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この星が滅ぶまで  作者: 朱井いと
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第八章 The Final D estination

 春になった。この世界にも四季はある。桜もある。モモの家周辺にはないのだが……。

(エリカ)「よし、これでおっけー!」

(アヤメ)「あたしはこれで行く!」

(アイリス)「みんなちゃんと着ないと……。」

 珍しく三姉妹に個性が出たのだ。エリカはブレザーのボタンをとめず、アヤメはブレザーを腰巻し、アイリスはちゃんと着ていた。

「あなたたち、入学式なんだから、今日くらいはちゃんと着なさい。」

(三姉妹)「はーい。」

 そうなのだ。三姉妹は高等学校に入学したのだ。三姉妹はそろって同じ高等学校へ。それも理系特化型の難関高等学校である。近くにあった難関私立へ通うことになった。偏差値でいうと、そっちでいう、あそこの最難関男子校が八十としたら、三姉妹の方は七二くらいかな。圧倒的点数差で引き離して入学試験を突破した。成績だと、一位がエリカ、二位がアヤメ、三位がアイリスであった。まぁ、だいたいどこの難関私立だと、受験者が解けないようないじわる問題を出題してくる。そっちもそうだろ? 三姉妹は解いた。順位の差は、誤字脱字のレベルであった。これは入試関係者や教員にすさまじいインパクトを与えたらしい。そのままの成績でいたら修士から引き抜かれるくらい。

 なぜ理系特化型かというと、モモが昔、ボクに使った音術に起因するらしい。あのときに何をどうしたらあんなことができるのか、非常に興味を持ったようだ。

 ちなみに、成績上位者五名、かつ、特定の点数以上の者には入学金・学費免除という特権がある。残りのトップ二名はど話に出ないので割愛する。別にお金に不自由していなかった家庭(いざとなれば魔族にカンパを求める予定だった)だが、モモは「ラッキー」と密かに言っていた。いや、なに、そっちの私立高校でも年額百万は超えるだろ?  こっちの方もレート換算するとあまり「円」と変わらない。つまり、三人で年額三百万、それが三年間だから計一千万円くらい浮くわけだ。

 入学式には魔王とモモも参加しなかった。もし身元が判明し、生死がわかる訳にはいかないからである。

「まさかあのチビスケどもが難関私立の首席、次席、三席とはな……。あいつらいつ勉強してたんだ?」

「ダーリンがいない間、毎日コツコツ勉強してたのよ。でも、予想問題集とかすぐに飽きちゃって、あたしにずっと音響工学(波動方程式とかのあれ)をねだってきたり……。」

「あいつら、お前みたいな瞬算できんのか?」

「いや、以前ちょっとだけ教えたことがあるけど、すぐに投げ出しちゃった。でも、一応は、ちゃんと解けてたの。簡単なものだと三十分くらいで。」

「お前もあいつらもバケモンだな。」

「なによそれ!」

「まてまて。賞賛してるんだって!」

 まぁ、魔王も一応、魔族の博士課程は出ているので、それなりの学識はあったのだが、女性陣の学力があまりにインフレしているので、黙っていた。

 そんな感じで三姉妹の新しい生活が始まった。

 三姉妹は各々別のクラスに分かれた。が、やり方はともかく、やっていることはみな同じだった。

エリカはうまく周囲に溶け込み周囲をまとめた。

 アヤメはパワフルに周囲をまとめた。

 アイリスはおしとやかに周囲をまとめた。

 血筋なのか、どうやら周囲を引き付けるパワーを持っていた。もはや三姉妹で話題が持ち切りだ。もちろん、「調子乗ってんじゃねえぞ」と言わんバカりにかかってこようとしたり(あ、この学校は共学です)、陰湿にいじめようとしたりする上級生もいた。だが残念なことに、圧倒的な力量差により、誰も手を出す者もいなくなった。そうして上級生にも人気が出だした。

 モモは今までより早く起きるようになり、三姉妹のお弁当を作るようになった。モモの大変な様子を見た三姉妹は、モモをいたわり、お弁当作りを止めるように言ったことがある。

(三姉妹)「無理にお弁当作らなくていいよ。購買で何か買うから。」

「え……、どうして?」

三姉妹の申し出に躊躇した。

(エリカ)「だって。」

(アヤメ)「ママが。」

(アイリス)「大変そうだから。」

「そ、そうね……。でも、あたしの楽しみでもあるから。週に一回は最低食べて。」

(三姉妹)「わかったー!」

こうして、モモの生活の一部がなくなった。なんかこう、埋めるものがないから、胸がぽっかり空いた感じであった。そのせいか、なんとなくだるい感じを覚えたモモであった。

 その様子をアイちゃんが危惧し、

「お母様? なにか、打ち込めることをしましょう?」

と、提案した。

「そうね。あたし……、やっぱり……。」

 おっさんは毎日変わらない生活を送っていた。素振りをやっていた。

「師匠?」

「?」

「あの、よかったら……、お時間あるときで構いませんので……、たまに稽古……、つけてもらえませんか?」

魔王家の事情云々は知っていたし、三姉妹も日中はいなくなったことも。おっさんも嬉しかったのであろう。また愛弟子に稽古をつけることができるのだから。少し微笑んでいた。

