ヒゲール7
辿り着いた先は、木々の中、縮こまって入った草陰の奥。その場所は、少し空間が違った。
小さな草陰に入ったはずなのに、中はまるで空洞のような空間で、広く、背も伸ばせ、闇夜の森にいたはずなのに、壁が光り、明るかった。
「ここはーー」
凄い。それが素直な感想。
「ここは先生が魔法で作った空間だよ。先生は空間魔法が得意なんだ」
言われてみれば、家の場所も、鍵を持っていなければたどり着けないようになっていたりと、凄い魔法を使ってる。
空洞には、モニターの様な大きな画面が宙に浮かんでいて、その画面には、1人の、髭の生やした、いかにもお金持ち!の風貌の男性と、付き人の様に控える従者が数人、闇夜の森の中、立っているのが映されていた。
「げっ。またコイツかよ。昨日断ったのに懲りねーな」
映されていた男性を見て、ジュンは露骨に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
どうやら昨日も同じ男性から依頼が来ていたようで、その帰りに、キリアと出会ったらしい。キリアより歳上といえど、まだ12歳の少年2人が、夜の森で何をしていたのか不思議に思っていたので、謎が解けた。
ジュンは、画面の下に置かれている3つの石の中の、1番左にある青い石に触れると、声を出した。
『ーーおいおっさん。懲りねーな。昨日断っただろーが』
声はそのまま、画面の先に届く様で、ジュンの声を聞いた男達が、一斉に騒ぎ出すのが見えた。
「五月蝿い!呪われてる分際でこのワシの依頼を話も聞かずに断るとは!何様だ!」
画面には、顔を真っ赤にして怒る姿が映る。
1言目から、呪われた紅い瞳に対する差別を容赦なく口にする依頼主。
『じゃあそんな呪われてる奴等に依頼なんかしてくんじゃねーよ!じゃあな』
「ちょっ!待て!!」
早々に会話を切り上げようとするジュンを、金持ちの風貌の男は、慌てて制止した。
「もお帰ろうぜ」
画面の下の石から手を離すと、向こうに会話は届かないらしく、手を離したジュンは、画面の向こうで騒いでるのを無視し、帰宅を促した。
「とりあえず話だけでも聞いとかない?じゃないとこの人、明日もまた依頼して来るかもよ?」
どうやら昨日もこんな調子だったらしく、早々に依頼を断ったらしい。
「鬱陶しいな…!」
確かに。それが依頼主の立場であっても、仕事を頼みに来ている身でありながら、一方的にこちらを見下す発言されたら、かなり鬱陶しい。
前世では、仕事の名のもとに、嫌な上司にも従ったり、理不尽なお客様相手にも、誠心誠意対応しないといけなかったけど、ここでは、嫌なものは嫌と断れるみたい。
『とりあえず要件だけ聞いてやる。さっさと話せ』
再度画面の下の、音声通話石に触れ、ジュンはぶっきらぼうに尋ねた。
早く終わらせろ。との気持ちを微塵も隠していない。お客様は神様精神は全く無いようだ。
「偉そうにーー!」
『切るぞ』
「分かった!待て!」
金持ち髭男は、慌てて、隣にいた従者に話せ。と、目配せした。
「では僭越ながら、主人、ヒゲール様に変わりまして私めが説明をさせて頂きますーー依頼内容ですが、とても簡単な事にございます。ある1人の女を殺害して欲しーー」
『断る』
最後まで聞き終わる前に、ジュンは会話をぶった切った。
いやいや、物騒な言葉出て来てましたよ。殺害?そんなもの依頼されるの?!
「何を断る必要がある?!金か?!金なら大金を恵んでやる!貴様等呪われた奴等には勿体無いくらいの大金をな!」
呪われてると見下していた相手に断られ、再度腹を立てた金持ち髭男、もとい、ヒゲールは、姿の見えない声だけの存在に怒鳴った。
『どんだけ金を積まれても、お前の依頼なんて受けねーよ』
ハッキリと断るジュンに、安堵する。
人殺しの依頼を受けていたら、この先が不安ーーどころか、折角見つけた安息の地から逃げ出す方法を考えないといけない所でした。いくら奴隷(元・家族の扱いが酷かった)でも、人殺しはちょっと出来ません。法律に守られた安全な国、日本出身なんです。ごめんなさい。
「このー!!人が下出に出ていれば調子に乗りやがってーー!!」
『イエローカード2回目だ。ヒゲール、お前の依頼は受けない。話も聞かない。お引き取りを』
そう言い終わると、まだ画面の向こうでギャンギャン吠えるヒゲール一味を無視し、音声通話石の隣にある、黄色、赤色の中の、赤色の石に触れた。
ピーーーピーーーー!!!!
警告音が鳴り響くと、画面の向こうで、地響きがして、地面が揺れた。
「ななな、何だこれは?!」
「地面が揺れていまーーーうわぁぁああああ!」
ヒゲールや従者がパニックになっていると、パカッと、立っていた地面が割れ、絶叫しながら、重力に従い、下に落ちた。
「し、死にましたーー?」
画面の映像からでは安否の確認は出来ないが、底の見えない真っ暗な穴に落下したのは確認出来た。今は、あれだけ騒がしかった彼等の声も聞こえなくなっている。
キリアは、恐る恐る2人に尋ねた。
「ちゃんと生きてるから安心していーよ。先生の空間魔法で、街のゴミ捨て場まで強制的に飛ばされただけだから」
ごみ捨て場か。地味に嫌な場所だけど、あんな無礼な人達相手には、その位丁度良いのかもしれない。




