・・・」
宝箱から出てきたのは、亜麻色の巾着袋だった。宝箱の中を見てもこれ以外には何も入っていないし、袋の中身を見ても何もない。
これは・・・ハズレか?
なんだよもう!せっかく人生初の宝箱でワクワクしてたのに!
まあしょうがないか、初心者ダンジョンって言われてるような所だしな。そんないいものがすぐ出るわけないか。
「ハズレっぽいわ、これしか入ってない」
そう言いながら、出てきた袋をアリスに見せる。
「ちょっと、それマジックバッグじゃない!」
「え、なんだそれ?」
アリスが驚いた表情をしている。よくわからないけど"マジック"という言葉がついているからには、何か仕掛けのある袋ということだろうか。
気になってもう一度よく見てみると、魔法陣のようなものが編み込まれていることに気が付いた。
ただの袋じゃないのか?
「少し貸してもらえるかしら?」
「ん、ああ」
そう言ってアリスに袋を手渡した。
「やっぱり間違いないわ、これはマジックバッグよ。すごいわね!いきなりこんな当たりを引くなんて!」
「え、やっぱすごいのか?それ」
「ええ。マジックバッグというのは、見た目以上に沢山の物を収納できる特別な袋のことよ。ほら、ここに魔法陣が編み込まれているでしょう?これのおかげよ」
「へぇ・・・便利そうだけど、魔法陣だけでそんな効果を発揮するなら、簡単に作れるんじゃないのか?」
同じように編み込めばいいだけだし、裁縫に慣れてる人ならそんなに難しくなさそうだよな。
「最初はみんなそう思ったわ。けど、不思議なことに全く同じ魔法陣を袋に編み込んでも、マジックバッグにはならないのよ」
「へぇ!そりゃ不思議だな・・・」
「そうでしょう?だから、マジックバッグはダンジョン内で稀に手に入るものしか出回っていないのよ。容量にもよるけど、安いものでも20ゴールドはくだらないわ」
「20ゴールド!?!?」
女神様に貰ったお金の2倍じゃないか!?そんなにすごいのか!?この袋!
「ええ、安くてもそれだから、容量次第では50ゴールド以上するかもしれないわね」
50・・・なんだか額がすごすぎてよくわからなくなってきた。
「ここって初心者ダンジョンじゃないのか?」
そんなに高額な物が、こんなゴブリンしか出ないような低難易度のダンジョンで出ていいんだろうか。
「そうよ、だから相当レアなケースだと思うわ。ダンジョンの宝物は一度誰かが取ったら二度と現れないタイプと、再配置されるものがあるのだけど、マジックバッグみたいなレアアイテムはそうそう再配置されることがないの」
「じゃあ、たまたま誰も取ってなかったってことか?」
「うーん、さっきも言ったけどこのダンジョンはかなり昔に現れたはずだから、その可能性は低いわね。おそらく極低確率で再配置されたものを引き当てたんだと思うわ。なんにせよかなりの幸運ね、流石サイトちゃんといったところかしら」
まだ実感が湧かないけど、相当ラッキーってことだけはわかった。
「とにかく、それはあなたのものよ、好きに使うといいわ。売ったお金で装備を整えるのもアリだけど、荷物の持ち運びで困ったことのある私からすると、そのまま使うことをオススメするわ」
「あ、ああ。そうだな」
とは言ったものの、どうしようかなぁ。正直俺には{アイテムボックス}のスキルがあるから、別に収納には困ってないんだよな。
けど、アリスにはまだ俺がSランクの{アイテムボックス}持ちだってことは話してないから、それを隠すためにマジックバッグを使うのはアリだ。
でも最低20ゴールド・・・!それだけあれば、もっといい装備を買うことだって出来る。金に換えてしまうのもかなりアリだ。
いっそのこと、スキルのことを話してしまおうか?
かなり悩ましいなー・・・!
そんなサイト達の様子を、曲がり角から見ている人影があった。
「おい、見たか?アレ」
「ああ、ありゃマジックバッグだぜ」
「クソ!とことんついてねぇ、あいつらに取られなきゃ俺達が見つけてたかもしれないってのによ!」
「いや、こりゃチャンスだ」
「どういうことだ?」
「俺たちが頂いちまえばいいんだよ」
「頂くったって、相手は金碧だぜ、流石に俺たちじゃ・・・」
「バーカ、聞いてなかったのか?アリスの野郎はあのガキにくれてやるって言ってたぜ。ってこたぁ、邪魔なアイツが居ないとこを狙えば・・・」
「そうか、ガキを懲らしめつつ、マジックバッグまで手に入るって寸法だな!流石だぜ、カマセーヌ」
「ったりめぇだ!このパーティのリーダーは俺なんだからよ」
「一生ついてくぜ!」
「そうと決まれば、いったんダンジョンから出るぞ」
「なんでだ?このまま跡を付けりゃいいだけじゃあ・・・」
「バカが、それじゃあいつらに感付かれる危険性がある。あんなお宝を手に入れたんだ、どうせあいつらは別れることなく、ボスに挑んで魔法陣で帰るに決まってる。だったら街に着いてからのほうが、あの二人が離れる可能性は高い。もし離れなくても、やつらが寝泊まりしてる宿屋を突き止めて、また後日狙うんだ」
「ヒュー、流石。悪知恵が働くな」
「ふん、くだらねぇこと言ってねぇで、とっとと行くぞ!」
「「おう!」」
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