第19話 明ける嵐天
あらすじ:
怪盗シルバーは激闘と犠牲の末に日本を支配する最強の3大探偵…通称『三羅偵』の『ロンカロンカ』を撃破した。
だがシルバーは激闘の末に片肺、腎臓、大腸を含めた内臓の6割が破裂、32か所を骨折…まだ動けはするが瀕死の状態である。
ロンカロンカを倒したこの私がまずはじめにとった行動は、【D・D・F】をホテルから持ち出し、警察が徘徊するこの街から脱出するというものだった。
移動手段は電車やタクシーでは無い…今時の交通機関はちょっと台風が来るぐらいですぐ使い物にならなくなるからな。なので私はバイクを持ち出した。家に置いてあった新品のバイクをね…
「ゲホッ…ゲホッ…しかしまさか、探偵に出会って、事故るなんて―――。」
天候は大荒れで、私はロンカロンカとの戦いでズタボロ。今思えば…動いたのは自殺行為だったのかもしれない。
クソ―――――焦りすぎた。でも、今が奴らから逃げるチャンスなんだ……今殺した探偵を除けば、奴ら探偵協会の人間は私の生存を感知できない、ロンカロンカを誰が倒したのか、【D・D・F】は今誰が持っているのかと言う事も知る事はない。今ここで私がこの街から姿を消せば、奴らは私の足取りを見失う……
「行かねば―――この悪夢の宝石を葬り去るために……」
でも、何も考えられなくなってきた、眠気が…
確かに、睡眠は重要だ…食事や性処理なんかよりずっとずっと重要だ――だが今は……今だけは――――――――
「スー…スー…」
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[ヘリ]
ヘリコプターの上についてる回転するデカいアレ「パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパぺパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ」
ヘリのバババがうるさい中で、ヘリの中で談笑する声がある。
「ロンカロンカが、"喰われた"か。」
「ええ。元号が『百賭』に代わった途端に悪いニュースです。まさかあの異常天才<アブノーマル・ジーニアス>が人の子の手によって死んでしまわれるとは―――」
談笑は男女の声。然し女が微ながらも笑っている。
「――――運命の歯車が動き始めた…もう"誰"も引き返せない。もう誰もかれもあの5つの黒<ブラック>い石<ストーン>ころの上で踊らされるしかないのだ。」
深夜の空で風を切る音が響き渡る。ヘリコプターのメインローターが回転する音だ。
ヘリに乗っているのは、探偵王・夜調牙百賭を中心としたマレフィカルム日本支部のエース級探偵数人。なんか話しているのは、銀髪で黒いマスクを付け、全身を鎧で武装した老人探偵と、百賭。
老人探偵が手元の携帯端末を見ながら声を上げる。
「怪盗アイドラ。通称―――『緑目のアイドラ』。前科約1800犯。この日本で二番目に驚異的と見なされているウィザーズ<コミュニティ>のメンバー。おっと、アルギュロスが死んだ今では一番ですか。本日の予定は、彼女<アイドラ>との秘密会議。 そろそろ到着です。ささ百賭様―――この『グレトジャンニ』の後ろに。」
老人探偵の名はグレトジャンニ。
しかし頑なに百賭は動かない。そして何か……なにか呟き始めた!!
