本当の阿呆32
紅の魔法使いの家を出て早4日ーーー。
ここまでは、特に問題も無く、ニケを気にしながら、王都に順調に進んでいた。
「後少しだね」
予定では、今日の夜中に、王都に到着する予定。
旅支度をしながら、キリアは隣にいるカトレアに話し掛けた。
「はい。そうですね」
ここ数日共に過ごし、だいぶ、カトレアに対しての緊張は解け、キリアは普通に話せるようになった。
時刻は夕刻。日も暮れ始める頃、キリア達は出発する。夜に行動し、身を潜めている成果で、道中、冒険者とすれ違う事も無く、紅い瞳の騒動も起きていない。
「あれからニケさん達も動きは無いし、このままスムースに着けると良いね」
「命狙うの失敗したし、探しても見つからないから、もーいいや。って思ってるんじゃない?」
同じく、旅支度をしているクラが、何も行動を起こしてこないニケに対して、答えた。ニケ達の動きは、2日目に辺りを探索していた複数人を目撃して以降、何も無い。
元が大層な殺人理由じゃなく、ただの、自分の成績より良いカトレアに対する妬みによるもの。諦めても支障は無いように思える。
「そうだと良いですね。彼、本来、留学先の生徒なので、この国の者では無いですし、大人しく国に帰って頂けたらと思います」
カトレアは留学先の学校で、厄介な生徒に目を付けられてしまったらしい。
留学して来た生徒を追い掛けて来てまで殺そうとするなんて……大丈夫?普通、国同士の問題に発展するんじゃない?
「阿呆テスト男って本当に阿呆なの?」
クラもその問題に気付いたらしく、呆れ気味にカトレアに聞いた。
「そうですね……何も考えておられないのでは?ただ、ニケに仕えている従者達は優秀ですよ。自分達がやった証拠を残していませんし。僕も、魔物をけしかけられたので、彼等が直接僕の命を狙ったのを見た訳では有りません」
「魔物をけしかけったって、なんだよそれ?」
話を聞いていたジュンも、会話に入る。
「彼等の中に、魔物を操る魔物使い(ティマー)がいるみたいですね」
魔物使い(ティマー)。その名の通り、魔物を操る冒険者の職業の一種。
「今の所、彼が僕の見送りの際に言った、必ず殺してやるからな!との台詞と、他の生徒の証言しか有りません」
「他の生徒?」
「こちらは、僕と一緒に留学していた生徒なんですが、ニケが僕の命を狙ってると、わざわざ教えてくれました」
「その生徒は他にも何か知ってるんじゃないの?その生徒に協力を仰げないの?」
ニケがカトレアを狙っていると教えたのは、それ相応の根拠があっての事だろう。クラの問いに、カトレアは首を横に振った。
「残念ながら、無理ですね。どちらかと言うと、彼女はニケ寄りの方ですから」
「はぁ?だったら何でお前に命狙われてるぞって教えてくんだよ」
意味が分からないジュンは、怪訝そうな表情を浮かべ、カトレアに尋ねた。
カトレアに話せば、その分、警戒されてしまう。ニケ寄りだと言うなら、カトレアに話す必要は無い。
「そうですね……。僕にも理解は難しいんですが、どちらかと言えば、この状況を楽しまれている。とゆう感じでしょうか」
「楽しむ…?人が、死んでしまうかも知れないのに…?」
話を聞けば、カトレアに命を狙われていると教えた人も、カトレアと同じ、この国の留学生。顔見知りが命を狙われているにも関わず、楽しめるその神経が、キリアにも分からなかった。
「性格の悪い奴等ばっかじゃん」
「残念で仕方有りません」
クラの発言に、カトレアも素直に同意した。
旅支度を終え、4人は今日野宿していた、大きな木の上から、ジュン、キリアは魔法で、クラはカトレアを抱え、下に降りた。
「さて、行こうか」
目的地である王都に向け、先頭はクラ、後方はジュンで、真ん中にキリアとカトレアを守るように隊列を組み、足を進める。
ーーー暫く進み、闇夜が深くなった頃、不穏な空気を感じて、クラ、ジュンは立ち止まった。
「誰かいるね。隠れんぼは嫌いだから、出て来なよ」
クラがそう投げ掛けるも、誰も出て来る気配は無く、クラは、キリアに目配せした。
「光魔法」
クラの目配せの意味を理解し、キリアは、魔法で辺りに無数の光を灯す球体を現した。紅の魔法使いの中でも、キリアの魔力の量は多く、多く魔法を出す事が出来る。
暗闇に明かりが灯り、闇夜に姿を隠していた人の姿がしっかりと目視出来る。
「ーーくそっ!おい!見付かってるじゃねーか!」
その中で、1人、クラやジュン達と同じ年頃の青年が、周りにいる大人達を怒鳴りつけた。
「やっぱり貴方でしたか、ニケ」
カトレアは、その青年を見て、名前を呼んだ。予想通り、カトレアの命を狙っていたのは、ニケ。ニケは、何故か自分の情報が丸分かりになる学校の制服を着ていて、隣には、兄達が目撃した、茶色のウィッグを不自然に被っている女の姿もあった。
いや、何で制服着てきてるの?犯罪犯しに来てる自覚ある?馬鹿なの?あ、阿呆なんだっけ。例え私のせいにしようとしてたとしても、制服は着て来ないでしょう、普通。
ニケの制服姿に、思わずキリアは内心ツッコミを入れた。




