キリアの報酬85
キリアは、クラがしたように、今度は自分が立ち止まった。
「キリア!」
「行って下さい。私はカトレアの専属魔法使いーーーカトレアを守る義務が有ります」
それに、呪われている私なんかの命より、王子であるカトレアの命の方が、遥かに重い。
(……ああ、違う。もう、違うよね)
紅い瞳は、もう呪われていない。
カトレアが、その差別を、無くしてくれた。私はもう、呪われてなんかいない。
(もう少し……差別の無くなった日常を、生きて見たかったな)
まだ少し残っている紅の瞳の差別を無くすお手伝いを、最後までしたかった。美味しい物を食べたり、買い物したり、街を、普通にお散歩してみたかった。
夢物語だと思っていた夢が、やっと叶ったのに、まだしていなかった。
(……カトレアと……街を歩きたかったな)
幻の花コトコリカの報酬を、私はまだ貰っていなかった。何も思い付かないって言ったけど、本当は、カトレアに、一緒に、街を歩いて欲しいってお願いしたかった。
優しいカトレアなら、きっと、お願いすれば、承諾してくれたでしょう。きっと、楽しいお出掛けになったと思う。
(でも……言えなかった)
カトレアは王族。私は、差別が無くなったとは言え、ただの一般人。
(これ以上好きになったら……辛いだけだもんね)
決して叶わない恋。
だから、せめて、専属魔法使いとして、後任が決まるまでは、カトレアの傍にいて、紅の瞳の差別を無くすお手伝いをする。同じ志を持つ同志として。
カトレアは、私達、紅の瞳を持った者の、救世主だもん。
私のこんな気持ちをぶつけて、迷惑かけちゃ駄目。
拒絶されたら、怖い。
(……もし、今度生まれ変わる事があるなら……)
色んな理由をつけて、報酬を言わなかった事を、今、とても後悔してる。
(好きな人を……ちゃんと、デートを誘ってみようかな)
「キリア!駄目です!」
「風魔法」
私を置いて行こうとしないカトレアに風魔法をかけ、力任せに、遠くに吹き飛ばした。
最後に見たカトレアの表情は、とても悲しそうで、最後まで、手を伸ばしてくれていた。
「くそ!手間取らせやがって!」
追っ手達は、私の体を拘束すると、そのまま地面に押し倒した。うつ伏せに寝転がらせ、腕がしっかり捕まれ、腰には、ガタイの良い男が乗り、身動きが取れない。
「離して!」
「静かにしてろ!いいか?!魔法を唱えようとしたら、その場で喉元を掻っ切ってやるからな!」
髪を引っ張られ、喉元に突き出されるナイフ。
「っ!」
「あははっ!いい気味ねー」
甲高い笑い声。
声の主は、私の状況を見て、心底楽しそうに、言葉を紡ぐ。
「…サウィルン…!」
「ふふ。ゴミ屑に相応しい格好!」
男達の間から、明らかにこの場にはそぐわない、小綺麗な格好をしたサウィルンが、目の前に現れた。
「ゴミ屑が生意気にも王族の専属魔法使いになるなんて、気に食わなかったのよねー!身の程を弁えなさいよ!あんたは、一生!呪われた!醜い!ゴミで屑な存在なの!」
「……何なの……そんな事を言いに来たの?わざわざ?」
探していた人物が、向こうから現れた。最悪の形で。
「そーよ。私、貴女を連れて来るように、こいつ等に命令してたの」
「!命令…私を?」
私がここに来たから、顔を見に来たんじゃなくて?最初から?私をここに連れて来るつもりだった??
「何でーーー私をーー」
「ふふ。ゴミ屑だけは、私がこの手で始末してあげよーと思って♡ほら、私、一応貴女のお姉様じゃない?」
「ふざけないで…!何がお姉様よ!妹だなんて思った事、1度も無いくせに!」
動く度に、私を抑え込んでいる男達の腕の力が強くなって、身動きが取れない。
「ゴミ屑のほーから私に会いに来るなんて予想外よ。ま、手間が外れて良かったけどね」
「くっ…」
ラナン家は、カトレアを危険視して、私達をマークしていたんじゃない。ただ、私を嘲笑い、惨めな姿をその目で見る為だけに、サウィルンさんはマドローナに、私を監視させていた。
彼女達らしい、短絡的な理由。
最初から、私達の行動は、私のせいでーー!全て、マドローナに筒抜けだったんだ!
「これでしょ?あんた達の目当て」
ちゃらりと、サウィルンは首に掛けているロケットペンダントに触れた。
「残念。このペンダントは渡さなーい!私はね、今から最後の総仕上げをするの」
「総仕上げ…?何をする気なの?!」
私の落ちぶれた姿に気を良くしているからか、何も考えていないのかーーーサウィルンは、ペラペラと総仕上げの内容を語った。
「紅い宝石を王都の至る所にばら蒔いて置いたの。私がこれを使ったら、王都は内部からどっかーんとして、城壁も壊れるの!」
「!王都にーー!?そんな事して、王都が壊れたらどうするの?!」
凄いでしょー?と言わんばかりに、高々に話すサウィルン。私の横槍に、彼女は少しムッとした表情で言い返した。
「兄さんは雨天の山コリカで、大きな紅い宝石を使ったみたいだけど、私は、小さい紅い宝石を使って、そこまでの爆発が起きないようにちゃんと計算したの!だから大丈夫よ!」
絶対に細かく計算してない…!ユーリさんといい、どうして貴女達兄妹は何の根拠も無しに、そんなに自信満々になれるの?!




