サウィルン=ラナン35
「愚かな!呪われてるくせに、俺様の命に逆らって、そんな男を守るからだ!言われた通りに、その男を殺して、森に引きこもってれば良かったんだ!どーせお前等の肩書きなど、地に落ちてるんだ!そこに人殺しのレッテルが1つ増えたくらい!変わりなんてねーんだよ!」
「言いたい放題ですね…」
「ああ!お前の姉から、よーく聞いてるからな!役立たずの落ちこぼれ!生きてる価値なんてねぇ!ならせめて、貴族である俺様の役に立ってこそ生きる価値がある!」
姉さんの私を罵倒する姿が、今でも鮮明に思い出せます。私の事、大嫌いでしたもんね。
「妹は死んでると聞かされてたが、まさか生きてるとはな。サウィルンに良い土産話が出来たぜ。ま、お前は今ここで、今度こそ死ぬから、同じ事だがな」
サウィルン=ラナン。私の姉の名前。呪われていると罵声を浴びせ、泥水をかけ、食事を取り上げ、姉らしい事なんて1つもしてくれた事が無い、私の元・家族の、名前。
ニケは、従者に任せるのでは無く、自分で、従者に持たせていた剣を受け取り、鞘から抜くと、キリア達に向けた。
「散々手こずらせてくれたお礼に、この俺様の手で直接手を下してやるよ!」
ニケ1人相手なら、正直、勝てると思う。でも、周りの従者達の事を考えると、私では、敵わない。
「カトレアさん、私が引き付けてる間に、逃げて下さい」
私に出来る事は、何とか、時間を稼ぐ事だけ。
「それはーー出来ません」
「駄目っ!私達に、カトレアさんが護衛の依頼して来たんだよ?!ちゃんと守られて!」
「キリアを犠牲にして助かった命に、価値などありません」
「どうして……」
紅の瞳相手に、そんなに寄り添えるの?
人間は、ニケ達みたいに、私達を同じ人間と認識していない。私の周りにいた人間達は、皆、そうだった。
「キリア。僕は、紅い瞳を、とても綺麗だと思っています。そして、貴女達こそーーーとても才能ある、優秀で選ばれた人間だと感じています」
ケイ先生と似た様な事を、カトレアは話した。ケイ先生も、紅の瞳は、神様に愛された証だと言った。
「貴女は価値の無い人間では有りません。少なくとも、貴女のお兄さんや、ケイ、僕にとっては、価値のある、大切な人です」
「カトレアさん…」
「くっだらねぇ戯言だな。まずは、1番目障りなカトレア、お前から殺してやるよ」
剣を向けるニケに、今度は、カトレアがキリアを押し退け、前に出た。
「大変嫌われていますね。特別、殺される程憎まれる何かをしたつもりは無いのですが」
「ざけんな!いつもいつもっ!成績上位で、教師の受けも良くて、女相手にも良い顔ばっかしやがって!生意気なんだよ、歳下のくせに!」
本当にこの人、ただの妬みで、カトレアさんを殺そうとしてる……。国1つ越えて追い掛けて来て、執念が酷い。
「僕は成績を向上する為に努力を重ねてますし、先生の言う事にはきちんと従っていましたし、女子生徒に横暴な態度もとっていませんでしたから」
裏を返せば、ニケは全くしてなかったって事じゃない?勉強もせず、教師に反抗し、女子に横暴な態度を取るーーーそりゃあ、何もカトレアさんに勝てないでしょう。寧ろ何故勝てると思います?
「うっせぇ!お前さえいなきゃ、その立場にいたのは俺様なんだよ!」
「それは無理だと思います。ニケ先輩の成績は最下位から数えた方が早いと伺っております。例え僕がいなくても、ニケ先輩が成績上位に入るのは不可能です」
「黙れ!殺す!ぜってぇ殺す!」
正論で返され、逆上するニケは、勢いのまま、カトレアに向かい、剣を振りかざした。
「っ!カトレア!!」
キリアは、バッと、カトレアを庇うように、目を瞑り彼に抱き着いた。
(ーーあれ?)
斬り付けられる衝撃を覚悟していたのに、暫く待っても、何も起きない事に、キリアは恐る恐る、目を開けた。
「大丈夫ですか?カトレア様!」
白銀の鎧を着た若い青年の騎士が、ニケの剣を食い止めながら、心配そうに、声をかける。
「問題無いよ。助けてくれてありがとうございます、アレン」
カトレアは、アレンと呼んだ騎士の青年に、にっこりと微笑みながら、お礼を述べた。
気付けば、周りにいたニケの部下達も、同じく白銀の鎧を着た騎士達に次々と倒されている。
「なっ!何だよこいつ等!おいカトレア!てめぇ何しやがった!」
地面に押さえ付けられながら叫ぶニケ。
「黙れ!お前、誰に手を出したのか分かっているのか?!ーーーこの国の第7王子だぞ!」
「なっ!?ななな王子?!?!」
アレンの言葉に、ニケ、そして、キリアも、衝撃を受け、目を見開いた。
「第7……王子?」
王子様?この国の?嘘でしょう?何で王子様が単身1人で、紅の魔法使いの元に?何でこんな、学校で成績が自分より良かったから。なんて下らない理由で命なんて狙われちゃいます?
「嘘だろ?!てめぇが王子?!んなん聞いてねーぞ!」
その下らない理由で王子様を殺そうとしたニケは、寝耳に水だったようで、大きな声で叫んだ。




