01「俺は木こり」
おう、俺は木こり。
今日も元気に木を切るぞ。
俺の朝は早い。毎日日の出と共に起き、日暮と共に寝る。
そんな生活を続けてもう何年になるだろうか。両親は俺が十歳の時に流行り病で亡くなってしまった。
それからは、親父に教え込まれていた木こりの仕事をして生計を立てる日々。
もう十五年ぐらいか? 正確な年数は忘れたが、多分そのぐらい。
俺は村から少し離れた森の中に住んでいる。村に住むと職場が遠くなるのだ。
仕事は大変と言えば大変だが、もう慣れた。毎日木を切り、加工して売る。基本は物々交換だが、念のために貨幣にも変えてある。
夕方前には仕事を終え、斧や道具の手入れをして俺の一日は終わる。
斧は木こりにとって命だ。
俺の斧は親父の形見である鉄の斧。
もう何十年も使っているので手入れを怠ると直ぐに使えなくなる。そんな大事な斧だが、俺は今日大失敗をしてしまった。
「斧を池に落とした……」
いや、正確に言えば汗で手が滑り、斧が池に飛んでいったと言うべきか。
「この池、濁ってて底が見えないんだよな……でも、取って来なきゃなぁ……」
正直、気が引ける。この池はずっとここにあったらしい。親父の親父の親父より古くから存在する池。
深さも分からんし、潜っても帰ってこれる保証はない。
だが、命より大事な斧。
取って来ないわけにはいかないだろ。
「しゃあねぇ、行くか……」
衣服を脱いで産まれたままの姿になった俺は、気合いを入れて池に飛び込もうとしていた。
そんな時、池からゴボゴボと気泡が上がる。
「そなたの落とした斧は、この【銀の斧】か? それとも【鉄の斧】か?」
池から出てきたハレンチな服を着た女。というか、上半身だけしか出ていない。凄い立ち泳ぎの技術だ。
「誰?」
「銀の斧と鉄の斧どちらだ?」
あ、この女、人の話を聞かないタイプだ。ちょっと怖くなってきた。
「いや、鉄の斧だけど……」
「そうか……では、この【金の斧】と【鉄の斧】ではどうか?」
これは引っ掛けか? 最後のどうか? は、銅とかけているのか?
いや、それよりもこの女誰だよ。
「鉄の斧だって。早く返してくれる?」
「そなたは正直者のようだ。そんな正直者のそなたには、この女神が暗黒の斧を授けよう」
なんか滅茶苦茶禍々しい斧が登場した。
持ち手から刃まで真っ黒。刃の根本部分に、真っ赤な宝石のような装飾がしてあるのが、更に不気味さを放っている。
「いや、要らないです。良いから鉄の斧を返して下さい。それは親父の形見なんですよ」
「ふふ、ではさらばだ」
「て、おいっ! 話聞けよ!」
「ふふ」
ゴボゴボ……。
「なんなんだよ……」
俺の大事な斧は、女神を名乗る畜生と共に池へ沈んでしまった。
「くそっ、こんな禍々しい斧持てるか!」
俺は苛立ちをぶつけるように斧を池へ投げ捨てた。筈なのに……。
「な、なんで手に持ってるんだ!? 今、絶対捨てたのにっっ」
何度も何度も投げ捨てては手元に戻る禍々しい斧。その内、薄寒いものを感じた俺は、仕方なくその斧を持ち帰った。
家へ帰った後、黒々と存在を誇示する禍々しい斧をテーブルに置き、俺はベッドへダイブした。
「なんか疲れた……」
色々と疲れたので、そのまま眠る事にした。その時、俺は大事な事を忘れていたんだ。
全裸だって事を。
それがいけなかったのか、その日から俺は熱にうなされる事になる。
何日寝込んでいただろう。
生死を彷徨い、死んだ両親を何度も見た。その度に、こっちへ来るなと追い返された。
後、熱のせいで見た妄想かもしれんが、あの自称女神も出てきた気がする。
『良く耐えた。やはり妾の見込んた通りよのう』
なんて宣っていた。
ムカつく。
ムカついたので、妄想の中で何度も押し倒して、あんな事やこんな事をしてやった。
『ああ、こんなの初めてっっ! ボーナスで身体も頑丈にしてやろうぞぉっっ』
あれは夢か妄想か。定かではないが、現実ではないのだろう。
そんなこんなで俺が目を覚ましたのは、数日後の事だった。
「うぅっ……体が……軽い?」
寝起きは思ったよりスッキリしていた。腹も減ってないし、渇きもない。
それどころか、筋肉量が増えたような気がする。いや、そんな事より、顔以外の全身に黒い模様なものが彫られている事に驚いた。
「なんだこれ……彫り師に寝ている間に彫られた? いやいや、んな訳ねえか」
色々混乱するが、テーブルに置いていた禍々しい斧は健在だ。
この斧は一体なんなのだろうか。
確か、暗黒の斧とか言ってたっけ?
名前まで禍々しい。
ハッキリ言って早く捨てたい。
「捨てたいが……返ってきそうで怖い」
とりあえず、使ってみるか。
服を着て外へ出た俺は、暗黒の斧を使って試し切りしてみる事にした。
「ちぇすとぉぉーっっ!」
代々伝わる掛け声と共に斧を振りかぶり、木に向かって斜めに刃を下ろした。
スパァァァァーンンッッ!!
滑らかな切り心地は、まるでシルクを撫でているかのようだった。
「なにこれ……怖っ」
俺は、とんでもない斧を手に入れてしまったようだーー
読んで下さりありがとうございます!
もし良ければ、ブクマ、評価をしていただけると大変励みになります!