キリアの決断68
紅の魔法使い自宅、一階リビング。
本来、紅の瞳を持つ魔法使いだけしか入れないこの家に、鍵まで渡され、自由に出入りも出来るようになったカトレアが、慣れたように椅子に座る。人間でこの紅の魔法使いの館に入れるのは、今も昔も、カトレアだけ。
「で?今日は何の用かな?」
本日何本目になるのか分からない酒瓶を新しく開け、コップに注ぐと、ケイ先生はぐびっと一気に飲み干した。
「実は、キリアにお願いがあって来ました」
「キリアちゃんに?」
ケイの前に座っているカトレアに、冷たい紅茶を出していたキリアは、自分の名前が出た事に反応して、顔を上げた。ケイ先生が来た事で聞きそびれたが、さっきも、私に関係がある事だと言っていた。
「はい。キリアにーーー僕専属の魔法使いになって欲しくて」
「!?」
「へー僕専属って事は、城に仕える、王宮魔法使いになるってことー?凄いねー」
ケイ先生は気楽に言っているが、王宮に仕える魔法使いと言えば、この国では最高クラスの魔法使いの称号でもある。そんな王宮魔法使いに、私が?呪われた紅の瞳の私が?唐突な話に頭が追い付かない。
「ずっとじゃなくても構いません。後任が見つかるまでの間の代理でも大丈夫です」
「今までの専属魔法使いは?辞めちゃったの?」
「はい」
カトレアの話によると、紅の瞳の地位向上に伴い、紅の瞳の特殊・優秀さが急速に広がり、王宮にも何人か紅の瞳の魔法使いが入職して来たらしい。神様に愛された紅の瞳は、それはそれは優秀で、魔法使いとしてすぐに頭角を現した。そんな現状に、自分の魔法使いとしての立場が薄れている!と、カトレアの専属魔法使いだった人は不満を持ち、紅の瞳を王宮から排除しないなら、自分は辞める!と豪語したらしい。
カトレアはそんな彼の意を汲んで、退職を受け入れたのだが、何故か、彼から望んだにも関わらず、本当に辞めていいんですか?や、辞めさせないで下さい!など、訳の分からない事を言われて困ったらしい。
多分その人は、本当は辞めたく無くて、カトレアに引き止めて欲しかったんじゃ……。
「ーーと言う訳で、是非キリアに、僕の専属魔法使いになって頂きたく、スカウトに参りました」
凄い簡単に言ってるけど、王子の専属魔法使いって凄い事だよね?例え第7王子だとしてもだよ!それをわざわざ、第7王子自らスカウトに来たんですか?凄い自由にさせてもらってますね。
「いかがでしょうか?キリア」
「ええ!?えっーーとーー」
急に想像を遥かに超えるお願いをされて、頭がパンク寸前です。私がカトレアの専属魔法使いだなんて、無理だよ!無理矢理!絶対に無理!!
私なんて、ちょっと特殊魔法で、回復魔法使えるだけだもん!特殊魔法の中では、回復魔法を使える人は結構ポピュラーだし……。ケイ先生の空間魔法や、ジュン兄さんの闇魔法みたいに、特別じゃない。
(やっぱり駄目!私になんて、王宮魔法使いは務まらないーーー!!)
「紅の魔法使いが王子の専属魔法使いになるなんて、実現すれば、紅の瞳のこれ以上無い地位向上になるんだろうねぇ」
「っ!」
断る前提で口を開こうとした所で、ケイ先生の言葉が聞こえて、言葉に詰まった。
紅の瞳の地位向上……紅の瞳の差別を無くす為の、力になる?
「勿論、無理強いはしません。ただ、今は貴女のお兄さんであるクラも王宮にいますし、過ごしやすいのではないかと思います」
「クラ兄さん…」
「ちなみに、クラは今、瞳の色を紅に戻して生活しています」
「そーなの?!」
「はい。城に来た当初は色を変えていましたけど、紅の瞳の差別も大分無くなりましたし、ラット兄様の強い意向もありまして、元のままで過ごしていますよ」
ラット王子……この国の第3王子で、カトレアのお兄さん。騎士団団長でも有り、今クラ兄さんがお世話になっている人。
クラ兄さんも、新しい場所で、頑張って生活している。
「返事は急ぎませんが、出来るだけ早ければ助かります。また、後日来ますので、その時に返事が決まっていれば教えて下さい」
そう言うと、カトレアはコップに入った紅茶を口に入れた。
「ーーーなります」
「え?」
まだ気持ちは落ち着いてないし、果たしてこの選択が正しいのかも分からないし、後悔する事になるかもしれないけど、私も、紅の瞳の差別を無くす力になれるなら、やってみたい。そう思った。
「なります!私、カトレアの専属魔法使いになります!」
「……いいんですか?誘ったのはこちらですが、もう少し悩んで頂いてからでも良いですよ?環境が大きく変わりますし、心無い人間と触れ合う機会もあるでしょう。勿論、僕はキリアを守りますが、きっと、傷付く事も増えると思います」
分かってる。例え、地位が向上したとしても、1度根付いてしまった差別を完全に無くす事は難しい。それが、王宮での世界となれば、なお、厳しいものだと思う。それでもーーー
「私は、カトレアと同志だもの。私も、何か力になりたいの」
「キリア…」
「キリアちゃんも随分立派になっちゃったんだねぇークラ君に続いて、巣立っちゃう時が来たのかなぁ」
ケイ先生は、私を見ながら、感慨深げに、呟いた。




