第10話 D・D・Fに忍び寄る二つの影
何者かが、シルバーの【D・D・F】を狙っている…!
『急ぐのです……!!ここから家まで5分とかからない…!まだ間に合いますよ!!使命を果たすのです!!プレム!!!そうすれば貴方は天国へ行ける!!!』
「………わかった!」
【神】がシルバーをせかす。それほどまでに【D・D・F】に危機が迫っているという事か…
「グランさん……突然独り言を言って………どうしたんです……それにすごく青ざめている!!」
「ヨシヒロ君には到底、教えられない事さ………!!キミをこの私の過酷な運命に巻き込むわけにはいかないからな……!!」
シルバー………!!!車を走らせる………!!!!【神】が見えぬ右堂院………!!!どうする事も出来ない……!!!!傍観する事しか出来ない……!!!!!!!
「な………グランさん………僕には貴方の運命の歯車に挟まる資格すらないというのか……!!!くそおお……」
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[グラン家 シルバーの部屋]
「……この黒い輝き、この手触り………これが【D・D・F】か…」
一人の男がシルバーの部屋の金庫から【D・D・F】を盗み出す。
「さて、計画通り玄関から脱出するか。」
男は玄関を開き、外に出る……しかし。
キュップイイーーーーーーーーーーーーーーーーンッッ!!!!ドンゴン!!!!!!!!!!!!!スタッ!
シルバー、わずか3分で帰宅し、玄関から出るその男に銃を突きつける!
「そこのお前!何者だ……!?とりあえず動くないで!…………ハッ!!アンタは……」
シルバーはその顔を見て驚く……それは、彼女のよく知る…
「ワシが如何かしたのか……プレム?」
プロメテウスだった。【D・D・F】を盗み出したのは、自身の祖父だった…
シルバーは間違いと思い咄嗟に銃を下げる。
「ジジイか。クソ、人違いよ。」
「人違い?チャカなんか向けて、誰とまちがっとったんじゃ?」
「企業秘密だ。それよりジジイ、誰かこの辺に不審な人物を見かけなかったかしら?」
「ああ。ところでプレム、今日は久々に怪盗事業をやると言っていたが忘れ物でもしたのか?」
「ええそんなところね。」
プロメテウスがシルバーの横を通り過ぎる。
「ところでジジイ、そんなデカいバッグ背負って……どこへ行く気なの?」
「プレムには関係のない事じゃ……」
『プレム、あの男のバッグを調べなさい、恐らく【D・D・F】が入ってます』
シルバーが銀色のリボルバーを構え、再度その銃口をプロメテウスに向ける
「プレムお前……」
銃を向けられたプロメテウスがプレムの方を向く。
「急用があるんだ。例えジジイだろうと、問答無用で疑わせてもらうぞ。」
(睦月はもう島根の新居地に移住した……家にいるのはジジイのみ。【ストーン・トラベル】…ジジイの瞳の粘膜を『石化』しろ!)
シルバーの先制攻撃である!
プロメテウスは瞳の粘膜を『石化』され、視界を奪われた………しかし……
「フンッ!!!」
「えっ………ぐあああああああ!!!!!!」
その瞬時、プロメテウスの飛び膝蹴りがシルバーの顔面を直撃する!!!