「毎日、一時間。昇段試験と同じ、髪の御剣、無段に則って行おう。」

モモはぱあぁっとなり、

「ありがとうございます!」

と喜んでいた。アイちゃんも胸をなで下ろした。

 と、数日が流れた。モモも師匠との稽古が日課であり、楽しみであった。なのだが……。

「疲れているようだな。今日はここまで。」

「はい。ありがとうございました。」

モモは引き下がった。いつもなら「もう一本!」と意気込むはずなのに、何やら様子がおかしい。おっさんは違和感を覚えた。実は日を追うごとに、モモの剣が鈍っていき、息遣いも荒くなっていたのだ。

 夕方から夜にかけ、いつもの時間に三姉妹が帰宅した。リビングにはアイちゃんが座っていた。

(三姉妹)「アイちゃん、ママどうしたの?」

「疲れたそうで、眠っています。」

(三姉妹)「じゃあ今日はあたしたちが(晩飯を)作るぞー!」

(エリカ)「じゃあスープ担当で!」

(アヤメ)「じゃあサラダ担当で!」

(アイリス)「じゃあパン担当で!」

(エリカ・アヤメ)「せこい~!」

なんて三姉妹がキャッキャしている側で、アイちゃんはうかない顔をしていた。

 魔王も帰ってきた。ただ、家に入る前におっさんに呼び止められた。最近のモモの様子である。

「杞憂だと良いが……。」

「すみません、ありがとうございます。ちょっと調べてみます。」

 嫌な気がした。これでも三百年は生きてきる。だいたいのことはわかる。

とりあえず、家に入り、リビングに行った。

「よぉ。モモは?」

「疲れたそうで、眠っています。」

「そうか……。」

 食事の時間だ。三姉妹は楽しそうにスープやパンをたいらげる。一方、アイちゃんの手が進まない。

「なんだおまえ? 晩飯前にお菓子でも食ったのか?」

と、おちょくりつつ探りを入れる。普段ならニコっとして返事をするのに。娘でもあるが天帝だ。その天帝が見たことのない表情をしている。

「ごちそうさまでした。」

アイちゃんは残さず食べた。

「ごめんなさい。今日はお休みします。」

(三姉妹)「おやすみ~!」

アイちゃんは自室へとぼとぼ歩いていった。

 魔王は紙と鉛筆を取り出して、何やら書き始めた。筆談である。口頭では聞かれる可能性があるからだ。

「おかしいだろ?」

三姉妹がうなずいた。普段バカそうにキャッキャしている三姉妹であるが、これでも洞察力は鋭い。

(エリカ)「ママが夕飯を作らずに早く寝るなんて。」

(アヤメ)「アイちゃんのあの顔、初めて見た。」

(アイリス)「パパが師匠と話しているのを見た。」

四人は色々考えた。結果、明日、アイちゃんに診てもらう、ということになった。

いよいよ本当におかしい。普通、一晩寝れば復活するはずなんだが……。

「アイちゃん、ちょっとモモを調べてみてくれよ。」

「……、あ、あの……?」

「やれ。」

魔王の威圧にアイちゃんは負けた。

「……わかりました。」

アイちゃんはモモの額に、自身の額を当てた。

「(あっ……、やっぱり……。)」

アイちゃんは青ざめ、表情は固まり、とても動揺していた。

「あ、あの……。」

「母ちゃんはお休みだ。リビングに戻ろうか。」

そっとモモの部屋から出た。そして、髪と鉛筆を取り出して書き始めた。

「筆談だ。口頭だと聞かれるかもしれん。」

アイちゃんも返事を書いた。

「わかりました。それで、その……、お母様は……。」

「なんだ? もしかして昨今流行はやりの新型ウィルス性感染症か?」

「いいえ、違います。その……。ああれは……、その……ただの慢性疲労です。」

「そんなのお前がツボを押せば疲労は取れるんじゃねえの?」

「いえ……、そうなのですが、初めてなのでカトレアさん立ち合いのもとで行いたいです。」

うーん。そんなことならボクをすぐに連れてくればいいのに。アイちゃんはやたら渋っていた。

「お前、何を隠している。言え!」

魔王は苛立ちを隠せず、アイちゃんの胸ぐらをつかんだ。魔王はさっきからこんな態度を初めてアイちゃんに取った。よくもまぁ天帝様を……。アイちゃんは驚いたが、それ以上の驚きがあったので、さほど動揺しなかった。そして、右人差し指で、胸ぐらをつかんでいる手の甲に、指文字で記した。

 寿命です。

 アイちゃんをそっと下ろし、手で顔面を覆った。

「アイちゃん。言っていい冗談と悪い冗談があるだろ?」

「……事実です。おそらく三日も持ちません……。」

「おいおい嘘だろ……。そりゃあ、天帝様でも動じるわけだ……。」

「……。」

「で、どうすりゃいいんだ? とりあえずカトレアを呼ぶか?」

「早急に。……呼んできます。」

アイちゃんはカトレアを呼びに飛んで行った。

 魔王はアルコール度の高い果実酒(要はブランデー)を取り出し、ショットグラスに注ぎだした。トクトクトクトク……、…………、…………。注いだ手はそのままだった。ウィスキーはグラスから溢れ、溢れたブランデーは床までたどり着いた。床は水浸しになった。もちろん、魔王もそんなことはわかっていた。信じたくなかった。

