第54話 想天空ステレオタイプ①
最期の日―――PM1:40 岐阜県テレビ屋
『――――先ほどもお伝えいたしました、
岐阜県のレンガ撲殺鬼についてのニュースですが……
現場取材班の山さんから、生中継です。』
ガーーーーーーーーーーーーーーー
弯曲十字が、テレビの画面一杯に映し出される…
『あ、あれ、山さん!?この映像一体なんなんです…………
な、か、からだがかってにバババ……』
ガチャン――――――――!!!
「――――まずは、だ。
僕が今考えてるのは…この後どうすべき、なのかダヨ。」
Voooooooooooooooooooo――――――
建物の上にそびえ立つ人間の山。その上に立つ神聖なる子供、
身長149㎝、白いマントを羽織り、金で紋様がかかれた純白のラバースーツを着用している金髪金眼の子供。(性別不明)
来日アトランティス人エンペラー・ゴールド。
「策は二つ。百賭とシルバーを殺すか、逃げて機を待つか。
まぁ選ぶは後者だね――――――
何故なら100m級の弯曲十字を発動させてなお、身を隠すことに成功したから。
何故なら【D・D・F】はこの街に5個全てが揃っているから。
フフッ、何より、四天刃隠将・【エメラルド・スペード】。
君がまだ生きている―――――」
死体の山の影からだるそうに歩きながら現る影。身長185㎝、黒紫色のシルクハット、黒紫色のトロピカルバトルジャケットを着用した緑目緑のワカメ髪褐色の男。
紫色の宝石が装飾された趣味の悪いスナイパーライフルを両手で持っているし煙草も吸ってやがる………
顔面にはX字の傷がついている。
「………」
「しかし、こんな優位な状況だというのに不愉快だ。トパーズは百賭に倒され、アクアマリンとルビーはカス二人に殺されるという大失態を侵した。」
洗脳兵が頭部を破壊されたアクアマリンとルビーの死体を持ってくる。
そして、ゴールドが人間の山の上から跳び、ふたりの胸の上に、ゴールドが着地。
二人の死体が破裂する。
「クズが……」
ガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガス!!!
ゴールドが死体を執拗に踏みつけはじめる。
(その衝撃、約500kg。骨さえも粉々にするパワー)
二人の死体が原型を留めないミンチになったところで彼は、ダルそうに自分の肩を揉むエメラルドに視線を移し睨みつけた。
「"また"仕事させちゃって悪いけどさぁ。
残ってるやつら、全員キミが殺してくれない?
“キミが宿敵シルバーにやってきた7年間に渡る攻擊“――――――――
あれを利用すれば、シルバーも百賭も問題じゃあない。」
「―――フッ、安心して呉れ!
【既】に始まっている!絶対正義さんもシルバーの嬢ちゃんも、
すでにこの俺の【カース・アーツ】の術中にハマってるぜ……」
「…遊ぶなよ。」
エメラルド・スペードが、手に持ったスナイパーライフルを構える。
そして、ジャンプしてその場から姿を消す………
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
同時刻――――弯曲十字付近、コンビニ
コンビニの真上で百賭とシルバーが、対峙る。
下の歩道には状況に混乱している睦月が叫ぶ。
「シ、シルバー――!!!」
「睦月、アンタの能力は遠距離型よ!!表に姿を晒して戦うべきではない!
良いか――――私と同じように戦おうとするな!
お前にはお前だけの長所というモノがある!」
「………!わかった。遠距離からサポートする。」
睦月エクサタが場を離れ物陰に隠れる………
それと同時にシルバーが背後に跳びあがって百賭から距離を取る。
「クックック…」
「夜調牙…百賭…」
「シルバー、貴様も既にアトランティス人特有の波長やなんやらで既に認識しているだろう。
今、この岐阜県には5つの【D・D・F】すべてがある。
1つはこの俺。もう二つは貴様。残り二つはあのゴールドとかいうクソガキだ。」
百賭が一歩づつ近づくのと同時に、シルバーも一歩一歩後進する。
40m――――――――45m――――――――――
「フン……
しかしまさか【新潟博物館】にあった最後の【D・D・F】を回収したのがお前だとはな…
全く、あの日、"ゴールドによる下らぬ妨害"が無ければ、
あの【D・D・F】は我々が先に回収できたし、お前がこの戦いに参加する事も無かった…」
(エクスの話によれば、奴の【カース・アーツ】の攻撃距離<リーチ>は最大20m。
この距離なら問題ないが…)
38m――――――――34m――――――――31m――――――――
「これ以上は下がれない。この建物から落ちてしまう。」
「だが、御前はロンカロンカを始末してくれた。それはいいことだ。
正直言って奴の頭脳はこの俺でさえ侮れないものがあった。
この戦いで一番の障害になると思っていたほどにな。
奴はまだまだ成長の余地もあったしな…本当に良かった。」
「―――――」
24m――――――――――――――――
「では、始めるか。」
百賭の頭上に、大きさ70㎝程の白金<プラチナ>と虹色の装飾で彩られた円盤がY軸回転しながら出現する。
これが時間を操作する【ディテクティブ・マスター】のビジョン。
円盤の中心では、洋時計のように2本の針が回っている。
「まずは―――」
百賭が一歩前に進もうと思った瞬間、シルバーが首から黒い気の塊―――
【デモニック・スカーフ】を放出。
ザシュウッ!!!!
