第12話 ストーン・トラベルVSエンプレス・プリズン①
[AM11:25 鳥取]
鳥取の歩道を一人の男が歩く。
「あの人…グランさんが心配だ。あの恐怖に包まれし顔…」
右堂院義弘が探偵を目指したのは、誰かの役に立ちたいから。
子供のころ彼は夢を見た。
ニュースで何度も話題になったあの探偵界の若き王。
日本経済を急成長させたカリスマ的存在。
乱世探偵冥王・百賭。
彼女のように、人の為に生き、人の役に立つ人間になりたかった。
それが彼の夢である。
しかし彼は現実を知る。
『マレフィカルム』の試験を受け、現代探偵界における、『闇の世界』を。
彼は思考する。
あまりに多くの現実に錯乱して。
(あの試験を受けて僕は…【カース・アーツ】という力を手に入れた。
『死んだ人間の呪いエネルギー』を媒体とする後付けの能力らしい。
僕の【カース・アーツ】が持つ『能力』。
それはダメージの『交換』。
自分の身を犠牲にして触れた物を修復したり。
右手に持ったものと左手に持ったものの壊れ具合を反転させる。
そんな事が出来る『能力』。
あまり役には立ちそうにない能力かもしれないけど……
この人智を超えた力。
僕はもはや人間では。
ないのかもしれない。)
右堂院は、シルバーの居所を知りたかった。
たずねようと、道行く人を探した。
本来の探偵のように。
しかし。
音が、無い。
静けさがある。
人が不自然に少ないのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[AM11:30]
シルバーの家で、『人間爆弾』は爆裂した。
爆弾の肉片は、すでに焼け焦げている。
音を鳴らすのは、炎の雄叫びと、壊れたラジオの悲鳴だけ。
『ガ―――――ガガガ―――――――
え―――――天気よほ――――
つかごから台風がせっき―――ガ―――ガガガガガガ』
埃が舞い、煙が充満。
爆発で半壊したプレムの家に、もはや原型は無い。
スカベンジャーが群がっていそうなゴミ山ですらもう少し片付いているだろう。
『ガ―――――――ガガ―――――
――ええ、大雨になるでしょうね!
――ガ――――――――――――ガ――――』
ドンゴン!!!!
ラジオが爆発する。
ゴミ山の中から、一人の少女が這い上がる。
怪盗シーフ・シルバー(プレイマー・グラン)だ。
彼女は生きていた。
だが全身から出血し、脇腹には木の棒が刺さっている。
「……ハァ、ハァ――――敵…だな……
今のはカース・アーツによる攻撃か………?
とっさに耳をふさぐことが出来たので、鼓膜はやられなかったが…
どうも頭がクラクラする……」
シルバー脇腹に刺さった木の棒を強引に抜く!!!
(ストーン・トラベル―――傷跡から噴き出る血を『石化』する。
取りあえず、応急処置だ。)
傷口を石化した彼女が、身をかがめ、水が噴き出ている場所に近寄っていく。
かつて洗面所があった場所。
水は彼女の能力の力となる。
キョロキョロ
安全地帯を確保したところで辺りを見回す。
近くにいる人間の情報を確認する。
遠くにいるのは『デブのスーツ男』。
仲良く歩く『女子高校二人のパリピ』も見える。
「ククク…ワシにとっての人生最大の楽しみ…
それは可愛い女の子がワシの横を通り過ぎた時、
チャージした屁を向かって発射する事!!!
ワシの匂いをしみつかせてやる事………
よし今だ!!発射するぞ、オウ!!」
――――ブゥホッ
「もしもし警察ですか、今ゴミクズにセクハラされてます。」
――――ピポパ
「インスタ映えしそうなクソゴミよォォォ―――――!!!!」
――――パシャパシャン
近くには、『5歳ほどの子供を連れた夫婦』が見える。
「今度はいったい何!?ば―――爆発!?いったい、いったいここで何が起こってるの!?この近所に住む私の両親と急に連絡が取れなくなるし―――!!」
「―――!!あの爆発した家!!誰かいるような!!」
「ママとパパが凄い焦ってる…」
考え込むシルバー
「………敵は何処だ――――?爆弾を差し向けた敵は…あの『家族』か…?向こうにいる『デブ』と『女子高生二人』……?それともこの住宅街と言う地形のどこかに潜んでいるか――――
―――!!!―――デブとあの女子高生二人が消えた!?」
『デブ』と『女子高生二人』の姿が突然消える―――いや、『消滅』した。
「チッ…敵の攻撃か…?」
「―――!あの爆発した家の中に子供がいるぞ!!だ、大丈夫か――君!!!」
5歳ほどの子供を連れた『夫婦』がシルバーに近づく!
