第48話 ラスト・トレイン②
ニーズエルが、竜の力を開放し、背中から尻尾を出現させる。
「ニーズ………?」
「エクサタ君、欠けた腹部と内臓の再生を再開してよ……まだ、希望は残っている!!!」
「………ッ!希望…?
…だが俺の腹部の完全再生には、30分ほどの時間が必要だ。
それに、今は、血と肉が足りなくて、まともに立つ事すら出来ん。
だから今はシルバー殿を信じて………!」
「ハァ……ハァ……目を閉じるんです。」
ニーズエルが自らの腹の穴に尻尾を突き刺し、水平に切り払った。そして、水平に切り払った腹を開き、内臓を露出させる。
「ニ……ニーズ!?」
「私の命令がきけないんですか!?エクサタ君は黙って目を閉じていればいいの!!!」
まずニーズエルが第一に思った事は、思ったより痛みが少ないという事だ。同時に、痛みを感じる事ができ無い程、自分が死んでいるという事を再認識した。
そして、第二に思った事、それはこの次に行う『事柄』で痛みが発生してほしくないという事だ。
(エクサタ君は今、内臓を失って、まともに動けない状態にある。
肉体の再生にも時間がかかる。だったら、私の内臓を移植させ、エクサタ君の体と『合体』させれば――――)
彼女は次に、自らの尾を内臓の隙間に装入し、内臓を持ち上げる。そして内臓の先っぽの部分を能力で生やした竜の翼で切断しちぎり取る。
「う――――――――――――ああっ……」
彼女の祈りは届かず、それは激痛であった。
「ぎああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!」
「ニーズ………!!やめろっ…!!やめてくれっ……!!もう二人とも助からない、無駄な抵抗は――――」
「あはっあははははっ……やっぱり、やっぱり……シルバーは………来ないんですね――――」
持ち上げた内臓を、エクサタの腹に開いた風穴の中まで移す。
「エクサタ君、貴方が、あのビルの上で言ってくれたこと。私がいたから、貴方が救われたって――――
あはは!あれ、私もなんだ。私も、貴方と出会ってとても救われた…命に代えても、貴方を救いたいと思う程に……」
エクサタの腹が、ニーズの内臓を取りこみ、再生する。しかし、彼は泣いていた。
「残酷だッ……こんなこと残酷なッ……
我が最期の希望は、貴方を一人で逝かせない事だった…!
貴方と最期まで傍にいることがこのエクサタの……!!」
エクサタが立ち上がる、そして、ニーズを担ごうと試みる。
「―――――ッ……アアッ!!
駄目っ……私は置いていきなさい!!もう時間が無い!!
私の気持ちを無駄にする気!!?」
「このエクサタが一人で生きていけると思うか!!露頭に迷っていたこの俺が!!」
「私は確実に死ぬけど、貴方にはまだ希望がある…私がいなくても、貴方は生きていける…」
ニーズエルが、翼でエクサタを弾き飛ばす。地に堕ち、地べたにうつぶせになって倒れる。
「それでも嫌ならさ、私の夢を貴方に託すというのは、どうかな?」
「……!!」
「私の事を本当に思ってくれているのなら、
私の心を本当に救おうと思ってくれているのなら、ここから生きて帰って、
私の『出来なかったこと』を成し遂げてほしい……
シルバー達の事を手伝ってあげて【D・D・F】を滅ぼすという願いを叶え、
エクスさんやアルギュロス様の仇を討ってほしい――――――
それできっと、この私の心は救われる。
貴方がここで死ぬ事よりずっと、救われると思う――――――」
「卑怯だ……それは……」
「『人間らしい』、でしょ?」
エクサタがニーズエルに背後を見せる。
「…………本当に、一人で死のうというんだな…」
「――――うん、さようなら、エクサタ君。愛してる。」
エクサタ君、貴方に会えて本当に良かった
どうか、生き残って――――
エクサタが体を引きずりながら部屋を脱出する、そして、部屋には、翼と尾が生えた、両腕と片足、片目の無い少女だけが残される。
――――ふふ、こんなでも、まだ、死なないんだ。最後、すごいカッコつけちゃったな、人間らしかったかな…?
でもね、ホントはそうじゃないんだよ。私って、とても弱いんだ。一人で死ぬのがとても、寂しいの……
アハハ、やっぱり、エクサタ君と最期を共にした方がよかったかな…?
