第66話 湾曲十字の聖歌隊⑤-ゴールドVSエクサタ
―――PM2:24 無人の商店街
「つまり…ゴールドと百賭が…入れ替わった…!?」
エクサタはそう理解した。
目の前の百賭は、ゴールドの魂が入った百賭の体。
そして、ゴールドの体をした百賭も、今どこかにいる。
この敵のいう事を信用するのなら、そういう事なのだろう。
「だが、解せない。」
「なんで?」
「なぜ俺に、その時の出来事を素直に話した。」
「察している通り作戦だよ~♪あはははっ!!」
黒百賭が馬鹿にしたような下品な笑いを放つパンツ。
「時間稼ぎ?それもあるけど…僕には最後の力があるからね♪
電話しなよ、シルバーと。
今のお話の事、教える時間はくれてやる。」
「………(何を考えている、この女は…?)」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――PM2:26 血まみれの歩道。(シルバーSIDE)
ロルからの通話が来なくて、数秒間、呆然としていた。しかし、すぐに意識を取り戻し
…携帯端末の通話を冷静に切った。
「…睦月。【ダーク・ウォーカー】を使って、エメラルド・スペードが本当に死んでいるか、確かめられる?」
「う、うん、やってみる。」
睦月に、死体の確認をさせる。しかし――――
「死んでいる。脈拍も無いし、呼吸もしていない。完全に死んでいる……」
「―――……」
「内臓を引きずり出すか?」
「………そこまではしなくていいわ。」
……頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。
何が正しくて、何が嘘なんだ。
「―――あれ。」
「如何した睦月?」
「ロルさんのザ・レーダーが無い……蟻の顎で挟ませていたはずなんだけど。」
「―――!!」
――――わからない。でも、心臓は高鳴って、息は苦しくて……
死んだ……?
死んだ……
死んだのか……そうか……
7年間一緒に戦ってきた、ロルが、死んだ――――
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「これで本当のお別れだ。お前と出会てよかった。ありがとよ。
色々と楽しかった―――」
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確かに、楽しかった……御前との7年……
でも、それを肯定してしまっていいのか。
私とお前は、決して相容れない水と油。
「シルバー、あの……」
「睦月、ロルが死んだんだ。」
「……そう、なんだ。」
睦月も会話の内容を聞いて、なんとなく内容察せているようだ。
「ロルが死んだ……でも、私にあいつのために悲しむ資格なんて…。」
逃げるように、睦月に答えを求める。
「―――私は、誰が誰の為に泣いていいかなんて、
運命にだって決められるものじゃないと思うよ。
だから、シルバーの勝手だと思うぞ。」
「そうか―――じゃあ、悲しむことにするよ。」
…心の中で、静かに感謝をする。
「私は本当に心が弱いな。まだ戦火の中なのに。」
「――――そうかな?
シルバーは、誰よりも人を思う気持ちが強いだけなんだと思うよ。」
「……そうかな。」
「そうだと思う。シルバーはさ、自分の事を心が弱い奴だって自虐するけど。
私にとってはその背中は大きすぎるぐらいだよ。」
「――――………」
銃に弾丸を込める。6発の弾丸だ。そしてそれを華麗に内側のポケットにしまっておく。
そして、前を見据え、私たちは先に進む。
私にはもうそれしかないのだから…
「―――――――――――行くぞ。」
ロルを失ったの悲しみと、ロルと戦ってきた思い出を胸の奥に押しこんで、私は更なる地獄に進む……
更なる、地獄へ――――――――――――――
PLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!!
睦月の携帯端末が鳴り響く。
「睦月、誰からだ。」
「エ、エクサタ君から。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
同時刻―商店街、エクサタと黒百賭。
地面には、ガラスの破片や人間のバラバラ死体が無数に落ちている。
「ああ、そうだ、それが、あの空白の数分の間に起きた出来事―――――。」
シルバー殿では無く睦月殿に電話したのは、彼女の方が自分の心を詳細に読み取れるからだ。
自分はこの女が話していた空白の数分間の出来事を、簡潔かつ、的確に伝えた。
「何処まで信頼するかは、あくまで二人の判断に任せる。では、切る。」
PI!
