第51話 黒百合の詩に漆黒の太陽を重ねて③
レンガ・ウーマンが殺した死体から無数の黒い百合が、生える。
黒い百合が前後左右上の全方向に伸びだし、咲き乱れている。
「策?方法?手段?意思?
そんなものはどうでもいい。
そんなものより、この私の煉瓦の方が強いに決まっている。
ならば掃滅する。」
VaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa―――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そして百合の花々の中には赤いレンガが生えた。
【煉瓦を生やした、166本の地獄の触手】だ。
「【第二形態】よ。さあどうする?どうするのかしらシーフ・シルバー?」
「答えは0文字。」
「!」
「答えは0文字だッ!!!何も言葉はいらないわッ!!
何の考えも必要ないッ!!!ただの一切の迷いなく――――
この私は――――貴様の脳天を打ち砕くッッ!!!」
シルバー走り出す!!!!!!!!!!!
レンガの触手がシルバーに襲い掛かるッ!!!!
しかしシルバー止まらない!!!レンガの攻撃を避けつつ、確実に距離を狭めていくッ!!!
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
シルバーが手に持った『トランプ』で触手を切り裂き、レンガをゲットするッ!!
「何故だ…なぜあの『トランプ』になぜ私の恨みが通用しない。耐性がつかない―――」
(このトランプは―――――
お前の弱点を知るエクスが、最後に残したトランプ。
そして、お前の『能力』を穴を突くために作られた、48枚のトランプ。
ただ、薄く鋭いだけでは無い、カードそれぞれによって、『薄さがすべて違う』。
だから『厚いカード』から順に使っていけば、
貴様が鋭い斬撃に対する耐性を付けても『更に鋭い』斬撃で、
再度確実なるダメージを与える事が出来るッ!!)
166本の煉瓦の触手を、成長はするが、再生することは無かった。
1本1本に銃弾以上の程度のスピードがあった。
だがそれをシルバーは華麗にかわし走ってレンガ・ウーマンとの距離を詰める。
「VICTORYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!
……ジーク!ウィン!VICTORYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!」
-―――――――――――――――――――――――――――――――――――
時計塔の上で、脚を組みながらシルバーの戦いを観戦する
一つの神聖なる影があった。
神聖な影の周りを飛び交うオウムが演説する。
『誰も彼もが死んで逝く。
たった一つの願いを叶えるという意識の下に踏みつぶされていく。
全てを知る少数派だけが笑い、無知なる多数派が泣く。
この世界の縮図を現すかのようだ。
常識とは多数決の意思だ。故に尖らない。故に狂えない。
”そうあるべき”という檻に閉じ込められ、
常識の成長と共に人の個性と言う力は失われて逝くのだ。
まるで現代の先進国社会のように―――――
それに比べて我らはなんと人間的な事か。
周りが虹色を灰色に染め上げている中で、
常識に唾を吐いて平然としていられる。自分の夢の為に全てを犠牲に出来る。
素晴らしい事じゃないか。
多数派を自在に操れる我々は誰よりも人間として輝いている。
キミもそう思うだろ、最後にして最凶の四天刃
………【エメラルド・スペード】』
「……………」
-――――――――――――――――――――――――――――――――――――
場面は再び、シルバーとレンガ・ウーマンの戦いに戻る。
「ハァッ-―――ハァッ-―――ハァッ――――――」
瞬時―――――――――――
シルバーの↑→方向の触手が削り取られたように『消滅』するッ!!!!
「これは!!!」
シルバー下を見ながら右方向ににステップし、『消滅』を回避ッッ!!!
「エクサタが言っていた、影の【カース・アーツ】かッ!!」
【イリーゼ・フィアー】の能力の一つ、自分を殺した【カース・アーツ】の力のコピー!!
レンガ・ウーマンは既に【ルーク・オブ・ヘルシャドウ】をしもべとしていた!!
戦慄するシルバー…
だが、一瞬瞬きした瞬間、その影の【カース・アーツ】が作動停止する!
「何っ!?」
一瞬の驚きの束の間、次の攻撃が来た!
シルバーの←↑方向の触手が次々と爆裂する!!!
そして、爆裂する触手の中から、前長1m程の深青のカジキのような怪物が
回転しながらシルバーの左腕に突撃するッ!!!!!
アクアマリン・クラブの――――【ナイト・オブ・ヘルフィッシュ】だ!!!
カジキが回転し、左腕を引きちぎるッ!!!
「がああああああああああああッ!!!
ス―――――【ストーン・トラべル】ッッ!!!!!」
引きちぎられた左腕の傷跡が『石化』し、カジキマグロが弾かれて吹き飛ぶッ!!!
【ナイト・オブ・ヘルフィッシュ】は突撃した先に液体が無ければ消滅してしまうからだッ!!
