第16話 太陽が黒色に輝くとき①
・銀の怪盗シーフ・シルバー
カース・アーツ―――【ストーン・トラベル<石の旅>】
『能力』――――――契約者の視界内、または契約者が触れた液体を自由に『石化』できること。
・天才美少女探偵ロンカロンカ
カース・アーツ―――【エンプレス・プリズン<女帝の監獄>】
『能力』――――――黄金の剣を右手に具現化できる。剣の剣刃に触れたものは暗黒の異世界に『転送』され、契約者のみが自由に取り出すことができる。
[PM7:03]
夕の日が沈み、闇の時間―――"夜"がやってきた。夜、それは空は漆黒に覆われ、地の建造物に光が灯る時間帯。
だがそんな事はどうでもよかった。
―――誰もいない『廃マーケット』の入り口に、シルバーが立つ。それほど大きくは無い。一週間前に閉店となった中規模のスーパーマーケットだ。
「この、この建造物の中に―――あの女がいると……」
『ああ、奴はその廃マーケットの2Fにいる。』
「奴は一体ここで何をしているのか……」
『嬢ちゃんの言う―――【7時12分】……何の時間かは知らないが…そろそろ時間が無くなってきたんじゃあねェか?』
「わかってる、すぐに突入する。」
シルバーが入口に足を踏み入れる。しかし―――――――――――
『シルバー如何した、足が進んでないぞ』
「あ、ああ……。ぼうっとしてた。」
『本当に大丈夫か?引き返すんなら今のうちだぜ』
「大丈夫よ!」
シルバーの足が震えている………
(や、やっぱり……私はロンカロンカに恐怖している…死ぬことや痛みへの恐怖では無い……一度負けたが故生まれた、失敗への恐怖!
この恐怖は克服しなければならない…ロンカロンカを倒すためにも――――そして今後【D・D・F】を守るためにも!)
一歩!一歩!強気に前に踏み出す!シルバー突入を始める……しかし!
『待て、トラップだ、アイツ…レーザーや落とし穴までではないにしても、触れると大音量の音が出るトラップが色んな所に仕掛けられている』
「ああ、あとなんか視界が悪いな……下手に動けば奴に感づかれて先手を取られてしまうだろう。
だが進むぞ!私の怪盗としての技術―――そしてお前の『ザ・レーダー』があればこの程度はなんともない!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――
2分後、シルバーはトラップを回避し、ロンカロンカに見つからずマーケットの2Fまでたどり着く。
―――しかしそこで彼女はとんでもない光景を目の当たりにする。
「ひいいいいいい~」「ああああああああ~」
「!?……なんなのよこれ……」
それは―――女子トイレの中で目隠しされ、体を縛られた血まみれの一般人たちだった。
生存者と死亡者が混在している。そして無数のネズミやムカデ………
「くそ…ロンカロンカにやられたのねッ…!ロル!なんでこの事を言わなかったんだ!?お前の能力なら彼らがいる事は分かってたはずだ!」
『言うと嬢ちゃんはそいつらを戦いに巻き込まないよう真っ先に助けるだろ!しかし助けるとロンカロンカに先手を取られる可能性が高まってしまう!!』
「――――!そうだ!そうだけど……」
『俺の最優先事項はアンタの生存だ…』
シルバー必死で縄を解く。
(問題なのは……彼等がさっきまで常に悲鳴を発していたという事…フロアを駆け巡るほどの大声でな――つまり、私が彼等を助けると……彼等の悲鳴は一瞬途切れる!するとロンカロンカがそれに感づいてこちらに向かってくる!!全く、悪趣味なトラップだ――――!!)
「ありがとうございます!」「ありがとうございます!」
「いい!ここは毒虫や鼠がいて危険だ!ここから出て右前方向すぐに動かないエスカレーターがある!そこを降りて出口まで突っ切れ!!私が先導する!!なっ……私の前に出るな!危険だ!!」
一般人たちはあまりのパニックにシルバーの横を走り抜け出口に先走る。そして………
パンパンパンパン!!!
「アギャッ!!」「ウワッ!!」「あーッ!!」
一般人たちが銃弾に撃たれ死亡する。
(くッ………!!)
