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ディープ・デッド・フィラー  作者: とくめいきぼう
第六章 ストーン・トラベルは終わりを告げる
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第58話 地獄より残酷な真実

「シルバー、地獄に逝くぞ」

「逝かん!」


 シルバーが石のブーメランを。百賭がナイフを。

 互いの体に押し込む。


 性行為のように。それが戦い。

 この格闘戦の最後の一撃。


 くちゅりと、肉がはじける音が響き渡る。

 互いが、脚を構える。

 片腕しかないのだから、脚で戦うしかない。


「地獄に立ってみろ。」


 百賭の言葉。

 そう、脚を踏ん張れ。

 さもなくば地獄に落ちるしかない。

 付きあえ!この女にとことん付き合え!

 付き合って突き合え!!


 凶器を押し込みながら二人のキックが交差する。

 体が浮きそうになる。浮けば死ぬ。


 もう互いの出血は常人でいう致死量をすでに飛び越えている。

 死を越えた戦い。

 死人を殺すなら殺す以上に殺すしかない!


「死なぬう!」


 ブシュウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!


・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 脚を崩すのは、銀の怪盗。


「ぐっ……………!!」


 ドサッ……

 ―――――――ブーメランを掴んだまま、両膝をつく。


「あと少し……あと少しなんだ―――」

「強いな…まだ生きるか…」


 百賭が、シルバーの顔を見る。

 未来ある子供の用に奥行きと輝きのある瞳。

 それでありながら強い勇気と哀しさを感じられる顔つき。

 ロンカロンカとも、レンガ・ウーマンとも、ましてや自分ともにつかない顔つきであった。

 エンゲルにとって見覚えのない顔つきであった。


「今のお前は、誰だ?誰の動きを模倣している――?誰に敬意を払っている?」

「さぁね……」


 シルバーが無意識に模倣したのは……自身の父と母。

 プラズマス・グラン。

 失った両親のことを思い出すことで、シルバーはその意思を高めたのだ。


 白衣の天使も、体のバランスを崩し、その場に膝をつく。

 互いにもう、体が動かない。

 引き分けである。

 だが………


「面白い…この私が…ここまで苦戦するとは思わなかった。」


 百賭…いや、エンゲルがそういった。

 だが不気味だった。

 その百賭の顔は、どこか笑みにあふれていた。

 邪悪な笑みに。


「完敗だよ…エンゲルは…確実に今、敗北を喫したのだ。

 もはやこれ以上の手はない。」


 続ける。


「なぁ、シルバー…最後に"百賭"に会いたいか…?」


 エンゲルがそう続けた。

 父と母を殺した本物の探偵王・百賭。

 冷たい声で…悍ましい声で…そういった。

 この女は…もはや打つ手など残していないはず…

 だがこの声から感じられる余裕は一体何か。


 ドンゴ!!


 エンゲルがシルバーに顔面を蹴られ吹き飛ばされる!!

 シルバーがエンゲルを引き離したのは、直感由来の行動であった。


「………!!い、いまのうちに!」


 まずい、この女とこれ以上ここにいるのはまずい。

 シルバーの長年の怪盗としての直感が、その行動を導き出したのだ。

 エンゲルのポッケから【D・D・F】を抜き出す!!!

 【D・D・F】を懐にしまったシルバーが【デモニック・スカーフ】を発現させ、黒い刃で地面を刺しながら、地面を這いずり回る。

 ゴキブリのように、みじめに。


「フフ……アハハハハハ!!!!!」


「この戦いには、勝てなくてもいい……勝ちたいがそれは目的ではない…

 私には…まだ先があるんだ…【D・D・F】で願いを叶えるっていう最終地点がな…

 悪いがアンタとここで一緒にくたばるなんて御免中の御免……」


シルバーがビルの外に出る……


(まずい……何かが……まずい………百賭はまだ何かを……)


<ヒュン!!ヒュヒュヒュン!!>

 弾丸の風を切り裂く音がシルバーの上方を通りすぎる。


「今の弾丸の軌道…何!?私でも、いやエンゲルを狙ったものではない!!」


 不安ばかりが、シルバーの心を埋める。


―――――――――――――――――――――――――――

<ビル内>


 エンゲルが、壁にもたれて座っている。


(……―――大量出血のせいか、頭が、おかしい……

 物事を考える力が落ちているのを感じる……)


