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10 逃げられない戦い

「がっ、あッ・・・!」


 痛みをこらえながら、必死に現状を整理する。


『動いてもいないのに、なぜ拠点が迫ってきたのか』 簡単だ、拠点が動いたんじゃなく、俺の方が拠点に近づいたんだ。


 もっと言えば、()()()()()()()()()()()()()() 幸いゴブリン達の拠点には寝床なのか、乾いた草が敷き詰めてあったので幾分か衝撃は和らいでいたが・・・。


 それでも、俺の全身は悲鳴を上げていた。


『危険だと感じたら、無理に戦わずに逃げること。』 フローナさんの声が、脳裏にこだまする。


「まずい、逃げないと・・・ッ!」


 カラカラと音を立てて崩れていく粗雑な拠点の中から起き上がり、周囲を見渡した俺は絶句した。




――逃げ場が、無い!?




 この拠点は岩壁のそばに建てられており、周りは軽くだが柵で囲われている。


 唯一の出入り口には・・・俺を殴り飛ばした元凶だろう、緑褐色の肌を持つ大型のモンスターが、ひときわ大きな棍棒を手に立っていた。


 戦うしかないのか・・・!?


 すかさず俺は{鑑定}を使う。頼む、何かこの状況を打開するヒントをくれ!あいつの弱点とか・・・!


 {ホブゴブリン 森や洞窟、ダンジョンなどに生息する大型モンスター。ゴブリンの進化系で、群れのリーダーになっていることも多い。討伐証明部位:角}

 {弱点:胸、頭}

 {種族 :モンスター}

 {Lv  :12}

 {力  :53}

 {耐久 :37}

 {器用 :25}

 {敏捷 :32}

 {魔力 :3}

 {スキル: }

 {ユニークスキル: }


 なんだこのステータスは・・・!?力なんか、ほとんど俺の倍じゃないか・・・!弱点が胸と頭ってのも、人型なんだから大体わかってるし!


「実質ノーヒントじゃないか・・・」


 幸い器用と敏捷では勝ってる、さっきみたいに速度で攪乱して、なんとか隙を作るしかない!とりあえず、逃げ場のない壁際から早く離れないと!


 そう思ったのも束の間、ホブゴブリンは尋常ではない速度でこちらに走ってきた。


「ヴゥオオオオオッ!!」

「早いッ!?」


 ホブゴブリンは俺より頭1つ分は大きい。だというのに、ステータスが上がった今の俺の全力と、そう変わらない速度で走ってきている。無茶苦茶だこいつ!?


「オオオオオォッ!」


 巨体に似合わない速度で振り回される棍棒は、俺の倍近くもある力のステータスに裏打ちされた、正真正銘の必殺だ。


 ――もう一度あの攻撃をまともに食らったら、俺の体は動かなくなる。


 そんなことを直感し、背筋が凍える。


「うっ・・・くっ・・・!」


 俺は悲鳴を上げる全身に鞭を打ち、すんでのところで躱し続ける。


 一瞬前まで自分が立っていた地面が爆ぜ、必殺の棍棒が鎧の表面をかすめる。反撃なんてできっこない!躱すだけでも息が詰まる。


 こんなことを続けていたら、いつか当たる・・・!現に、俺の足は今にも言うことを聞いてくれなくなりそうだった。


『お前、俺と何十年の付き合いだと思ってんだ!?動け!躱し続けろよ!』

『そんなこと言われても自分そろそろ限界っす』


 くそー!我が足ながら使えない!!せめて、ダメージを回復出来れば・・・!そうだ、確か駆け出しセットの中にポーションが!って、どう考えてもこの状況じゃ飲めるわけがない!くそ、どうしたら・・・!


 思考の濁流に飲まれる中、酷使し続けた代償か、今まさに自分をただの物に変えんとする圧倒的な暴力を前に、俺の足は動かなかった。


「ッッ!!!」


 やっと捉えた、そう言いたげなホブゴブリンの下卑た笑みが目に映る。嫌だ、死にたくない!



 無限にすら思える一瞬に、思考が加速する。



 俺の足は少なくとも、あの攻撃が当たるまでの間は動かない。なら、どうにかしてあの攻撃を捌くしかない。


 でもどうやって?受けるのは不可能だ。自分よりもステータスの低いゴブリン相手ですら、あの様だったんだ。倍近いステータスともなれば、受けた剣ごと押し込まれるのは目に見えている。


 なら、受けるのではなく軌道を逸らすのはどうだろうか?


