第32話 殺人鬼が来る
[12年前、イギリス]
ザザ――――――――――――――――――――――――――――――――
雨が、降る。雨が二つの死体を打ちつける。
一つは女性、白く美しい肌をしており、髪は金髪。もう一つは、男性だ。
銀髪、銀の瞳、褐色肌と言う神聖さのある外見をしていた。
一人の少女がそこに来る。銀髪で赤い目をした少女――――
少女は、二人の死体に近づき、褐色の男性が"右手"に握っていた何かをそおっと自分の手の中に移した。
それは『ロケットペンダンツ』であった。そしてそのロケットペンダンツの中には、家族写真。
死体となる前の二人とその娘が、幸せそうにしている、家族写真。
「――――………あ。」
少女が、涙を流した。しかし涙は、すぐに雨と同化した。
「正義―――これが私の正義なのか……こんなものが……」
「こっ…これは!?」
ふと気が付くと、少女の前に、一人のシルクハットをかぶった男がいた。
「――――『エクス』さん。」
「お前、お前まさか………」
エクス――――12年前、まだ20代だったころの怪盗エクス・クロス。
「…………」
少女が立ち上がり、『エクス』に背中を向ける。
「待てッ!待ってくれッ!」
エクスの声など聞こえていないとばかりに、少女はそのまま歩き始めた。
エクスが銃を抜く、そして、少女の足元の地面に、弾丸を数発発射した。
「どこへ行くんだ!私は何も聞いていない!!ここで何があったか!?ここで君が何をしたか!!」
「これまで、一度も思った事は無かった。疑おうとも思わなかった。でも―――今初めて疑問に思ったんだ………」
「え――――何と言った?」
彼女の呟きは小さく弱く、エクスには届いてはいなかった。
「本当の正義……『絶対正義』は、何処にあるんだろう…」
そのまま、少女は霧のようにその場から姿を消す。
そして、やがてパトカーのサイレンが近づく音が鳴り響き、エクスもその場から姿を消す。
後日少女は、その二人を殺した英雄として崇め称えられた。
少女の名は―――――【夜調牙百賭<やちょうがびゃっか>】。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆
そして―――――――――――現代
岐阜で、謎の無差別レンガ撲殺事件が発生していた!
◆――――――――――――――――――――――――――――――――――――
犯人はAM6時に岐阜県岐阜市内に突如として活動を始めたウルトラシリアルキラー♀。
動機不明、また、正体も不明。細身の体系でありながら、身長は2mを越えている。
髪は地面に付くかつかないほどの藍色のロングストレートで、黒いコートを着ている。凶器は両手に持つレンガ。
通りすがる人間は女子供であろうと容赦なくレンガを叩きこみ頭部を爆裂される。
また、積極的に人のいる場所に向かい、無差別にレンガで大量虐殺したりするらしい。
「そしてその殺人鬼こそ…最後の三羅偵らしいわ。」
「…」
BLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!
岐阜県の道路を青いTBOX(車)が走っている。運転席に睦月、その隣にエクサタ、後部座席にシルバーが座っている。
「とにかく、普通の人間でないって事は確かだと思う。だけどなぜ無差別攻撃を…?私たちだけを攻撃できないのか?」
「性格が狂暴…なのかもしれないわね。」
T-BOXがどっかのガレージに停車し3人が降車する。そしてその3人の眼前に広がるは――――【建設中デパート(2F)】の入り口。
「工事中だったらしいが、殺人鬼の出現と共に現場の人間は避難したらしいよ。
つまりここには―――誰もいない。我々はしばらく、この場所で待機し、敵の動向を伺う!」
「ニーズエルやエクスさんは先にここに来てるんだったなわね…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
東結金次郎との戦いから1日後―――AM10:42
岐阜県岐阜市―――博物館から9㎞離れた場所にある建設中デパート。
シルバー達三人は、この廃デパート内一階ロビーで、コンビニに買い出しに行っていたニーズエル&クロスチームと合流する。
そのまま5人は、デパート内のレストランへ向かう。
「睦月、ここは室内だ、光が弱い。」
「―――?シルバー?」
「蟻の【カース・アーツ】、【ダーク・ウォーカー】を出して我々5人以外でこの廃デパートに出入りする奴を徹底的に観察して。」
「…シルバー、言うのが遅かったね。既にこの私は『能力』を発動させている。」
+
睦月のカース・アース【闇を歩くもの<ダーク・ウォーカー>】は、自分や自分の触れた物質の影に蟻の形をした紫色の化物を出現させる能力。
化物は闇の中でのみ活動でき、光に当たると弱体化し、いずれ消滅する。
射程はかなりの広範囲で、複雑な命令をさせないのなら、1000体程召喚できる。
ちなみに、視界のみなら睦月とある程度の共有は可能。
+
そして全員座る…
「ランチタイムだ!!!」
ニーズエルがレストランのテーブルの上に持っていたビニール袋の中身をぶちまける。
バァァァァ―――――――――ンッッッ!!!!!!