黒い気の鎌で足元の床を切り裂き、下方、コンビニ店内へと素早く落下する。
「フン……距離を取り、俺の前から姿を消したか。」
【ディテクティブ・マスター】には予備動作が無い。
だがいくら予備動作が無いとは言っても、確実な攻撃には敵の位置の把握と
一定の距離が必要だ。
しかし百賭が腕を伸ばし両手を下に向けて広げる。
「賢明な判断だ。」
その瞬間、ドンゴン轟音が鳴り響き、百賭けの下方、
シルバーが入っているコンビニのガラスがすべて割れ、地が揺れる。
それと同時に――――――――ガキンッ!!!
コンビニの壁が◇の形に切り裂かれ、中からシルバーが飛び出てくるッ!!
「げほっ…げほっ…い、今の爆発は粉じん爆発!?」
正確には、粉塵爆発の直後の記録。
間一髪生き延びたシルバーは飛び出した眼前にあった建物の壁を切り裂き、内部へと侵入する。高層ビルの一階だ。
「フン…屋内戦か。」
百賭が再度ディテクティブマスターを出現させシルバーの入ったビルの二階に侵入する。
「この百賭は今――――お前の位置が正確には把握できていない。
だから正確な攻撃は出来ない………だが、それはお前とて同じこと。」
百賭が両腕をクロスさせると、円盤が自立行動し、百賭から離れる。
そして、シルバーが入ったビルの入り口に潜入する。
「時は再び『再生』される。」
瞬時、円盤の周りにリクルートスーツの男数人が出現し、手に構えていたアサルトライフルAK-69を乱射する!!!!!!!!!!
「トパーズ・クロスを倒した乱れ撃ちだ。
室内なら跳弾も生じてさらに火力が上がる。
そしてこの記録は最大『10秒間』まで再生する事が出来る。」
しかし―――――――――――
ドスッ―――――――――!!!
百賭の脚が床から出現した黒い刃に貫かれる!!!!!!!
「む…」
ズボッ………
シュキキキキン!!!!!!!
百賭の足場が□の形に切り裂かれ百賭落ちる!!!!!!!!!!!
「―――真下だと……!?」
「クソッ、外れたか。見えないってのはやっぱやりづらいね。」
落ちる百賭の下には―――――――シルバーが立っている。
「アンタの時の『再生』は、確かに無敵だ。
念じるだけで一瞬にして攻撃を発動する事が出来る。
だが、分かりにくいだけで、予備動作はある。
手に持った剣で相手を殺すには振るという動作が必要だ。
手に持った銃で相手を殺すには敵に向けて引き金を引くという動作が必要だ。
それと同じように、アンタの【デティクティブ・マスター】には予備動作がある。」
シルバーが右足で百賭の【デティクティブ・マスター】の円盤を踏みつけている。
「時の再生の能力も時の記録能力も、このビジョン・『円盤』を『中心点』として発動する。
記録した情景の角度も円盤の向きを変える事によって調整できる。
相対的な位置よ。
だから、こうやって浮いてる円盤を踏んづけてやれば、
お前が再生した銃を持った男たちも、シュールに地の底に埋まってくれたよ。」
シルバーが【デモニック・スカーフ】を構える。
「クックック……記憶によればその特性をエクスに話してなかった筈なのだがな。
流石三羅偵全てを倒した女だ、この一瞬で見破るとは。」
「お前は探偵を越えすぎた―――――ここで全殺しにしてやるわ。」
落下途中の百賭を【デモニック・スカーフ】が襲う、しかし―――!!!
百賭は落下中の床を蹴り飛ばし、その反動で二階天井に向かってJUMP!!!
落下中の床はシルバーに向かって蹴り飛ばされるが一瞬にして切り裂かれる。
次に百賭は2階天井についていたボルトに右手で捕まり、同時に【デティクティブ・マスター】の能力を解除。
左手に持った銃をシルバーの眉間に引き金を引く!!
「小細工ゥ!!!」
しかし弾丸は黒い刃によりあっけなく切り裂かれた。
「死ね………百賭!!!」
「ククク…死ぬ?すまんが実感が沸かんな、部下からは不死身と呼ばれているんでね。」
ズゥゥゥッゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!!!
バキッ…バキッ…
シルバーの上方から木の割れる音が鳴り響く。
「何……何の音!?これは天井から――――」
「…………」
ギギギ……………
1階天井、2階天井がひび割れて、沈みかけている。
「な――――崩れる!?馬鹿なッ!!!
時を再生したのか!?いや、今奴は【カース・アーツ】を解除している…」
「驚いてもらえて、心から光栄だ。フッ、次は死んでみるか?」
崩れる!!!!ビル2階と3階が崩れるッ!!!!
「チッ……!!!!」
シルバー急いで近くの窓をジャンプで突き破り外へと脱出するッ!!!!
そして走ってビルから距離を取る………
「ハア………ハア………エクスの事前情報もあって、『時を記録する能力』の全容は大体わかったぞ。
だがお前には、まだ隠された秘密があるようだな―――
そして、それを見破らない限り私はやつに勝てない!
奴には【未知の能力】がある!!!」
Vaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa―――――――――――――
シルバーがビルの方向に振り向いたと同時に、百賭が崩壊した天井の瓦礫から現れる。
脚の下には緑の血がついていた。睦月のアリの体液だ
(………奴は見かけた睦月の『蟻』をも一匹残らず潰している。
なんて奴………
アイツのサポートの力も、やつの前では無力。
つまり不意打ちは不可能……)
ビルが崩れていく。
大きな音を立てながら。




