第31話 心の崩れ逝く先
あらすじ:
シルバーたちは激闘の末…三羅偵・東結金詩葉金次郎を撃破した。
だが、岐阜県にレンガで100人以上を無差別で撲殺する女が現れたという。
【D・D・F】の入手は、さらに混迷を極めている…
「殺せッ!!!!」
倒れる東結。それを見逃そうとするシルバー。
だがそこに割って入ろうとする一つの影があった。
ニーズエル・E・C・アルカンシエル。
外傷はないが寒さにやられ体は既にフラフラで…意識をやっとのところで保っている。
「シルバー!!そいつは殺すべきです!!」
「ニーズエル!!」
「あまいですよ…探偵を…探偵を生かしてはいけない!!」
その眼には憎悪があった。ニーズエルは、探偵を深く恨んでいる。
シルバーはそう認識した。
しかしシルバーにとって東結はもはや両脚を失い、全治数か月のけがを負った存在。
今後の【D・D・F】の争奪戦に介入できるはずもなく、もはや脅威でもない存在。
怪盗シルバーは、不要な殺しはしない。
「東結金次郎を恨んでいるの?」
「違う…探偵自体が悪なんです……!!だから…だから……!」
噛みあわない二人の会話。
そこに入ったのは。
「彼女はもともと、【探偵協会マレフィカルム】…【ロシア支部】の探偵だった。」
「!…エクス!」
怪盗エクス・クロス。彼はニーズエルの過去を知っている。
「もう立てるの?」
「いや、ダメージ負ってないから…」
「しかし、どういう事なの、ニーズエルは…『元探偵』の怪盗…?」
エクスが息をのむ。
そしてニーズエルに視線を寄せ、無言で彼女の過去を語る事への確認を取る。
顔を横に振る。ニーズエルが言葉を発する。
自分の過去は自分で語るというのだ。
「その通りです…私は…『元探偵』なんです。探偵として…生きるはずだったんです!」
「なぜ、怪盗に…?」
「奴らは私の人生を許さなかった!!奴らが【カース・ミラー】で与えたこの【カース・アーツ】
【ドラゴニック・エンゲージ】は、私に抑えきれないほどの【食人欲求】を分け与え…!!
その欲求で私は自分の『家族全員』を食い殺す羽目になったんです―――――!!!」
「…………!!」
「うぇッ…うぇッ…オエエエエ!!!」
びちょっ…びちょっ……
過去のトラウマがフラッシュバックしたニーズエルが、嘔吐する。
自らの家族を自らで食す。それは計り知れない悲しみであった。
ふとシルバーがかつて自分を慕っていた『右堂院義弘』の事を思い出す。
彼も探偵協会本部で試験を受けるまで、自分が【カース・アーツ】使いになることを知らなかった。
『探偵協会』にはそういう闇の部分がある。
シルバーもそれを知っていたからこそ、彼女の恨みを否定できなかった。
思えば、『右堂院義弘』が私立探偵から『探偵協会』に引き抜かれたのは、自身が彼の推理を何度も手伝っていたことにも起因するのだろう。
『右堂院義弘』を殺したのは、自分の未熟さ。
ニーズエルの話を聞き、シルバーの胸の内に、また一つ罪悪感が生まれた。
エクスはニーズエルの背をなでこういった。
「スラム街でボロボロになり…エクサタと共にスラム街を放浪していた彼女を怪盗にしたのは、君の祖父アルギュロスさんなんだよ。」
「そうか…」
気を取り直したニーズエルが、倒れる東結を蹴り、仰向けにさせる。
「げほっ…げほっ……いいぜ……恨みをぶつけて、俺ちゃんを殺しなよ。
『探偵協会』は、一見正義の組織だが、怪盗にも劣らず罪多き咎の組織…。
だが協会は贖罪もせず…責任を放棄する…
俺ちゃんは幹部だから…そういうのはよく知ってるぜ…
ニーズエル、俺ちゃんを殺れ…協会の責任…全てとは言えねえが俺が背負うぜ…」
「う、うああああああああああああ!!探偵!!!死ねええええええええええ!!!」
ドンゴン!!!
ニーズエルの腹に…『一本の赤い刃』が突き刺さる!!
「え―――――――――」
「【エンプレス・シャドウ<女帝の影>】…」
女の声が聞こえたと同時に、ニーズエルが、吹き飛び、倒れる。
シルバーも、東結も、エクスさえも唖然とする。
最初に動いたのはエクスだった、彼はニーズエルの心配をし…
「二―――――――ーズッ!!」
飛び込む!!
だが、彼は異変に気付く!!
「ど、どうなっているんだ……」
ブモオオオオオオ!!!!
キリン!!!ヘラジカ!!シマウマ!!あらゆる動物が周りを駆けていた!!
なぜだ!?この辺りにいる野生動物にしては、あまりにサバンナじみたメンツ!!
そして彼らは何かから逃げている!!!
何からだ!!その正体はすぐにわかった!!
グルルルルルル!!
ジャガー!!ジャガーが現れた!!
