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ディープ・デッド・フィラー  作者: とくめいきぼう
第四章 死と絶望が躍る約束の地・岐阜県
37/75

第37話 狂気は時を越える

 時は、1666年。

 悪魔の数字【666】の頭に1を付けたこの年、キリスト教圏の人間達の間では何か不吉な事が起こってしまうのではないかという不安のうわさ話が絶えなかった。


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 【666】

 聖書・ヨハネの黙示録において、獣が人間に刻印に刻んだ文字として知られる。

 キリスト教の関係者達は、この数字を

 『獣の数字』『悪魔の数字』『世界を影から支配する数字』等と呼び、

 異常なまでの恐怖を抱いている。

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 そう、この1666年――――

 誰も彼もが何かが起こると、そう予感していた。確信していた。

 しかし悪い予感がしながらも、月日は流れる。

 January、February、March、April、May、June、July、August、September、October、Novemberと――――月日は無慈悲に流れていった。

 そう…ただ流れていくだけだった……

 スコットランド(イギリス)では第二次英蘭戦争の最中であったが、それもいつもと変わりのない死と生が流れる普通の戦争であった。

 今までと変わりない幸福と今までと変わりない不幸の日々――――


 ついにはDecember…12月が訪れると、人々は666の事などとうに忘れ、今年に何か不吉な事が起こると未だに確信していた者は一部のキリスト教信者や怪しい預言者ぐらいしかいなかった。


 そう―――1666年は、特に何も起こらない―平和な年であったのだ。


 ただ一つ、『黒百合の種が残されたという事柄』、それ以外は………


--------------------------------------------------------------------------


 ある一人の少女の話をしよう。

 その少女は、悪魔の年、第二次英蘭戦争の最中の1666年の11月13日にスコットランドの病院で産まれている。

 父は第二次英蘭戦争でイギリス海軍に出兵され1667年に名誉の戦死を遂げているが、貧困とは無縁の裕福な生活を送れていた。


 14歳にまで育った少女は、街では心優しいおっとり系の美人お嬢様と評判であった。

 コミュニケーション能力が高かったため、友達も多く、彼女に情熱的な愛情の視線を注ぐ男子も少なからずいた。

 そう、彼女は優しい普通のお嬢さん――――誰もがそう思っていた。

 しかし、彼女には隠された実態があった。


 少女には人とは違う一つの特徴があった。

 誰よりもどす黒く、人を恨める才能があった。

 余談だが、ここでいう人とは違うというのは『他人とは違う』という意味では無く、

 『人間では本来持ち得る事が出来ないような』という意味である。


 彼女は他人には決して明かさなかったが、とても恨み深い性格の持ち主であった。

 自分に吠える犬、風邪をうつした相手、暴力を振るった相手、そんな奴らを彼女は決して許しはしなかった。

 必ず、度を越えた超絶的な復讐を行うようにしていた。

 自分に吠えた犬は罠に捕え、バラバラにして捨てられた。

 風邪をうつした相手は、崖の上から突き落とされ、脳みそを撒き散らし死んだ。

 自らに暴力を振るった相手は家族もろとも、夜な夜な誰にもわからないよう、焼き払らわれてしまった。


 今の、14歳の時点で彼女はすでに23人もの人間をその手で殺めていた。

 戦争に赴いていた兵よりも、多くの人間を殺していた。


 しかし、証拠は何も残さなかった為か、普段の優しい振る舞いが幸いしたか、殺人事件が起きても、誰も彼女を疑う事はしなかった。

 彼女は、生ける無敵の殺人鬼であった。


 しかし、ある日、彼女の無敵の日々は終りを告げる――――

 何ら変わらないいつもの夜に――――


 その日の夜、PM8:00

 彼女はいつもと同じようにベッドに入り、目を閉じようとしていた。

 そう、その時であった。


「キャアアアアアアアアアア――――――――――――――――ッッ!!!!」


 台所から、突然母親の悲鳴が聞こえた。

 母親の事が心配になった彼女が、台所に飛び出すと、そこには身長2m以上で【レンガ】を両手に持っていた人間が立っていた。

 フードで顔が隠れていたため、顔は分からなかった。その性別さえも。


「た、たすけ……誰か……」


 彼女がレンガの者に背を向け走り出す。

 

 しかし……彼女の背首に強烈な衝撃が走る。


「キャッ!!ああッ……!」

 レンガの者が右手に持っていたレンガを投げ、少女にぶつけたのだ。

 少女が一瞬意識を失い、うつ伏せに倒れる…


 レンガの者が一歩一歩と少女との距離を狭めていく。


「ど、どうしてこの私がこのような結末に……!?嫌ッ……嫌ァァ!!!何も悪いことしていないのに、死にたくな―――――――――――――」


 レンガの者が左手に持ったレンガを振り下ろしドンゴン!!!!!!

