少年2人との出会い2
駆け寄った先には、2人の少年がいて、その内の1人が、杖で光を灯し、道を照らしていた。
2人とも綺麗な紫の髪で、瞳の色は薄い綺麗な青。どちらも整った顔をしていて、端的に言うと格好良い。男前。
「あれって…魔法?」
ゲームや漫画では見た事あるけど、実際に目の当たりにするのは初めての事。この世界の両親は、紅い目をした私を外に出そうとしなかったから、私はほぼ屋敷に軟禁状態で、そんな私の生活範囲の屋敷の中に魔法を使える人はいなかったから、魔法使いを見るのは初めて。
魔法使いが実在するのも、今初めて知った。
知識を学ばせて貰える機会なんて全く無かったから、この世界に関する私の知識なんて、ほぼゼロ。
「すっごーい!しかも2人ともイケメン!格好良いなぁー」
ゲームや漫画内でしか見た事の無かった存在に、思わず興奮する。
「恐縮です」
「!!」
さっきまでこの目で見ていた筈なのに、急に背後から声が聞こえて、キリアは驚いて振り向いた。
背後には、先程の2人の少年の姿。
「君、こんな所でどうしたの?夜の森は危ないよ」
キリアよりも歳上に見える12歳程の少年の1人は、肩くらいまである金の髪を揺らしながら首を傾げ、優しい笑顔で、キリアに尋ねた。
「……クラ、不用意に近付くな。人の姿をした魔物かもしれない」
もう片方の少年は、キリアを用心していて、クラと呼んだ少年の肩を掴むと、1歩、後ろに引いた。
鋭い目付きでキリアを睨む少年は、杖で光を灯していた方で、こちらの髪は短髪で、耳には紅いピアス。よく見ると、クラの耳にも、お揃いのピアスが光っていた。
「大丈夫だよジュン。あんまり睨んだらこの子、怖がっちゃう。それに、ほら、見て」
クラはそう言うと、キリアの瞳を指した。
「あっ…」
途端、キリアは両手で目を隠した。
紅い瞳は不吉の証。忌み嫌われる。折角、人に会えたのに、このままではまた、置いてけぼりにされる。
「紅い瞳……!そうか、お前ーー」
隠したけど、もう遅かった。初めからクラと呼ばれてる男の子には気付かれていたみたいだけど、ただでさえ警戒されているジュンさん?の方にも気付かれてしまった。
分かる。こんな森の中に1人、女の子がポツンといたら、何か怪しいよね。怖いよね。それが不吉と言われてる紅い瞳をしてたら、魔物と誤解されても仕方無いよね。
キリアは置いてけぼりにされるのを覚悟した。
「ーーついてこい」
「へ?」
だが、予想が外れ、置いてけぼりにされるどころか、ついてこい。と言われ、何とも間の抜けた声が出た。
「大丈夫?寒くない?これ羽織って」
クラはそう言うと、自分の着ていたコートを脱いで、キリアの肩にかけた。
日も落ち、肌寒い森の中。ボロボロの薄い1枚のロングワンピースしか着ていなかったキリアには、とても有難い。
「ありがとう…でも、いいの?私……呪われてる、けど」
「「……」」
キリアの言葉に、クラは悲しそうに、ジュンは何かに怒っているような表情を浮かべた。
自分では呪われているつもりは微塵も無いのだが、両親や兄、姉、使用人達にも散々蔑まされて来たので、この世界で初めて優しくしてくれた人が、私のせいで呪われてしまうのは避けたい。
「君は呪われてなんかいないよ」
「ーー本当?」
「うん。約束する」
自分が呪われているなんて思っていなかったけど、言われ続けている内に、そうなのかも。なんて、どこか思ってしまっていたのかもしれない。
違うと否定されて、安堵した自分がいた。
「着いたよ」
案内されて辿り着いたのは、大きな和風の一軒家だった。
「え?いつの間に…」
直前まで、家の存在に気付かなかった。急に目の前に現れた立派な家に、困惑する。
「魔法で隠してあるんだ。鍵を持ってる人じゃないと、入れないよ」
クラは胸ポケットから銀の鍵を取り出し、キリアに見せた。
「師匠ー!飲兵衛師匠ーー!!」
ジュンは大きな声を出しながら、ズカズカと家に入った。クラに誘導され、キリアも後に続く。
中に入ると、そこはまた、外観と違う雰囲気が漂っていて、テーブルや暖炉、掛け時計に、宙に浮かぶ椅子や本。
「凄い……これ、全部魔法…?」
外観は和風だが、中はどちらかと言うと洋風に近いし、壁質も外とは全く違って見える。何より、宙に浮かぶ椅子や本の数々に目が行く。
「先生、また出しっぱなしにするんだから」
椅子や本は、師匠=先生が読んでいた残骸らしい。クラは呆れたように言った。
「何だぁー?どうしたぁー?我が愛しの弟子達よー!」
2階からトントンと、階段を千鳥足で降りてくるのは、見目20代の、腰まである長い黒髪1つにしばった、紅い瞳の持ち主だった。
「紅いーー瞳!」
(自分以外に初めて見た!!)
耳が私達とは違って長く尖っていて、人間では無い事が分かる。
「んぁ?おー!こんなとこに随分かわい子ちゃんがいるなぁ。どー?俺と遊ばーーぐふっ!!」
「先生、それは犯罪です」
キリアに近寄り、手を握る先生を、クラは笑顔でみぞおちを殴って制止した。
「師匠、いい加減酔っ払い止めろ。飲まれるまで酒を飲むな」
「ーっ、分かって無いな……酒は、潰れるまで飲むのが、醍醐味なのさ…!」
「俺が今から目を覚まさせてやろうか?」
ジュンは杖に水の魔法を集中させながら、師匠をジト目で睨み付けた。