キリアの体調不良46
カトレアの提案は採用され、明日の正午から、雨の様子を見つつ、探索をする事になった。
空洞の外を見ると、まるで滝の様な雨が、強い風と一緒になって振り荒れていて、こんな中外に出るのは得策では無い。
「テント持って来といて正解だね」
「普段持って来ないもんね」
普段の冒険では、テントを持って来ず、そのまま休む事が多いが、今回、1箇所を拠点として動く事が予想されたので、クラの提案で持参した。
「テント組み立てたし、キリア、休みなよ」
震えが止まったとは言え、体調を崩し掛けた妹に対し、クラは心配そうに声をかけた。
「大丈夫だよ。それに、食事の支度しなきゃ…」
残念ながら、このメンバーで食事の支度が出来るのは、キリアだけ。
キリアが家に来るまで生活能力皆無のクラ、ジュンは勿論、第7王子であるカトレアも、家事を一切した事が無い為、料理が出来ない。
「ふざけんな!それくらい!俺達で何とかなるに決まってんだろ!」
「ーー」
ジュン兄さんの台詞に、後ろにいるクラ兄さんの表情が張り付いたような気がするけど……。
「…そうです…よね。キリアにばっかりお任せする訳にはいきませんー!僕達で頑張ってみましょう!」
「ーーー本気?」
率先してやる気を出す自分の双子の兄と、隣で、覚悟を決めた王子を横目に、クラは冷ややかな目を浮かべた。
そのまま押し切られ、テントの中に入らされたキリアは、用意された布団に横になった。
空間魔法って本当に便利ですよね。普通、荷物最小限に抑えなきゃいけない冒険で、布団1式持ち運べるなんて、有難い話です。
(はぁ…。皆に心配かけちゃって、情けないや…)
1人休ませて貰ってるこの状況も、申し訳無く思う。
(……体調を崩して心配して貰えるなんて、前世以来ーー)
この世界に転生して出来た家族は、紅い瞳を持って産まれた私を、家族と認めず、蔑み、最後には森に捨てた。
食事も満足に与えて貰えず、睡眠時間を削り、雑用係を押し付けられ、屋敷に軟禁されていた。
こんな生活環境だから、何度か体を壊した事もあったけど、誰もーーー私を心配する人はいなかった。
*****
『ねぇ……お母様、お願い……!しんどいの……!お水を頂戴…!』
風邪を引くと、私は部屋に鍵を掛けられ、1歩も出れなくなって、部屋の中から、外に向かって助けを求めた。
でも、誰も助けには来てくれない。
『お母様…!』
『ははは!何だ!お前、やっと死ぬのかよ?!』
扉の外から、私のこの状況を、嘲笑う声が聞こえる。
『さっさと死ねよ!お前なんて家族の一員じゃねーんだからな!このお邪魔虫が!』
『…兄様…』
『兄なんて呼ぶな!汚らわしい!』
『……はい……』
涙が、頬を伝って、滴り落ちた。
(どうして……私は、紅い瞳なんだろ……神様の馬鹿……!)
この家に、誰も私の味方なんていない。
『……何だ、生き延びたのか……』
風邪が治って、また、家事雑用業務に勤しんでいる私の姿を見付けた父は、冷ややかな目で、私を見下ろした。
あのまま死んでくれていたら良かったのに。
そう、言われているのが、嫌でも伝わった。私なんて、誰にも必要とされてない。
*****
今が幸せだから、すっかり忘れてしまっていた。
「…最低な夢…」
気付けば、眠ってしまっていたようで、自分を捨てた元・家族の夢を見てしまった。
(懐かしい……酷い家族だったな……)
あの環境下でよく生き延びれたなと、自分でも感心するくらい、酷い扱いだった。
(変にナーバスになってたから、嫌な夢を見ちゃったのかな)
起き上がると、夢の中と同様に、目に溢れた涙が頬を伝った。
(気分は最低だけど、少し寝れたから、体の具合は良くなっている気がする)
この程度で休んでちゃいけない。私はもっと、役に立たなきゃ。役にたって、必要だと思って貰わなきゃ。家族の一員と認めて貰う為にーーー。
キリアは、涙を拭うと、サッとテントから出た。
「うわぁーーー!!ちょっとジュン!何してるの?!そんな事したら、お湯が溢れるに決まってるでしょ?!」
「う、うるせぇ!煮るってお湯に入れる事だろーが?!」
「鍋いっぱいの水に野菜山盛りを勢い良く入れたら溢れるに決まってるでしょ?!って、カトレア!ちょっと待って!何その包丁の持ち方?!」
テントから出ると、そこには、アタフタと料理に取り掛かっている3人の姿があった。
「何ーーとは、なんでしょう?」
「持ち方!何でそんな剣を持つのと同じ持ち方してるの?!それで切る気?!」
家から持参した人参をまな板に乗せ、その前で、両手で包丁を持ち、振り下ろそうとするカトレアを、クラは必死で止めた。
「君、一応王子様なんだよね?!訳分かんない怪我して帰んないでくれる!?怪我するならせめて魔物で怪我してくんない?!」
クラ兄さん、魔物でも怪我させたら駄目なんですよ。守らないと駄目なんですよ。
「分かりました。では、こうーー」
「どこの世界にまな板を用意してんのにそれを使わず、手に持って切る奴がいる?!馬鹿なの?!」




