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ディープ・デッド・フィラー  作者: とくめいきぼう
第一章 黒い宝石と怪盗の日常
3/75

第3話 D・D・F入手!

 午後8時10分。

 犯行予定時刻から10分過ぎたところ。

 新潟宝石博物館地下2階に、人影があった。


「さて――――怪盗の時間の始まりよ。」

 シーフ・シルバーである。

 彼女の潜入作戦はすでに始まっていた。

 探偵たちの合流を待たずに。


『それにしても、上手くやってきたようだな。』

「ああ、新潟最強の探偵夢天耀とその配下の新潟フォースナイトは

 …既に"始末"した。」

 夢天耀たちは既に始末されていた。

 無情に。戦いに参戦するまでもなく。

 邪魔者扱いされるかのように、消されていた。

『流石。』


 怪盗の天敵は探偵。

 その探偵を最も無防備状態であるプライベートの間に叩いて無力化する。

 このシルバーの合理的かつ冷酷な作戦に、怪盗ロルも戦慄の賞賛を送った。

 これもまた、探偵VS怪盗の心理戦の在り方。

 その一つといえよう。


「さて、【D・D・F】は地下12階――――」


 ここからは本格的な潜入である。

 新潟宝石博物館地下には様々な罠がある。

 そしてその罠は、地下深くに進めば進むほど強力なものになっていくようだ。

 地下5階には、不法侵入者を問答無用で焼き殺す火炎放射器。

 動く人体切断レーザー。

 地下8階からは、毒ガス装置が無数に配置されている。

 警戒レベル86。その情報は伊達ではない。


 だがシルバーには考えがあるようだ。

「このトラップを無効化出来る筈、もしくは抜け道がある筈なのよ…

 じゃなきゃ、【D・D・F】をここの地下に安置することなんて到底できない。」


 当然の理論であった。

 シルバーが探すのは、職員が地下に向かう際に使用する手段。

 地道に痕跡を探していくしかない。

 だが、その状況にしびれを切らしたのか、ロルの声が入った。

『シルバー、そこのトラップはパスワード入力。

 そしてお前が事前に館長から盗み出したカードキーを使えば簡単に無効化出来る筈だ。』

「パスは全部【1015】館長の誕生日だったな。すごいマヌケね。」

『怪盗にとって事前の調査は基本中の基本…。

 探偵が来なけりゃ確実に【D・D・F】を入手できるな。』


 潜入は順調に進んでいた。

 シルバーは既に【D・D・F】を目前に目を光らせている。


―――――――――――――――――――――――――――――

 一方その頃。

 夢天耀達が来ないという事で、博物館玄関前ではパニックが走っていた。

 その中で唯一冷静であった警察署長だったが…

 一人の部下が、彼に駆け寄った。

「署長!派遣した警察隊が新潟探偵事務所のみなさんの家の玄関を爆破。

 中に入ったようですが…」

「どうなっていた?」

「全員寝てました。」

「は?」






「寝てただとォォォォーーーーーッッッ!?

 ふざけんなッ!!!寝坊したとでも言うのか!!!!

 あいつら学生気分で探偵やってんのかコラァァァーーーーーーーッッ!!!!」


 署長の心臓が煮えたぎる。怒りが天に達した。


「そんなに怒らなくても…

 あっ、夢天耀さんが署長に伝えたい事があるらしいですよ。」


 署長が部下から乱暴に無線機を奪い取る。

 それに噛みつきながら。

「なんだ!!夢天耀さん!!!」

『おわあああああああああ!!!!!!怖い!!!怖い!!!!!!!!何も見えないよおオオオオオオオオオオオおお!!!!!!!!!』

「は――――?」


 電話先の声には、あの狂わしき笑いをしていた男の大物感は無かった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 そして怪盗シルバー。

 彼女はついに目的の品がある地下『12階』まで潜入を完了させていた。

 目線の先の三角形の黒い宝石を睨み、殺気を放つ。

 【D・D・F】。それが、そこにあった。


「ついに見つけたわ……私の"運命を変えた"宝石……」

 歩きながらそう言う。

 だが、シルバーの背後に4mほどの大きな人型の影が迫る。

 これが、博物館最後のトラップ。

『シルバー気を付けろ!後ろから誰か迫っている!』

「わかってるわ!!!」


 4mの巨影がその巨大な腕をシルバーに向かって振り下ろす。

 しかしシルバーが真横にステップを踏んでそれを回避…

 そしてドンゴン!


