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四話

「改めまして、私はゴードナー伯爵家の長女ソフィアと申します。この度は妹が大変なご迷惑をお掛けして申し訳ございません」


「私はファウス侯爵家の次男ルーカスです。謝罪は本人から貰ってこそ意味があるものです。貴女は私の手伝いをしてくれるのですから、これ以降は貴女からの謝罪は要りません」


「ありがとうございます。どこまでお役に立てるか分かりませんがよろしくお願い致します」


そんな事務的な挨拶から私とルーカス様の関係は始まった。


全く予期していなかったけど、図書館に足を踏み入れたときから状況はガラリと変わっていた。ビックリすることもあったけど知らない男性を落とそうとするより、調べもののお手伝いの方がよっぽどすることが明確だし、気持ちも楽だった。

ルーカス様との挨拶を終えたところで、私はここに来てからずっと強張ってしまっていた肩からようやく力を抜くことができた。



「私が今調べているのはここ王都の過去10年の人の流れと主要な物品の流通量の変遷です」


簡単な挨拶を終えたあと、ルーカス様は調べものの内容について簡単に教えてくれた。ファウス侯爵家といえば大きな商会を抱えていたはずだ。そのことに関係する課題かもしれないと思いながら話を聞いた。


「これはルーカス様のおうちの事業に関わることなのでしょうか?私が首を突っ込まない方がいいところがあれば教えて下さい」


「大きく言えば事業に関わることだが、今回父がこの課題を課した目的は、私が情報をどう読み解くかを見ることだと私は考えています。なので情報自体はこの図書館などで調べられることですから貴女が触れて困るものはありません」


「分かりました。それでは私は何からお手伝いをすればよろしいですか?」


「そうだな……まずはこの本から毎年の小麦の流通量に関する記述を書き出して欲しい」


「分かりました。お預かりします」



そこから2時間ほど帰宅を促す鐘が鳴るまで、必要な会話以外はせず黙々と二人作業をした。一人で作業に没頭するのが好きな私には案外苦にならない時間だった。


机の上を片付け終わる頃、向こうも帰り支度を終えたルーカス様に声をかけられた。


「今日は手伝ってもらえてとても助かりました。レイチェル嬢には売り言葉のようにああ言ってしまいましたが、正直本当に手伝いをしてもらえるとは思っていませんでした。

恥ずかしい話なのですが、課題の提出の日が迫っているのは本当でして、よければこれからも時間の都合が付けば手伝いをしてもらえませんか?もちろんお礼はします」


「そんな、こちらの方が先にルーカス様にご迷惑をおかけしたのです。お手伝いは私でお力になれるならもちろんします。そのことにお礼なんて不要です!」


「しかし、ソフィア嬢は無関係なことなのにそれでは私が申し訳が立たない」


「私はレイチェルの姉です。無関係ではありません。でも、えーっと、ルーカス様がどうしても気になると仰るなら、今回の妹が掛けたご迷惑を内密にしてもらうことを引き換え条件にしてもらうのはどうでしょうか?」


「私は元より吹聴する気などはないよ?」


「そうだとは思っています。けどお互いの落としどころとして、それでどうでしょうか?」


私の言葉を受け、ルーカス様はしばらく考えたあと自分の鞄を引き寄せ、中から小さな箱を取り出した。その手のひらに収まるようなサイズの箱をルーカス様が開けると、中にチョコレートが入っているのが見えた。そのチョコレートを差し出しながら、ルーカス様はこう言った。


「それでは私に有利すぎる落としどころだ。だからよければこのチョコレートを貰ってくれないか?今回は偶々持っていたこれしかないけれど、今後この作業の休憩中の茶菓子類は私が出す。この条件を飲んでもらえれば、貴女の提案を受けるよ」


どうかな?と問うルーカス様は今日初めて会ったときに抱いた取っ付きにくい印象がガラリと変わるようなちょっといたずらな笑みを浮かべていた。


何かをいただくのは少し気が引けたけど、これ以上ごねても却ってご迷惑になるだろう。そう考えた私はではそれで、と笑顔で返し、ルーカス様からチョコレートを受け取った。


口にしたチョコレートは私の好きなミルク多めの甘いチョコレートだった。



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