夏祭りに花火ではなく星座を見た二人の話
「りんご飴とか綿あめってさ、サムネ詐欺っぽい感じするよね。店先で見てるとすごく美味しそうなのに、食べてみるとそうでもないっていうか……見た目の華やかさと違ってなんかイマイチなんだよね」
言いながら、早くも持て余し始めた綿あめに飛鳥はうんざりとした視線を向けている。
『交通は不便で人間関係はめんどい! こんな田舎、もう嫌だ!』
大学卒業後、そう言い切った飛鳥はしばらく連絡を寄越さなかったが――先日、地元でばったり出くわした俺は咄嗟に「おい」と声をかけてしまった。
「あぁ……久しぶり」
どことなく気まずそうな顔でそう答える飛鳥。それにただならぬ雰囲気を感じた俺は、とにかく飛鳥と話す時間を取ろうと思い――紆余曲折を経て、七月半ばに行われる地元の祭りへ誘うことに成功していた。
飛鳥は俺の追及を避けるように、しばらく祭りの出店を楽しんでいたが……花火が始まる直前、ふと俯いて言葉を零す。
「けどまぁ……世の中ってそんなもんだよね。見た目はキラキラしてるけど、実際はそうでもないっていうか……それにようやく気づいたから今、こっちで就職活動中なんだ……」
……言葉として聞いただけでは、単純な話だ。だがそこに至るまでの苦労は、計り知れないものだろう。俺はそんな飛鳥から視線を逸らし、花火が始まる前の静かな夜空を見上げる。
「そういえば、今って蟹座のシーズンなんだよな」
俺の唐突な言葉に飛鳥は怪訝な顔をしてみせる。だが俺は、暗闇に散らばる無数の星を見上げたまま続けた。
「蟹座の蟹ってさ、英雄ヘラクレスに挑んであっさり負けたんだけど『頑張って戦おうとしたことが偉い』っていうので星座になったんだと……要はさ、何事も一生懸命に頑張って挑戦してみるのが大事なんじゃねーかな」
獅子座や蠍座と比べて、蟹座は十二星座の中で地味な立場に置かれがちである。
けれど――それでも星座の中では比較的メジャーな立場を獲得し、現代まで残っているのはやはり「結果はどうあれ頑張った」ということが評価されているからじゃないだろうか。
飛鳥がこの町を出て、何があったのかは知らない。だけど社会の荒波に立ち向かい、全力を尽くしたのならそれを誇る権利は十分にある――そんなことを考えていれば、飛鳥が小さな声で何かを呟く。それは満を持して始まった花火の音で掻き消されてしまったものの――飛鳥の表情は穏やかで花火や星座に負けないぐらい眩い輝きを放っていた。