まだ、やりたい事、いろいろあったな…アハハ―――やっぱり…辛いなあ………
「生きたいよ………死にたくないよォ……なんで私だけこんなつらい目に―――なんで私なんか生まれてしまったの…やだよ、こんな死に方……」
もう何も見えない。けど、自分が今がむしゃらに泣いているという事だけは、ハッキリとわかる。
何度も考えた。もし、私が、探偵協会に行かず、カース・アーツの力を手に入れてなかったら、どうなっていたんだろうかってね……。
普通の会社で普通の仕事をして、素敵な誰かと結ばれ結婚して、子供もたくさんできて、お婆ちゃんになって、孫を抱いて―――――
「一人ぼっちにしないでよ――――」
そして――――"みんな"に見守られて幸せな最期を迎えていたのかな?
「いやだああああ………死にたくないよ……エクサタ君……エクサタ君………」
<ドオオオオオン!!!ドンゴン!!!>
ー―――爆発音?上の階から、何かが崩れる音が聞こえる。もう、時間なんだ…。ねぇ、もうちょっとだけ待ってよ……
本当にもう、駄目なの?本当に、助からないの…?こんなに苦しんだんだから、こんなに頑張ったんだから、最後の最後は救われてもいいでしょ…ねぇ…!!
<ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!>
嫌だ!!怖い!!やめてッ……死にたくないッ……こんな音、聞きたくない――――
<グサッ……グサッ……プツンッ…>
はは、はははは…
耳と鼻を潰した。これで、何も見えない、聞こえない、臭わない…これで、何も怖くない―――……
そう、私は今、無音の果てなき暗闇の中にいる――――私の気分を害するものは、もうどこにも存在しない。
――――――……みんな、どうなったんだろう。
私の最後の案は、ちゃんと上手くいったのかな?エクサタ君はここを脱出できたかな?もしそうならさ、私の努力が生まれて初めて報われたって事になるよね?
でも、私の考える事って、いつも失敗するからなぁ。
いや――――――信じよう。人間らしく、信じてみよう。
彼がここを出て救われたという事を、信じてみよう。そうであって欲しいと、祈ってみようと思う。
………エクサタ君、シルバー、睦月ちゃん。どうか死なないでね………そして…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
最期の日―――PM0:54 ニーズエルとエクサタが隠れていたビル内。1F正面玄関。
トコン……トコン………
エクサタが、負傷した体を必死に引き摺って、出口に向かっている。
脱出まであと10m――――8m―――――6m―――――――――――
(ニーズ……貴方が、それを望むというのなら……オレが生きる事を望むというのなら――――)
ドオオオオオン!!!ドンゴン!!!
上方から爆発音が響く!!!そう…タイムオーバー!!
ゴールドの言っていた、3分のタイムリミットが、今、終わりを告げたのだ!!
愛する女に対する未練がまだ残っているエクサタが……背後を振り返る。
「う、ああ………!!ニーズ!!!」
(嫌だ!!あなたの最後がこんな結末だなんて!崩れた瓦礫に潰され、グチャグチャになって貴方が死んでしまうなんて―――でも、それでも振り返るなと言うのか―――!!)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
残された男は脚に哀しみを乗せて一歩一歩進んでいく。
高鳴る心臓の鼓動を右手で抑え、涙を流して一歩を踏みしめる。
それこそが、彼女の意思なのだから――――
だがしかし!!
ダッ………ダッ………
ビルの中から、無数の足音が聞こえる。
ゴールドの洗脳兵達だ。
『ニーズエルが助けてほしいって叫んでるヨ、戻らないのカイ?』
『愛する女を捨ててまで惜しい命なのかい?男として最低だなァ。』
『最後ぐらい一緒にいてやれよ、フフフフフ………』
『あの女が綺麗に死ねると思うなよ!!ニーズは絶望の最中、一人ぼっちで瓦礫に潰されぐちゃぐちゃになって死ぬ!トマトジュースのように血を吹き出し、目玉は飛び出て!!潰れたカエルのようになる!!そしてウジ虫とゴキブリにその死体をむさぼりつくされるのだ!!』
「…………ッ……」
『お前は結局何も出来なかった、何の価値も無い男だ!!』
『そんなズタズタの心で外に出たって、お前は助からない。哀しみで心が腐れ果て、自殺するのがオチだろうな!!』
『どーせお先真っ暗なんだからここで死んでなって!!死に時は今だ!!』
『諦めるな――――!!!頑張れ!!!今から戻れば彼女は助かる!!!』
「クウウッッッーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
背後を振り向いたその瞬間、飛びついてくる!!ゴールドの洗脳兵たちが!!
