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三話

放課後、私は慣れ親しんだ学園の図書館にこれまでにない重い足取りで向かった。


「お姉様~~!こっちよ!もう、待ったんだからね」


そんな私の気持ちなど全く汲み取ってくれないレイチェルがいつものテンションで私を待っていた。気まぐれなレイチェルが昼休憩からの数時間でやっぱりやめるわと気が変わることを少しだけ期待していたがそれはやはり無理だったようだ。


合流するや否や、レイチェルは私を引きずるようにして図書館に入っていった。ああ、いつもは心休まる場所なのにこんな気持ちでここを訪れることになるとは今朝の時点では微塵も思っていなかった。



「ルーカス様は二階奥のスペースにいるわ。右から二番目のところよ。お姉様後はよろしくね!」


学園の図書館の二階は勉強をしたり、落ち着いて本を読んだりするための場所になっている。私がいつも使う机と椅子が並ぶオープンスペースが手前にあり、パーティションで仕切られやや個室のようになったスペースが奥にある。その静かな場所でレイチェルは元気にさっきの言葉を言うだけ言って去っていった。


残された私は、図書館に来たときよりもさらに重い気分になりながら、指定されたスペースの壁をノックした。



「どうぞ」

緊張する私の耳に入っていたのは落ち着いた静かな声だった。


「お邪魔します」と言いながら入ったスペースには一人の男子生徒がいた。艶やかな黒髪の真面目そうな人だ。彼が恐らくルーカス様なんだろう。

しかし彼は私が予想していたものとはちょっと違う人物像だった。私はてっきり、今までレイチェルが熱を上げてきたいかにも王子様なキラキラした人を想像していた。けれど実際のルーカス様は目鼻立ちは整っている方だけどそういう華はなく、むしろその硬い表情からちょっと取り付きにくい印象の人だった。


「私に何かご用ですか?」

と聞かれ、私はとりあえず名前を名乗った。それを聞いた途端、ルーカス様の眉間にぐっとシワが寄った。


いつもの反応だ。彼もきっと「訳あり」と言う名と、そう呼ばれる理由を色々耳にしているのだろう。その反応にいつになってもキシりと痛みそうになる胸を無視し、むしろこれですぐ振ってもらえそうじゃないかと自分に言い聞かせた。


しかしそんな私に向かってルーカス様は予想していなかった言葉を投げてきた。


「そのファミリーネーム、一学年下のレイチェルという名の女子生徒の関係者か?」


「はい、レイチェルは私の妹です」


「なるほど。では貴女が彼女の身代わりという訳なのかな?」


「身代わり……?」と思わず口にしてしまった私に、ルーカス様は不機嫌そうな顔を変えることなく言葉を続けた。


「なんだ、妹から何も聞いていないのか?彼女はここ1、2ヶ月私に付きまとい、私が父から頼まれていた調べものをするのを邪魔してくれたんだ。先日いい加減にして欲しいと強めに伝え、その際にむしろこの作業の遅れの埋め合わせをして欲しいぐらいだと伝えたんだ。

だから姉である貴女が妹の尻拭いに来たのでは?」



「レイチェル!!!」

顔には何とか出さなかったが心の中では盛大に叫んでしまった。


貴女、そんなこと一言も言ってなかったじゃない。告白してバッサリ振られたとしか言ってなかったじゃない。

まさか嵌められた……と一瞬思ったが、レイチェルはそんな子ではない。あの子は「お姉様、お願い!私難しいことは分からないから、私の代わりにルーカス様のお手伝いしてきて~」と真っ直ぐ私に押し付けてくる子だ。


恐らく強めに伝えられたお断りの言葉だけでいっぱいになって、その先はほとんど頭に残らなかったのだろう。

代理でも、身代わりでも、尻拭いでもなかったけど、レイチェルがとてもご迷惑を掛けたと聞いてしまったため、わざわざルーカス様を訪ねてきた私がそうではないとは非常に答えづらかった。またその上で仲良くなりに来ましたなんてとても言える状況ではなかった。


何より知ってしまったからにはご迷惑の埋め合わせはしなければならない。それに、そうすることでルーカス様の側にいればレイチェルのワガママも叶えているように見えるかもしれない。全く嬉しくはないけど一石二鳥だ。そう考えた私は、ズキズキ頭が痛むのを何とか顔に出さないようにしながら、ルーカス様に「そうです、レイチェルの代理として参りました」と答えた。

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