「ハァッ-――――ハァッ-―――――ハァッ-―――――――ハッ!?」
【ドラゴニック・エンゲージ】
【ルーク・オブ・ヘルシャドウ】
【ナイト・オブ・ヘルフィッシュ】
どれも強力な【カース・アーツ】。
しかし【イリーゼ・フィアー】はそれよりも格上で、絶対的な力を持つ能力。
竜への憧れ?ジャンヌダルクの恨み?海洋生物への恐怖?
そんなものよりレンガの方が強いに決まっている。
なぜ強いかって?
愚問だ。
この世にレンガより強い力などないからだ。
レンガは全てを統べる。
レンガは全てを支配する。
故にすべての【カース・アーツ】はレンガの下にある。
それを実現する、レンガ・ウーマンの恨みの強さ。
「終わりよ――――」
ドドドドドドドドドド
気づけばシルバーは無数の煉瓦の触手に囲まれていた。
左腕を失い、意識も朦朧としているのに…
「ぬぬぬ………」
ついに膝を落とす。助からない。
シルバーはもうレンガの巣の中だ。
一斉にレンガが振り下ろされる。無慈悲に。
しかし――――
ぺチンぺチンぺチン!!!!
「え――――」
シルバーが気づいたときには、触手の先が無くなっていた、
何かにむさぼられたように、削り取られていた。
「蟻の顎でレンガの先を削り取った…?馬鹿ッ-――――なんで、なんで表に出てきたッ!!!」
上から、睦月が落下してくる。
「-――やっぱり、こういう能力は私に合わないや。
前にも言ったけど、もっと炎を出すとかそういうシンプルな能力が
良かったな――――」
「……たまには、私のいう事も聞きなさいよ。見習いの自覚、あって?」
「残念ながら、気に入らないのさ。
【D・D・F】を滅ぼすために命を尽くすシルバーが、こんなところで終わるなんて…
割に合わない。」
「睦月――――」
シルバー涙ぐむ。
「泣くなよシルバー。泣いてると、勝てない。一緒に生き残ろう。」
「違う…そうじゃない…ただ、罪悪感に締め付けられるんだ―――――
だって私はもう―――――覚悟を決めたから。」
意味深な言葉を残し、シルバーが走り出す。
「あっ――――おい!!!」
エクスのトランプを巧みに使い、シルバーが無数の触手を引き裂いていく。
睦月もそれを追いかける。
レンガの者はただ笑っている。
「すばらしい……
生きる意志とは無限の力だ。
私も、私を殺したアイツらも―――――生きるという意志があるから強いのだ。
だが私はそれを撃ち滅ぼす。レンガで撃ち滅ぼす。
最期まで生き残るのは―――――このレンガ・ウーマンだ。
レンガで全てを殺すのだ……」
そして――――――――――――対峙る。
真紅の血に染まった赤い街道で――――シルバーとレンガ・ウーマンが対峙る。
レンガ・ウーマンが糸目を開ける。
目は、真紅だった。レンガと同じ―――――真紅であった。
「流石ね。これこそが生きる意志。
私が最も恐れ、私が最も愛する力。
こういう人間ほど叩き潰すのが楽しい…
さぁ。来なさい、その生きるという意志をレンガで砕き潰してあげるわ。」
「最近になって時間してきたんだが、
どうやらこの私は、他人に勘違いされやすい性格のようだ。」
「――――?」
「私も、かつては信じていたよ。
正しい心を持っていれば、必ず神が微笑んでくれるってね。
【人は心の弱さゆえに悪逆に走る】【正義は勝つ】
【悪は因果応報を受ける】【努力は報われる】
心の弱い人間が信じがちなワードだ。
だが、私は思い知った。
こんなものは真実じゃない。只の心の支えでしか無いってね。
12年前、私は絶対正義<夜調牙百賭>に人生の全てを奪われたわ。
その後、私は第二の人生を積み上げていたのだけれど、
丁度一週間前、絶対悪<ロンカロンカ>に2度目の人生を奪われた。
正義と悪の両極に人生の努力の全てを奪われ、私は絶望し、答えを見失った。
そして思った――――どうすれば、勝てるんだろうってね……」
「………」
「シ、シルバー………?」
シルバーがマントに手を掛ける、そして―――――
「勝つためには力だ!!力こそが全てを凌駕できるのよ!!!」
脱ぐ――――――――そして、襟をズラし、自分の神聖なる首元を露出する。
「シ、シルバー……そ、それは―――一体?」
「お前に内緒であの大阪の地下・【ブラックランド】で財産の3/5をかけて購入した―――【力】だ。」
首には、法陣が描かれていた。
何か、邪悪なものが描かれた、魔法陣――――]
瞬間――――レンガ・ウーマンの顔から、笑みが消える。
シルバーが首に手を添えながら。レンガ・ウーマンに向かって歩き出す。
そのさなか、レンガ・ウーマンは静かにこうつぶやいた。
「【悪魔】………」




