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ディープ・デッド・フィラー  作者: とくめいきぼう
第六章 ストーン・トラベルは終わりを告げる
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第61話 湾曲十字の聖歌隊②-下水道戦

―――PM2:12 下水道


 『蟻』でシルバーの位置を確認した睦月とエクサタが向かって走っている。

 シルバーのいる場所はこの位置よりおよそ1㎞先。

 目標到達時間は3分から4分程度といったところ。


 走る――――二人が走る………しかし――――


 バリバリ!!!!!

 睦月の神経に高電圧が走る。


「ウッ………!!い――――痛い………さっきゴールドにやられた傷が……急に痛んで……!!

 がぁぁぁぁ!!!!」


 睦月が汗をかいて脚を止めてしまう。

 無理も無い―― 一瞬とはいえ、応急処置をしたとはいえ、指四本分の穴が腹に開いたのだ。

 常人なら色んな意味で死んでいる。

 しかし―――睦月にはこの現象は予想外の事であったようだ。


「くそっ……シ……シルバーは………

 銃の弾丸を何発撃ち込まれようと、刺されようと、腕が千切れようと……

 決してのた打ち回って痛がりはしなかったのに―――なんで私は―――!!」


 彼女にはシルバー達のようにこの程度の傷なら耐えられるという過信があった。

 エクサタが一旦の休憩を提案するが、睦月は涙を流しながら首を横に振る。


「シルバーは、最後の四天刃に抱えられて…移動している…

 このままじゃ間に合わない…」

 …やっぱり私みたいな下級怪盗じゃ―――シルバーには……

 追いつけないのか…私はいつも足手まといだ…」

「………手を貸そう。」


 エクサタが声を出して睦月を抱える。お姫様だっこだ。


「っ……エクサタ君……」


 そして走り出す………


「ゴメン……」

「…」

「―――あの、エクサタ君……」

「…?」

「キミも、【D・D・F】で、何か叶えたい願いがあるんだよね。」


 エクサタが顔を逸らす。

 そう、彼の目的は…


「ニーズエルの復活――――か?いや、違うな。キミが望んでいるのは………」


 そう、エクサタが失ったのは――――それだけではない。


「"全員"を生き返らせること。」


 隠し事が出来ないのは困る、といった顔をして、ため息をつくエクサタ。

 しかしその宣言は―――シルバーの意思には従わないという事。


 睦月は―――迷っていた。

 叶えるべきはエクサタの願いか、シルバーの願いか。

 エクサタの願いを叶えれば、悪魔の生贄になりつつあるシルバーも救われるかもしれない。

 だが、ここで睦月は先のロルとの会話を思い出す。


-----------------------------------------------------------

『いや、こちらから会話は聞き取っていた。

 そういえば睦月の嬢ちゃん、シルバーはクラーケって悪魔に取りつかれていたと

 そう言っていたな。』

「うん、レンガ・ウーマンは確かにそう言っていた。」

『なるほど、それなら…』

-----------------------------------------------------------

『睦月、さっきの話の続きだが、実は一つだけ、シルバーの親友である

 お前に言う事がある―――――。』

-----------------------------------------------------------


「…ねぇ、エクサタ君…こんな話、信用なるかな…」

「………?」

「私たちが【ブラックタウン】にいった三日前、ロルさんも丁度そこにいて、

 シルバーが悪魔の力を手に入れてるのを目撃してたんだって……」


「……」


 エクサタが不快感を表した顔をする。

 彼はここまで無能ムーブしかしなかったロルのことを信用していない。

 しかし睦月はそのまま話を続ける。


「だから彼は、【悪魔の契約を破棄にする方法】を今日までずっと調べていたらしい。」


「……!」


「彼は、さっきの通話で、私に【とある方法】を教えてくれた……

 でも、『得れば失う』。『失えば得る』。全ては等価交換。

 私があれをやって、シルバーが助かっても…………」


「………」


 エクサタには睦月の感情は見えなかった…

 悲しんでいるのか、喜んでいるのか。

 ふと睦月が目を見開く。

 下水道の奥に先行していた【ダーク・ウォーカー】の『蟻』が何かを発見したようだ。


「構えてエクサタ君―――そこの横の道に――――」


 そしてそれは、瞬きもしない間にやってきた。

 ドンゴ!!!!横の通路から16人ほどの洗脳兵がやってきた!!!!!!!

 下水道を渡っていることがついにゴールドに感づかれたのだ!


「【百足<センチビート>】!!」


 ズパパパパパ!!!

 エクサタが地面を蹴って【センチビート】を発動!!

 衝撃エネルギーを放ち洗脳兵を吹き飛ばす!!

