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07「初陣」

 手から汗が染み出してくる。

 まともな戦闘はこれが初めて。


 旅の途中で盗賊と対峙した事はあるが、相手は油断した木偶の坊。今回の相手は、馬よりも二回り大きな魔物。身のすくむような殺気に、思わずジリジリと後退してしまう。


 正直、まともに戦うのはこれが初だ。

 初陣をどう乗り切るか。

 回らない頭の中で、思考が蠢いていた。


「尋常に勝負っ!」


 先手をきったリアスがケンタウロスへ駆けていく。飛び上がりながら上段に構えた剣を振り下ろすと、ケンタウロスも負けじと大剣を構えリアスの剣とぶつかった。


 剣と剣がぶつかる音は、想像以上に大きかった。

 普通なら弾かれてしまいそうな大剣に向かって躊躇なく飛び込む姿は、勇ましくてちょっと惹かれてしまう。


 しかも、後方へ下がったのはケンタウロスの方。

 あんな大きな相手を後退させるその胆力は、唖然だ。流石、剣聖様なんだと思わせる。


 次々と連打を浴びせるリアスに、ケンタウロスは防戦一方のようだ。これは俺の出番なんてないかと思った時、リアスは振り返って不敵な笑みを浮かべていた。


「お膳立ては済んだぞハルト殿! さあ、その力を見せてくれ!」

「て、言われてもな……」


 リアスの猛攻で怯んだケンタウロス。

 攻めるなら今が好機。


 初陣を華麗に飾れるように、剣聖様からのお膳立てを受けたのだ。ここでいかなきゃ男が廃る。


 怖いが、自然と足は前に出ていた。


「いくぜデッカいお馬さん!!」


 ラグナロクを構えケンタウロスへと駆ける。

 足が羽根みたいに軽い。

 

 気づけば、あっという間にケンタウロスの太い幹みたいな脚が目の前にあった。俺って、こんなに速かったのか?


 いや、元々はただの平凡な木こりだ。

 この速さは、ラグナロクの力なんだろう。


 決して自分で努力して得た力ではない。だけど、それを上手く利用するのもまたーー力だと思うんだ。


「ちえすとぉぉーっっ!!」


 いつもの要領だ。

 この太い脚を木だと思えば良い。


 そう、俺は木こりだーー


「ウゴォォォーッッ!!」


 脚を切断され、呻きを上げて後退するケンタウロス。もう一本の脚も落とせば行動不能。そう判断した俺は、迷わずその巨体を追いかけた。

 

 だが、


「脚が生えてる!?」


 切断した脚は、いつの間にか再生していた。

 

「やはりか」

「知ってたのかリアス」


「うむ、噂には聞いてはいたが、本当に再生するとはな。いやはや、面倒な敵だ」

「それにしても再生する早さが尋常ねえよ……一体、どうやって倒すんだ?」


「多分、首を落とせば」

「なんで多分なんだよ!?」


「誰も知らんのだ。ケンタウロスを"倒した者"がいないからな」

「なっ……」


 迷宮が出来て数百年。

 その間、数々の猛者がいた筈だ。


 それにも関わらず、未だ倒された情報がないという事実に、二の次が出なかった。


 下半身は馬のようなケンタウロスだが、上半身は獣のような人のような、なんとも言えない容姿をしていた。


 その上半身は固そうな鎧を着込み、兜を被っている。しかも、先ほどまでなにも持っていなかった片手には、重そうな盾を持って構えていた。


「ツヨイ……デモマケナイ……」


 低くおぞましい声で呟く怪物。

 その目は、俺達を鋭く捉えていた。


 あの大剣を掻い潜り、頑丈な盾を破らないと勝機はない。


「どうするハルト殿。ここは一旦引くか?」


 初陣には荷が重いと踏んだのか、リアスが撤退の意思を聞いて来た。正直に言えば、帰りたい。


 だが、このまま引き下がる事を俺の心に住む奴等が許してくれないのだ。


『殺せ、お前なら殺れる』

『このまま引き下がるなど勇者として恥だ! 迷わずいけ! やれば出来る!!』


 他人事だと思って勝手なもんだ。

 知ってるか? 脚が震えてんだぜ。


「ここで倒す。ただ、一人じゃ不安だから一緒にやってくれるか?」


 一応作戦は考えた。旅の途中で気づいた斧の特性を使ってみようと思う。その作戦にリアスが加わってくれれば勝てる筈だ。


「承知!! ハルト殿が征くなら、私も往くまで!!」

「おう! 剣聖様が味方で心強いよ!」


 運命を共にしてくれたリアスに軽く作戦を伝え、二人同時にケンタウロスへと駆け出した。


 俺とリアスは、ケンタウロスの横にそれぞれ回り込む。リアスは大剣を構えた右側。俺は盾を構えた左側だ。


「頼んだリアス!!」

「任された!!」


 掛け声に反応したリアスが飛び上がる。それを確認した俺は、ワンテンポ遅れて飛び上がった。


 飛び上がったリアスは、剣を下段から大剣に向かって撃ち上げた。耳に響く金属音。大剣は上に弾かれ、ケンタウロスの体勢が崩れる。


 リアスは衝撃の力を利用して素早く離脱。

 