動物のジャガー!!
草食動物が恐れされる動物といえば、まずこいつの名前が挙がる、ジャガー!!!
何が起こっているかわからんまま、草食動物を取り逃がしたジャガーがこちらを見る。
【ムカつく野郎どもだ、殺すか……】ジャガーに言葉を発す能力があるなら、彼はそう言っていただろう。
勃発する、【カース・アーツ使い】VSジャガーのドリームマッチ!!
しかし、そう思ったとき。
「AaRyyyyyyyyyyyyy…………」
一人の黒髪ロングの女が横から乱入してくる。瞳は漆黒、服は白いワンピースで清楚系の印象を受ける。
そして若い、中学生ぐらいだろうか。
だが、その女は邪悪な笑みを浮かべていた。
「お、おい」
エクスが静かにつぶやく。
「がお~~ん!」
凄まじい迫力と威圧感を帯びた咆哮を上げながら、ジャガーが黒髪ロングの女に襲いかかる。
黒髪ロングもまた攻撃の姿勢に入る。手刀の姿勢だ。
だが人間の手刀ごときでジャガーは倒せない。1000発入れても倒せないだろう。
「しゅっ」
だが、黒髪ロングは手刀を撃った。それはスナイパーライフルのように狙いを定めた強烈な刺しの手刀だ。
手刀が狙ったのはジャガーの目。ジャガーの目に女の手が突き刺さった。
深く突き刺さる。女の肘まで突き刺さった。
「がお~~!」
女が突き刺した手を引き抜くと、ジャガーが涙を流した。
これでは肉食獣の威厳などない。まるで人間の赤子だ。
そんな探偵の所業を見てシルバー、エクスが警戒態勢に入る。
銃を向ける。
「動物園。」
女がそういった。
「最後の三羅偵・【黒霧四揮】が無差別に暴走し、近場の動物園を襲ったの。」
ジャガーが逃げようと立ち上がる。目の前の女は、人間でないと悟った。
ドンゴン!!!
ジャガーは爆裂し、肉片と化した。
「なんてことはない…」
「【カース・アーツ使い】!!探偵!!東結との戦いで疲弊した私たちを確実に始末しに!!!」
二人が銃を撃つ!だが、ジャガーの肉片が赤い刃となり銃弾を弾く!!
「その赤い刃の能力…さっきニーズエルを襲ったのもお前か!!」
エクスが【極限】まで薄められたトランプを投げる、赤い刃を切り裂き女の腕を切り落とした!!!
だが…女は笑っている。
女の顔を見て、死にかけの東結はこういった!
「『乱渦院…虐奈』!!」
「ろ…乱渦院だと……?」
シルバーが震える。かつて自分を最も苦しめた女。それはロンカロンカと同じ性。
「虐奈は、ロンカロンカの二人の妹のうちの一人だ!!テメェ、確実にシルバーを始末するつもりか!!」
くっくっく。虐奈がそう笑う。それはロンカロンカとある意味瓜二つで笑う。
生涯で最も最低の笑い声。
だが、彼女は眉間にしわを寄せる。怒りの感情をあらわにする。
その表情は、常に冷静であったロンカロンカの印象とは違った。
「始末?仕事ではあるけど、これは【復讐】だよ。シンプルな目的だろう?
百賭とかいうゴミクズやろうが私に機会を与えたんだ。論夏姉さんの復讐という機会を!」
ニーズエルが立ち上がる。そして彼女はこういう。
「みんな、気を付けて…!!そいつの攻撃は、傷を起因とする【条件攻撃型】!!」
「!」
ニーズエルは東結の体の傷から放たれた赤い刃に刺された。
ライオンは目の傷から爆裂した。
そしてそのライオンの肉片もまた赤い刃となった。
傷を起因とする【条件攻撃型】…それがニーズエルの推理。
だが虐奈は能力を推理されてなお余裕の表情である。
「ちょっと、勝手に推理しないでしょ、無駄だから。」
その発言通り、能力の種がバレようが、もう手遅れであった。
「すでに発動しているの。」
紅い波動が辺りを包んだ。
すると同時に3人がもだえ苦しむ。
「「「ぐ、ぐああああああああああああああああ!!!!」」」
能力の名前は…【エンプレス・シャドウ<女帝の影>】。
その【カース・アーツ】が、傷を起因とするならば、シルバーは既に重症。
エクスも傷がある。
ニーズエルは先ほど刺されたときに傷ができた。
3人の傷が徐々に広がっていく。
「…このまま座っているだけで、お前たちは死ぬ。なんて楽な仕事なんだ…探偵協会はホワイト企業だな~~!!?そう思うよなみんな~~!?」
「ぐわああああああああああああああああああ!!!」
「ち…クソ……すでに奴の術は決まっていたというわけか!!確実に私たちを始末するための術!!!」
傷の浅かったニーズエルが飛び、火炎放射で虐奈を焼く!!
だが何故か虐奈にはダメージが通用しない!!それどころか、先ほど切断された腕までも元に戻っている!!