「フフ……素直にメッセンジャーになってくれるなんて。
これがどういう事かわかっているよねぇ…?」
「…?」
「ボクは百賭とシルバーを殺し合わせるために、今の情報を教えたんだよっ♪」
「!!!」
ゴールドの顔が変貌する。
強烈な笑みで自分を深く見下しやがる。
ゲスなる笑いで。
「フフ!ボクは君の愛する愛する彼女を殺しちゃったからねー!どうする?殺す?」
「邪悪極まりない存在。生かしておくわけが、無いだろう。」
ニーズエルのことは、まだ深く心の傷として残っていた。
「へぇ~奇遇だね~!ボクもキミは用済みだと思っているんだ~
メッセンジャーとしての役割を果たしてくれた君にもう利用価値は無いの♪
それに僕が邪悪だって?
フフ!ボクの存在と言うのはそんな善悪と言う安っぽい指標で計れる程単純ではないよ!
僕は新アトランティスの王にして邪神の命令実行者!
善も悪も関係なく、ただ運命線から降ってきた命令を脳で読み取り遂行する、
この世で最も優れた『目的達成の手段』!!」
「………。」
「哀れなのは君だよ。
ボクはただ命令を実行しているだけ。
引き金を引く役を請け負っただけ。
引き金を引けと命令したのはあくまで僕ではない。
だから彼女を殺したのも僕じゃなくてボクに命令を下したゴッフォーン様なんだよ。
だから僕を恨むのは全くの筋違いなのさ。
ボクは命令実行者、誰もこのボクを、恨む事など出来ない!
きゃははははは!」
「――――――………」
哀れな女、と思った矢先。
ゴールドが俺に対して銃を向ける。
外見からして、ハンドガン"M1911カスタム"。
だがこの不死身の体にそんなものは…
「君の正体、わかってるよ?」
「!」
「第二次世界大戦後、イタリアのファシスト党の生き残りが設立したとされる【不死身】の【カースアーツ使い】だけで構成された戦闘組織『アヴァンティ』。そこで作られた実験体の"一体"だ。となると――――君の弱点は頭部の核だろ。」
正体も弱点も、あっさり見破られた。
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「が―――あっ!!!」
「あえて軽傷にスル――――あえてダ。」
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「……(あの時の傷の回復で俺の正体を暴いたのか…)」
アヴァンティ。裏世界の組織の一つ。
当時自分はごく普通の暮らしをしていた6歳の子供だった。
奴らは、そんな俺を不死身人体実験の適正があると判断して、誘拐し改造した。
その際に、奴らは俺の家族を皆殺しにした。
「ねぇ君はボクに勝てると思ってる?」
どうする…
不死身のタネも知れた、たかが中級能力者一体でこの化け物と戦うというのか?
思えば俺の人生はいつも理不尽なものだった―――――――――――
だが……
「……クズめ。」
「――――」
「お前は自分の意思を持たず、只命令を実行する生ゴミ以下だ。
百賭やシルバーどころか、レンガ・ウーマンにすら劣る、最悪最無価値の、人形野郎だ。」
ゴールドが目を大きく開く。そして口を開いて言葉を発する。
「あーあー、ここは褒め「貴様への復讐を果たすために、シルバー殿や睦月殿の協力が必要だと思ったが、今貴様の薄汚れた精神を目の当たりにして、確信した。」
――――――そう、こんな奴。今まで戦ってきた相手に比べれば……
「不要だ。お前を殺すのに、彼女らの手を煩わせる必要などないと心底思った。
ゴミ掃除をしてやる。来い、虚無女。」
「…【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】♪。」
Vooooooooooooooooooooooooooooo………
VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOoooooooo………
VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!
ゴールドがあらぬ方向に三発の銃弾を放つ。三発の銃弾は直線状の軌道を外れ、自由奔放な動きでエクサタの周りを囲む。
「墓になっちゃえ♪」
「【センチビート】!!」
三発の銃弾がエクサタに向かったと同時に―――【センチビート】を地面から足裏に放ちエクサタが大ジャンプする!
