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ディープ・デッド・フィラー  作者: とくめいきぼう
第六章 ストーン・トラベルは終わりを告げる
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第69話 ファブル・ラストバトル①

 かつての殺した宿敵の子と対面した百賭が正気を失い、錯乱する。


「シルバーさん!私はね―――ずっと、ずっとずっと、

 道徳の教科書に書かれている言葉や、法律や偉い人の言葉が――――

 何よりも正しいものだと教育されてきたんです!

 でも――――違った!」


 元々は心の弱く、善性の強い人間。

 罪悪感を前に彼女にした冷静さを保つ精神力は無い。

 全てをエンゲル任せにし、成長を怠ったものの末路だ


「10年前のあの日――あの時――――

 悪と断じた貴方の両親を殺し、私は酷く後悔しました!

 今まで真実だと信じてきたものはまやかし!

 所詮多数派が生んだまやかしだった!!

 それこそが【グローバル化】による弊害!!!

 だから私はエンゲルを作り―――【D・D・F】を回収し――――

 個人個人の正義―――

 パーソナリティこそが最も尊重される世界を創ろうとしたの!!

 エンゲルは計算より多少暴走してしまいましたが…

 それでもまだ私の計画の範疇からは外れてはいない。」


 もはや何を言っているかもわからない、狂人の戯言。

 だがそれこそが出自から他人に利用され続けてきた彼女の結論である。

 10年分の感情が溢れ出し、洪水のように自分の過去を曝け出す。



「―――」


 だが対するシーフ・シルバーも、自分の親を殺した相手に興味があった。

 百賭の話を清聴せずにはいられなかった。

 しかし、その瞬間、百賭の全身が、一瞬だけ影に隠れる。

 そして瞬きもしない間に、百賭の体を紫色の『蟻』がつつんでいた。


「む、睦月―――!」

「シルバー!!優先順位を考えろ!!

 エクサタ君は今ゴールドと戦ってるんだぞ!」

「――――!でも……!!」


 しびれを切らした睦月が傘を投げて百賭に影をかぶせたのだ。

 それは二人を敵に回してもおかしくないとても危険な行為である。

 だがエクサタのために睦月は勇気を出さずにはいられなかった。


「百賭は瀕死!もう戦えはしない。

 そして【ダーク・ウォーカー】を全身に纏わせた!!

 頸動脈はいつでも切れる!!さぁ、決断してくれ、シルバー!」

「……そうだな…」


 だがシルバーが正気を取り戻す。

 目つきが鋭くなり、百賭から離れようとする。

 百賭にも、攻撃意思は無いようだ。


「所持している【D・D・F】の数は?」


 カランカラン!!!

 百賭がスカートを広げる。

 中から、4つの黒い宝石が落ちる。

 これは元々はゴールドが持っていたもの。

 ゴールドの使役する【悪魔】によって体を交換された際、意図せず百賭の手に渡る形となった【D・D・F】だ。

 百賭は涙目になりながら、シルバーの顔を見上げる。


「どうぞ………ゴッフォーン・グランとの3500年の因縁に決着を…」


「…睦月、怪しい動きをしたら、問答無用で奴の頸動脈を噛み切れ。行くぞ。(ゴッフォーンって誰だよ…?)」


 シルバーが前かがみになり、【D・D・F】をせっせと拾い上げていく。


「フフ、シルバー…あなたは弱くはありません。

 そこの睦月さんの口から、エクサタさんの名前が出た途端―――

 目つき、変わりましたね。

 あの時と、同じだ――――

 エンゲルと戦ってた時に見せた――――あの、目つき……」


////////////////////////////////////////////////////


「あと少し……あと少しなんだ―――」

「馬鹿な、まだ生きている―――なんだお前は……

 今のお前は、誰だ?誰の動きを模倣している――?誰に敬意を払っている?」


////////////////////////////////////////////////////


「……この目つき…やっぱり、貴方は…………」


「―――――――行くぞ!エクサタがやられる前にアイツと合流するんだ!!」



だが瞬時、

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 突然のゴウオンに二人がビビる――――!


「何の音!?」


「……」


 百賭の表情が憎しみと殺意に満ちた表情に変わっていく。


「ゴールド…最後の奥の手を出したか……!」

「奥の手!?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

最後の日―――PM2:30、ガラスの散らばる商店街。


 エクサタは、また無傷になった。

 無限に再生するこの体を以て。

 アメジスト・イーグルはもういない。

 残りは洗脳兵の司令塔であるエンペラー・ゴールドただ一人。

 だが彼女もまたアメジストがエクサタと戦っている間に体を回復させていた。


 互いに相対し、対峙る。

 二人には冷静さがあり、勝算がある。


「あらあら、アメジスト単体では不足だったかな?」


 ゴールドが舌なめずりをする。

 狼狽えていない。

 やはりアメジストはただの時間稼ぎの駒だったらしい。


 何の合図もなく、少数の洗脳兵たちがゴールドの周りに集結してきた。

 6人?