 漫画で読んだことがある。攻撃を直角に受けきるのではなく、斜めに逸らして受け流すのだ。

 問題はそんな技術が俺にあるのか、だが・・・。()()()()()()()()()()()()()


 迷っている暇はない!頼む、出来てくれ・・・!







 {剣術のランクが上がりました}


 両者の得物が触れ合ったのは、その声が響くと同時だった。


 間に合った・・・!デタラメな力で俺を真っ赤に染め上げんとする棍棒の側面を、剣で優しく撫でるように滑らせる。


 精細さを増した俺の剣は、曲がりなりにもホブゴブリンの攻撃を受け流すことが出来るようになっていた。 



 タネは簡単だ。今まで俺は、ステータス欄を開いてスキルの獲得やランク上げを行ってきた。だが今回は、直接スキルのランクを上げたのだ。


 これは賭けだったが、出来ると思った根拠はある。今まで、ゴブリンを鑑定したときに弱点の情報は出ていなかった。しかし、さっきホブゴブリンを鑑定したときには表示されていた。


 あの時は理由なんか考えもしなかったが、確かに俺は『あいつの弱点が知りたい』と考えながら{鑑定}スキルを使ったんだ。


 ()()()()()()()()()()() その可能性に気づいた俺は、スキルポイントを消費して{剣術}のランクを上げたいと、強く念じたのだ。



 結果は成功。しかし、それでも無理に攻撃の軌道を逸らそうとした俺は剣を握り続けられず、吹き飛ばされる形で手放してしまった。


 だが、完全に獲物を仕留めたと思っていたホブゴブリンは、攻撃を俺の剣であらぬ方向へ受け流され、バランスを崩していた。



 チャンスだ!剣は俺の手から離れてしまったが、俺にはまだ武器がある!


「うあああああ!!!」


 俺は{アイテムボックス}からナイフを取り出し、タックルの要領で全体重を乗せて思いっきり突き刺した。


「ヴゥオォン!?」


 ナイフによる攻撃というより、ほとんどタックルによってではあったが、ホブゴブリンは後方に大きく体勢を崩した。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 俺は息も絶え絶えだが、まだ終わりじゃない!あの巨体に小さなナイフを1本突き立てたところで、到底致命傷になるとは思えない。考えろ、何か使えるものは・・・{アイテムボックス}に何か・・・


「!」


 そうだ、今ならポーションが飲める!すかさず俺は取り出した瓶のコルクを抜き、勢いよく呷る。全身の痛みが引いていった。


「楽になった・・・ポーションって、こんなすごいのか・・・!」


 って、感動を覚えてる場合じゃない!足は動くようになっても、依然としてピンチであることに変わりはないんだ。


 一体何がどうなったのか、剣はちょうどホブゴブリンの後ろ、ここの出入り口の辺りまで吹き飛んでる。

 残る武器はナイフ2本、これを新しく覚えた{急所突き}で胸か頭にでも突き刺せば倒せるかも・・・!でも、そんな隙をどうやって作ればいいんだ・・・。


 そうこうしている内に、ホブゴブリンが体勢を整え始めた。まずい、何か、何か策は・・・!


 ・・・そうだ、臭い袋!あの強烈な臭いの袋を顔面にでも投げてやれば、嫌がって隙が出来るんじゃないか!?


「これでも食らえ!!」


 俺は口を開けた臭い袋を取り出し、体勢を立て直してこちらへ走ってくるホブゴブリンへ投げつけた。って、くっっさっっ!!ほんとに強烈な臭いだな・・・!


「ヌヴゥオォオォォオ!?!?」


 俺が投げた臭い袋は、偶然にもホブゴブリンのむき出しになっている牙に引っ掛かった。


 いいぞ!フローナさん曰く、あの臭いはモンスターのほうがより強烈に感じるらしいからな。それが顔面に張り付くような形になったんだ、相当な悪臭に感じてるはずだ!


