第9話 シルバーの過去
あらすじ:
願いを叶える宝石【D・D・F】の使用方法が分からず試行錯誤するシルバー。
しかし彼女の知らぬ処で様々な勢力が【D・D・F】を奪わんと計画を進めていた。
シルバーが自分の家族が怪盗一家だと知ったのは、今より12年前の事であった。
当時8歳のシルバーは父と母との3人でユーラシア大陸西部の街ノネオヴォシビルスクの一軒家で幸せな毎日を過ごしていた。
「嗚呼、愛しのプレム、貴方はとても良い娘。だから、あの子供みたいに怪盗なんか絶対に目指しちゃだめよ。」
「ゴメンね、父さんは今日も出張なんだ。でもプレム、また美味しいお土産買ってきてあげるよ…だから良いコにして待っていてね。」
「パパ!ママ!大好き!私、ずっと待ってるよ!二人が帰ってくるの!」
父と母はとても『良い』両親『だった』――――
厳しい一面もあったが、深い愛情を込めてシルバーを育てていたので、彼女も、二人の事を敬意を払うべき存在だと、そう認識していた。両親が"怪盗"だとなんて考えすらしなかった。
―――しかし、幸せな日々は長くは続かない。ある日シルバーは、両親が仕事で出張するという事で祖父プロメテウスの家に預けられる事となる。
そして、預けられてから三日後の事――――
ゲーム機も無い祖父の家で暇を持て余していたシルバーは、ふと、何か面白い番組はやってないかと思いながら、テレビの電源を付ける。すると――――西部のニュース番組「ヴェスチ」がジャップの女探偵、ビャッカ・ヤチョーガによって男女二人組の大怪盗が粛清された(殺された)という朗報を流していた。
「ようやく捕まったんだぁ、あの大怪盗。」
―――シルバーはしばらくそのニュースを流し見していたが、暫く立つと、流し見すら出来ない、目を覆いたくなるような残酷な光景が目の前に映し出される。それは、怪盗二人組の顔写真。
――――その顔がまさに、自分の愛する両親と『瓜二つ』であったのだ。
「―――――――――――え。」
『薄汚い犯罪者が二人も消えてホッとしますなぁ。』
「違う―――私のパパとママは…とてもいい人で優しくて―――私の事を愛してくれて―――美味しいホットケーキを作ってくれて――――これは別人だ……目の錯覚だ……悪い夢だ……!!!でも、あの顔は―――あの二人の顔は間違いなく――――――!!!!!!あああ!!」
8歳の子供にとって、親を失うという事は、親が犯罪者だと知ってしまう事はどれほどの絶望になるのだろうか。少なくとも今回の件は――――自分の親が清純だと思っていたシルバーにとっての"それ"は、自分の命をも絶ちたくなるレベルの絶望であった。
その後シルバーは家に帰宅したプロメテウスから、すべての事実を知らされる。自分の家族が怪盗一家である事自分が怪盗と言う汚れた仕事に手を染めなくてはならないという事――――――
驚愕の現実に絶望したシルバーは自分の命を、その日の晩に絶つ事を決意する。自殺のスポットは、高層ビルの屋上。
「もうこの世界にはいられない。私の心の中には二度と光が刺す事は無い。」
『ダメです、プレム。その選択は多くの人の心を絶望に包む事になる。』
「誰っ!?――嫌っ……――来ないで!!私を楽に死なせて……!!」
その声、女性的とも男性的とも取れる神秘的な声質。その声の主、両性器を有した中性的な姿をしていて、内側から光り輝いていた。その姿は―――まさしく。
「【かみ】………さま………?」
『貴方がそう思うのならそうなのでしょう。もう一度言いますプレム、貴方には偉大なる使命がある。指名を果たすという存在意義がある。こんな所で死んではならないのです。』
「し……めい…」
『偉大なる使命です。願いを叶える宝石を滅ぼすという正義の使命。そのために貴方は生きなくてはならない。そして、怪盗と言う汚れた道筋を進まなくてはならない。』
その後、その【神】の説得によって、シルバーは自殺を中止。神はその後何度も現れ、シルバーが絶望する度にシルバーの心を勇気づけていった。
(自分が生きる事によって―――使命を果たす事によって――――誰かの不幸を取り除けるかもしれない。薄汚れた血を引く私が、誰かを救えるのかもしれない。)
【神】の正体は何かは分からない――――本当の【神】なのか、はたまた絶望の心が生み出した幻覚なのか――――
【神】に出会ううちにシルバーの中には、とある一つの正義が生まれる。
「人は使命があるからこそ強くなれる。
『フローレンス・ナイチンゲール』は…【神】の声を聞き、多くの人々を救済することによってクリミアの天使となった。
『ジャンヌ・ダルク』は…【神】の啓示を受け、オレルアン解放と言う奇跡を成し遂げた。
【神】から与えられた【D・D・F】を守るという使命。――――これを果たす事は私にとってどれほどの成長になるのだろうか。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[鳥取のどっかの道路]
ンゴロオオオオオオオオオ!!!!!!!!!