 少なすぎる。

 10000も自在に操れる『能力』で、なぜその程度の数だけ集めた。

 不気味すぎる。


「来ないなら、こちらから向かわせるよ。全部で6体。殺せるかな?」


 嘘だ。エクサタは思った。

 何か奥の手がある筈だ。

 おそるべし敵である。

 だが向かう敵は倒すしかない。


 【センチビート】。

 衝撃エネルギーを集め、攻撃に備える。


「前からくるよ?」


 バン!という大きな音が鳴った。

 同時に洗脳兵の攻撃が始まる直前、脚に熱い衝撃が走った。

 やはり嘘だった。後ろからだった。

 銃弾による攻撃。


「グウ……!!!!」

「じゃじゃーん♪」


 油断した。

 物陰に隠れる、複数の警官。その洗脳兵。

 

「日本において、銃持ちは貴重だから…いざというときに使う。」

 警官は、銃規制の強い日本において銃の使用を許可される数少ない例外。

 ゴールドはそんな彼らを自分の親衛隊として忍ばせていたのだ。


「銃はハンドガン・ニューナンブM60!

 新中央工業によって開発・製造された国産リボルバー。

 日本警官の標準装備にして小型のハンドガンだ!

 全長172mm重量0.665kg装填数は5発。」


 6体の武器無し洗脳兵。

 10体の警官洗脳兵。

 構える。

 気を付けろ。

 しかしどうすればいいのか。

 問題は距離だ。

 銃弾で距離を取って攻撃されたら、【センチビート】による反撃は出来ない。


 そして【センチビート】には、単発ならともかく複数の銃弾をすべて叩き落とすほどの精密性は無い。

 エクサタは銃弾の威力を防げる遮断物を探した。

 だが、それも難しい。

 横脇にある店に入れば、それも見つかるのだろうが、生憎現在エクサタは通路のド真ん中―――

 この距離では走って店に入るより、警官の銃弾で蜂の巣にされる方が早い。


 ガチャリ………

 洗脳兵達が銃を構えトリガーに指を通す。反射的にエクサタは右方向に走り抜けようとするが―――――――


「そんなに警戒しないで、君は弱すぎるし銃弾は使わないで上げる。」

「ほ、本当か…?」


 バン!!!!

 また嘘だった。

 まず両足を三発の銃弾が貫通し、脚を動かす事が出来なくなってしまう。


「ウ…!!!」

「あははははっ♪お兄ちゃん情けなーい♪」


 間髪を入れず他の警官たちもエクサタに対し銃を向ける。

 ここでゴルフクラブを持った洗脳兵も現れた。

 頭を潰す気だ!

 ゴールドが笑っている!

 このままではやられてしまう―――――――――


「死んじゃえ。」


 エクサタは【センチビート】を地面に忍ばせ、それで自らの体を打ちあげて近くの書店に入り込んだ。

 痛みを抑えながら這いつくばって店内を駆け巡り、中の棚や段ボールなどを盾にする。


「ハァ………ハァ………」


 敵の気配はない。

 ゴールドも書店から出るところを狙って悠長に待っているようだ。

 彼女にとってエクサタの生死などどうでもいいという態度が見受けられた。

 程なくしてエクサタの脚が回復する。

 ポケットから砂の入った瓶を取りだし、地面にばら撒きはじめる。

 そしてそれを何度も踏みつけた後、手ですくって強く握りしめる。


 下水道で見せた【センチビート・レギオン】の準備だ。

 ※砂の粒それぞれにセンチビートの衝撃弾を忍ばせ、別の衝撃弾でそれを吹き飛ばし、吹き飛ばした砂からまた衝撃弾を放つ応用技。


「お兄ちゃん、まだ~?」


 勝負だ、ゴールド!

 ―――エクサタが足で思い切り地を蹴り、【センチビート】の衝撃エネルギーを生成する。

 そしてそのエネルギーを地面から這わせ、警官の真下に回り込ませる。

 そして発射、10人の警官の内――――4人を気絶させる。


 ゴールドが警官に気を取られたその一瞬の隙に、エクサタが衝撃弾で飛び、ゴールドの背後を陣取る。

 細い首に腕を回し、ゴールドの体を警官たちの方に向ける。


しかし、ゴールドがエクサタのみぞおちに強烈なひじ打ちをかます。


「ドア!!!!!!!!!!

 (何だこのひじ打ちの威力は――――腹が痛いぞ――――!!!)」


 痛みのあまりゴールドから腕を放す。

 百賭の体はサイボーグ。

 身体能力に差がありすぎる!


「ハァ……ハァ………【カース・アーツ】だけでも恐ろしく厄介なのに…

 クソ…契約者までも強いとは……」


「"知識"は選択肢。"知能"は選択肢を選ぶ判断力♪

 百賭や三羅偵に知能の力で及ばないと事前に悟っていたボクは

 この世すべての知識を身に着け、その知能を使い今日の日の為にあらゆる

 準備を施してきた。」


「【センチビート・レギオン】!!!!」


 エクサタが全ての衝撃エネルギーを右手の砂の中に集中させ、手の平を広げ攻撃を発動する!!!

