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03「とある剣聖の敗北」

 私は"剣聖"ヴィクトリアスーー


 とは言っても、ただの剣しかとりえのない戦闘狂の女だ。幼い頃に兄が振っていた剣に興味を持ち、手に取ったところから私の剣の道が始まった。


 私は伯爵家の令嬢だったので、当然剣を持つ事など許されなかった。暫くの間は、我慢して踊りの稽古や貴族としての所作などを学んでいた。


 だが、遂に我慢出来なくなった私は、父や母の目を盗み剣を振るっていた。昼間に兄が剣の稽古をしているのを観察し、夜になったらそれを思い出して一人剣を振るう。


 そんな日々が何年か続いた後、私は兄の剣を見ていた腕利きの剣士に勝負を挑んだ。最初はおままごとの延長だと思っていた剣士だったが、私の剣を受ける内に目つきが変わった。


 父も何事かと騒いでいたが、私が剣士を押していくのを見て、黙って勝負を見守っていた。


 そして、私は見事に剣士を打ち破る。


 勝負が終わりはしゃいでいる私を、父は真剣な表情で見つめ、何かを決心しているようだった。


 その後、私は父に連れられとある道場の門を叩いた。その道場は、数々の凄腕剣士を輩出する名門。


 父は私をその道場へ入門させ、鍛えてくれと館長へ言い残し去って行った。


 急な展開で訳が分からなかったが、好きな剣を四六時中振れるとあって、私は高揚していた。


 それから数年間ーー


 朝から晩まで剣の腕を磨き続けた私は、いつの間にか道場で一番の剣士になり、師範代へと登り詰めていた。


「いやー、リアス師範には敵いません」

「こりゃ、将来は剣聖様ですな!」


 周囲は、年端もいかない少女に期待を寄せていた。私もその期待に応えるべく、更に腕を磨き続けた。


 そして、私は当時世界一と呼ばれていた剣聖を破り、新たな剣聖ヴィクトリアスとして、世界に名を轟かせたのだが……。



「何故こんな所で敗れているのだっっ」

「いや、なんかごめんな?」


 地べたに膝をつく私を、何事もなかったかのように涼しい顔で見下ろす男。こやつとの出会いは、乗り合いの馬車の中だった。


 王都で剣術指南を終えた私は、ついでに実家に帰ろうと、乗り合いの馬車に乗った。


 王宮の馬車で送っていくと申し出があったが、その馬車には、私を落とそうと必死な豚公爵が待ち構えていたので、そそくさと逃げてきたのだ。


 乗り合いの馬車は狭くて乗り心地も悪いが、鍛錬で鍛えられた私には屁でもない。


 そんな馬車で揺られていると、馬を交換する中継地点で一人の青年が乗り込んできた。


 見た目はそこらの村人と変わらない容姿をしていたが、良く見ると、体は鍛え抜かれているのが分かった。


 そして目を惹くのが、背中に背負った禍々しく黒光りした斧。なんとも不気味なオーラを放つその斧は、幾多の戦禍で血を吸ってきたのかと、戦々恐々とする。


 私でも震え上がる危険な香りのする斧を、呑気な顔をした青年が背負っている光景は、なんとも不思議な感じがした。


 その青年を新たに乗せた馬車が動き出す事数時間ーー事件は起きた。


 順調に進んでいた馬車が急停止したのだ。


 何事かと外に身を乗り出し様子を伺うと、馬車の前に三人の男が立ちはだかっているではないか。


 身なりはとても綺麗とは言えず、少し離れた私でさえ悪臭に鼻を摘みたくなる。あれはどう見ても盗賊だった。


「おい、死にたくなかったら馬車と金目の物を置いて去れ!」

「そうだ! 兄者を怒らせると痛い目にあうぜ!」

「でも、兄者。馬車の中に別嬪な女が乗ってるぜ」


 別嬪とは私の事か? まあ、昔から良く言われるので別に嬉しくはないがな。


「そこの女以外は金目の物を置いて失せろ! そこの別嬪さんは、俺達がたっぷり可愛がってやるぜ。ぐへへへ」

「兄者、俺は二番目だからな!」

「あ、ずるいぞ! 俺が二番目だ!」


 くそ外道めが……この剣で、その粗末なものを斬り落としてくれる!