「効いてる!って、あっぶねぇ!?」


 狙い通り、というか狙い以上にホブゴブリンは臭い袋を嫌がり、ブンブンと棍棒を振り回していた。


 自分の周りにでたらめに振り回しているだけだから、近づかなければ当たらないけど・・・これじゃ近づけないな。


 どうしようか悩んでいると、地面からカキンという金属音が聞こえてきた。あれ?――なぜか出入り口の近くに落ちていた剣が、俺の足元に落ちていた。


 なんでだ・・・?もしかして、暴れてるホブゴブリンがたまたま蹴り飛ばしてこっちに飛んできたとか・・・?なんにせよ、拾っておこう。


 これであとは、隙を見てこの剣で胸でも頭でもいいから、{急所突き}で撃ちぬくだけだ!


 そんなことを考えていると、ホブゴブリンは棍棒を振り回すのをやめ、牙に引っ掛かった臭い袋を取ろうとしていた。


 今だ!ここしかない!!!


「うおおおおらああああ!!!!」


 俺は一瞬出来た隙に、渾身の{急所突き}をホブゴブリンの胸へと放つ。


「ゲヴオォオォオオ!?!?」


 ホブゴブリンはひときわ大きな叫び声を上げると、ゆっくりと



 棍棒を頭上に掲げた



 嘘だろ!?確実に心臓を貫いたはずなのに、まだそんな力が残ってんのかよ!?剣を引き抜いて再度攻撃?あるいはさっきみたいに攻撃を逸らす?いや、きっと間に合わない。


 だったら・・・!俺は幾度となく使ってきた方法――{アイテムボックス}からナイフを取り出し、剣が刺さっている胸に撃ち込んだ。


「グ・・オォ・・・・ン」


 剣とナイフによる2度の{急所突き}を受けたホブゴブリンは小さな断末魔を上げると、糸の切れた操り人形のように力が抜けていった。


「はぁ・・・はぁ・・・!」






 {レベルが上がりました}

 {Lv14になりました}


 緊張の糸が切れ、呆然としていた俺の脳にシステムメッセージのような無機質な声が響く。本当に勝ったんだ・・・!


 とりあえず、ステータスのチェックでもして落ち着こう。


 {サイトウ サイト}

 {種族 :ヒューマン}

 {Lv  :14(+4)}

 {ジョブ:盗賊}

 {力  :36(+8)}

 {耐久 :32(+8)}

 {器用 :48(+12)}

 {敏捷 :52(+14)}

 {魔力 :0}

 {スキル:鑑定(S) アイテムボックス(S) 気配感知(D) 忍び足(D) 剣術(C) 観察眼(D) 罠感知(D) 鍵開け(D) 急所突き(D)}

 {ユニークスキル:言語理解 成長加速 モテスキル(男性用)}

 {獲得可能スキル: }

 {使用可能スキルポイント:12(+12)}


「はは、一番高い敏捷のステータスですら、まだあいつの力のステータスより低いや・・・」


 ほんと、よく勝てたな・・・。またこんなことがあったら、今度こそ命は無いかもしれない。


 『危険だと感じたら、無理に戦わずに逃げること。』フローナさんの声を再び思い出す。そんなこと言われても、逃げ場がなかったらどうしようもないじゃないか!せめて、もう少し早く気づけていれば・・・。


「そうだ、{気配感知}!このスキルを上げれば、さっきみたいな不意打ちを受けずに済むかもしれない!」


 {気配感知のランクが上がりました}


 俺はスキルポイントを5消費して、{気配感知}のランクを上げた。どうやら、CからBに上げるには10ポイント必要らしいので、残りの7ポイントは温存することにした。


「ん?・・・気のせいか」


 早速探知範囲の広がった{気配感知}の効果か、何か気配のようなものを感じた気がしたんだけど・・・。まあ、多分気のせいだろう。


「疲れが溜まってるのかな。証明部位をはぎ取って帰ろう・・・」


 俺は3匹のゴブリンの耳とホブゴブリンの角をはぎ取り、ヴァレッサの街へと帰ることにした。

 評価ありがとうございます!とても励みになります!

 私正直、見る側のときはほとんど評価ボタンなんて押さないんですけど、投稿する側になるとワンボタンポチられるだけですごく嬉しいし、やる気が出ますね。

 皆さんも推しの作者さんにはガンガン評価ボタン押してあげてください。

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