第49話 黒百合の詩に漆黒の太陽を重ねて①
―――PM1:21 弯曲十字付近・無人のビルの屋上。
ニーズエルの死を察知した2人とエクサタは、レンガ・ウーマンに見つからないよう無人ビルの屋上にまで避難していた。
エクサタは、なかなか精神が安定せず、壁際でずっと蹲っていたが、15分もすると、心に少々の落ち着きを取り戻し、シルバー達に自分たちに何があったのかを話した。
グレトジャンニがもう死んでいた事。
弯曲十字の【カース・アーツ】使いの仲間が全ての攻撃ヘリコプターを撃墜した事。
レンガ・ウーマンがDDFを持って行ったという事。
シルバーに変装した、ゴールドと名乗る奴が、自分たちを襲撃した事。
ニーズエルによって、一命を取り留めたという事。
全て――――自分の口から話した。
「それが…すべての真実ってわけなのね……」
シルバーがそう言う。
睦月も屋上入口の壁に背もたれ、自分の足元を見ながら、震える。
「―――こう次々と死なれれると…なんかさ、胸にポッカリ穴が開いた気分だ。」
睦月が胸の前で腕を組み、体を丸めるように体制を低める。
「私さ…パパ、いや、怪盗島風に、幼いころから怪盗になるためだけの
英才教育と訓練をされてたんだ。だから、一人も友人なんかいなかったし、話し相手なんか誰もいなかった。こういうのは、あまり慣れてないものだ。」
エクサタが瞼を半開きにして、シルバーの方を向く。
「エクスだけじゃなく………ニーズまでもが……」
シルバーの唇から、血液が少々垂れてしまっている。心を抑えきれず、下唇を噛み切ったのだ。
「―――クッ…!」
シルバーが二人に背中を見せる。
エクサタがどこに行くのか…と聞こうと思ったが、言葉を発する前に返事は帰ってきた。
「レンガ・ウーマンを、討つわ。奴がDDFを持っているというのなら私は行かなくてはならない…エクスの仇もあるしね―――」
「すまない………」
「責めてないわ。」
エクサタが立ち上がろうと、床に手を付けて立ちあがろうとする。しかし、手は濡れるように滑り、脚に力は入らず腰が上がらない。
「無理しないで、そんな心の状態で戦おうとすれば、かえって足手まといになる。ニーズエルのやつは貴方に私たちの協力を頼んだようだけど、まだいらないわ。しばらくそこで休んでなさいな……」
「…俺は。」
「さようなら、怪盗エクサタ!!」
シルバーが屋上から飛び降りる。
それを追うように、睦月もまた、飛び降りる。
「ニーズ、エル…………やはり俺は……」
エクサタが空を仰ぐ。そこには曇り切った漆黒の空と湾曲十字しかなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――PM1:25 弯曲十字付近、交差点
死体が、ちらかされている…ヘリによって打ち殺された死体が、
アクアマリンの爆裂によって爆発した肉片が、ルビーの能力よって膝の下だけになった元人間が、散らばっている。
しかし――――『奇跡』が起きる。
「まだ死んでは駄目よ……蘇りなさい。みんな、生き返るのよ……」
女の声がした。すると、バラバラになった死体が――――1か所に集まって合体し、意識を生み出した。
生命の誕生である。奇跡である。
「ア!…アレ…生き……てるぞ……夢!?夢だったのか……!?俺は確か――――ヘリの銃で体をバラバラにされて―――あの痛みは、夢にしてはあまりにも……」
意識の一体がそういった。
奇跡はまだまだ続く。
アクアマリン・クラブの能力で爆裂した死体の、傷口がふさがっていく。
「―――!?アタシ、こんな所に倒れて何を――――」
草が人の形に成長し、ルビー・ハートの能力で消滅した人間の形になっていく。
「みんなが上を見てって言うから―――とりあえず見たら―――急に頭がおかしくなって……それから―――」
【カース・アーツ使い】達の戦いに巻き込まれていた一般人たちが蘇る。
――――――奇跡だ、これを奇跡と言わんとして何が奇跡か。何が起きたのかはわからない、だが、悪夢は終わった…彼らは助かったのだ。
しかし……
「アレ、あれは……あそこに落ちているあれは…!!」
蘇った人間のうちの一人が、指を指す。指した先には、壊れたヘリが落ちていた。
「夢じゃ、無い……?」
ドンゴン!!!!!!
水風船が割れたような鈍い音が辺りに響き渡る!!!!