「ううッ…この衝撃波――――!!!貴様何者だ!」

「ウホ」

挿絵(By みてみん)

 巨影の正体は大男。

 だが全身から迸る体毛は人の力を越えた力を感じさせた。

 人間ではない。


「うっ…その風貌…人というより…むしろ『猿』!!」

「御名答、彼は人間では無いパンジー。」

 シルバーの背後から枯れた声が発せられる。

 怪盗はすがさずその方向に振り向く。

 2つの影があった。

 一つは先ほどと同じく、4mほどの毛むくじゃらの大男。

 一つは、恐らく声の主。1m弱の人間の老人。

 シルバーは2つの大男にサンドイッチにされた状態。


「ようやく、手ごたえのありそうなやつらが出てきたな。

 これだから盗みは面白い。」

「俺はこの博物館の『副館長』パンジー。

 手ごたえがありそうとはずいぶんナメ腐った発言をしてくれるパンジー。

 手どころか全身をこたえさせてくれるパンジー。」

 3体の中で老人の『副館長』だけが意思疎通するが、彼は変な語尾を付けて喋る。

 「博物館」に来たのに「動物園」がある。

 常人ならば奇妙な感覚に陥る。


「おい、そこのワクワクさんみたいな顔したオッサン、そのゴリラみたいな2頭はなんなんだ?」

「【ガーディアン・チンパンジー】&【ガーディアン・ゴリラ】!!!

 動物園にいたゴリラとチンパンジーを私が盗み出し、

 博物館守護用に品種改良した最強の霊長類だパンジー。

 しかし、【D・D・F】が狙いとは…

 まさかあの【バカみたいな伝説】を信じたわけではあるまいパンジー?」 

 シルバーがため息をつき、唾を吐く。そして。

「そのゴミのような語尾どうにかならないかしら?」

「シルバーよ、貴様は確かに素晴らしい身体能力と知恵を持っているようだ――――

 だがそれは人間基準の"素晴らしい"でしかない。

 猿族最強の種、チンパンジーとゴリラには敵わないパンジー!!!」

「そうか、なら死ぬのよね!!」


 戦いが始まった。

 ワン!ツー!スリー!!

 腰に刺したリボルバーを両手で構え、1m弱の小さな老人に向け三発の弾丸を発砲。

「ゴリッ!!」

 同時に風を切るような音。

 ガギガガゴン!!

 【ガーディアン・ゴリラ】が3発の弾丸を全て叩き落とす!!


「はっはははははーーー!!

 その人間ならともかくゴリラに見切れないスピードでは無い!!!」

 銃弾が落ちる。

 ゴリラはそれを拾って食べる。

 シルバーの弾丸はゴリラには通用しない。

 だが彼女は笑っている。

「…………ハハハハ!!悲しきかな!!」

「は?何を余裕こいてるんだ?貴様は今絶望的状況なんだぞパンジー!?」

 絶望的な状況を前にし、余裕がある。

 狂ったのか?いや、彼女には、奥の手があった。

「サル類最強か……確かに生物としては最強かもしれんが、私には敵わないよ。」

「何が言いたいパンジー?」

「刮目しな。私の……【カース・アーツ】を!!!」


 新潟フォースナイトが一人。知将魔介の言葉。

 彼の言葉の一つに、こういうものがあった。


 怪盗シルバーは…【超能力】を使う。


―――――――――――――――――――――――――――――

 夢天耀は、目を掻いていた。

 何らかの攻撃で光を失い、自分の部屋でのたうち回っていた。

 そんな部屋に差し込むのは、電話先の署長の声。


「夢天耀さん、何があったのか説明を!!!」

『見えないだ――――!!奴の目を見たら…何も見えなくなるッッ――――!!!