 エンゲルの瞼が――落ち始める……

 肉体の疲労とダメージの影響か、頭は知れぬ眠気に支配され始めていた―――


 しかし――――――――

 彼女は血が出るほどに手を強く握り、痛みの力で自我を取り戻していく。


 エンゲルは、再び立ち上がる――――


<ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン>


「なぁ百賭……人あばれ…したいか?」


 百賭がホワイトキネシスを出現させ、銃弾を叩き落とす体制に入る。


<ガンガンガンガンガンガンガン!!!!!>


 しかし銃弾は百賭の方には向かわず、百賭の見えない場所で、

 何か別のものに命中した!

 何か固いものにあたった音だ!!


「シルバーに…会いたいか?10年ぶりに、表に出たいか?」


<ガンガンガンガンガンガンガン!!!!!>

 

 銃弾がビルのどこかに打ちつけられる音が響いた後…

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!!!!!!!


 何たることか…

 揺れている―――建物全体が、めっちゃ揺れ始めている!!


 先ほど、シルバーとの戦いで百賭はビルを崩すために2階のあらゆる箇所を爆破していた。

 そう、後一針で崩れると言ったところまで。

 エメラルド・スペードはそれを利用してビルを崩し、百賭を圧殺するつもりなのだ。


 天井が崩れ、百賭に向かって崩れ落ちる。

 だが、百賭は笑っている。


「フフフフ………!!あはははははッ!!!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「だ――――誰もいないぞ――――――!?それにこの揺れッ!!!」


 睦月とエクサタがロルと通話しながらビルの屋上に出る。

 しかし、無人。ロルから聞いていた情報とは違い、人影は無かった。


「ロルさんッ!!これは一体!?」

『入れ違いだよ。』

「えっ……」

『先ほどスナイパーがそこの最上階から飛び降り、

 1階に下りたのを【ザ・レーダー】で確認した……遅かったな……』

「まさか―――」

『つい先ほど、百賭とシルバーの嬢ちゃんが1階で殴りあって、

 同時に倒れるのが見えた。

 恐らく、敵さんはこのビルが崩壊する前に【D・D・F】を回収するつもりだぜ。』

「そ、そんな――――」


「睦月……どのッ……!?」


「そんな!!!!!!!!」

―――――――――――――――――――――――――――

<崩れいくビルの外・シルバー視点>


 シルバーの視線は、石がグルグル崩れ去る感じの轟音を立て小刻みに揺れる、背後のビルにくぎ付けになっていた。目を大きく開き、口を閉じることは出来なかった。


「………エンゲル。」


 シルバーが傷口に手を当てる。

 

