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ディープ・デッド・フィラー  作者: とくめいきぼう
第六章 ストーン・トラベルは終わりを告げる
69/75

第68話 湾曲十字の聖歌隊⑦-策謀の中で

―――PM2:27

 ガラスの散らばる商店街、

 エメラルド・スペードの交戦地点から、北西約1km。


「フフ―――」


 エクサタが立ち上がり、ダッシュ。

 敵の頭であるアメジスト・イーグルに向かって。

 そしてゴールドはその光景を見ながら。

 笑う。

 嘲笑う。

 嘲笑する。

 翼を捥がれ地に落ちた鷲を上から見下すかのごとく。

 大物ぶり、笑っていた。


「自我を持つのは危険ダ。

 特に友情と言う自我は毒の危険さ。

 自分の状況を客観的に観なって♪

 逃げれば生き残れたのに?生きても何も為せないのに?

 君はどうしてここにいるんだい?」


 合理主義。

 先祖の願いを叶える道具であるが故の機械のような思考。

 愛。

 情。

 倫理。

 その全てが、この女には無い。

 そんな彼女の眼に映る復讐に燃える男。

 それは情と言う名の糸に手足を動かされる滑稽な人形。ピエロ。


「あのビルの中で君をちゃんと殺してやるべきだった。」


 これは哀れみではない。

 挑発だ。

 ドライでドス黒い言葉。打算。


 当然、エクサタは少々気分を害する。

 だが、彼はもう何も言わない。

 今此処で逆上して奴に飛びかかれば、自分はきっと2人の能力にハメられ、ハチの巣になるだろう。


 ゴールドは強者。

 見立てでは、レンガ・ウーマンには及ばないが、本来ならば自分では勝てない相手。

 シルバーが言っていた言葉を思い出す。

 「たとえ悪でも強者には敬意を払え。」

 ロンカロンカやレンガ・ウーマンに苦しめられた女だからこそ出た言葉。

 レベルの違う相手には復讐は出来ない。

 勝つことだけを考えろ。

 エクサタは距離を保つ。


 アメジスト・イーグルとエクサタの距離――20m。


 ここでエクサタが腕を胸に思いきりぶつける。

 先ほど【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】でガラスの散弾を受けた腕だ。

 腕に刺さった無数のガラスの破片は胸を串刺しにし、無数の傷跡を作った。


「行くぞ……ニーズエルッ!!」


 その言葉の矛先にいるのは、ゴールドではなく、アメジスト・イーグル。

 エクサタは、あらゆる感情をこめて吼えていた。

 ゴールド、今貴様が立つる王の玉座は、断崖絶壁の前にある玉座!


『クハハ………!

 分かっているぞ怪盗よ!!

 お前は先ほどの空白の数分間の話を聞き皇帝のIQが低下していると思うておるだろう!

 だからこの我から仕留めようと決めたのだろう!』


「………」


 ガラスの散弾はあえて受けた。

 エクサタの【センチビート】は、『一度の衝撃』につき『一つのエネルギー弾』が作れる。

 壁を三回蹴れば、3つのエネルギー弾を生成できる。

 先ほど胸に刺したガラスの破片は、無数のエネルギー団を作るための布石。


 エクサタの傷が自己再生し、金色に光り出す。

 アメジストもその行為を興味深く観察している。


(一度に複数の傷を付ける事が出来るから、

 一度の動きで複数のエネルギー弾が作れる。

 エネルギー弾が切れても直ぐに補充できるようになる。)


 全方位から攻撃されても対応できるよう衝撃エネルギーの塊を体中に張り巡らせ、アメジストとの距離を詰める。


『少しが頭が回るようだな。』

 浮遊するアメジストがエクサタから逃げるように動きながらそう言う。

 辺りからガラスが割れるような雑音が聞こえる。

 【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】の能力で彼が通過したルートに落ちていた無数のガラスの破片が浮き始めたのだ。