 少女の生は――――――――14歳で終わりを告げた。




                  少女の名はイリーゼ・ライシャワー。

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 しかし、しばらくするとイリーゼは意識を取り戻していく。


「え――――」

 目を開けると、まず目に映ったのは変わり果てた自分の姿であった。

 その姿は腕と足が無く、『黒く光り輝く』物体であった。


 次に目に映るのは、無数の流れる物体。

 自分と同じ形をしていたが。輝きの色は自分とは違い、『白』、または『灰色』であった。


 そう、ここは――死後の世界。言い換えれば【呪いの鏡<カース・ミラー>】の中の世界。


 【呪いの鏡<カース・ミラー>】が、イリーゼを含む辺りの死者の魂を吸収し、【呪いの技術<カース・アーツ>】となるのにふさわしい魂を選別しようとしているのだ。

 光り輝いているのは、人間の魂だ。


 『白い魂』は――――

 死の直前に後悔、恨みなどの負の精神エネルギーを纏っていなかった―――カース・アーツの媒体としてはふさわしく無い魂。

 この空間からは、真っ先に退場していく。


 『灰色の魂』は――――悔いのある魂。

 カース・アーツの媒体としてふさわしく、中々この空間からは退場しようとはしない。


 ―――そんな事を知らない、知りようも無いイリーゼは、

 ただ、生前の事を想い――――自らの憎しみを増大させていく。


      『あのレンガ殺人鬼、クソ野郎が――

       この私に恐怖を味あわせやがって!!

       でも、あれを味わってない人間が

      この世界にはまだまだいるのよね………

       なぜ私だけがこんな目に!!!』


    『私より幸せな全ての人間を殺したい――――!!

      私はあんな辛い思いを味わって死んだのに、

   それを知らず生きている人間どもが憎い、憎すぎる!』


      『ここが何処で何なのかは分からない―

         でも、私は蘇りたい。

      生き返ってすべての人間を殺したい!!!』


 イリーゼの魂が更に『黒く』変色していく。

 この空間の中で、誰よりも濃く、光り輝く光になっていく。


 『黒色の魂』は――――常人を遥かに超えた、憎しみや悔いを持つ人間の魂。

 カース・アーツの媒体としては最高級。


 イリーゼの形が―――変わっていく。

 人型だ――――2m30㎝ほどの、巨体、両手にはレンガを持っている。


 家族を目の前で殺され、強姦され続け死んだ女性や、10年の拷問をされ続けた囚人でも、ここまで黒く濁った魂にはなりはしない。


 彼女は、その恨みの才能のみで、誰よりも濃い黒さを持つ魂へと変貌していった。

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 1733年、彼女は【カース・アーツ】として、復活する。

 そして、莫大な恨みのエネルギーで一瞬にして使用者の体の人格を乗っ取り、大量殺戮を開始する。


 そして、彼女は4万人もの人間を殺したが、1000人をも超える【カース・アーツ】使い達と対峙して、両者相打ちとなり、レンガで不意をつかれ、2度目の人生を終えた。


 しかし、彼女の魂は滅びない。

 通常使用者が死ねばその者が所持していた【カース・アーツ】の魂も滅びる筈なのだが。

 イリーゼは使用者の魂に取りついていたため、【再度呪いの鏡<カース・ミラー>】に回帰する事となった。


 このように、使用者を乗っ取って、再度【呪いの鏡<カース・ミラー>】に回帰する現象は一部の【カース・アーツ使い】に【渡り】と呼ばれている。

 【渡り】を行った【カース・アーツ】は、他の【カース・アーツ】よりも強力な能力を兼ね備えていることが多い。


  何度死のうが無限の渡りを行うイリーゼ……

 彼女はこの【カース・アーツ】使いの世界において、知らず知らずのうちに災厄、災害のような存在となっていた。


 そして、1969年。イリーゼ…レンガ・ウーマンは、

 黒霧四揮の体を乗っ取り、再度災害としてこの世界に君臨する。

 全ての人間をレンガで殺す、ただそれだけの為に――――――


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