 見えなくなるんだあああああああああ!!!!!』

「何を言ってるんだいったい何を…」


―――――――――――――――――――――――――――――

「よーく見えたか?――――これが私の【超能力】さ。」


 そして、戦いは終わっていた。


「ぐあああああああ!!!!!何も見えない!!!何も見えないパンジー!!!!!!!!!!」

「ウホオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

「ウキイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」


 シルバーの能力を"見た"3人が、のたうち回っている。


『相変わらず恐ろしいぜ!!

 目に見えた液体、触れた液体を瞬時に石化させる【呪い】の能力………!!』

「そうだよロル。これが超能力【石の旅<ストーン・トラベル>】。

 この能力で貴様らの瞳を覆う微量な涙の膜を――――『石化』させた。

 次に私が能力を解除するまで、もう何も見える事は無い。

 せいぜい暴れるだけ暴れるがイイさ。」


 人の力を越えた能力。

 この褐色の女は、人間なのか?それとも……


「パンジー!!!!見えないパンジー!!!!!!」

「うるさいな、耳障りだからちょいと黙っててくれない?」

 

 シルバーは懐からペットボトルを取りだし、中身の水を三人の口にぶっかける。

 そして、それを『石化』させた。

 石のマスクとなって、三人の口をふさぐ。


「窒息死にはしない。鼻の穴は封じてないからね。」

「んーーーーーーー!んーーーーーーーー!」

「舐めてかかってたのは貴様らの方だったわね。

 怪盗を殺していいのは探偵だけだ。さて―――【D・D・F】を頂くとするかな…」


 怪盗は、石を手に入れて、その現場を後にする――………

 誰も死なないが、盗みは完遂された、奇妙な事件である。


―――――――――――――シルバーによる【D・D・F】窃盗事件。

死亡者…0人

損害…新潟宝石博物館―【D・D・F】を失った 

勝者…シーフ・シルバー―無傷で生還、【D・D・F】を手に入れる。





・後日談 博物館館長室で起きたもうひとつの事件。


 新潟宝石博物館館長の前に『黒いマントを羽織った男』が立ちはだかる。

 身長2mを越える大男だ。


「君が、この博物館の館長かね」

「いかにも!新潟宝石博物館にようこそ!」

 館長があいさつをする。

 もはや【D・D・F】の事件から3日だが、彼はもういつもの調子を取り戻している。

「【D・D・F】という宝石がこの博物館にあると聞いたが」

「いや~ごめんね。あれ、怪盗シルバーに盗まれちゃったんだよ~まぁここにはあんなガラクタより高価な宝石があるよ!ほら、ブラックホールダイヤモンドとか…」

「怪盗シルバーか…」


 パンッ


 瞬間、館長の腹に大きな風穴が開く。

 内蔵が垂れ、大量出血している。


「どッーどしえ~~~~~~~~~~~~!?」

「怪盗シルバー…か…フフ、【D・D・F】の回収に成功したか……ならば持って行け……【D・D・F】と共に、一杯の絶望を……」


 醜い死体に背を向け、男は部屋を後にした。

 ポケットから取り出したシルバーの写真を無残に破り捨てながら。


「シルバーよ。我らが主、【クロイツェン・ママゴンネード】様に祝福を捧げよ。」

挿絵(By みてみん)

 口にされた名。

 それは、伝説に記される【D・D・F】で野望を達した魔女の真名。

 この男は何を知っているのか。

 【D・D・F】に何らかの関係があるのか。

 黒マントの男の背には、湾曲した十字架の紋章が刻まれる。


―――――――――――――――――――――――――――――つづく。

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