 蛇のように自在に動く衝撃波は複雑な動きでゴールドの背後に周り、背中からゴールドの首を貫き落とそうとした!!!


「お前たちが救いを求め、希望を育む行為事態が、ゴッフォーン様の怒りを買う事に…

 なんで気づかないの!?」


 ドンゴン!!!ゴールドが後ろ蹴りでセンチビート・レギオンの衝撃波をゴッ飛ばす!!!


「は…?」



--------------------------------------------------------------------------

[図解]

  ※ 〇の棒人間=エクサタ

  ※ ●の棒人間=ゴールド

  ※ 砂=センチビートで衝撃エネルギーを纏わせた砂。

  ※ →=センチビートの衝撃波


            砂→→→→砂→→→砂→→→砂→→→砂

             ↑                 ↓

             ↑         ↑       ↓

   ○        ↑      ヽ●丿↑      ↓

    | ̄→→→砂→→→砂        \∧←←砂←←←砂

  / >                  /

--------------------------------------------------------------------------


「クソ――!!!これでも駄目なのか………」


「フフフ……正直君如きがアメジストを殺した時はビビビッっとしたよ。

 でもやっぱり確信した。僕一人で十分だ♪」


 エクサタが腰からレイピアを取りだそうとする――――しかし!!!


 ズパパパパパパ!!!!


 レイピアを取り出す前にエクサタ撃たれまくる!!!!


「ヌアアアアアアアアアアアヌアアアアアア!!!!!!」


 ドサッ!!!

 顔面を数発撃たれ、地面に落ちた【木の板】を蹴り上げ、仰向けに倒れてしまう!!!


「銃を持ったしもべはまだいるんだよ!?

 だけどあと残弾は3発か――――

 ……そして、アレが来る前に君を殺すつもりだったケドォ…」

「ヌアアアアアアアアア………!!!!」


「まぁいい。予定とは常に狂うもの。

 そして――――これで【D・D・F】を一つ確保できた――――

 ゴッフォーン様、誉めて!」

「ヌあア…!!!!」


 洗脳兵たちが――――エクサタの喉、耳、目、心臓目掛け銃弾を連発―――


「フハハハハハハ!!!アハハハハハ!!!!!!!!!

 ゴッフォーン様!!!!!!私が!!!!私が勝ったのですよ!!!!!!」



 ヒュッ―――――――――――――――――――――


 ゴォン!!!!!!!!!


 ゴールドの後頭部を、光の閃光が打ち抜く!!!!


「ぐぇッ………!?」


 【木の板】――先ほどエクサタが上空に蹴り上げた木の板から閃光が放たれた――――


「計画通り、そして計算通り……やはりお前の集中力はかなり下がっていた。

 俺のアホのような奇声を聞いたお前は、勝利に酔いしれ正気を完全に失っていた。

 そして―――――――」


 エクサタが先ほど仰向けに倒れた時に作ったエネルギーの塊で自分の体を起こし、レイピアを引き抜いてゴールドの顔面目掛け投擲する!

 狙い通りゴールドは頭を貫かれ、それと同時に周りの警官たちが意識を失って倒れていく。

 エクサタも、疲労で倒れる。


「本来なら、俺はお前に敵う事など無かった………御前が手負いでなければ、

 俺は一瞬のうちに負けていただろう、天の導きに感謝だな………

 ニーズ…エクスさん…アルギュロス様……俺…やったよ………」


 エクサタが勝利の余韻に浸る。復讐相手をズタズタに出来た喜び、自分よりはるか格上の敵を仕留めた喜び――――

 その二つの余韻に、エクサタは酔いしれた。

 しかし、その勝利もつかの間――――

 エクサタはある一つの異常に気付く。


「空が――――まだ赤い――――弯曲十字はまだ消えていない――――!?」


 瞬間――――――――――――――


 パリィィィィィン!!!!!!!!!

 商店街の天井が砕け、触手状の肉の塊が落ちてくる。(太さは象の胴並だ。)


「!?な、なんだこれは――――!?」


 触手状の肉の塊は、暫く止まっていたが、ゴールドの体が動くと同時に動作を始める。

 ゴールドを肉の中に取り込み、引き上がる様に商店街の天井から姿を消した――――


「まさか洗脳兵が異常に少なかったのは!!」


Voooooooooooooooooo…………


 エクサタが嫌な予感を胸に抱き、這いずりながら【センチビート】を発動。

 衝撃弾で飛びながら商店街から脱出。

 そして上を見上げ、敵の正体を確認する。

 ――――触手はその"巨体"の一部分にすぎなかった。

 肉に見える部分は、よく見ると、複数の人間が絡み合っているだけだった。

 それは、全長400mにも達しているだろう蛇状の肉と骨の塊。


VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!


 弯曲十字を背に、赤く煌めく巨大な合体人間。

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