 その身のこなしは正に剣聖に相応しく、可憐な容姿と相まって惚れ惚れする。性格が残念じゃなければ、こちらから求愛してしまいそうだった。


「次は俺の番だ!!」


 俺の体を超える大きな盾に向かってラグナロクを構える。しかしだ、今のままでは盾は斬れてもその首まで両断出来る自信がない。


 だったらどうする。

 そんなの決まってる。

 攻撃力を上げれば良いだけだーー


「チェストォォォォッッ!!!!」


 俺は、ラグナロクを力任せに振るった。


「なっ、斧が巨大化した!?」


 リアスの驚きの声と共に盾にぶつかる斧。

 重さは大して変わらない。

 

 ただ、その大きさは、ケンタウロスの大剣と大差がないほど大きくなっていた。


 俺が見つけたラグナロクの特性。

 それは、"形と大きさ"を自在に変えられる事だ。


 その特性を生かし、俺はこいつに勝つ!!


「おらぁぁぁぁーっっ!!」


 盾をぶった斬った手応えを感じた俺は、力を更に込めた。それと同時に、上に弾かれていた大剣が俺に向かって振り下ろされる。


 俺が殺るのが先か、大剣が俺を真っ二つにするのが先か。頼む、どうか間に合ってくれっっ!!


「ハルト殿……」


 倒れた俺を見下ろすリアス。

 その顔はーー


「やったな!」


 笑っていた。


「なんとかなったな……」


 リアスに起して貰い決戦の場に視線を合わせると、首が飛んだ巨体は、塵となって消えていく。


 そこに残ったのは、顔よりも一回り大きな白い魔結晶だった。


「やったぞおらぁぁーっっ!!」

「私達の勝利だー!!」


 上げた勝鬨が響く草原。

 爽やかなそよ風が、草花を揺らしていた。


「ハルト殿、この後はどうする?」


 暫く初陣の余韻に浸るように座り込んでいると、リアスが尋ねてきた。


「そうだな……今日は戻るか」

「ああ、それが良いと思う。正直、そんな大きな荷物を持って進むのは、得策じゃないと思っていた」


 大きな魔結晶を指差し賛成するリアス。

 確かに、こんな荷物を持って歩くのは面倒だ。


 そう考えると、俺達にも"ポーター"が必要なのかもしれない。


 その後、魔結晶を抱えて来た道を戻り塔を出た俺達は、探索者ギルドへ向かった。


 布で隠した魔結晶を抱えていると目立つ。

 しかも隣には容姿端麗なリアス。


 男達から浴びる妬みや嫉みのこもった視線が痛いのなんの。更に言えば、俺が荷物を抱えて抵抗出来ないのを良い事に、リアスが腕を組んでくるから堪ったもんじゃない。


 一つ良い事があるとすれば、豊満な胸が当たって嬉しいぐらいだ。くそっ、やっぱり抗えないのか!!



「あ、ヴィクトリアス様とハルト様ですね!」


 そんなこんなで探索者ギルドに着いた俺達は、パーティの申請をした時と同じ受付嬢のカウンターで、魔結晶の買取を頼む事にした。


「これは?」


 置かれた魔結晶を見て不思議そうな顔をする受付嬢。そうだ、まだ布を取っていなかった。


 これじゃ不思議がられても無理はない。

 大きな荷物を置かれただけじゃ意味が分からん。


 そう思い、布を取り去って改めて受付嬢へ魔結晶を見せる。


「ん……? これは?」


 あれ? さっきと反応が変わらんのだが……。


「これはって、魔結晶だが……買取を頼む」

「こ、こ、こ、これが魔結晶っっ!?」

「ふ、驚くのも無理はない。私もこんな大きなサイズの魔結晶など初めて見た!」


 驚く受付嬢をフォローするリアス。魔物を倒すなんて初めてだし、魔結晶を見るのも初めてな俺は、今一その凄さにピンと来ていなかった。


「ケンタウロスという魔物を倒して獲得したもんだ。偽物とかじゃないぞ」

「ケンタウロス!? しょ、少々お待ちくださいぃっ!!」


 上擦った声で後ろへ引っ込む受付嬢。

 

 数分待っていると、戻ってきた受付嬢は神妙な面持ちで俺達に告げた。


「大変申し訳ありませんが、ギルド長がお会いになりたいと……」

「ギルド長が?」


「はい……しかも、一緒に我が国の第一王子がご同席されているようでして……」

「第一王子!? なんだってまたそんな所に俺達が……」


「詳細は会ってからと仰っていましたが、なにやら頼み事があると……」

「頼み事ね……」


 なんだか、面倒な事になってきたぞ。

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