「グ―――――!!!あああああ!!!」
背後にステップしたが駄目だ、体を掴まれた!!!
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「【石の旅<ストーン・トラベル>ッ!!】―――――そいつらの目の表面の水分を石化しろ!」
「っ―――――」
『何っ…!?う―――――ぐわあッ!!!な、何も見えんぞ!!!』
シルバーだ、シーフ・シルバーが来てくれたッ!!
視界を失って、エクサタの服を掴んでいた洗脳兵たちが怯み、エクサタが拘束から脱出する。
しかしズゥゥゥゥン!!!―――――丁度、上方から、大きな瓦礫がエクサタ目掛けて落下してくる。
「エクサタッ!!掴まりなさいッ!!」
「あっ――――!!」
シルバーが、エクサタの腕をつかみ、増呪酒&在日アトランティスパワーで後ろに引っ張り上げる。
ガララララララララーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!
崩れゆくビルの崩壊に巻き込まれないよう、二人が必死に走り抜ける。
そしてビルの崩壊が収まった……
「ハァ……ハァ……何とか、危機一髪ってところね……」
『ク――――――クッククク!!!!』
シルバーたちの目の前に、洗脳されたオウムが飛び交う。
彼はゴールドのメッセンジャー。彼の言葉はゴールドの言葉そのもの。
『クークックック!!お前の【カース・アーツ】は、『視界』に入る何かを石化させる能力――――
そしてボクの【カース・アーツ】は、『視界』に入れた者をすべて操ってしまう能力。
フッフッフ、『見た相手を止める能力』と『見せた相手を動かす能力』。やはり因縁だねェ。』
「私とお前の能力が対になってるとでも言いたいのか?ありがとう、最低の名誉だわ。
一緒にすんじゃないわよ、他人を踏み台にしないなにも出来ない陰湿な能力と。」
『フフ、陰湿?それもあるが、それだけでは無い。
まぁいい、いずれ君は気づくだろう―――――自分の運命の愚かさに、そして、このボクの偉大さに――――』
オウムが天に向かって舞う。
『フフハハハ!!いよいよ待っているよ~!3500年の積年の恨みを晴らせる時を!!
お前をこの手で直接八つ裂きにできる時を!!フハハハハ!!!』
オウム跳んでどこかに消える。
「フン――――消えたか。あいつ(ロンカロンカ)程じゃないが、こんなに誰かを殺したいと思ったのは久々だわ――――
ここまで他人をコケにする野郎は……」
シルバーうつ伏せになっているエクサタの方に振り向く。
「血の跡から貴方のいるビルを探せてよかった……このあたりの蟻は全部洗脳された奴らに潰されていたようだからね。
でも安心するのはまだ早いわ、レンガ・ウーマンがこの辺りで無差別の殺戮を行っているからね………
あの女は『三羅偵』、策も無しに勝てるような相手じゃあない。いったんここからは離れなければいけない。
-―――エクサタ、一人で立てる?」
「……」
エクサタ小さく頷き、シルバーの顔を見る。
そして、差しのべられた小さな褐色の手を掴もうとするが………
////////////////////////////////////////////////////////////////////////
『常識とは、プライドを殺す剣<つるぎ>だよ』
////////////////////////////////////////////////////////////////////////
「ッ…!?アアアアアアアアッ!!!」
トラウマのフラッシュバック!!
シルバーとゴールドの顔が重なり恐怖で後ずさる!!!
「――…?どうした、もしかして、新手の【カース・アーツ使い】が……!?」
(なんで、睦月殿が一緒じゃないんだ?なんで一人で行動してるんだ?目の前にいるシルバー殿は、ゴールドじゃないのか……!)
「ハァハァ……【センチビート】………」
エクサタが、つま先で地面を3度叩く、すると叩いた部分が黄色に光りはじめる。
そして光は3つに割れ、地面を高速で這って、シルバーの周りを囲む。
「…………エクサタ!?」
「ウ――――ウオオオオオ!!!!」
エクサタ攻撃を開始するしかし!!