「悪魔の力は……母体であるこの私が死なないように、魂の寄生先であるこの体が死なないように、私の傷を徐々に再生させていく。(ちぎれた腕はもう戻らないが…)」


 携帯端末を取りだし、耳と肩の間に挟む。

 歩き出す――――一歩一歩前へ……


「睦月……聞こえる?」


『シ、シルバー!!大丈夫なのか!?』


「ああ……なん、とか………そんな事より、お前等の方はどうだ?」


『だ、大丈夫だよ……スナイパーは、屋上にいなかったみたい。

 今は隣の建物の中にいる。』


「――――そうか。それはよかった。でも警戒はしてね。」


 銃を取り出す。そして、口を閉じ背後に向く。


「そういえば、睦月……レンガウーマンが持っていたあの【D・D・F】、

 拾うのを忘れてしまっていたんだけど……持ってるかしら?」


『ああ。渡そうと持ってたんだけど……』


「――――あなたが持っていて。」


『えっ…』


「えっ、ってなんだよ。」


『いや、シルバーの事だから、すぐにでも渡せって言うのかと……』


「――――私はさ、この10年間、ずっと一人で戦ってきたんだ。

 大切な人を失う痛みを知っていたから、

 誰かと組むというという行為をひたすらに避けてきた。」


『…』


「ロル……あいつとは7年の付き合いがある。

 何度も助けてもらったことがあるし、信用もしてるが……

 彼は私がどんなに危険な目に合っても、安全な所で私を見守るだけだ。

 責任を共有できるような関係ではない―――」


 シルバーが足を崩す。

 そして、にやりと笑う。


「今回が初めてだったんだ。睦月やエクスそしてとニーズとエクサタ。互いの命と責任を背負うような闘いをしたのは……」


『シルバー…私は……』


「今日一日、短い間だったが、御前達の事は本当に頼もしい奴らと思っていたよ。

 ――だから睦月、私は死なない。必ず生きて帰ってこようと思っている。

 だがもしも、私の身に何かあった事を察知したなら――

 その【D・D・F】は、お前とエクサタに任せる。

 ここを離れて、パスポートを作ってハワイに行け――――

 そして、キラウエア活火山の火口に重りを巻いた【D・D・F】を投げろ。

 それで、時間稼ぎにはなる。

 その後は顔と名前を変えて奴らやマレフィカルムから逃げながら生きていくのよ……

 ロルも頼ってやってくれ。」


『それって………』


「まぁ私も頑張るさ―――

 体はもうボロボロだが、そうならないよう精一杯あがいていくよ。」


『――――初めて、自分のやってきたことが、報われた気がするわ。

 きっと、私はずっと待っていたんだ。』


 睦月の声が、荒げる。


「……いつから。」


『凶羅たけしの襲撃―――いや、お前に初めて出会ったとき……

 9年前、同じ11歳なのに――既に怪盗になっていたお前の背中を見た時から……』


「そうか、懐かしいな…。」



<ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!>


 上部から、3発の銃弾が落ちてくる。


<ガキンガキンガキン!!!!>


 それを【デモニック・スカーフ】で、すべて叩き落とす。


「ロルと直接通話がしたい―――すまないが、電話、切るわよ。」


『わかった。シルバー、私もお前の事を信頼している。』


「―――ああ。」


 ピ!!!!!!!!!!


 そしてシルバーロルに電話かける。

 そして、辺りを見回す、辺りには、無数の洗脳兵がいた…

 シルバーはすでに囲まれていたのだ。


「ロル……」

『………嬢ちゃん。』

「睦月経由で状況はわかっているわよね、スナイパーの位置を教えなさい。」


 ジョッ!!!!!!

 シルバー血を吐く。


「ゴホッ…ゴホッ…」

『シルバー、大丈夫か…?』

「五月蠅い馬鹿…時間が無い、さっさと教えろ……」

『シルバーの嬢ちゃんよ、アンタは俺の事をどう思っている。

 俺とアンタはもう7年の付き合いだ。』

「―――何の話だ。」

『アンタはさっき、この俺の事を―――

 ただ安全圏から見守ってるだけの男だと言った。』

「……聞こえていたか、気に障ったならすまないわ。

 だけど、さっきも言ったが、アンタの能力とアンタの仕事は誰よりも信用している。」

『そうか………すまないな。』


 通話先から、息を吸う男が聞こえる。


『スナイパーならすでに俺のサーチ範囲外だ―――だが……

 気を付けろ、一人、変な奴が近づいてきている。』


 周りの洗脳兵達が、一斉に真上を向く。


『方向は4時。』


 洗脳兵の顔を踏みつぶしながら一つの影が近づいてきている。

 シルバーは目を大きく見開き、息をのんだ、なぜなら、そいつの顔が、自分と瓜二つであったから……

 そう、エクサタの話はウソでは無かった。

 シルバーは洗脳兵の頭を踏みつぶしながら歩いてくる影を―――

 洗脳兵達を指揮し、ニーズエルを殺したエンペラー・ゴールドだと一瞬で理解した。


「アンタがニーズエルを…………」

「宿敵、オルゴーラ。その子孫――――プレイマー・グラン。」


 ゴールドがシルバーを見下すように見る。

挿絵(By みてみん)

「ボクは王。キミは兵士。なら王と兵士の違いとは、なんだい?」

「……」


 シルバーが片手で銃を構える。


「兵が人を殺すには力が必要だ。

 武器を振るったり相手を殴ったりする体力や腕力。

 逆境を切り抜ける知力に判断力。

 だが王は違う。例えばこのようにするだけで――――」


 ゴールドが右手を頭の高さまで上げる。


「……なんの力も使わず、殺したい奴を殺せる。」

「…!」


 4発の銃声が聞こえるいずれも、自分の方向に向かってきている。


『嬢ちゃん、上からだ。銃弾が上から2発やってくる。』

「銃弾の軌道なら、読める。教えなくてもいい。」


 シルバーは、ロルの支持通り……デモニック・スカーフで上方を防御する。

 しかし――――――――――


 バッ………!!!!!!


