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十四話

食事を終えてしばらくすると、侍女が旦那様がお呼びです、と私に声をかけに来た。

私は逸る気持ちのままに、パタパタと足早にお父様の書斎へと向かった。


書斎に入ると、すでにお父様とお母様がソファに揃って座っていた。私は促されるままに、二人の正面に座った。


「ソフィアの噂について話がしたいということだったね。レイチェル、お前はこの話を聞いたときにどう思ったんだい?」

お父様が私の目を見つめながら、まずそう聞いてきた。


「私は嘘だと思ったわ。そんなの聞いたことないし、お姉様は静かで、真面目で悪い噂をされるような人じゃないもの!」


「そうか、ならお前が原因だというところはどうだい?」


「それもあり得ないわ!お姉様は私に優しくしてくださるし、私たちは仲のいい姉妹だもの!」


「そうか」

お父様はそう短く答えると、黙り込んでしまった。私はモヤモヤした気持ちを抱えたまま、お父様の言葉の続きを待った。



「あのときに私たちが諦めてしまったからこうなってしまったんだな」

続きを待っていた私の耳に入ってきたのはそんなお父様の言葉だった。意味が分からずきょとんとしていると、お父様は後悔を滲ませながらこう言った。


「父上と母上がお前を甘やかし始めたとき、きちんと止めるべきだったんだ。それをあれこれと言い訳を並べて諦めて、楽な方を取ってしまった。そのせいでお前にもソフィアにもひどいことをしてしまった。


もう逃げるのはよすべきなのだな。レイチェル、お前にとっては辛い話にもなるかもしれないが、それでも聞いてくれるか?」


辛い話というのが何のことなのかはさっぱり分からなかった。けどお父様の雰囲気から、これは大事なお話なのだということは分かった。私は少し緊張しながらも、「はい」と頷いた。



そこからお父様から語られた話は私にとってとても衝撃的な内容だった。まさか私のお願いがお姉様にそんな噂を立て、立場を悪くしていたとは思ってもいなかった。


おじい様もおばあ様も、私の願いを叶えることが嬉しいと言ってくれていた。愛してるから、私を可愛いと思うから、何でも与えたいのだと言っていた。だから家族という私を愛してくれる人たちは、私のお願いを叶えてくれるものだと思っていたし、お互いがそれで幸せなのだと思っていた。


まさか周りが無理をして、私の願いを叶えているとは思っていなかった。お姉様が私のお願いを聞いてくれるのも、物を譲ってくれるのも、お姉様が優しくて、私を愛してくれているからだと思っていた。


でも確かにおじい様とおばあ様が亡くなった後、それをワガママだと怒られた記憶はあった。あのときは何でみんなそんなひどいことを言うのかと思ったし、それに全力で反抗したのも覚えている。泣いて、喚いて、叶えてくれるまで騒ぎ続けたはずだ。

お父様は自分達が諦めたと言ってくれていたけど、私も両親に諦めさせるようなことをしてしまっていたのだと、今更ながらに気づいた。



「私、お姉様に謝らなきゃ」

そう言って立ち上がりかけた私を、両親が引き止めた。これは家族全員できちんと話すべきことだし、今日私と話をしたことも含め、もう少し考える必要があるとのことだった。


すぐにお姉様の部屋に駆け込みたかったけど、私より周囲をちゃんと見てくれている両親にここは従うべきなのだろう。そう思って気持ちをぐっと抑え、私はその日は大人しく自室に戻った。




翌日、私はお昼休みになると手早く食事を済ませ、昨日ルーカス様と会った中庭へと急いだ。噴水横のベンチには昨日と同じく、ルーカス様の姿があった。


いざ来てみたものの何から言えばいいか分からず、目の前で黙り込んだ私に、ルーカス様はこう声をかけてきた。


「その顔はご両親から話を聞いたんだな」


「……貴方の言うとおりだったわ。私、お姉様にとんでもないことをしてた」


「そうだな。貴女も反省すべきだし、貴女をそうしてしまった周囲もきっと反省すべきなんだろう」


てっきり昨日と同じく厳しい言葉を投げられると覚悟していた私の耳に入ってきたのは、意外にも落ち着いた響きのルーカス様の声だった。


「私も昔は甘やかされ、ひどくワガママな子供だったんだ。でも私は幸運にも早くにそれに気付く機会を与えられた。それが君は今だった。そういうことだろう」

何かを懐かしむようにルーカス様はそう言った。


「そうなのかな。でも貴方に教えてもらえなかったら確かに私あのままずっと過ごしてた。気付かせてくれて本当にありがとう」


「この結果は偶然だよ。感謝されるほどのものじゃない」


「でも貴方と話をしたのがきっかけなの。だから私はお礼を言いたいの!受け取っておいて!」


そう言うとルーカス様は苦笑いしながら、ならそうするよと返してくれた。



「でも、ルーカス様が私を見てくれてなかったらこうならなかったのよね。」

昨日のことを思い出しながら、私はそう言った。


「そういえばルーカス様はどうして私のことをあんなに見てくれていたの?私たち姉妹のことってそんなに噂になってるのかしら」


「いや、そういう訳でもないんだが……」


今噂がどうなっているかを聞きたくてルーカス様に質問してみたのだけど、言葉を濁されてしまった。本人を目の前にしては言いにくいのかもしれない。恩人を困らせてはいけないと思い、わざとおどけて違う話題を振った。


「それともやっぱり私のこと気になっちゃってた?なかなか可愛いって評判なのよ私」


「私は君みたいな騒がしい子は苦手だよ」


「なによー!分かった!ならお姉様が目当てね!」


なーんてね、と続けようとした私の言葉は口から出ることなく消えてしまった。


なぜなら目の前のルーカス様が私の言葉で目に見えて真っ赤になってしまったからだ。

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