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08「王子の依頼」

「失礼します」


 扉をノックし部屋へ入ると、高そうなソファに座った二人の人物が目に入った。


 一人は偉丈夫な体でドッシリとした雰囲気の男。

 こちら見る視線は鋭く、只者ではないと思わせる。歳は俺より上に見える。


 もう一人は、うって変わって穏和な雰囲気を感じる。顔も美青年といった風貌で、貴族だと紹介されても不思議には感じない。


 体格の良い強面中年。

 高貴な美青年。


 どっちが王子かと問われれば、後者を選ぶ。


 王子に失礼があってはならない。そう思い、挨拶をするため美青年へと足を向けた瞬間ーー


「お久しゅうございます。ヘラルド殿下」


 後方で待機していたリアスが、俺を押し退け王子の前で膝をついて挨拶をしていた。


「うむ、久しぶりだな……ヴィクトリアス。変わりはなかったか?」

「はい、元気だけが取り柄ですので。ヘラルド殿下もお元気そうでなによりでございます」


「そう畏まるな。今は王城という訳でもあるまい。そう言えば、剣術指南の後にあの公爵を袖にして帰ったそうだな」

「袖にしたもなにも、あの気持ち悪い下卑た笑みを見ただけで逃げ出しました! ヘラルド殿下からも私を諦めるよう言って下さい!」


「はっははは! 分かった分かった! 俺としては、面白いからもう少し様子をみたかったのだがな!」

「お戯れを……こちらは良い迷惑ですっっ」


 なんだか置いてけぼり感が凄い。

 にしても、そっちが王子だったのか……。

 豪快に笑う強面中年を見て胸を撫で下ろした。

 

 もし、先に美青年の方に挨拶なんてしてたら、目も当てられない。考えてみれば、王子だからって若い訳じゃない。


 王様が元気で健在なら、王子はいつまで経っても王子のままだ。


 そう言えば聞いた事がある。

 

 俺が住んでいる"イスパルア国"の王様は、年老いても精力的に公務に励み、中々その座を王子に譲らないと。


 いやー、本当に助かった。

 後でリアスにお礼しなきゃな。


「で、ケンタウロスを倒したというのは本当か? 迷宮が出来て数百年。一度も倒されなかった不死身の番人を倒したと聞いて驚いたぞ。まあ、剣聖のそなたの名前を聞いて、納得はしたがな」

「そうそう! 僕も驚いたよ! でも、リアスちゃんなら納得だよね!」


 王子の後に続いた美青年の男。

 よく見たら、耳が尖っている。

 これは……エルフだな。


 どうりで若く見える訳だ。

 エルフと言えば、数百年単位で生きる賢者。

 

 その容姿は青年期で固定され、死ぬまで変わる事はない。恐らく、この人も若く見えて俺達よりかなり高齢なのだろう。


「ふふっ。ヘラルド殿下、"ビゼル"ギルド長ーートドメを刺したのは私ではありませんよ。私一人では、決して倒せる相手ではありませんでした」


「ならば……」

「その人がかい?」


「ええ、紹介が遅れ申し訳ありませんでした。こちら、ケンタウロスを一刀両断せしめた男ーーハルト殿です! そして、私の生涯の伴侶となる男でもあります!」


 なっ、リアスの奴また余計な事をっっ!!


「ほう……」

「へ~」


 ヘラルド殿下とビゼルさんの視線が鋭く刺さる。

 まるでこちらを値踏みするような視線。


 一国の王子と数百年を生きる賢者に舐め回されているようで、生きた心地がしない……。


「ご、ご紹介に預かりました。俺、いや、私はハルトと申します! 私、元はただの木こりでして、その、失礼がありましたら申し訳ありませんっっ」


 緊張する……こんな場面は初めてで、なんて言ったら良いか全く分からんっっ!


「そう固くならずとも良い。それで、そちは何者だ」

「そうだね。ただの木こりがケンタウロスを倒せる筈ないもんね」


 そんな事言われても……。


「いや、本当に木こりなんです! あの、その……」

「私の伴侶となる方を、そうイジメないで頂きたい。彼の言っている事は全て本当の事です。私ーーいえ、レドモンド伯爵家の令嬢である、ヴィクトリアス=レドモンドが保証致します!」


 えっ、リアスが伯爵家の令嬢!?