―――音の先には、血のついたレンガを持った長身の女がいた。
「さ、殺人鬼―――!!レンガの殺人鬼――――!!」
レンガ・ウーマンが青筋を立てる。
「粉にする。私は貴方達を許せない。
全く、レンガ以外の方法で殺されやがって―――
この辺りで、クソどもに殺されたクソどもは、全員ブッ生き返らせて
レンガでブッ殺す!!!!!!!!!!!!」
一般人を蘇生させたのは彼女だった。
「ぎゃあああああああああああ!!!お、俺達岐阜県民が何をしたって言うんだああああああああああああ!!」
「存在《存罪》。」
ガッ!!!ゴッ!!!バゴンッ!!!デゴンッ!!!ドンゴッ!!!!
ドンゴンッ!!!
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」
レンガ・ウーマンが時速80㎞でダッシュしながら、生き返った民達にレンガ死刑を実行するッ!!!!!!
55人は蘇ったが、30秒もしないうちに全員殺されてしまった!!!
「あらあらうふふ。まだ私の唄は始まったばかりなのに~」
パチンっとレンガウーマンが指を鳴らす。
すると、80人ほどの人間が瞬時に蘇る。
「え――――夢………?オブロッ!!!!!!」
「私は~レンガ・ウーマン~♪私は~鏖殺鬼<ジェノサイダー>~♪」
ドドンゴンッ!!!シュバゴンッ!!!!!
「ぎゃああああああああああああああああ!!!!」
「誰一人して逃がさない~♪」
ドドンゴドンゴンッ!!!!!ドゴンゴドンゴンゴンッ!!!!!
「リリカル・レンガ~♪」
墜落したヘリの側の肉塊が集まって二つの人の形になる。
そして蘇った――――――――――――彼等はマレフィカルム・ヘリ攻撃隊の隊長とヘリのパイロットだ。
「はッ…!?な、なんだ!?助かったのか!?
-――――――――オブがおッ!!!!!!!!!」
「キル・ゼム・オール~♪」
マレフィカルム・ヘリ攻撃隊隊長――――――――――――――死亡。
「はっ、レ……レンガ・ウーマン!?逃げなきゃ…―――――があああ!!!!!」
「キル・ゼム・オール~♪」
ヘリのパイロットの顔面がレンガで粉砕されたと同時に、そばの燃えカスが集まって人の形になる…………
新アトランティス帝国『四天刃』
貫将アクアマリン・クラブ―――――――――――――――――――――復活。
「…………!?これは!?おかしい…………俺は、確かに、死んだはず…ハッ…!!!」
「キル・ゼム・オール~♪」
「なっ―――――――――」
ドンゴン!
新アトランティス帝国『四天刃』
貫将アクアマリン・クラブ―――――――――――――――――――――死亡。
「キル・ゼム・オール~♪」
ドンゴン!
頭と言う果実から、脳汁と言う真紅のジュースが噴き出す。
「キル・ゼム・オール~♪」
ドンゴン!
それは、生きとし生けるものに対する鉄槌。
「キル・ゼム・オール~~~~~~~~~~~~~~♪」
ドンゴン!
レンガ・ウーマンの手によって、生と死が繰り返される。
全ての人間に、第二の生と第二の死が与えられる。
「ララララララララララ~~~♪」
そして―――――それを近くのビルとビルの隙間
路地裏から見張る、二つの影。
「黒色は、光り輝かない、物を照らすことは出来ない、
白が光である限り、黒は影であり続ける――――――――だから黒色は、太陽にはなれないの。」
睦月と、シルバーだ。
「私は、そうだと思い込んでいたわ。そうあるべきだと、信じつづけていた。人は心の弱さゆえに悪逆に走る。正義は勝つ。悪は因果応報を受ける。性善説。
しかしあの女は、極悪でありながらにして誰よりも光輝いている。この私よりも―――今もなお殺されている罪なき人々よりも……」
-―――――シルバーがリボルバーに弾丸を込める。
「あの黒く光り輝く太陽の前では白の黒の立場は逆になる。黒が光で、白が影。それこそが絶対悪…絶対悪レンガ・ウーマン。
この先、我々は、一片たりとも心の弱さを見せてはいけない。勝つ事だけを考えないといけない。」
「『あの女』と出会ってから、本当に変わったな……あの夢を見るように光り輝いていた目が、
今ではまるで奈落を見るように鋭く、尖っている――――
レンガ・ウーマンも、『あの女』と同じなんだな――――」
シルバー立ち上がる。
「行くぞ睦月、時間は無いわ。」
「――――待って、シルバー。ちょっと、確認したい事がある。」
「何かしら?」
「言葉で説明するのは難しいけど。」
睦月がシルバーの体―――脇腹の服が破れている部分に向けて指を指す。
破れた服の下には褐色肌が輝いている。
「あのさ、そこの服の破れている部分さ、レンガ・ウーマンにやられて肉がえぐれてたよね。でも、もう傷跡すら、無くなってる……」
「………」
シルバーが、睦月から目をそらす。
「――――シルバー、何か、隠しているな?」
「これは在日アトランティス人特有の――――異常な治癒力だ。」
「違う―――私は覚えている。君はあの石美町で、探偵田村と戦った際、顔面を殴られたことによって頬に切り傷を負った。
その傷は今回のえぐられた傷よりは軽かったが―――大坂のブラック・ヘヴンに到着するまで……完全には治癒してなかった。
だがこれは何だ?早すぎる。」
「…たしかにそうだな。連戦続きで、私の体の治癒速度も数倍になっているのかもしれない。」
「違う、その表情、君は何か隠しているんだろ…?私の思いもよらぬ、何かを。」
「――――睦月、私の治癒力が上がって、何の問題があるというんだ?