「こ、こっちに来るなァァ――――!!ココから離れるのよッ!!カタギでは理解に至れぬ何か並々ならぬ事が起きている!!!」
タッ
VOOOOoooooooooo…夫婦の背後に――― 『一人の女性の影』があらわれる。
影は冷たい声で、言葉を発す。
「くすっ……まぁ、あの程度の爆発では死なない事は予想していたんです。
なんせ、あの伝説の怪盗シルバーですからね。爆弾による危険は常に警戒していてもおかしくない。」
「―――!!」
その影、金髪ツインテールに鷹のように鋭い眼、身長は170㎝ほど。その女は右手に持った『黄金の剣』を大きくふりかぶり『夫婦』とその『子供』を―――斬った!!!そして斬られた『三人』が世界から『消滅』する。
「ちなみに先ほどの爆撃は、貴方を殺す事が目的ではないのですよ。貴方に死なない程度の重傷を与えるだけで良かった――――」
そしてその次の瞬間―――その金髪の女の持つ『剣の剣心』に先ほどの夫婦と子供、女子高生二人とデブの頭が『出現』する。そしてそれをロンカは、シルバーの家の崩れ燃える灼熱の床に叩きつける。
「「「「「「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエ」」」」」」
「なっ――――」
「ならば、なぜ生かしておいたのか?理由は簡単…君から、【D・D・F】の在り処を聞き出す為です♪」
VOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!
「アンタ……【三羅偵】ロンカロンカねッ……イカれて―――――やがるわ!!(【D・D・F】だと……!?探偵協会の人間があの宝石を探している―――?)」
ついに【三羅偵】が…シルバーを殺しに来た。
「目撃者がいると後の始の末が大変な事になりますからね、この6人には取りあえず死んでもらいました。それにしても君がシーフ・シルバーですか?幼稚園児みたいなツラを…しやがります。(にやり)」
シルバーは童顔である。だがそんな事はどうでもよかった。
二人が対峙る。そして互いの能力の分析に入る。
(あの傷を見るに奴の能力は『水分・液体を石化』する事――――そして奴の目の動き…私が推理するに奴の能力範囲はプロメテウスと同じく―――己の『視界』のみ―――――)
(奴の能力は『斬ったものを封印する剣』。つまり『近接特化』の能力――近づくのは危険だ。剣の長さと能力を加味して―――奴の危険区域<デンジャーゾーン>はおよそ『5m』といったところか。)
同時に動く。
ロンカロンカはシルバーに近づき、シルバーは近くの水が噴き出ている場所を挟み、敵との間合いを取る。11m。
そして――――
ロンカロンカが唐突に怯むッ!!
「ぐっ……!?」
シルバーが【ストーン・トラベル】を発動し、ロンカロンカがまばたきした瞬間にその『瞳の粘膜』を『石化』したのだ!!
そして―――ワン!ツー!スリー!所持していたリボルバーから三発の弾丸を『射出』する!だがッ!!
「そうか―――まばたきで湿った目の表面をも『石化』させるのか!!そして3発の銃音!取り出せッ!!【エンプレス・プリズン】ッ!!」
ロンカロンカの目の前に『二人の男』が出現する!!
「あがッ!ふぐっ!ぐっ……!!」
銃弾を受けた男は倒れ噴水のように血が上に噴き出す。ロンカロンカはその噴出した血が頭に掛からないよう、左腕を頭の上に差し出した。
「なんて奴だ――――鉄板とかならまだしも封印した人間を盾にしやがった!!」
(だが奴の左腕は血に濡れた――――血は水分だ。『液体』だ。私の【ストーン・トラベル】で『石化』することは可能!!)
クルッ
ロンカロンカが左腕をシルバーに見えないよう体で隠す。
「うっ……こいつ!!」
「フフ(あの反応を見るに、やはり『石化』できるのは『視界に映る液体』のみ。確定だ。これで遠慮なく――――奴に近づける事が分かった!)」
ロンカロンカが【エンプレス・プリズン】から『包帯』を取りだし血に濡れた左手をグルグル巻きにする。
―――そして走る!
「宝石の在り処を吐かせ、そしてあのおいぼれと同じ地獄に送ってくれる!!目には目を!歯には歯を!怪盗は死ぬのです!くすすッ!!!」
「なんだこの女……目が『石化』されて何も見えないはずなのにこちらに正確に向かってくる!!くッ――――私の近くの水場の音を辿っているのか!!いや!!!それにしてはあまりにも正確!!!(しかしジジイは………死んだか……クソッ………)」
シルバーは、目の前のこの三羅偵が…かつてない力を持つ強敵だと認識した。冷静に。