 驚くべき新事実に、開いた口が塞がらない。


 そんな俺をそっちのけで、話はどんどん進んでいく。


「ほう、それは信用するしかあるまい。では、その男はお前より強いと?」

「ええ、私が初めて敗北した男です!」


「へ~、リアスちゃんが負けたんだ! だったら、この国で一番強い男と二番目に強い女がパーティを組んでるって事だよね」

「ええ、その通りです」


「なら、この依頼は適任かもね。どう思う? ルドっち」

「ビゼル様っ、二人でいると時以外はヘラルドと! これでも一国の王子ですので、民に威厳が……」


「ごめんごめん! じゃあ、改めてヘラルド殿下ーー"姫の救出依頼"を、この二人にも受けて貰おうよ」

「そうですね。国一番と二番がこの場面で揃うという事は、そういう事なのでしょう。では、剣聖ヴィクトリアス殿……私の妹フィリアを救ってくれ!!」


 一国の王子が頭を下げる光景に、俺もリアスも予想外で驚いた。だが、その真剣な眼差しは、王子というより、大事な妹を守りたい兄の瞳だった。


「話を……詳しい話を聞かせてくれませんか」


 大切な人を助けたい。

 そんな純粋な気持ちに、自然と言葉が溢れた。


「うむ、実はだな……」


 ヘラルド王子から聞かされた話によると、お転婆で有名な歳の離れたフィリア姫は、この迷宮都市に赴きとある迷宮に入ったらしい。


 一国の姫君が迷宮なんて危険な場所に入るなんて、通常ならありえない。


 ただ、その時はギルド長であるビゼルさんは、王都に出張で不在だったようだ。


 その時を狙ったかのように、迷宮都市メイロへやって来たフィリア姫は、様々な手を駆使して探索者を装い、数人の護衛を引き連れて迷宮へ挑んでいってしまった。


 それから数日経っても姫は戻らず、捜索にあたっていた者が迷宮へ入っていくフィリア姫を見たという情報を得る。


 そこから詳しい調査をして、それが本当だと分かった。そして、フィリア姫の事を聞きつけたヘラルド王子は、他国での公務を中断し、迷宮都市へ駆けつけたという訳だ。


「という訳だ」

「話は分かりました。その依頼、受けます」


 そんな話を聞いたら断れる筈もない。

 即決した俺を、リアスは誇らしげに見ていた。


「そうか、それは本当に助かる。早速だが、出立は明日を予定している。明日までに、準備を整えてくれんか? なにせ、急を要するものでな」

「分かっています。早く行ってフィリア姫様を助けましょう!」


「どうです殿下。私が見込んだハルト殿は、良い男ではありません?」

「そのようだな。これで剣聖の血筋も絶えることなく、我が国は安泰という訳か」

「リアスちゃんを負かした上に、この漢気を魅せられたら惚れちゃうのも無理ないね!」


 緊張した糸を解すように、茶化されてしまったが、やる事は変わらない。今もどこかで不安な思いをしているフィリア姫を、この手で助け出すだけだ。


 その後、詳細を詰めて明日に備える事になった。


 フィリア姫の向かった"女神の迷宮"とやらは、数百年攻略されずに残った最古の迷宮らしい。


 その構造は一般的な洞窟型であり、地下深くまで潜るほど難易度が上がっていくみたいだ。今も先発の捜索隊が救出に潜っているようだが、未だ朗報は届かない。


 後発隊である俺達のパーティは、俺とリアスは勿論、ギルド長のビゼルさんにヘラルド殿下自ら出向く。


 その他に、優秀な荷物持ちとして、ポーターを大クランから借り出したと聞いた。計五名の少数精鋭だが、ヘラルド王子自ら出向くとなると、あまり信のない者を近くに置きたくないようだ。



「ハルト殿、この度の依頼を受けて頂いて感謝する」


 ヘラルド王子の意向で、都市一番の宿へ泊まる事になった晩。何故か部屋は一つしか取られていなかった……。


 一応ベッドは二つあるのだが、隣に涎を垂らした獣がいると思うと、ゆっくり寝られる気がしない。


「いや、リアスが頭を下げる事はないだろ?」

「フィリア姫は、私も幼い時から知っているのだ。大人になった今でも交流があり、仲良くして貰っている。言うなれば、友のようなものだ。そんな友を救いたい気持ちは、ヘラルド殿下と変わりないと思っている」


「そうか……なら、絶対助けよう」

「ああ、ハルト殿は本当に良い男だ!!」


「分かった! 分かったから、良い加減自分のベッドへ行け!」

「そんな殺生な事を言わないでくれ……もしかしたら、明日死ぬかもしれないのだぞ? 少しで良いのだ。頼む! 先っちょだけで良いから!!」


 まったく、男かこいつは……。

 

 まあ、俺だって男だ。

 そういう事をしたくない訳じゃない。


 ただ……手を出したら地獄の果てまで追って来そうな相手だぞ。簡単な気持ちで受け入れられない。


「フィリア姫を無事に助けられたら考える!! だから、今は我慢しろ!!」

「ほ、本当だな!? 言質は取ったぞ!!」


 問題の先延ばし。

 現状、それしか打つ手がなかった。


 ルンルンで自分のベッドへ戻り、爆速で寝入ったリアス。俺はそんなリアスの横顔を、なんとも言えない顔で見ていたと思う。


 そして翌日ーー


「良く参ってくれた。準備は万端か?」

「はい!!」

「勿論!!」


 迷宮前でヘラルド王子に迎えられた俺達は、本当に行くのかという最後の確認に気合いを入れて応えた。


「では往くか」

「命大事にね!」


 先頭に剣聖であるリアス。真ん中三人は、盾を装備し騎士の甲冑に身を包んだヘラルド王子と、軽装で弓を背負ったビゼルギルド長。


 そして、借り出してきたポーターらしきフードを被った人物が並ぶ。その後ろである殿は、俺が務める事になった。

 

 迷宮の入り口を潜り、姿を消していくリアス達。

 

 最後にポーターの人が潜ったのを確認した俺は、覚悟を決めて足を踏み出したーー


読んで下さりありがとうございます!

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