何も問題は無いさ。むしろ、状況はよくなっている。さぁ、もう時間が無い。奴がここを離れる前に――――」
「シ、シルバー………」
バッ!!!
シルバーが、腕を払いマントをなびかせる。
睦月は苦い顔をしながらも、その場を離れ、距離を取りながら
【ダーク・ウォーカー】を発動。蟻を出現させ、血の池の中、死体の影等、レンガ・ウーマンの視界に映らぬ場所に忍ばせていく。
シルバーはレンガ・ウーマンが此方に背後を見せるタイミングを見計らって
ビルの隙間から脱出し、表に出る。そして音を殺しながら忍者のように一歩一歩歩いていく。
タッ――――タッ――――タッ――――
近接の戦闘と言うものは性では無い。
だが、奴の弱点の性質上、近づいて振り下ろさなければ勝てない。
ゴォオオオンッ!!!!
レンガ・ウーマンの前方で爆発が起きる。
「!!」
(遠隔からガソリンの『石化』を解除し、睦月の【ダーク・ウォーカー】で引火させたわ。
アンタの視線を釘付けにするためにね。)
ゴォオオオンッ!!!!
ヴォオオオオオンッッ!!!!
更に二度の爆発が起こるッ!!!
そしてレンガ・ウーマンの視線の先に睦月が立ちはだかる。
「――――ついに来たのねぇ。フフ、自分から動かずとも、いつかは釣られてやってくると思っていたわ。」
-―――睦月にくぎ付けになったレンガ・ウーマンに、
シルバーは更に近寄る。残り10m。
「さぁ、レンガはいかが?」
シルバーは、先ほどの睦月のとの会話を思い出し、考える。
< レンガ・ウーマンも、あの女と同じなんだな―――― >
『あの女』……ロンカロンカの事か。
ああ、同じだ。同じクソッタレだ。だが同じクソッタレでありながらにして二人はまったく別の性質を持っている。
ロンカロンカには圧倒的な計算高さと冷静さという強力な武器があったが、レンガ・ウーマンにはそれが無い。戦い慣れていない。
普通の人間よりは頭はキレるが、策や方法を考えながら戦うタイプの人間では無い。
必要が無いからだ。策など無くても、強力すぎる能力がそれを補ってくれる。
だが、それが、お前の弱点となる。
レンガウーマンの背後に立ったシルバーが静かにレンガを構える。
ジャンプの体性だジャンプしなければ奴にレンガを当てられない。
150cmと230㎝―――――二人には80㎝もの身長差があるからだ。
「――――――」
「――――――」
VooooOOOooooOOOOOOOOOOooooooooooooooooooooooooo――――――
レンガ・ウーマンが睦月を殺すため、両手にレンガを出現させ、構える。
シルバーもレンガ・ウーマンを殺すため、右手のレンガを構える。
次の瞬間――――――――――――――――
シュバゴン!!!!!!!!!!ドドンゴン!!!!!!!!!!
闘いが、始まった。
「存在を感知してるのよ。」
結論から言って、シルバーの"最初"の目論みは粉々に打ち砕かれた。
唐突にレンガ・ウーマンがシルバーに向かってレンガを振り回したのだ。
「成程――――――目には頼らないっての。流石に化物ね……」
レンガ・ウーマンがゆっくりとこちらを振り返る。
邪悪な笑みを浮かべながら。