シルバーは鼻血を噴き立ち眩んだ。
そしてプロメテウスの当て身…シルバーはその場で気絶する。
「――――プレム、お主の『敗因』は、ワシの能力を知らずに事を急いだこと。
そう、ワシの能力を知っていれば、この距離での戦闘は避けていたはずだ。
世界でNo2の"怪盗アルギュロス"としての―――その能力を…
ワシの能力は【運命の航海術<フォーチュン・ナビ>】。
能力は、視界に移る『10秒先の未来』を見通す事。
瞳が『石化』される前に、お主がワシを撃てないのは分かっていたし
ワシの攻撃がお主を確実に気絶させる事が可能だという事も分かっていた………」
悲しい表情をしながら、プロメテウスがシルバーを抱える。
「すまぬな、これも『使命』の為なんじゃ…
ワシに課せられた、【D・D・F】を破壊せよという使命………」
『プロメテウス、彼女は放っておきなさい。時間の猶予はありませんよ。』
その声、女性的とも男性的とも取れる神秘的な声質。
その声の主、両性器を有した中性的な姿をしていて、内側から光り輝いていた。
「【神】か………ワシに使命を与えた、【神】――――」
『急ぐのです………【神】は神です。【神】の使命は大統領の命令より絶対だ……』
それは、シルバーと同じ【神】。アルギュロスにも【神】がついていたのだ……
「そうせかしなさんなって。彼女はわしの保険になってもらう。ワシが、この使命を失敗した時のな――――」
『だまらっしゃい!貴方が失敗するような使命を、その小娘如きが果たせるのですかァァ?』
「待ってくれ。彼女の介抱は、15秒で終わる。」
プロメテウスにも、シルバーと同じ使命があった――――【D・D・F】を闇の者の手に渡る前に封印せよという使命。
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[AM10:00 鳥取県鳥取市]
リクルートスーツを着てにシルクハットを被るプロメテウスが、街の通りのベンチで足を組んで座っている。
(よし、シルバーから奪った【D・D・F】は無事『例の倉庫』に保管した。
これでしばらくは誰にも見つける事はできない筈――――後は3日後に来る『4人のコミュニティのメンバー』と合流し、日本探偵協会の持つ、残り四つの【D・D・F】を回収するのみ…それにしても―――今日はやけに人が少ないのう……)
【D・D・F】は、5つ集める事で初めて願いを叶える力を発揮するタイプの願望器―――――
プロメテウスの作戦は、すべての【D・D・F】を回収し、"【D・D・F】を此の世から消滅させろ"という願いを叶える事にあった。
しかし―――
「………フォーチュン・ナビ、この未来は………!!ワシの頭がスナイパーライフルで撃ち抜かれておる!!!」
能力で未来を見たプロメテウスが銃を構え、ビルの屋上に向けて一発弾丸を撃つ。その間、わずか0.3秒。銃にはサプレッサーが取り付けられており、銃音は軽減されていた。
軽減された銃声を、忙し気な通行人は気にもとどめない。
「ギャアアアアアアア!!!!」
ビルの屋上から声が聞こえる。
「スナイパーか……だがワシには『未来』が見える……ワシの暗殺、それは何者であろうと成し遂げる事は出来ない………」
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[ビルの屋上]
「いてえッ……いてぇぇぇえ!!!!!!アイツ、逆にオレを撃ちやがったあ!」
肩を撃たれた男がのた打ち回る。プロメテウスを撃ち殺そうとしたスナイパーである。
そこに近づき、顔を踏みつぶす女が一人。
「くす……成程。シルバーの祖父は能力者ですね―――――事前にコイツの銃撃を予測しかわすとは、敵意を読み取るサーチ系のカース・アーツですかね……?」
「ロ、『ロンカロンカ』さま……助けてくださいッ………!!!」
撃たれた男の側に立ったのは一人の少女探偵。
ツインテールにハイライトの無い黒紫色の瞳。
深紫色のコートを腕を通さないように羽織っている。
内には紫色の胸空きタートルネックに黒いズボン。
―――その長身の娘、『三羅偵』ロンカロンカである。
「た、たすけて……ぐぶえ!!!」
ロンカロンカの靴先がスナイパーの口に差し込まれる。
「スナイパーくん、あの老害は恐らく―――キミから『何の目的があって撃とうとしたか…』という情報を聞き出すために…あえて殺さないように撃ちましたよ。奴は今――――このビルの屋上へと急いで向かっています。」
「ぐああ……」
「くす……奴の能力は未知数。奴の能力を知りたい。いいですか、スナイパー君、奴はキミを質問責めにするでしょう。そこでなんとかして時間を稼ぐのですよ。私が奴の能力を暴くための時間を―――」
スナイパーの口に差し込まれた靴が抜ける。
「うううう――――なんでこんなことに。ぐぁ!!!ふぐ!!!おぼあ!!あば!!!!!!」
ロンカロンカが右手に持った鉄パイプでスナイパーを滅多打ちにする。
「もしキミが時間を稼ぐのに失敗したり私の正体をバラす…なんて事があったら私はキミを殺しますからね。そして、キミの家族友人隣人親戚一同を私の"カース・アーツ"で皆殺しにしますからねぇ。」
「わ、わかっております……ロンカロンカ様………」
ロンカロンカがビルの屋上入口の影に身を隠す。屋上のドアからプロメテウスが姿を現したのは、それからしばらくした後。
プロメテウスが撃たれたスナイパーに詰め寄る。
「フッ、生きていたか――――オイ、何をうつむいている、こっちを向かんか!!」
「ギャアアアア!!!」
スナイパーの脇腹を思い切りけり上げる。そして銃を取りだしスナイパーの脳天に狙いを定める。
「ひ、ひいいい!!!」
「クソガキめ、いいか、ワシは今からお主に質問する。ごく簡単な質問じゃ。答えねば殺す。それでは質問じゃ――――『何の目的があってワシの命を狙った。』」
「そ、それはッ……か、『怪盗に命令された』んだ……!!」
バンッッ………!!!プロメテウスの銃弾がスナイパーの股間を打ち抜く!!!