コツ……コツ……
銃を左手、黄金の剣を右手に握ったロンカロンカが歩いてくる。
背筋が寒くなる。
奴が同じ場にいると実感するだけで、震えが止まらなくなる。
氷に抱かれたような雰囲気がシルバーを襲った。
「フフ、東京から呼び出した探偵三人の連絡が途絶えた時に、この『拷問基地』のトラップを強化しておいてよかったです。想定よりは少々来るのが早かったですが…なにか急ぎのようでもあるんですかね?」
シルバーがトイレの陰に隠れる。
「ロンカロンカ……!!クソ、アイツだけは絶対に殺してやるわ…逝った右堂院やジジイが浮かばれるように、絶望の表情に堕としてやる…」
憎しみを込めた手を握る!!
ビュン!!!ガランガラン!!シルバーの入っている女子トイレの中に【エンプレス・プリズン】が投げ込まれる!!
「………?な、なんだ……奴は何のつもりであの剣を投げた……何か出してくるのか?」
剣は何も反応しない―――動じない。しかし暫くして、異変が起きる。
ファンファンファン!!
シルバーの腕時計が何かの警告を発している!!
「これは……毒探知機が反応している―――!!奴め、『無味無臭の毒ガス』をも剣の中に!……クソッ…!」
『毒ガスか、噂通り……遠慮のない女だな。感心するぜ。』
「外に出れば石化ブーメランを投げたり銃を撃つ前に滅多打ち、ここにいても毒でそのうちやられてしまう。前門の虎、後門の狼だな……」
ロンカロンカが歩いてくる。
「準備は出来ましたか?遺書の準備。家族や友人に別れの言葉を告げる準備。すべて手遅れだ。」
「ああ当然してない…私の準備は貴様を殺す準備だけよ―――ロンカロンカ!」
シルバートイレの窓に向かって走り、ジャンプし!!廃マーケットを脱出する!!そしてそのままロープ窓に引っ掛け真下にある一階トイレの窓に入る!
「取りあえず目先の危険は回避した―――だがここは危険だ…水場にいかねば!!」
『トイレも水場だろ!!!』
「奴を倒すには水が少ないんだ―――もっと水がある場所に行かないといけない……向かうべきはこの階1Fにあるレストランの厨房か、噴水広場だ!そこで奴と決着をつけるわよ!」
「近いのは―――フロア中央にある噴水広場だな……」
シルバーが走り噴水広場に向かう!
ガシャン!!ガララッ!!シルバーが走るとともに、あたりの散らかったゴミが音を立てる―――
『シルバー気を付けろ!!2m前方―――トラップがある!!』
「くっ!!」
シルバーが大ジャンプをしてトラップをかわす!!
「よし―――噴水まであと15m!!」
『シルバー!!待て!!』
「またトラップなの!?」
『違う……違うんだ……とにかくそれ以上前に進むのは危険なんだ…!ロンカロンカが『時速80㎞』近くのスピードでそちらに向かっている!!』
「じ―――時速80㎞ですって!?馬鹿な!あの剣からバイクや車を取りだして移動しているのか!」
『速すぎてよくわからないが―――乗り物には乗っていない!!くるぞ!!奴が二階から飛び降りた!!今お前の真上だ……』
シルバーが上を向く!!そこにはロンカロンカはおらず落下する【エンプレス・プリズン】だけがあった!!シルバーを斬りさき、封印する事を目標とした落下だ!!
しかしシルバーそれを間一髪で回避する―――!!
「………これはチャンス……奴が【エンプレス・プリズン】から出てくるその瞬間を狙う!!!」
シルバーが【エンプレス・プリズン】に向かいリボルバーを構える……エンプレスプリズンからロンカロンカが出てくるその瞬間を狙い―――
「『銃は必ず両手で撃つ』―――片手の方が格好はつくが、命中率は両手の方が断然上だからな。」
ワン!ツー!スリー!三発の弾丸を射出する!!一発はロンカロンカの胸に命中―――!!
だがしかしその後ロンカロンカは鉄の盾……警官隊などが使用する、ライオットシールドを自分の目の前にを取りだし――残りの弾弾を跳ね返す!!!
「当たった……不意打ちとはいえわたしが奴に与えた初めてのダメージだわ……だけど着弾する瞬時を見切られて急所を外してしまった…」
「グッ……」
(馬鹿な…この私の能力を知っていなければ――私が剣から出るタイミングを見計らって銃を撃つなんて芸当はできない……そしてこいつのもつ能力がプロメテウスのような未来予知ではない事はわかっている!それは"ブラフ"で確認したからな、一体何者……?)
