スマホケース
カリ、カリ、カリリ。
話し声一つ聞こえないアパートの一室に、大根の皮を剥く音だけが響く。
皮を向き終わったら、おろし金で千切りにして水に浸し、5分放置。
そしてドレッシングとノリ、鰹節と和えれば大根サラダが出来上がる。
いつものレシピ、いつもの日常。
会社に行って、料理して、書道に心身を捧げる。
毎日、毎日、変わりない日々の繰り返し。
最近、ふと無気力になってしまう瞬間がある。
まるで終わらない道を走っているような、そんな感覚に苛まれ、身体が思うように動かなくなるのだ。
でも動かなければ、それが全て自分に跳ね返って来る。
だから小一時間寝て気力を付け、その場をしのぐ。
……小一時間寝た事も、全てツケとして跳ね返される。
もう少し気楽になりたい、そう思う事はよくある。
だが日々の鍛錬を怠れば、書の腕はすぐに落ちる。
自分には書しか無いのだから。
これが無くなれば、自分には何も残らないのだから。
自分が自分であるため、自分と言う存在を守るため、今日もこうして変わらぬ日々を……
「あっ」
と、口の端から間抜けな声が漏れる。
シンクに置いていたスマホが滑り落ち、洗い桶の中に落ちたからだ。
握っていた包丁を離し、急いで水中から救出。
乾かすために一度ケースを外し、本体をティッシュで拭いた……所で、ふと手が止まった。
このスマホ、こんなに白かったっけか。
普段はケースに守られているスマホ。
無防備で、すぐに傷付いてしまうであろう純白の筐体が、妙に輝いて見えた。
外したケースは、買ったばかりの頃は透明だったのに、今では黄色く変色している。
少しの間は、敢えてケースを外して使おうか。
ふと、そんな考えが浮かんだ。