中身は――――サシミ!!寿司!!!!!!そして寿司ィィーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!
「やっぱJAPANと言えば寿司でしょ!!!!!1」
「ほっほっほ!」
「なんてことしやがる…」
「あっ、シルバー生もの駄目だったんだっけ…」
「怪盗と言う仕事柄、外国人の怪盗や情報屋とかと食事する事はしょっちゅうあるんだけど…何故どいつもこいつも、必ずと言ってはいいほど寿司を喰いたがる…!」
ババァァァァ―――――――――ンッッッ!!!!!!
エクス―――――オーストラリア人・来日5日目
ニーズエル―――イギリス人・来日5日目
エクサタ――――ロシア人・来日5日目
「そりゃ外国人が日本に来たら日本の伝統料理を食いたい思うだろ…私だってイタリアとか行ったら多分真っ先にオッソ・ブーコとかポレンタ食べに行くよ…」
「最近週一でこれ食ってる気がする…」
「お、落ち着きなってシルバー!ほら、卵ときゅうりは全部やるから…」
ふてくされながら睦月からもらった寿司を食べるシルバー…そう…寿司を食べたのだ――――しかもこいつ、二つ同時に!
「ちょっとシルバー、二つ同時に食べるのはマナー違反でしょう?」
「うるさいなぁ。で、そっちの袋にはちゃんと注文したタバコ入ってんだろうな?」
煙草の銘柄――――"暗黒"!!
「頼んだ銘柄と違え………ッッ!!」
シルバー魂の悶絶!!!
「それアタシが吸う用だから。」
「てめー結局自分の好みのものしか買ってきてないじゃねーか………ッッ!!」
悶絶ッ…悶絶ッ…!!
「というかシルバー、喫煙するんだ。」
「―――まぁな…2年前からやってる。稀にしか吸わないけどな。」
「――おい待てよ、シルバーは私と同じ二十歳で、2年前って事は…未成年喫煙してたのか!」
「いや、驚くな…ッ!今更だろ…ッ!私達怪盗だろ…ッ!!存在が犯罪だろ…ッ!!!!」
そしてなんやかんやあって茶番終わる…
「―――――シルバー…少し付き合ってもらってもいいか。」
エクスがシルバーに話しかける。その顔はとても言葉で表せないほどにシリアスだった…シルバー察し無言で、「コク」と小さくうなずいた。
「どうしたんだ。シルバー、エクスさん。」
「心配ないニーズエル。少し彼女と、プライベートの話をしたいだけだ。」
「??????????????????????????」
そして二人レストラン出る…
「エクス―――その顔は何だ?お前いったいこの私に何を話すつもりなんだ。」
「その発言、今までの発言、その顔。やはりお前さんはまだ何も気づいておらぬようだな…アルギュロスから、私の正体を知らされてなかったので無理もないが…」
「急に何を言ってんだアンタは…」
「シルバー、実はこの私―――怪盗エクス・クロスは、夜調牙百賭、彼女の正体と、その【カース・アーツ】の能力を知っている。」
「な―――――――――」
ドドンゴドンゴン!
あまりの衝撃的な発言に、シルバー一歩たじろいた。
「――――な、何を言っている?証拠はあるのか?」
「これを見るのだ…」
エクス写真渡す…その写真には、12年前のエクスとシルバーの両親が仲良さそうに映っていた。
「これは―――12年前の、私の父さんと母さん…馬鹿な…アンタ一体…」
「私は…かつて、お前さんの父親『プラズマス・グラン』即ち怪盗アルゲントゥムと親友の関係にあった男だ…」
(馬鹿な……聞かされたことが無い…!それに写真合成―――アイコラの可能性もある。
だが信用に値するかどうかは置いといて、話だけは聞いておくか…)
「…わかった、聞くだけ聞いておこう。だが、知っていたなら、なぜ今となって話すんだ…」
「……理由は3つある。集中力が低下している【増呪酒】の副作用が発現しているタイミングでは
言いたくなかったというのが一つ目の理由。私に心の準備が出来ていなかったというのが二つ目の理由。
そして3つ目…百賭…彼女自身の事情を考えるとどうしても言いにくかった。」
「彼女自身の事情だと…?まさかアンタ、あの百賭に肩入れしてるんじゃ…」
エクスがすうっと息を吸い込んで話し始める。
「いいか、よく聞けシルバー、『百賭』の能力は時間だ!その場の時を数秒間記録し、好きなタイミングでそれを再生できる能力!」
「じか………」
ダン!
「な――――――誰かがこの廃デパート内にまっすぐ向かってきている!!」
睦月の大声が響き、二人の話は中断った。
「………―――!!エクス!アンタの話、後で聞かせてもらうぞ!!」