ロンカロンカはまだ目の前の敵がシルバーであることに気づいていない。
(しかしロンカロンカが邪魔で噴水には行けない……―――ならばもう一つの水場――レストラン厨房へ向かう!!私から3時の方向72m先にあるレストランだ!!)
シルバー走り出す!!ロンカロンカはライオットシールドを再度剣の中に取り込み、追いかけようとするが……
「何、足元から急にワイン……」
(ロンカロンカ、貴様の落下位置は事前に分かっていたんだ――だから事前に、その落下位置にワインをぶちまけ『石化』させていた……『石化』を『解除』すれば、お前の足元はワインの水たまりになる!)
「ッ……足元で濡れていたものが急に固まった……いや、『石化』…この能力――――まさか!」
シルバーが顔のマスクを取り、その褐色の肌を露わにさせる。
「ロンカロンカ、復讐の為地獄から這い上がったぞ―――」
「怪盗シルバー!」
ロンカロンカが【エンプレス・プリズン】で自分を切り裂き、石化したズボンと靴を残し自らを暗黒の異世界に転送する!
そしてシルバーが再度ロンカロンカが出るタイミングを見計らい銃を構える!
「フン…」
【エンプレス・プリズン】からライオットシールドが取り出され、そしてその後に新品のズボンと靴を身に着けたロンカロンカが現れる!
「出た直後を撃たれないように先に盾の方を出したか…くっ…この手はもう通じない……」
戦法が通用としないとわかったシルバーは厨房の方向に走り出す。しかし50mも歩いたシルバーのその先に……その先にはロンカロンカがいた!別ルートから先回りしていたのだ!
「ばかな―――私は50m走を6秒で走りぬく女だわ……どうやって奴は先回りした!おいロル……奴はどうなっているか見てたか!」
『嬢ちゃん…俺もアイツの先回りする瞬間を見ていたんだが―――どうやらアイツ―――四足歩行で移動しているようだ……』
「四足歩行だと…それだけで時速80㎞ものスピードを出せるのか…!?どういう原理だッ…」
ロンカロンカが銃を構えると同時に、シルバーが右の分かれ道に身を隠す…そしてシルバーは遮蔽物のある場所を転々としながら進む……
しかし―――
コツ……コツ……ピりリリリリ!ピリリリリリ!
シルバーの向かうから音が聞こえる。
「―――この音は何だ……?」
ピ!
「もしもし。うん、論夏だけど。そ、心配してくれてありがとう」
シルバーの向かう先でロンカロンカが通話してやがった!
「あいつ……電話してやがる……」
「来週にはちゃんと学校に顔を出せると思う!!うん!大丈夫だって!!うん!本当に大丈夫だから~♪」
チッ…とシルバーが舌打ちをする。
(なんという狂気……あんな邪悪なメスガキが正体を隠しながら普通の人間と変わらない生活をしてる思うと…)
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!1
「ッ……この音は!!」
エンプレスプリズンがすべての遮蔽物を飲み込みながらシルバーに向かって投げられる!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!あ、危ない……!!」
【エンプレス・プリズン】から射出されるガラスの破片が数10ほど体に刺さったが、問題は無い。
「うん!じゃあもう失礼するね!バイバイ優奈!」
ピ!
「フン!まさかこんな時間に電話をかけてくるなんて……学校用の端末は電源を切っておきますか…」
ロンカロンカが能力を解除し、投げられた【エンプレス・プリズン】が消滅する。
そして彼女は瞬時に再度能力を『再発動』、右手に能力で作った剣を装備する!
「【D・D・F】をあの倉庫から持ち出したのは君ですね、しかし……君は今どこで暮らしているのでしょうか?近所の友人の家に居候?それとも…どこかのホテルに潜んでいるんでしょうか」
「……」
「外には無数の警官隊がいるから、【D・D・F】はおそらく、キミの今のアジトに安置されている……そう考えるのが自然かな?」
「……!!」
「フフ……ポーカーフェイスが崩れてますよ。どうやらあの無様な敗北を経て、私の前では冷静さを保っていられないらしいですね。」
「黙りやがれ…!」
「フン……生かす手間が省けた。そろそろ終楽章と行きますか。【エンプレス・プリズン・シュトゥルムヴィント<暴君の風>】!!」
ロンカロンカの体に―――――――異変が起こる!!!