シルバーが愛車を走らせる!!!!今日の彼女は何処へ向かっているのだろうか、怪盗事業か、それとも組織ウィザーズのメンバーに会いに行くのだろうか。
(この数週間、【D・D・F】で願いを叶える方法をずっと探していたが――――結局それは分からなかった。その方法さえわかれば、願いで【D・D・F】を宇宙の果てにまで飛ばしてやったのに……
―――だがもうそれはいい。出来ないなら出来ないで、別の方法を試すまでだ。そのために私は今、鳥取県の米子パスポートセンターまで向かっている。)
何故だ、なぜ米子パスポートセンターへ向かうんだシルバー…
(問題なのは、【D・D・F】を封印する場所。海底や地中では、いずれは【D・D・F】を求める者たちに足跡を辿られ、掘り出されてしまうだろう。だから……【D・D・F】は『ハワイ』に封印する!!!!!!!正確には、ハワイ諸島キラウエア火山…その『火口の中』にDDFをぶちこむ!!!
マグマの中ならばだれであろうと封印を解くことなどできはしない―――そして、その為にはパスポートが必要だ!このシルバーがハワイに旅行するためのパスポートがな……)
なんたる名案!
しかし……
「んっと……その前に……お前に会う約束があったな」
シルバーが車を降りる…そして目の前の電柱に、ある男が隠れていた。その男、24歳私立探偵の右堂院であった。
「申し訳ありません、急に呼び出したりなんかして。」
「別にいいよ。まだ時間はあるし。」
現在―――AM9:30。米子パスポートセンターの発給申請受付時間――――8時30分~17時00分。つまり、シルバーにはまだまだ時間の猶予がある。
「それで、私に話したい事って?」
「実は、私―――明日この鳥取を発つ事になったんです。」
「―――何?唐突ね……理由は何なのよ。」
「『マレフィカルム』―――です。」
それは、シルバーの宿敵『探偵協会マレフィカルム』のこと。
「!」
「実は3日前、私は『マレフィカルム』の入会試験を受け―――合格したのです。」
「あはは、結局試験、受けたんだ~」
「はい……明後日より、東京の『探偵協会マレフィカルム日本支部』で働く事になりました。」
(―――――。恐らくヨシヒロ君は、あの忌々しい探偵王百賭から『カース・アーツ』と怪盗抹殺許可証を授けられたのだろう。つまりそれは、今後ヨシヒロ君が、殺し合いの世界に身を投じる事も可能になったという事。もしかしたら私と殺し合う事も―――――――いやそれはいい。私の能力ならヨシヒロ君を殺さず戦えるかね…
でも、他の怪盗と戦ったとき、その時は…命を落としてしまう可能性はかなり高い。なんで勧誘を断らなかったんだ……馬鹿な事を――――)
「なんでマレフィカルムの勧誘を断らなかったんだって顔してますね……」
「顔に出てたかしら。」
「聞きたいですか?」
「ええ。」
「――1週間前、母親と父親が、正体不明の何かに襲われ、致命の重傷を負ったのですよ。」
「正体不明の化物?」
「巨大な10mほどの蛇に襲われたなどと供述しています。勿論、誰も信じてはいませんが――――」
「………で、入団したらその親の治療費を『マレフィカルム』が払ってくれると。」
「ええ、そうです――――」
(正体不明の化物か、『カース・アーツ』を所持する、探偵か怪盗に襲われたな……)
『カース・アーツ』による事件は、証拠が残らない為、誰にも解明することは出来ない。だから『カース・アーツ使い』による怪盗の事件は、警察にはどうすることも出来ない。法では裁けない。だからこそ、超能力者の抹殺を専門とする『カース・アーツ使い』の探偵協会が成立されたのだ。
「で、此れから私とどうしたいんだ。フフ。最後の思い出づくりにレストランや買い物にでも行くか?」