 物体にベクトルを与え、飛ばす、この能力で。


 ほどなくして無機物の弾幕がエクサタを襲う。

 エクサタも【センチビート】の衝撃エネルギー波を放ち弾幕を撃ち落とす。

 しかし【センチビート】のエネルギー弾の最大弾数は30。

 【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】の弾数およそ1000。

 一撃一撃は【センチビート】のエネルギー波の方が強力としても物量差がある。


 勝てない。

 ゴールドどころか、射将アメジスト・イーグル相手ですら、エクサタは及ばない。

 だが近くの場所からエクサタを見張る影。


――――――――――――


「あの【男】が…?」

 乱渦院 虐奈。

 ロンカロンカの妹が、この戦いを見張っていた。

 あの【男】というのはエクサタの事だろう。


「イタリア製の再生する【改造人間<サイボーグ>】。

 予定とは違いますが、こんなところにいたなんて…。」


 【女帝の影<エンプレス・シャドウ>】。

 傷を操る能力を使って、エクサタの肉片を自身の足元へと取り寄せる。

 そしてそれを足で踏みながら。


「あのエクサタという男、確か、子供のころに脱走したと聞くけど…

 それならば相当な実力を隠している筈だ。ここは任せてもいいですね。

 【姉】の機嫌を取る品も得たことだし…」


 脱走したというのは、イタリアの裏組織【アヴァンティ】の事。

 乱渦院虐奈は何かを知っていた。

 だがもはや決着を見る必要が無いと言わんばかりにその場を去る。

 エクサタの肉片を袋詰めにして。


――――――――――――


 【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】の弾幕を受け続ける中で、エクサタの脳はさらに活性化していた。

 疲労が無い不死身の体のため、IQは下がらず、むしろアドレナリンの分泌によって上がる一方であった。

 これが改造人間エクサタの強みである。


 彼の活性化した脳は、一つの策を生み出す!!


 【センチビート】の衝撃エネルギーは、本体が物体に与えた衝撃の強さに依存する。

 弾丸の衝撃をあえて受け、その衝撃の勢いで体を地面にたたきつければ、今まで以上に強力なエネルギー弾を作る事が出来る!!


(【センチビート】!)


 さらに衝撃エネルギーを発射し、弾丸をあらかた打ち落とす!!!

 残り100発だ!!!


 だが【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】は撃ち落されたガラスの破片を再度自分の使役下に置く。

 弾丸は消滅しない限り無限であり、尽きない。

 撃ち落された破片がエクサタを囲み360度から串刺しにする。

 エクサタは身動きが取れなくなった。


 一方でゴールドは、全てをアメジストに任せ、休憩をしている。

 思ったより疲労とダメージが大きく、体も慣れていない。

 彼女には休養が必要だった。

 願いを叶える役は自分だから自分さえ生きればいい。

 それが彼女の考えである。

 アメジストはその時間稼ぎ役だ。


『頭を吹き飛ばす。』

 アメジスト・イーグルの冷静な言葉。

 百発の弾丸を一転集中させ、狙いを定めた。

 【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】、最大威力の攻撃が、エクサタの命を狙う。


「終わったね、お兄ちゃん♪」

 ゴールドがそういった、そう言った直後。


(………今だ!!!)


 瞬時―――――――――――ゴウオン!!!!!!!!!!!

 近くのマンホールが下から何かに吹き飛ばされ、3mほど吹っ飛ぶ―――!!

 下水道にいた時、【センチビート】の衝撃エネルギーを密かに走らせていたのだ!!!


「百賭か!?」


 エクサタがふっとんだマンホールの方向を指さし、そう叫ぶ。

 しかし誰もいない!!彼は嘘を叫んだ!


「!?」


 百賭に対し異様に恐怖心を抱いていたアメジストとゴールドはその言葉に反応、背後にあるマンホールのある方を振り向いてしまう。


『しま―――――――』


 タッッッッッッッ!!!!!

 エクサタが再生し、踏み込む!


「遅い!!俺はすでに【センチビート】の力を利用してジャンプしている!!!」


 気を取り直したアメジスト・イーグルが残りの弾丸を放ってくる!!

 しかし着弾前にエクサタはそれを蹴り上げ、踏みつぶす!!!


「オオオオオオオオオオオおおッッッ」

『何――――――!

 (こ、コイツ……馬鹿な……戦闘経験が豊富だ……!!