「我を絶対正義と崇めよ。左手の薬指に唇を当て誓いを立てよ。されば汝らに大いなる祝福と繁栄与えん。我は正義なり。
汝らが呪われし魔女であらば我々は黒鉄をも溶かす熱した怒りと共に我、鉄槌を下すであろう。我は救世主<メシア>――――――――――――――――――――――――――――――――」
「【真理詠唱】――!これは失敬…」
グレトジャンニと百賭が降下するヘリの中から下を見下ろす。その視線の先には、二人が立っている。緑目のアイドラと―――その護衛だ。ヘリが地上に降り立ち、深夜の草原の上で二人の怪盗と二人の探偵が対峙する。
―――――(左:夜調牙百賭、右:グレトジャンニ)
「久しぶりだな……百賭さん、そしてマッレウス・マレフィカルム日本支部 ID.001――グレートジャンニッ……」
「……『怪盗アイドラ』。」
「な、何の用なんだ……今日は俺に何をさせるつもりなんだんだ……!」
「要件は二つさ、まず一つ目は………ごく一つの簡単な質問だ。貴様が持っている【D・D・F】に関する情報が欲しい。NOとは言わせんぞ。お前はこの私には『逆らえん』。」
「【D・D・F】……?―――たしかあの伝説の……」
DDFは怪盗の間でも伝説の存在となっていた。
「その素振りでは、何も知らないようだな。フン、期待外れだ……」
「―――小耳にはさんだ程度だが、聞いたことがある……ッ我々ウィザードのあの銀の老獪怪盗アルギュロスッ……奴とその『協力者』があの宝石を狙っていたとッ……!」
「ほう、『協力者』……か。」
「協力者は3人~4人……一人は【エクス】と言う名の怪盗だと聞いているッ!」
「『怪盗エクス・クロス』か……確かオーストラリアの―――」
「……オレの知る情報はそれだけだ。なぁ、そろそろ――子供に合わせてくれよ。あのヘリの中に――ロンカロンカはいるんだろ?アイツのあの剣の中の子供に合わせてくれ!」
グレトジャンニが殺意を持った目で百賭とアイドラの間に入る。
「彼女なら先日死んだよ。」
ドンゴン的衝撃発言を平然と放つグレトジャンニ。
「なっ……じゃあ子供は!!子供たちは!!!」
「彼女が死んだこと、それはつまり剣の中の異空間と現実の間をつなぐ門が消え去ったことを意味する。もう奴の剣の中に囚われた奴らは助からない。そして我々の二つ目の要件――――それは……用済みとなった貴様の始末だ。」
「グレトジャンニ、殺れ。」
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夢を見る………私…プレイマー・グランは夢を見ているわ――――
夢とは記憶、思い出が混じり合った景色と聞いたことがあるが、今見ている景色がさにそれそのものであったわ。
パパとママ――――ジジイ――――右堂院――――睦月――――島風さんやロル、怪盗、そして探偵―――良くも悪くも様々な登場人物で彩られたその景色は私の目を泳がせていたわ……
決して目を背けたくなるような時間では無かったわ……
しかしこの夢は滅亡するわ!!!!!!!!!!
何たることか、すべての登場人物が、赤く、赤く染めあがり―――バラバラになっていくわ……
その光景はあまりにも目を背けたくなるほどにグロであったわ。
そしてその光景は更にグロテスクさを増していくわッ…
バラバラになった赤い肉片たちが、集合し、一つに合体する。じきに赤かった部分は金色と紫色に変色し女性の形になっていくわ。
「や、やめろ………」
そしてそれは"完成"する。
身長は170㎝、胸が大きく、人形のように細い手足、目は鷹のように鋭く、瞳は黒紫。深紫色のコートを腕を通さないように羽織っており、内には紫色の胸空きタートルネックに黒いズボン、そして、金髪のツインテール。
その悪夢、天才少女探偵、"三羅偵"乱渦院論夏<ロンカロンカ>ッ!!!!
「やめろー―――――――――――――!!!!!!!」
うわああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ロンカロンカが私に向かって走ってきたッ……!!!嫌だッ―――来るな!!!
「だ、誰かッ……助け!!!!うああっ!!!」
追いつかれた!!!首を掴まれる!!!締め付けられる!!
「うっ……ぐぇ――――」
駄目だ!!蹴っても殴っても!!すり抜けるッ……―――!!死ぬ―――このままだと殺されるッ……!!
「やめろッ……やめろいやだッ……!!私はッ……ディープ……
デッドフィラーを……!!!!!!!!
――――――――――――」
あ―――――――――---------------------------------------------------------
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全て―――かすれて――――いく――――
全て――――――――――消えて――――――――――いく―――――――
初めて―――――――殺された時の―――――――ように―――――――――――
~♪~~~♪
音――――だ――――ピアノの――――音――――
このクラシックは――――確か――――
「ショパン・別れの曲」。
なんで――――?でも―――この暖かな光は………
光に包まれていく、私の体が――――
そして、景色が変わる………
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
何処かも知らない和風の家
「――――――。」
夢………?