「自分の傷を治している…!?」
「AaRyyy……無駄なことを……」
傷を操作する【カース・アーツ】ということは、傷の拡大も、傷の再生も自在という事!
だが虐奈は怒れている!論夏を失ったことへの恨み!
「かつて平凡を生きてきた私にとって…論夏姉さまは大いなる黒き光だった…
ちっぽけな私に、彼女の妹という大いなる栄光だったの!!
お前たち如きがそれを奪っただと…?この程度の実力で…?
私のはるか上を行く姉さまを…」
虐奈が指から何か「機械のような何か」を弾き、上空数十メートルまで弾き飛ばす。
するとその「何か」は、赤いオーラをまとってみるみると巨大化し、40mほどの「スペースシャトル」の形状に代わっていく。
エンプレスシャドウの能力で機械の傷を修復し、元に戻したのだ。
「な……!」
「【エンプレス・シャドウ・クラッシュダウン<投下圧殺>】!!」
トドメの一撃となった「スペースシャトル」が重力を覚え、シルバーたち目掛け落下していく。
一方で東結はその光景を見ながら怒りを覚えていた……
そして悔し泣きながら言葉を発する。
「【黒霧四揮】が暴走してるだと……!?馬鹿な!!俺が負けてから発動が早すぎる!!!
百賭様!!最初から俺たちの約束など……」
東結の約束とは、自分がシルバーを倒したら、【三羅偵・黒霧四揮】を開放するなというものである。
しかし【黒霧四揮】はシルバーと戦っている間に、すでに解放されていた。
彼女は最初から約束など果たすつもりなどなかったのだ。
そうとわかったなら再び東結の体が立ち上がる。氷の鎧が生成される。
こんなところで終わってはならない。
シルバーも自分も倒れるわけにはいかない!!
俺がスペースシャトルを止める!!
「えっ……!?」
東結が笑い、絶対零度のツタでスペースシャトルを受け止め、虐奈へ向かう。
虐奈はそれが予想外だったようで、後ずさり、ジャガーの肉片を刃にして攻撃する!
だが東結の絶対零度の鎧にはそれが通用しない!!
「な、なんだと……!?何のつもりです!?」
「射程圏内から、離れたぜ。シルバーちゃん。」
「!」
条件攻撃型は、その多くに射程範囲がある。虐奈の半径数mから離れたことによって、3人全員の傷の広がりが止まっていた。
「シーフ・シルバーちゃん!聞きな!!【黒百合探偵・黒霧四揮】は探偵協会日本支部で【最強のカース・アース】使いだ!!!」
「!!」
「だが、奴はその恐るべき『能力』をもってして、6桁にも及ぶ数多くの人を無差別に殺し、封印された!!
だから俺ちゃんは、奴を開放させないよう、百賭様の命令を聞いていた!」
「東結……お前まさか!!!」
「だが、それももう終わりさ…ニーズエルちゃんよ!すまねえな!やっぱ責任取れねえみてえだわ!!」
東結が傷を氷で封じる。そして、男にして女になる。東結・金詩葉金次郎。
命を削る、最後の攻撃。
「いけよ怪盗ども。このロンカロンカに心を囚われた亡霊女は」
「俺ちゃんが」
「私ちゃんが」
「食い止める!!!!」
不殺主義はその心の弱さの証明。
姉になり切るのは心が砕け散った証明。
でもそれでいい。納得のみが我が探偵道。
三羅偵。その称号は、この強さと魂に与えられた証と知れ!!
「東結…金次郎…」
シルバーたちがその場所を後にする。
一礼を行った怪盗たちを後に残ったのは、一人の正義の探偵と、悪の探偵。
二人が静かなる路上の上で―――――――――対峙る。
「……東結金次郎如きが…我が復讐の邪魔を……!!」
「本性を現したわね、虐奈。もっとも、貴方如き小物じゃあ、ロンカロンカには遠く及ばない。
私が助力しなくてもシルバーは倒せなかったかもね。」
「AaRYYYYYYYYYYYYYY……!!」
第三章 動かぬ探偵と心の崩れ逝く先-----------完結。
◆探偵名鑑◆ #6
東結金次郎
異名――――――動かぬ探偵
人種――――――日本人
年齢――――――37歳
身長――――――183cm
探偵協会マッレウス・マレフィカルム日本支部の頂点に君臨する三人の探偵『三羅偵』の一人。
陽気な性格で、態度も不真面目気味な為、動かぬ探偵と呼ばれている。
しかしその実マレフィカルム日本支部の幹部では唯一常識人に近い感性と正義感を持っており、夜調牙 百賭のやり方にも疑問を持っている。
かつてロンカロンカに姉・金詩葉を殺されており、そのことがトラウマとなっている。
【カース・アーツ】の能力は息を吐くタイミングに限り、特定範囲内の冷気を自在に操ることが出来る
【俺の体温は-273.15度<アイアム・アブソリュート・ゼロ>/
アタシの体温はマイナス一億度<アイアム・ワースト・オーバー>】




