夜行性11
「キリア、ジュンが怒鳴ってごめんね。怖かったでしょ?」
「大丈夫だよ。あの、私も……その、ジュンさんの心情とか、考えもせずに余計な事言っちゃって……」
人間も悪い人ばかりじゃない。なんて。ジュンさんがどれだけ辛い目にあってきたのかも知らず、言うべきじゃ無かったかも知れない。
「大丈夫大丈夫。キリアも酷い目に合って来たんだし。あいつは特別に拗らせちゃってるから」
「……やっぱり、2人も、酷い目に合って来たんだよね」
ジュンさんもクラさんも、私と同じ8歳の時ーー4年前に、ケイ先生に保護されて、ここに来た。
「そうだね。楽しい目には合ってないかな。ジュンが人間嫌いになったのも、理解はしてるよ。僕も、好きじゃ無いしね」
そうだよね…。紅の瞳は呪われた証。
ただ、紅の瞳を持って産まれただけで、随分酷い目を受けた。私だって、前世の記憶が無かったら、人間嫌いになってたかもしれない。
「ただ、それとコレとは別ね。仕事だし。生活掛かってるから」
ニッコリと笑顔を浮かべ、クラは現実的な事を言った。
*****
帰宅後ーーー。
「お疲れ様3人とも」
夜も更けた中、真っ暗な森を歩き、家に帰宅すると、魔法で出来た光の塊を宙に浮かべ、リクライニングチェアで優雅に眼鏡をかけて本を読んでいたケイが、顔を上げ、3人を迎えた。
「ただ今、先生」
「無事依頼を受けて来れたようで安心したよ。一人、レッドカードが出たみたいだけど」
どうやら、あの空間内で行われた出来事は、ケイ先生に把握されている様で、報告を行う前に、中であった事を言われた。
「ジュンはもう少し柔軟に対応してね。人間嫌いなのは分かるけど、その人間相手に商売してるからね。ヒゲールみたいな最低髭差別男は好きにぶちのめしても良いけど、リトみたいな良い子の依頼はできる限り受けて貰わないと」
ーーー好きにぶちのめして良い?めっちゃ物騒な事言いますね。
「……分かってる」
本当に反省しているようで、ジュンは素直に頷いた。
「そして、キリア」
「!はい!ごめんなさい!」
反射的に、ビクリと体が反応し、謝罪する。
何か粗相をしてしまったでしょうか?ジュンさんから音声通話石を奪い取った事?勝手に依頼主と話した事?偉そうに説教?した事?
基本、長年の悲惨な生い立ちから、自己肯定感が低く、マイナス思考まっしぐらなので、思い付く事が叱咤される前提。次から次へと自分の駄目だっと思う部分が頭を巡り、怒られる前に先に謝罪してしまう。
「えー俺、まだ何も言って無いよー?キリアちゃんってば、早とちりだなぁ」
「ご、ごめんなさい、つい」
「俺が言いたいのは、キリアちゃんが、依頼主と話せたことだよー」
「依頼主……リト?はっ!やっぱり、音声通話石を奪い取ったのが駄目でしたか?!」
ジュンさんが小さい子相手に威圧的に話すものだから、つい、後先考えず音声通話石を奪い取って会話してしまいました。
前世、家政婦としてベビーシッターもしていて、子供の扱いには定評があったのですが、駄目でしたよね?!私如きがおこがましく音声通話石を奪い取るだなんて……前の家なら、3日ご飯抜きの、床全面雑巾がけさせられるくらいは普通!
「違う違う。話せた事。あの音声通話石はね、魔力がそこそこある人が触れないと、作動しないんだ」
「そうなんですか?」
普通に触ったら会話出来たから、誰にでも出来るものなんだと思ってた。
「キリアちゃんは普通に会話出来た。つまり!魔力が強いって、しっかりハッキリ証明出来た訳だ!」
「成程!」
「これで、この俺の、紅の瞳の持ち主は魔力が強い!って説を立証するのにまた1歩近付いたよ!」
「はい!って、まだ立証されてなかったんですね!」
「うん!俺の推測!でも絶対当たってると思う!何故なら、俺は天才だから!」
「成程!」
まるで演劇の様に激しく体を動かし、表現しながら話すケイに、それに付き合うキリア。
ジュンとクラは、呆れたように、ただ黙って見学していた。
*****
紅の魔法使いは、基本、夜に活動する。
それは、万が一にも、紅い瞳を他者に見られないように、人目の少ない深夜、闇夜に紛れる為だ。
「普段、元の瞳の色に戻してはいるんだけど、魔法を使い過ぎちゃったりしたら、色が元に戻っちゃうんだ」
クラは自身の青い瞳を指して、キリアに説明した。
クラ、キリアはそれぞれ、真っ暗なローブに身を包み、頭にフードを被っていた。
「私、真夜中とは言え、街に出るのは初めてなので、凄い今緊張してる…!」
ドキドキドキドキと、心臓が凄い早く鳴ってる。
何せ、強い魔力を持っていると立証されても、まだキリアは魔法を使えず、瞳の色も、紅の瞳のまま。紅の瞳が差別されているのは、クラ達の話を聞いて、前の家族達だけでは無い事が分かった。
そんな中、初めて、人が沢山住む街に入る。
「初めてなの?」
「ほぼ軟禁されていましたので」
屋敷以内外出禁止。来客時倉庫監禁。
なので、家族、屋敷の使用人以外と会うのも、クラ達が初めてだった。
「……ほんと、僕も人間は好きじゃないな」
まるで、自分が人間では無い言い方を、ジュンもクラもする。それは、紅の瞳を持って産まれたために、理不尽な扱いを受けて来た故の、弊害に思えた。