「え――――――」


 シルバーが背後から2発撃ち抜かれる。


「ロ、ロル……上からじゃ――――」

『嬢ちゃん………次は、右から二発。』


 デモニック・スカーフで右方向をガードする――――


 しかし、銃弾は左からやってきて、シルバーの喉と胴を貫いた。


「ロ……ロル………」


 シルバーが倒れる。

 そして、そのそばにゴールドが駆け寄る。


「『常識とは、プライドを殺す剣<つるぎ>だよ』。」


 しゃがみこみ、シルバーの持っていた二つの【D・D・F】を回収する。


「君には感謝してるよシルバー。

 これでマレフィカルムは戦力を失い、【D・D・F】も4つ揃える事が出来た。

 もうこの世界にボクたちを止められる奴はいない。」

「か、感謝…だと…?」


 ―――――――――――――――


「我々が【D・D・F】を集めるにあたって一つの懸念点があった。

 【マッレウス・マレフィカルム】、世界最大の探偵協会にして

 最多数のカース・アーツ使いが集まる巨大組織だ。

 厄介な事に奴らも【D・D・F】を必死に集めていてな、

 正直僕たちがやられるのも時間の問題だったんだ。」

「な、何を…」


 ゴールドがシルバーの後頭部を踏みつける。

 頭が狂う。


「がっ…!」

「そこでだ、僕は宿敵である君に賭けてみる事にしたんだ。

 【四天刃エメラルド】に【7年間】見張らせていた君にね。」

「7年…まさか…」

「今頃気づいても遅い。【無線サポート怪盗ロル】は僕の最大の腹心

 【四天刃エメラルド・スペード】だったんだよ。

 あいつがお前に協力的だったのは全てこの日の為だったんだよ。」

「なんだって…」


シルバーが左手を伸ばす…ゴールドはその手をもう一方の足で無慈悲に踏みつける。


「作戦は簡単にして単純だった。

 お前かアルギュロスに、【D・D・F】をわざと盗ませて、

 マレフィカルムと衝突させる事。

 【D・D・F】をもつお前達とマレフィカルムがぶつかれば

 ロル経由で三羅偵や百賭の能力情報が我々に入ってくる。

 その情報があれば僕達はマレフィカルムを倒す事が出来る。」

「まさか、【新潟宝石博物館】の【D・D・F】は…」


「あの【D・D・F】は、君達を誘き寄せるために僕がわざと提供したものだ。

 フフ、感謝しろよ?

 なぜマレフィカルムは【D・D・F】を追っていたのに新潟に三羅偵を派遣しなかったと思う?

 ストーリーがガバガバだったからではない!

 我々が必死になって奴らの交通手段を妨害したからだ!

 ロルにも協力させた!

 君は僕達がいなければこの戦いの舞台に足を上げる事さえ出来なかった!」


 ああ、頭が狂う…


「全て…貴様らが仕組んだことだったのか…!」


「フフ、もしや自分の実力で手にいれられたというストーリーの方が

 君にとってはよかったかな?

 しかしここまでの成果を上げてくれるとは思わなかったよ

 君は予想以上の働きをしてくれた…

 そして…無様だねシルバー…

 君は神のために戦ってた筈なのにいつの間にか僕たちのために戦っていたんだ…」


「ゴ…ゴールドォォーーー!!!」


「アハッ…アハハハハハハハッ!!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ゴゴゴゴゴ…………!



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!!!!




■  ■■               ■         ■

■  ■         ■      ■■        ■

■            ■            ■   ■

■■■      ■■■■■■■          ■   ■

■ ■■        ■■           ■    ■

■          ■ ■          ■     ■

■         ■  ■        ■■       

■        ■  ■■      ■■        ■



(ゴン)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

             最期の日 PM1:56 

               ビル・倒壊


         シルバーと百賭の生死――――不明

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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