「待って!!!」
二人の間に青髪の女が割り込む!!!
睦月だ、蟻の【カース・アーツ】―――【ダーク・ウォーカー】を操る、怪盗睦月――――!!
「落ち着いてエクサタ君!!なんでシルバーを攻撃を攻撃する必要があるの!?」
「―――………!」
「む、睦月、私の命令があるまで隠れてろって言っただろ!!」
心配するシルバーをよそに睦月が意見する。
「シルバー、察してるでしょ?
ビルから出たのはエクサタ君だけで、ニーズの姿が見えない……
それに、エクサタ君のその表情…」
エクサタは依然ポーカーフェイスの無表情だったが、感情を見破る能力にたける睦月は彼の心情を見破っていた。
【センチビート】の能力が解除される――――
そして、睦月がエクサタに向かって走る。
「エ、エクサタ君、どうなったの!?ニーズは、ニーズは……!?」
「そうだエクサタ、我々は今、協力して行動している。だから、お前には私達に何があったのかを、説明する義務がある。」
エクサタが頭を抱えその場にしゃがみ始める。
「エ、エクサタ君?」
言葉は出なかった。いつものように無口だから…というわけではない。
感情に押しつぶされていた。
彼は…もう立つことができない。
怪盗 ニーズエル・E・G・アルカンステル――――――――――――― 死亡。
怪盗 エクサタ――――――――――――― 精神的に戦闘不能。
◆怪盗名鑑◆ #5
ニーズエル・E・G・アルカンステル
本名――――不明
人種――――イギリス人
年齢――――22
アルギュロスが近いうちに訪れるDDF争奪戦に供えて、海外から呼び出した4人の怪盗のうちの1人。
アルギュロスの死を確認した後は、同じくアルギュロスに呼ばれたエクサタ、ニーズエルと共にシルバーを追い、彼女のDDFを追う旅に同行する事となる。
元々は探偵協会の一員だったが、カース・ミラーで得たドラゴニック・エンゲージの力で人生が一変。
カースアーツの呪いで抗えぬ食人欲求を得て、自らの家族をも食い殺す殺人鬼となり、アルギュロスに会うまで放浪の人生を歩んでいた。
努力の果ての絶望を味わった彼女は、考えるという行為にトラウマを持つようになり、短絡的な思考しかできない人物になっていく。
抑えられぬ食人衝動は、不死身の体を持つエクサタを食すことによって抑えている。
エクサタに対しては激しい罪悪感を感じつつも、恋仲の関係。
カースアーツの呪いで推定寿命は残り1~2年。
【カース・アーツ】は【自己強化特化型】の【魔龍の契約<ドラゴニック・エンゲージ>】
契約者は、竜人に変身し、超人的な身体能力と、火炎を吐く能力を手に入れる。
副作用として、肌が白くなり、寿命がごくわずかになり、食人欲求が芽生える。
◆怪盗名鑑◆ #6
エクサタ
本名――――不明
人種――――不明
年齢――――16
アルギュロスが近いうちに訪れるDDF争奪戦に供えて、海外から呼び出した4人の怪盗のうちの1人。
アルギュロスの死を確認した後は、同じくアルギュロスに呼ばれたエクサタ、ニーズエルと共にシルバーを追い、彼女のDDFを追う旅に同行する事となる。
元々は不死身の能力者組織『アヴァンティ』の実験場から逃げ出した被検体の1人であり、ニーズエルに会うまでは放浪の人生を歩んでいた。
自身のカース・アーツ『百足<センチビート>』と不死身の肉体は『アヴァンティ』の実験で手に入れたもの。
彼が寡黙なのも、ここでの実験でのトラウマで無いかとアルギュロスからは推測されている。
ニーズエルに自身の肉体を提供しているが過去に心の穴を埋めた事もあり、むしろ彼女には好意を持っている。
【カース・アーツ】は【使役獣召喚型】の【百足<センチビート>】
最大召喚数は"約30"。
契約者が何かに衝撃を与える度に、任意で召喚できる光の精霊。
光の精霊は、契約者の遠くまでは移動できないが自由自在に操る事が出来、自由自在に爆裂されることが出来る。
爆裂した精霊は保存していた衝撃エネルギーを数倍の威力に増幅させ、エネルギー波のようにそれを放出する。