「今日のここまでの私の行為を曲に例えると、全てイントロ<前置き>です。そしてそして、今より、サビ<本当の目的>は流される……」
「は?????????????????????????????????????????????????????????????????」
意味不明である。
「今日私が貴方をここに呼び出したのは――――――たった一つの目的があっての事です。そうただ一つ――――
その目的とは。あなたにただ一つの言葉を伝える事……」
「どんな言葉?」
「そ、それは………」
右堂院が頬を赤く染める。
「ほら、もったいぶってないでさっさっと伝えなよ。」
「―――グランさん、私、右堂院 義弘は………右堂院………義弘は――――――貴方の事を――――――――――――――
お慕い申して―――――――――おりました。」
シルバーがうつむく。
(こんな事だろうとは、思っていたわ。キミが私の事を好きだなんて―――――とっくの昔からわかってのよ、私も鈍感じゃないからね。でもね、それは―――その願いだけは、叶わないんだ。だって私は生まれ付きの怪盗、キミは探偵。殺しあう運命にあるんだから。)
沈黙。二人の間に、ひと時の静寂が訪れる。1秒が永遠にも思える―――哀しみの静寂が―――――
「あっ…………あのっ!!!グランさん…………!!」
最初に言葉を発したのは―――右堂院。答えを待つ緊張で耐えきれなかったのだろう。
「ダメだわ。」
「あっ………」
だが、彼に返ってきた言葉は………あまりにも短くシンプルで、そしてグロテスクだった。
「―――――――――――やっぱり、僕なんかじゃ―――グランさんとは釣り合わないですよね………」
「いや、キミは良い人で、いい男だよ。とってもまじめで、芯があって、純粋で、優しい人。きっと私が普通の人間だったなら、きっとキミと恋に落ちてたのかも……」
「では、何故……」
「『運命』。」
運命。それは、シルバーの全行動原理の中核。絶対的なルールであり、自分にさえどうしようも出来ない概念。
「『運命』って―――――そんな理由で……」
「ヨシヒロ君はカマキリとバッタがお互いの正体を知って――――相思相愛になれると、思う?
私は無理だと思う。だってそれが―――運命だから。私と君の関係も―――それと同じなんだ。
私と君はもう―――敵同士なんだから。」
シルバーが、右堂院を突き放す。そしてその勢いで車に乗る――――
「グランさん……」
「ゴメン、ヨシヒロ君。でも、これでいいの。これが最良なの。貴方はいい人だから、きっと、今後幸せになれると思うわ。」
「グランさん……!!」
「さらばわよ。」
シルバー車のアクセルを踏むッ……しかし―――――。
『プレム!!!!!!!!!!!何をしているのです!!!!!!!!!早く家に帰還するのです!!!!!!!!!!!』
シルバーの背後から女性的とも男性的とも取れる神秘的な声が聞こえる。
その声の主、両性器を有した中性的な姿をしていて、内側から光り輝いていた。その姿は―――まさしく。
「ゴ……【ゴッド<神>】!?何があったというんだ!」
それは、かつてシルバーに運命を授けた【神】。右堂院には見えていないようだが…
「グランさん……?ど、どうしたんですか……!!」
『プレム……持ち運ぶと他人に見られる危険性があると思って【D・D・F】を家に置いてきたでしょう…―――――それはマズイ選択だった!今!――――家のあなたの部屋にある【D・D・F】を何者かが狙っている!!!』
「なんですって……!!」
◆探偵名鑑◆ #1
夢 天耀
新潟のご当地最強探偵で、新潟探偵の最高階級「夢天耀」に唯一属する男。
自宅での激しい激闘の末、シルバーに敗れたが、強力なカースアーツ使いでもあったとされる。