それでも【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】で撃たれた銃弾は軌道を変えエクサタを追ってくる。
着地したエクサタが地面を蹴り、ゴールドに接近する。
(奴はアメジスト・イーグルの能力を、【銃弾の軌道を変える能力】だと言った。
だが、それは奴の口から発されただけの言葉であり、確証を持てる真実ではない。
この車道に散らばった、無数の人間の死体と、ガラスの破片、それらから推理するに、奴の能力は――――)
ゴールドが銃をエクサタに向けながらバックジャンプをする。引き金を引くと同時に、ゴールドのいたあたりに落ちていたガラスの破片が一斉に舞い上がる。
違うな―――あのネックレスの周りから離れた物質を、自由自在に動かす能力。
それが―――――――――【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】。
ブササササササササッッッ!!!!!!!!それは一斉にエクサタの全身に刺さった!!!
だが、ガラスの破片程度ではエクサタの改造された体には通用しない!
腰に差していたレイピアを取りだし。
地面を切り裂きながら走る。
【センチビート】の効果によって、レイピアと地面の間に、斬撃を吸収した衝撃エネルギーの塊が無数に発生する。
ゴールドも負けじと背を見せ走りながら【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】を発動し続ける。
だが奴のボディはすでに半分瀕死だ。
だが!!エクサタの背中に何か大きいものが吹っ飛んできた!!!
「な――――!?!?!?」
ドンゴン!!!
それは車だった。
AE85。ハチゴーの名で知られる1500ccSOHCエンジン「3A-U」を搭載したトヨタの車。
―――――…この状況を疑問に思ったエクサタが、ゴールドの側を見る。
そして全てを察する。
ゴールドはあの紫色のネックレス――――【アメジスト・イーグル】を所持していなかったのだ。
俺は車に潰されながらも、首を無理やり捻じ曲げて、辺りを見渡した。
右側。
浮いていた。
紫色の装飾を彩られたネックレス…【アメジスト・イーグル】はゴールドの下から離れ、浮きながら【自立行動】をとっていた。
『ほう、不屈の肉体。あの攻撃を喰らってなお、まだ立ち上がるか。』
【アメジスト・イーグル】自身から、声が放たれた。
意思を持ち、【自立行動】する【カース・アーツ】。
聞いたこともない。
「アメジスト~!【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】は必要ないよ~!」
ゴールドがそういう。
エクサタの周りには、いつの間にか20人程度の洗脳兵達が立っていた。
【湾曲十字の聖歌隊】により洗脳された兵士たち。
「生きた人間でターヘルアナトミア~!!」
「――――。」
自分の服の下から黄色い光の塊が無数に出現させる。
戦う前からすでに忍ばせていた衝撃エネルギーだ。無数の衝撃エネルギーが全身から放たれ、洗脳兵達を吹き飛ばす。
だが、それもゴールドの予測通りだったのか、建物の中から数人の洗脳兵が姿を現す。
かかととつま先だけで、仰向けの状態から立ち上がる。
ニーズエル……ニーズエル………俺に勇気をくれ……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
無数の洗脳兵と、無数の無機物の銃弾が、エクサタの周りを囲む。
―――――……僅かな、勝算を見ろ。
確かに普通なら俺如きがゴールドに勝てるはずもない。
だが今ゴールドは、元から負っていた百賭の体のダメージで、瀕死の状態だ。
それはつまり、奴の言っていたように知的能力(IQ)が大きく低下しているという事。
恐らく、今の奴自体には戦闘能力はあるまい。
頭の回転も遅いはずだ。
実際、洗脳兵たちの動きにも陰りが見え始めている。
恐らくこの戦いにおいての本当の問題はあの【クイーン・オブ・ヘルスナイパー】を使うネックレス、【アメジスト・イーグル】。
ゴールドがまともに戦えないのなら、策を練る司令塔は、ゴールドではなくこのネックレスの可能性が高い。
――――――――――――――――――――――つづく。