 私はそう意気込み馬車の外へと飛び出した。


 すると、あの青年が追いかけるように私の前に飛び出してきたではないか。


「まあ、ここは俺が。その綺麗な手を汚すのは勿体無い」

「そ、そうか?」


 私は気づいたら青年に譲っていた。

 

 決して、褒められた事のない部分を褒められて、キュンとしていた訳ではない! 剣士の名誉を守るため、声を大にして言っておく!


「さて、盗賊ども、俺が相手だ」

「なんだこいつ?」

「兄者、生意気な奴ですね」

「こんなやつさっさと殺って、あの女をやっちゃいましょう!」


 刃こぼれした鈍の剣を構える盗賊共。

 それに対して堂々した態度で相対する青年。


 私はその戦いを見守る事にした。

 まあ、危なくなったら助太刀すれば良い。


 そんな風に私は高を括っていた。だが、私のそんな傲慢さを、青年は一刀両断したのだ。


「「「グエェェッッ」」」


 正に一刀で盗賊達の胴体を両断した青年。

 

 ボロいとは言え、あの盗賊達も腹を守る装備はしていた。それを纏めて三人同時に斬り伏せてしまうとは……。


 あの禍々しいオーラを放つ斧が凄いのか、それとも青年の胆力からなるものなのか。どちらにせよ、私の出番など必要なかった。


「ふぅ~、やっぱり斬れ味ヤバいな。なあ、この場合って、正当防衛だよな?」

「あ、ああ。盗賊に襲われて返り討ちにしただけだ。なんの罪にも問われないだろう」

「そっか、それなら良かった」


 さっぱりしたような清々しい表情で戻ってきた青年から、私は目が離せなかった。


 その後、町へ着いてからも青年の事が気になり、後をつけてしまった……。

 

 あの青年と戦ったら果たして勝てるのだろうか。

 もし負けたら、私は青年にこの身を捧げるのか。


 私は決めていたのだ。

 勝負で負けた相手と添い遂げると。


「せ、青年よ」

「ん? あんた馬車で一緒だった……」


 私は青年に勝負を挑んだ。

 人生を賭けた大勝負をっっ。


 そして……。


「悔しいよぉぉぉっ! 誰にも負けた事なかったのにぃぃぃぃっっ! うわぁぁーんんっっ」


 見事に敗北した。

 それもデコピン一発で。

 

「な、泣くなよ……ほら、この木彫りの人形やるからっっ」


 無理だ。負けるというのはこんなにも悔しいものなのかっ。まさか、まったく歯が立たないとは思いもしなかった。


 悔しがる私を起き上がらせた青年は、その手に木彫りの人形を握らせてきた。


「な、なんだこの人形は……」

「一応、俺を見立てて作ったんだが、気に入らなかったら捨ててくれ」


 なんて事だ。この剣聖ヴィクトリアスが人形如きで慰められると思って……ちょっと可愛いかも。


「くそっ、折角だから貰っておいてやるっっ」

「そ、そうかっ。じゃあ、俺はもう行くからなっ」

「待て! お主、名を名乗っていけ!」

「ハルトだ! 木こりのハルト!」

「そうか、ハルトはこれからどこに行く気だ」

「俺? あー、えーと、迷宮都市メイロに行くつもりだけど」


 迷宮都市メイロと言えば、世界有数の迷宮が存在する都市ではないか。なるほど、そこで迷宮に潜り、更に腕を上げようという魂胆かっっ。


「待っていろハルト! 私は更に腕を上げ、もう一度お主に挑む! そ、そ、そして……結婚を申し込むのだ!!」


 私こと、剣聖ヴィクトリアスは、生涯のライバルを見つけた。そして、生涯の伴侶もーー


読んで下さりありがとうございます!

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