  戦闘能力、怪盗の中では――――)』


 アメジストを踏みつぶすエクサタの足の裏と地面が黄色く光る、

 そして瞬時―――それは爆裂した。


『!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛』


新アトランティス帝国

射将アメジスト・イーグル―――――――――――――爆散。


 ゴールド最後の部下の末路は、非情にあっけの無いモノであった。

 だがゴールドは、冷静に、その状況を見据えている。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 アメジストは死に、何かエクサタとゴールドの一騎打ちが始まらんとしていた。

 だが時を同じくして、別の場所でもこの長きにわたる戦いの運命を大きく変える出来事があった。


「―――――!!!本当に………コイツが…………」

 シルバーと一緒にいた睦月がそういった。


 それは、最期の日―――PM2:28

 エクサタを追う少女二人の前に立ちはだかったそれは、道端にあおむけに倒れ呻き声を上げる一人の子供。

 外見は…プラチナ色のゴールドといったところ。

 

 そして睦月とシルバーの二人は、その正体を紛れも無く知っていた。

 その正体を知っていたからこそ、二人は大きな精神の動揺を見せていた。


「う………あ……あ……ゲホッ………」


 気持ち悪いほどに、自身と似つかわしい外見を持つその少女に、シルバーはたじろぐ。


「―――!!あ、貴方達は……」


 プラチナのゴールドが、二人の存在に気づき、上半身だけ身を起こす。

 そう、彼女は、ゴールドの外見をした、夜調牙百賭。


「………シルバー………さん…ですか……?」


「動くな…!」


 シルバーが警戒をして銃を構える。

 狙いを定めるは、百賭の真上。

 時を操る【デティクティブ・マスター】の円盤は出現時に百賭の体から50㎝上あたりに出る。

 円盤を出現させられても即座に弾き飛ばせるようにするため、その虚空に狙いを定めている。


「お前が百賭である事は知っている。ゴールドと体を取り換えた事もな……

 しかし腑に落ちないことがある―――何故おまえがここで倒れているッ…!

 その傷はなんだ――――」


「ゴールドは、私と体を取り換える瞬間、自分の体に大きな傷をつけた。

 だから私も、今はまともに動く事が出来なくなってるの。」


「……―――――ッ!!!」


 シルバーが何かに気付いたかのように大きく目を開ける。

 百賭の会話の内容に反応したのではない、もっと重要かつ、運命的な何かに気付いたのだ。

 エンゲルとは違う。

 声が違う。

 しぐさも違う。

 つまりこの女は。

 彼女は距離を詰めるように、肩を小さく竦めながら無言で歩いていく。

 

 危険だ。

 睦月がふとそう思った。

 シルバーに歩み寄り肩を掴む。

 しかしそれは逆効果だった。

 彼女を制止させようと手に力を入れた瞬間、彼女は胸を大きく突き飛ばされ尻もちをつく。

 一瞬何が起こったのかわからなかった。

 だから、シルバーの後姿を再度心を読むように凝視した。

 直に先の行為が、非常に愚かなものだと悟る。

 睦月の目に映ったシルバーの後姿に、怒りの感情が渦巻いた鬼の形が重なった。


「"同じ"ね……完全に"同じ"だ――――

 10年前、"あのニュース"で見た、アンタの口調と表情と――――」

 シルバーがそういう。

 睦月は、"もう一つの事実"に感づきはじめていた。


「…はじめまして、かな。」

「漸く出てきたわね。」


 それは、百賭の"喋り"の変化。

 テレビや、廃デパートで聞いたときのようなものとは違う。

 荒々しく、闘気を感じさせるようなものでは無い。

 どこか優しく透き通るような印象があった。


「私は、貴方の両親を殺してしまいました。」


 そう、彼女はもはやエンゲルではない。

 エンゲルの影に隠れ、ひっそりと生きていたもう一つの人格…

 ―――【真の夜調牙百賭】。

 エクスの過去回想に出てきたような、優しい百賭。


 シルバーと百賭。

 二人が―――目を合わせる。


「あはは…ごめんなさい!!」


 タッ………バシィン!!!

 シルバーが仰向けに倒れた百賭に駈け寄り、頬にリボルバーによる強烈なビンタをかました。

 アトランティスの本気パワーで放たれるビンタの威力は凄まじく

 百賭は血を吐きながら、先ほどの謝罪の重みを再実感した。


「うあっ……」


 シルバーが百賭の肩を強く掴む。


「反吐が出るわ…!本気で申し訳ないと思ってるなら……!

