何度でも声をかける26
「俺の魔法も万能じゃないからねー。その場所にワープの空間を作るには、前もってそこに空間魔法をかけて、礎を作る必要があるんだぁ」
だから、ピンポイントで目的の場所に行くんじゃなくて、街のある一定の場所にワープしてるでしょ?と、ケイは説明した。
確かに、リクの依頼を受けた時に行った街、海辺の街コムタには、いつも同じ浜辺の場所で降り立っていた。帰りも同様。同じ浜辺の砂場から、ケイの家に帰って来た。
「とゆう事は……王都には、ケイ先生のワープは……」
「無いよ♡」
自力で、王都までカトレアを送り届ける事が決定した瞬間だった。
「キリアちゃんは人間に好意的だと思ってたのに、さっきからカトレア君を嫌がってる感じだよねー」
「ー!私はーー」
嫌がっている訳じゃ無い。紅の瞳の差別を無くす為に、仕事に行きたいと訴えたくらい、私は、出来るなら人間と仲良くしたい。その気持ちは、8歳の時からずっと変わっていない。
(でも……)
実際、元・家族からだけで無く、他の人間からも、罵倒され、怯えられ、関わるのが怖くなった。カトレアさんは紅の瞳である私に普通に接してくれているのに、私が、どう接すば良いのかが分からない。
「ーーお気になさらないで下さい、キリア」
「え?」
「元はと言えば、僕達紅い瞳では無い者達が、貴女達に酷い扱いをしているのが原因です……仲良く出来なくて当然です」
ズキンっと、カトレアの言葉に、心が傷付く音がする。
違う。そうじゃない。仲良くしたいの。仲良くしたいのにーー怖くて、出来ない。
これじゃあ、私も、人間と変わらない。何もしていないのに怯える人間と、何も変わらない。
「…っ」
「キリア」
何も言えず俯いているキリアの顔を、カトレアは覗き込んだ。
「僕は、貴女と仲良くなりたいと思っています」
「…仲、良く?」
「はい。貴女が僕を信じてくれるようになるまで、僕は諦めません。絶対に。何度でも、貴女に声をかけます」
「……どれ程キツい言葉を吐いても?」
ジュン兄さんのように。
「はい」
「……貴方を品定めしても?」
クラ兄さんのように。
「何度でも」
どうしてだろう。差別を無くしたいと、頑張ろうと、私の方から、人間に歩み寄ろうと思っていたのに、人間の方から、歩み寄ってくれた。
傷付いている心を、理解してくれた。
「…あ…」
ありがとう。そうお礼の言葉を、小さく口に出そうとしたのに、それを描き消す程の騒音が、次の瞬間響き渡った。
「おい!何で人間がここにいやがる?!」
依頼を終え戻って来ただろうジュンが、険しい顔で、カトレアを怒鳴り付けた。そのまま、杖を出し、カトレアに向かい攻撃魔法をぶっぱなそうとしているジュンの杖を、ケイが空間魔法で取り上げた。
「いきなり物騒だねージュン君」
「邪魔すんな飲兵衛師匠!」
「先生、そちらの人間は一体何なんですか?」
ジュンと一緒に帰って来たクラが、ヒートアップしているジュンを押し退けて、尋ねた。
「新しい依頼主♡」
「はぁ?!」
「色々とツッコミたい事は山ほどあるけど、とりあえず話聞かせて」
*****
何故人間がこの家にいるのか。依頼とは何か?どうして勝手に依頼を受ける事になったのか?
全く納得のいっていない、敵意丸出しのジュンを何とか宥めつつ、話を全て聞き終えた2人は、キリアに煎れて貰ったお茶を無言で啜った。
「ーーいや!納得出来るか!なんで俺が人間の護衛なんてしなきゃなんねーんだよ!ふざけんな!」
一息付いた後、また怒鳴り散らすジュン。
「保護者命令♡だよ」
「ざけんな!」
そうなりますよねー。と、キリアは夕飯の支度をしながら、話を聞いていた。
人間嫌いなジュンが、常に一緒にいなくてはいけない護衛を喜んで引き受ける訳が無い。ここまでは想定内。
「いいじゃないですか。紅の瞳を差別しない希少な人間なんでしょう?護衛引き受けようよ。いつ化けの皮が剥がれるか見物だし、そうなったら、無事でいられるとは思わないで欲しいよね」
(クラ兄さん……怖いよ)
攻撃的な人間以外に対しては比較的、平然とした態度をとっていたクラに期待していたが、キャパオーバーなのか、受け入れなかったようだ。
クラも、ジュン程人間嫌いを表に出さないが、人間を好きでは無いと言っていた。人間に無関心。一線を引き、心に寄り添う事もしなければ、関心を持つ事も無い。
「こら。クラ君までそんな事言わないでくれる?依頼に私情は持ち込まない。紅の瞳の評判が悪くなって、変な奴等からしか依頼来なくなったらどーすんの?」
痛い所を付きますよねー。言ってる本人のケイ先生が1度大きくやらかしてるらしいですけどねー。
キリアはまだその時ここに居なかったので、話を聞いただけだが、ケイ先生がムカつく依頼主を瀕死になるまで痛め付けた事で、紅の魔法使いの凶暴さを知らしめる結果となり、依頼が全く来なくなった時期があったらしい。
その時期が大変だった事を身を持って知っている2人は、グッと、色々と言いたい事を飲み込んだ。
「ご迷惑な依頼である事は分かっています。ですが、どうか引き受けて頂きたいのです。僕は、まだこんな所で死ぬ訳にはいかないんです。お願いします」
丁寧に頭を下げるカトレア。
目の前で自分の事についてこんなに揉められては、居心地はさぞ悪いだろうに、彼の態度は変わらない。
「ーー確かに、この依頼を受けないと、下手すれば、紅の魔法使いの評判は地に落ちる」
クラは、依頼の本質に触れ、ギュッと拳を握り締めた。