 しかし――――――――――残り7人いる!


 敵の数が多く対処が間に合わなかったのだ!

 間一髪なき危機!

 ゾンビのような洗脳兵がエクサタ達に襲い掛かる!


『ガアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

「………!!エクサタ君………私を抱えたまま、能力を使ってジャンプして!!

 天井に届くぐらい!!!」

「――――!!(【センチビート】!!)」


 衝撃を跳躍力に変え、エクサタが睦月を抱えたままジャンプする!!!

 高さにして5m程のジャンプ!

 そして、睦月が天井に向かって腕を伸ばす!!!!そして握っていた手を開き―――


「【夜を歩くもの<ダーク・ウォーカー>!!】天井にぶら下がって私の体を吊り下げろッ!!!!」


 手の平に現れた無数の【ダーク・ウォーカー】が跳躍し、下水道の天井に脚を付ける!

 そして睦月の服の袖を持ち上げるように顎の力で引っ張った!

 エクサタも睦月の胴にしがみつき足を浮かす!


「――――これならアイツらの攻撃も届かない…」


 洗脳兵がジャンプしてエクサタを捕えようとするが、捕まえられず、下水の流れに巻き込まれ溺死していく。


「ゴールドの能力は、群を操る能力。

 私の【ダーク・ウォーカー】と同じだ。

 しかし群を統率し指揮すると言ったら聞こえはいいけど、指揮するのは一人の人間。

 一体一体を精密に操れるわけじゃない。

 精密な動きが出来るのは精々2体から5体、後は予め決めた単純な動きしかできないはず。」


 流れゆく洗脳兵たちを見ながら、睦月がそうつぶやいた。


「―――――でも、何か変だ、やっぱり……ゴールドのやつ……

 なにか、とても必死になっている。

 私たちが瓦礫の山に到達する空白の2分間、あの場でなにが起こったんだ…

 洗脳兵の動きが前と違って乱雑さを感じる。」


 二人はぶら下がり状態から降りようとしたが、そこで更に洗脳兵現る…

 25人。


「――――。シルバーのいる場所までは、あと少し。ならば!」


 エクサタが睦月から手を離す。

 そして、下にいる洗脳兵の顔を蹴り飛ばす。

 ついでに洗脳兵の顔が黄色に輝き、そこから衝撃波が放たれ、

 対方向にいる他の洗脳兵を吹き飛ばした。


「エ、エクサタ君!?」


「時間を稼ぐ…」


「―――!!!でも………」


 エクサタが手の平を広げ、右腕を出口の方向に伸ばす。

 その手の平は【センチビート】の力を帯び黄金色に光っている。


「む、無茶しないで!」

「…命のやり取りで…後悔だけはしてはいけない…」

「…!」 


 それは、長年尊敬していたアルギュロスやエクス、そしてニーズエルを失ったからこそ出る言葉………

 そして睦月の悲しむ顔を見たくないという思いから出る言葉。

 手のひらから――――衝撃波が放たれる。

 衝撃波が先を阻む洗脳兵を吹き飛ばしていく。

 だが衝撃波の射程範囲は精々2m程度。しかし――――――


「【センチビート・レギオン<群体>】!」


 衝撃波の先端に、黄金に光る砂粒が舞い上がっていた。そして、その砂粒から更に衝撃波が放たれる。

 そう――――

 エクサタは、【センチビート】で衝撃のエネルギーを吸収させた砂を、手の平に乗せながら、衝撃波を放ったのだ。


--------------------------------------------------------------------------

[図解]

  ※ 〇=【センチビート】で衝撃エネルギーを纏わせたエクサタの手の平

  ※ 砂=【センチビート】で衝撃エネルギーを纏わせた砂。

  ※ →=【センチビート】の衝撃波

                           →出口のある方向

 〇砂砂

 〇砂砂

 〇砂砂

 〇〇〇


                           →出口のある方向

 〇→→→→→→→→→→砂砂

 〇→→→→→→→→→→砂砂

 〇→→→→→→→→→→砂砂

 〇〇〇


③        

                           →出口のある方向

 〇→→→→→→→→→→砂→→→→→→→→→→砂

 〇→→→→→→→→→→砂→→→→→→→→→→砂

 〇→→→→→→→→→→砂→→→→→→→→→→砂

 〇〇〇


--------------------------------------------------------------------------


 つまりそういう事だ。砂から更に衝撃波、その先の砂から更に衝撃波が放たれ、出口とエクサタの間を阻む洗脳兵がすべて吹き飛ばされる。


「――――み、道が開いた!」


 ダクウォカが天井から顎を離し、睦月がエクサタのそばに落下する。


「ありがとう…」


「…」


 反対側から洗脳兵がやってくる。エクサタは彼らを相手に時間を稼ぐつもりだ。

 睦月がエクサタの顔を見る…そして、彼の手を強く握った。


「頼む、死なないでくれよ…。」

「…(コク)」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――PM2:16 血だらけの歩道。(SIDE エメラルド・スペード)


