命の恩人②74
「なっ!失礼ね!私は昔と何も変わっていないわ!変わらず、美人なままよ!」
体型が変わったとは言いましたが、別に私は、不細工になったとか、太った。とは言っていないのですが…。
ユーリさんと同じで、ラナン家の食事管理をしていた私がいなくなって、食生活が乱れた結果でしょうね。サウィルンさんは甘い物が大好きで、毎日、沢山食べるから、糖質に気をつけた、太りにくい食べ物を用意していました。
「そう言えば、ユーリさん生きてたんですね」
雨天の山コリカの騒動時、ユーリさんの事をすっかり忘れていた。安否すら気にしていなかった。
「ええ。ただ、もう騎士団には所属していません。彼の取り巻きも含め、全員、除隊しました」
キリアの疑問に直ぐに答えてくれるカトレア。
さっき騎士団の見学した時もいませんでしたね。本当に存在を忘れてました。
「あんな大問題を起こしたのだから当然です」
と、こちらはアレン。
雨天の山コリカを爆破し、土砂崩れを起こして、魔物を一網打尽にしてやろう!大作戦を実行し、見事に失敗したユーリ。それどころか、危うく騎士団を壊滅させ、第3王子であるラット王子の命をも奪う所だったのだ。
事の顛末を知ったラットによって、責任を取って解雇されるのは当然。更に、報告を受けた王様は、ラナン家の貴族としての立場を、最も低いものに下げた。
貴族として、ラナン家にすり寄ろうとする人間もいたくらいだから、そこそこの地位があったにも関わらず、地の底にまで落ちた。貴族を返納されなかったのは、王様の最後のお情けらしい。
「兄さんは今、傷心中でしてよ!全く!たった1回の失敗程度を笑って許せないなんて、ラット王子はホント、心の狭い男ね」
嘘でしょう?命失いかけたんですよ?騎士団全滅しかけたんですよ?貴方のお兄さんの独断行動のせいで!それを1回程度の失敗だと、笑って許せます?
「頼むからもう黙ってくれーー!!」
ラット騎士団長の事も馬鹿にされ、怒り心頭なのか、アレンの顔は更に険しい。必死で、拳を抑えているようにも見える。
そりゃあ、自分の仕えるカトレアに失礼な態度取られて、お世話になった騎士団長を馬鹿にされて、怒らない方がおかしいですよね。
「サウィルン。君を城に招待した覚えは有りません。どうやって城に入り込んだんですか?」
「ふふ。それはね、兄さんがこっそり持ち帰った通行許可証を使ったのよ。何故だか、ラナン家は城への出入りを禁止されたのよ。貴族なのにおかしいよねー」
いや……もう本当に黙った方がいいよ。色々駄目だから。勝手に通行許可証を持ち帰ったユーリさんも駄目。それを使って城に入った挙句、使いましたー!なんて、不正を堂々と告白するサウィルンさんの神経ごと駄目!
カトレアはため息を1つ吐くと、アレンに目配せをした。
「ちょっ!何するの?!離しなさい!」
アレンは、じたばた足掻くサウィルンを押さえつけ、首にかけている通行許可証をとると、そのまま、近くにいた衛兵に、サウィルンを引き渡した。
「ちょっと!許さないわよ!たかが騎士の分際で!」
「自分の主はカトレア様です。文句がおありでしたら、カトレア様にどうぞ。それに、今の貴女のラナン家の立場と、第7王子に仕える私の立場では、今や貴女より私の方が上だとお思い下さい」
「そんな訳無いでしょ?!私は由緒正しきラナン家なのよ?!そのラナン家の長女たる私が、第7王子なんかと結婚してあげるって言ってるのにー!」
「今やそのラナン家が、没落寸前の貴族だと言う事をお忘れなきよう」
まだギャーギャーと文句を垂れるサウィルンは、衛兵に引きづられながら、連れて行かれた。
この場にクラ兄さんがいなくて良かった……。クラ兄さんが話を聞いてたら、怒り狂って何をしでかすか分からない所だった。
「すみませんキリア。邪魔が入ってしまってーー」
「カトレアが謝る事じゃ無いよ!それにしても……強烈だったね」
家族の縁を切っておいて良かったと、しみじみ思う。
「ーーカトレア様、一足先に王様に報告に行いってもよろしいでしょうか?」
アレンは笑顔を浮かべているが、目の奥は全く笑っていない。
「はい。どうぞ」
カトレアが許可を出すと、アレンはスタスタと王の元へと向かった。貴族としての地位も没収して欲しいと訴える気満々だな。と思った。
「本当にすみませんキリア。城への立ち入りを禁止されたので、キリアとサウィルンが鉢合わせる事は無いと考えていたのにーー」
ああ。こんな所でも気遣ってくれているのが分かる。
「大丈夫だよ。こっちこそごめんね。私が、カトレアを守らないといけないのに、なんか、守ってもらってばかりで……」
「それは違います。キリアは、僕の命の恩人じゃないですか」
「命の恩人?」
「お忘れですか?最初に会った時、魔物に襲われた僕を救ってくれたじゃないですか」
「……うん、覚えてる」
あれが最初。最初の出会い。
そこから、紅い瞳を差別しないカトレアと出会って、同じ志を持つ同志になった。
「紅い瞳の方に命を救われたのは、あれが2度目でした」
幼い頃、紅の瞳を持つお姉さんに命を救われたと、カトレアは言っていた。
「そのお姉さんに感謝ですね」