「アヒアヒアーー――――――――――――――ッッッ!!!!!!あっ………あぁぁあッッ……!!!!うあ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
「よくぞ答えてくれた、だが立場というモノが分かっていないようじゃな。『敬語を使え』。ワシが上の立場じゃ。」
「ひ、ヒィィ――――………」
それをばれないように影から見守るロンカロンカ。
「あれは…敵意や殺意を読み取る『能力』ではありません。だとしたら奴はとっくに私がいる事に気づいているはずですからね…カース・アーツを出しているこの私に……少し、奴の能力を探るためブラフをかけますか。私の『能力』で、『15秒後』に奴の頭に鉄柱を落としてやる。」
…ロンカロンカが、攻撃の準備を始める。
「今の銃撃は、貴様の右のタマを撃ち抜いた。いいか、次ワシに失礼な態度をとったら左も撃ち抜かれると思え」
「ヒ……ヒエ――――!!!」
そして5秒後。
「ぬっっ………」(未来予測!10秒後、ワシの頭の上に鉄柱が落ちてくるッッッ!!)
プロメテウス、予測に従い鉄柱の当たらない場所へ移動する。ロンカロンカの攻撃を予知したのだ!彼は倒れる男に目線を映し……
「もう一人、この近く仲間がいるようじゃな。『仲間のいる場所』を教えてもらおうか、3秒以内だ。」
「いっ………」
………
「アイツ、私が能力を発動する『10秒前』に能力発動を予知して、立ち位置を移動したぞ。
完全に理解しました……奴のカース・アーツは、『10秒後の未来を予知する』能力を持っている…」
ロンカロンカが、能力の解析を完了する。そして――――――――
「チッ……答えるつもりはないか……」
バン!!
アルギュロスが、スナイパーを撃ち殺して、上の方向を向いてくるくる回り始めた。
「ワシの能力は『視界の中の未来』しか読めない。攻撃の軌跡を見つけるのだ……鉄柱が落ちてくる直前に、『剣』のようなものが投げられているぞ。そしてその『剣』を投げた奴は…あの屋上の入り口の陰に潜んでいるな……!!!」
発見!!
「……奴が私の位置に気付いた!!成程、奴は『視界内の未来』しか読み取ることが出来ないのですね!!」
「そこに誰かおるな!!姿を見せい!!」
ビルの陰に隠れていたロンカロンカが、立つ。
「フフフ……」
「貴様………その姿は………!天才美少女探偵ロンカロンカか!!!!馬鹿なッ『三羅偵』が動き始めたというのかッッ………!!!」
「シルバーの持つ【D・D・F】はすでに我々探偵協会が奪い取っている。(嘘)」
「なんじゃと………!!!」
プロメテウスはすぐさま銃を構え、ロンカロンカに向かって4発の弾丸を発射させる。
しかし。
「【女帝の監獄<エンプレス・プリズン>ッ!】」
その叫びと同時にロンカロンカの右手の甲に金色の刃のようなものが具現化される。
その後、金色の刃が生えるように金色の西洋剣へと変化。
同時、ロンカロンカの目の前には『二人の謎の男女』が『出現』。
「ギャアアアアア!!!」
プロメテウスの弾丸は、その男女に命中する。
「や、やった……いや、誰じゃお主ら!!!」
(くすす―――【女帝の監獄<エンプレス・プリズン>】♪
黄金の剣の形をした【カース・アーツ】。この剣の刃に『触れた』あらゆる物質は暗黒の異世界に『転送』される。人間だろうと、鉄柱だろうとね――――そして、私だけがその暗黒の異世界に転送した物質を自由自在に取り出す事が出来る。これがこの私の能力です!!
事前に暗黒の異世界に転送していた『無関係の男女』を私の目の前に『取り出し』、銃弾の盾にした!!!)
天才美少女探偵・乱渦院論夏。
この女に―――――――――― 一般人を巻き込む事への躊躇は無い。