 なんで今まで死ななかった…!!反省してるなら自殺しろ!!」


「ハ……ハハハ……………」


 手の震えが止まらない。

 心臓の高鳴りが止まらない。

 復讐の対象を目の前に、彼女は感情を抑えきることが出来なかった。


「ハァッ……ハァッ……」


 息を整え、その場に座り込み、百賭と対面する。


「どうして、今更になって百賭に………?

 私を怒らせるため―――?」


「違う……

 "エンゲル"がピンチになったから、"私"を無理やり呼び起こしたの――――」


「………」


 プラチナ色のゴールドの体が、ニュースで見た子供時代の百賭の姿と被る。


「精神力の高さでは、エンゲルの方が上だけど……

 戦闘センスは、10年経った今でも、私の方が勝っていたから―――」


 夜調牙百賭。

 それは探偵協会の完璧なる探偵を生み出す計画の過程により遺伝子操作によって生み出されたバイオロイド。

 試作の天才だった。

 だが彼女には生まれつき精神力が弱いという致命的障害があった。

 だから、研究者たちからも失敗作と見なされてしまっていたが…


 心が弱くとも、彼女の精神には圧倒的な戦闘センスが染み込まれていた。

 9歳のころに既に350ものIQ値を計測されていた。

 精神の弱さを除けば、【カースアーツ使い】としては世界最強クラスとも。

 事実、10年前、彼女は怪盗組織ウィザーズ最強格と噂されていたシルバーの両親プラズマス・グランとサリス・グランとの戦いを無傷で制したという記録さえもある。


 対しエンゲルは、デュアルを作り出すためにつくられた人格。

 “人間“の人格を増幅させる試作装置で創造された、人工の人格。

 装置の設定により、最強の精神は宿していたが戦闘のセンス自体は普通の人間並のものであった。

 エンゲルではロンカロンカやレンガ・ウーマンには一歩及ばない。


「―――つまり、エンゲルが勝てない相手が現れた時のみ、

 お前の人格が呼び出されることになっていたと――――――」

「…精神力の最も強い人格が、人格選別の主導権を得る。

 それが多重人格の基本的なルール。

 だから、彼女の許可が無ければ私は表に出る事が出来なかった。」


 精神力の【エンゲル】。

 戦闘能力の【百賭】。

 その二つの精神は、肩を甘噛みしあうに、互いの利点を利用し合っていた。

 百賭は殻に籠るため、エンゲルの内側に。

 エンゲルは戦いの為に、この百賭の内側に。


「だけどエンゲルの人格は不敗の戦績を持つが故に肉体の損傷に慣れていない。

 だから今、彼女の精神はとても不安定になっている。」


「――本当に、弱いのね、あなた………」

 だが同情は無い。

 シルバーが銃を構える。


「だが、お前がエンゲルを産んでしまったせいで――――

 あのエンゲルが掲げる【絶対正義】のせいで―――」


「フフ………あは………あははははははは!!!!」


「何がおかしい!」


「エンゲルが掲げる絶対正義の夢――――

 アレはね……もとはと言えば、この私が望んだ世界なんですよ。

 シルバーさん。」


 相対する運命の敵同士。

 睦月はその二人の会話に入れずにいた。

 エクサタがピンチなのに、声も出せない。


 一触即発の空気が、そこにはあった。

◆その他人物名鑑◆ #5

アメジスト・イーグル


本名――――――不明

人種――――――不明

二つ名―――――隠将

年齢――――――?

所属――――――新アトランティス帝国


新アトランティス帝国のメンバーの1人で第五の四大天刃ともいえる存在。

その正体は契約者が死亡したのにも関わらず自立して動く渡り経験アリの装備型カース・アーツで、新アトランティス王の命令でのみ動く。


第五の四大天刃と言っても所詮はネックレス並みの耐久力しかなく、単体での戦闘能力は低い。


【カース・アーツ】は【装備型】の【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】

 紫色の装飾を付けたネックレス。

 契約者が死亡しても消えず、媒体となったアメジスト・イーグルの精神の意志のままに動く。

 10数m内の物質にベクトルを与え、弾丸として飛ばすことが出来る。

 攻撃は、弾丸の数が少なければ少ないほど精密性と射程が上がり、弾丸が一つだけの場合は数百mからの変則軌道狙撃が可能。

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