 ビルの影の脇に、黒い小型トラックが停まっている。

 荷台の上には、柱とそれにくくりつけられた眠れるシルバー。


「クソ…【D・D・F】を持つ睦月をおびき寄せたのはいいが……

 単独行動は、苦手だぜ。」


 そしてその陰で、この俺、エメラルドはカメレオンのようにひっそりと隠れている。


「俺の能力は、【ビショップ・オブ・ヘルレーダー】ただ一つ。

 【銃弾の軌道を曲げる能力】は、今『俺の手元』にはねぇ…

 色々と予定が狂っちまった……アレもコレも……全てあの『女』の……」


 自らの肩を揉みほぐし、レーダーの能力でシルバーがしっかりと寝ていることを確認する。

 すべての決着が終わりそうな今、こいつの顔を見ると、なんだか、色々な事を思い出しちまうな。

 敵同士なのによ…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 この俺、エメラルド・スペードは7年間におけるシルバーとの思い出を脳内で掘り返す…

 まずは初めて出会ったあの時…


「怪盗ロル――ですか。」

「そうだ、ロルっていう凄腕の無線サポート専門怪盗。己の正体に関する情報は一切明かさない慎重派とも聞く。」

「ありがとうございます。一回、試してみますよ。」


 そして初めて共に怪盗事業をしたあの時…


「なるほど、これはいい。ロル、お前とはいい商売相手になりそうだ。」

「だろシルバー、俺の【ザ・レーダー】よりサポートに優れた能力は存在しない。

 (よし!このまま上手い事こいつを騙し続けてやるぜ!)」

「うむ……性能も申し分ないんだが、何より、お前は絶対安全だから、

 気を遣わなくていいというのがとてもやりやすい。」

「昔、仲間の怪盗を失ったことがあって、それ以来ソロで怪盗やってんだってな。」

「ああ………なんでそんなこと知ってんだよ」

「お前の事、結構噂になってんだぜ(ずっと監視していたからな…)」


 あの時も…


「馬鹿!シルバー無茶だ!!!」

「いいや、行ける!!押しこむ!!!!」

「なんて強引な奴なんだ……精々死ぬんじゃねーぞ!!!

(チッ……なんで俺はシルバーの事をこんなに心配してんだ……――)」


 お前が死にそうな姿を…


「2時の方向!敵は【自己強化特化系】の【カースアーツ使い】だ!!」

「おおっと……流石ロル、私が聞く前に答えを出してくれるとは。」

「何度もペアを組んでんだ―――御前の事は何でもお見通しだぜ。」

「そうだな、お前とももう4年だしな―――。」


 何度も…何度も…


「くそ…ロンカロンカにやられたんだなッ…!

 ロル!なんでこの事を言わなかったんだ!?

 お前の能力なら彼らがいる事は分かってたはずだ!」

「言うと嬢ちゃんはそいつらを戦いに巻き込まないよう真っ先に助けるだろ!

 しかし助けるとロンカロンカに先手を取られる可能性が高まってしまう!!

 (ハァ……ハァ……一般人なんかどうでもいいだろ――――

  それに……もう二度と――お前の……お前の死に顔は二度と見たくない!!)」

「――――!そうだ!そうだけど……」

「―――

(でも、シルバーはロンカロンカには絶対に勝てない………

 生き残っても―――オレがお前を殺さなくちゃならない―――!!!)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺には好きな女がいる。


<シルバーの体がピクリと動く。>


 シルバーの嬢ちゃん、アンタの事だよ。ゴールド様の命で、7年前から宿敵であるアンタの事を監視してたが…

 まさか心奪われるなんてな。

 でも、駄目なんだよ。

 因果の巡りによって、俺たちは宿敵同士に生まれた存在。

 陰と陽。

 炎と氷。

 電話越しで背中を合わせることは出来ても、向かい合う事は―――出来はしない。

 

 だから――――利用して、殺すしかない。


<シルバーが目を開く。>


 でも俺は悪くない、オレが殺さなくても、どっちみち嬢ちゃんは自分の願いを叶えた時点で悪魔に食われて死ぬんだろう?

 そう、ならオレがいなくても、何も……


 俺はシルバーの頬に手を添える。


「―――目が覚めたか。」


 キスをした、虚ろな目をした顔に、軽いキスを。

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