「~♪(ショパン・別れの曲)」
「現実………う――――アアッ…」
喉が痛い…そしてこの体制…自分の手で自分の首を絞めていたのか!?もしこのまま目覚めなかったら、私は―――!
「――――ゲホッ…ゲホッ……
死してなお私を殺しに来るか、ロンカロンカ――――」
ロンカロンカの呪い。
「……取りあえず、ここは何処だ……ッ……体が痛い…」
痛めた体を無理やり動かす。
よく見ると、体が包帯がグルグル巻きにされている、誰かに拾われて、応急処置でもされたのだろうか?
音の鳴る先へと向かうと、そこには一人の80代ほどのおばあさんがピアノを弾いていた。老人ながらも、その姿はとても美しかった。いや、老人だからこそ―――か。
「……おばあさん、すみません。」
「―――!アンタ!もう動けるのかい!?」
「ま、まあ……なんと、か……」
私の立っている姿を見たおばあさんが、目を丸くしている。今私がここに立っているのは想定外の出来事だったようだ。その後、彼女は椅子から優雅に立ち上がり、私に向かって歩きだす。
「やっぱり無理してるね。まだ安静にしないと駄目だ。」
「二つほど……質問がしたい。」
「取りあえず、ベッドで安静にしてからだ。」
おばあさんは私を支え、ベッドまで誘導する。
「で、何だい?」
「ここは―――何処なんですか。」
取りあえず、ネオ鳥取市から出れたかどうかを知りたい。
「アタシの家さ。」
「ネオ鳥取市ですか?」
「岩美町だよ。」
岩美町はネオ鳥取の隣に位置する町―――。よかった、ここなら警察のパトロールもあまりないだろう。
そっと胸をなでおろし、私は次の質問をする。
「私は何故此処にいるのでしょうか。記憶ではたしか、道路をバイクで走っていて――」
「覚えてないのかい?アンタこの近くの林でブッ倒れてて……」
バイクが壊れて、無意識に何mも歩いていたのだろうか。
「そんでたまたま私がそこにとおりすがったんで、介抱されて今此処にいる訳」
「介抱―――救急車とかは…」
「若いころ医者をやっていてね、そこいらの奴よりは腕に自信があるんだ。どうだい?傷の痛みは結構止んだだろ。」
…まぁ、この丁寧な傷の治療、一般人の仕事にしては丁寧すぎる。
「ええ、本当に、ありがとうございます………えっと。」
「秋子。」
「ありがとうございます、秋子さん。私は―――プレイマーって言います。」
「外国人かい?プレイマーちゃんだね。ところでアンタ、何処から来たんだ?近けりゃ、アンタを実家まで運んで行ってやるんだが。」
「……」
どこだっけ……
「ワケありのようね。」
「―――ご迷惑はおかけしません。すぐ、ここを出ていきますから。」
そう、私には『使命』がある―――この家に長居するわけにはいかない。
「迷惑じゃないわよ、暇だしね。それとも何かい?急ぎのようでもあるってのかい?その傷で…」
「使命です。私にはやらないといけないことがある……なにをやらないといけないかは、忘れたけど――――」
―――何の使命だっけ、思い出さないといけないのに!でも、過去を追おうとすると、頭が痛くなって何も考えられなくなる。
「忘れてんじゃないの。記憶喪失かもな。」
「……」
「やっぱアンタ、もう少しこの家に居なさいよ。」
秋子さんが私の体にそおっと布団をかける。
確かに、この傷と、記憶じゃ、外に出るのは危険だ。しばらくこの家の迷惑になるのがきっと賢明な判断なのだろう。
「――――わかりました。申し訳ありません。」
「いいっていいって!ところでアンタ、何か食べたいものある?」
「ホット……ケーキ……」
「ほっとけいきィ?それって、なんだっけねぇ………」
◆探偵名鑑◆ #2
凶良 たけし
島根のご当地最強探偵。
1000億ドルの報酬を目当てに怪盗島風の暗殺を目論んでおり、1年3ヶ月、日数にして400日を日を越える推理の果て島風の実家を突き止め襲撃する。
『能力』は自分の体から発する黒い雷を浴びた物質を、究極的に硬質化させる【ブラックサンダー】