「まだ出会って二十年も経ってねえぞ……。」

絶望感に打ちひしがれるさなか、アイちゃんがカトレアを引っ張ってきた。

「おー、おー、またひどい有様だねぇ。君らしくもn……。」

っと、ボクは力いっぱい両肩をつかまれた。そりゃそうだ。同胞たちの死は幾度となく見てきたわけだが、愛する者の死は初めてだから。ボクもその気持ちはわかる。いまだにこういうのは慣れないけどね。

「わかった。まずは様子を見よう。」

 モモの部屋へ入り、ボクはモモの額に指をあてた。

「……。うん。そうだね。」

二人はさっきよりも青ざめていた。かといって、この部屋で会話をするのはよろしくない。

「魔王。ちょっと宇宙うえでキャッチボールしようか。」

「ああ。俺も聞きたいことがある。」

アイちゃんはおどおど。

「アイちゃん。ちょっとうえに行ってくるから、母ちゃんの看病を頼むぞ。」

「はい。わかりました。」

(三姉妹)「なになに、どうしたの?」

まだ三姉妹に言えるほど、心の準備ができていなかった。

「うえ、行ってみますか?」

(エリカ)「え?」

(アヤメ)「そんなこと?」

(アイリス)「できるの?」

「はい。うえでお父様とものすごいキャッチボールをしていますよ。」

(三姉妹)「?」

そして、三姉妹は躊躇なくうえへ飛ばされた。

 そこでは、魔王とボクがキャッチボールをしていた。ただのキャッチボールではない。小惑星を投げあっているのだ。ちなみに、うえへ行ったみなは、宇宙でも息が吸えるように、酸素でコーディングされた層を身にまとっている。少なくとも酸欠はないわけだ。

「今のモモの状態はなんなんっだ?」

片腕で魔王は小惑星を投げる。

「アイちゃんに言われなかったの? 慢性疲労から来るただの風邪だ。ただ、身体は衰退してきつつあるから、治りにくくなってるんじゃないかなっ。」

受け取った小惑星を魔王に返す。

「つまり、本当に、寿命なのかっ?」

まだ魔王の腕力は衰えない。

「残念ながらその通りだよっ。」

魔王は小惑星に潰された。これでキャッチボールは終わりかな。早かったな。ボクは魔王のもとへ近づいた。

「正確には、どうやらモモちゃんの家系がもともと短命だったらしい(ボク調べ)。その代わりか、常人よりも優れた能力や才能を有しているようだ。もっと言うと、ASDは先天的な可能性もあるから、モモちゃんは色々恵まれて、こんな特異体質になったと思う。要は、身体を使いすぎたんだよ。」

「まてまて、でたらめじゃねえか。こ……、この間までピンピンしていたんだぞ! そ、そうだ! 俺の命を分け与えることでどうにかならないのか!?」

「君も知ってるだろ? そんな秘術はない。」

「じ、じゃあ、百歩譲って蘇生の類とか……。」

「そんなものはない! 君はボクに何を教わってきたんだ?」

「魂を器に宿すとか……。」

「くどい。」

「せめて、せめて延命とか、そんなものもできないんですか!? 先生っ!! せんせぇ…………。」

まさかあの魔王がこんなに必死に土下座をして物乞いをしてこようとは……。いつ以来だろう、魔王から「先生」と呼ばれたのは。というか、こいつ、ボクを一応先生と慕ってはいたのか。

 が、それ以前に。

「おい、お前。実は最初から知ってたんじゃないか?」

魔王はだんまりだ。

「てめぇのせいだろ、クソがっ!!」

ボクは何発も魔王の顔面にグーで殴った。

「ただの疲労で、あってほしかった……。どうすることもできないくらい、わかってた……。」

魔王の言う通りだ。仮に何か処置を施していたとしても、根本的な解決にはつながらない。むしろ、かえって逆効果の場合もある。例えば、エナジードリンクの過剰摂取のように。ボクは魔王を殴るのをやめた。

(エリカ)「え?」

(アヤメ)「ちょっと?」

(アイリス)「待って?」

 うえへ飛ばされてから、三姉妹はボクと魔王の会話をすべて聞いていた。

(エリカ)「私たちが学校に通い始めてから。」

(アヤメ)「ママは元気はなくなってた。」

(アイリス)「私たちのせい?」

「いや、君たちのせいじゃないよ。学校に行っていなかったとしても、同じような状況だったと思うよ。」

(三姉妹)「ママ~っ!! ママ~っ!!」

と、わんわん泣きだした。

 家族みなでなんて様だ……。いや、わかる。ボクにもわかる。だから、秘術を打ち明けた。

「延命措置は実はあることはあるんだが……。」

「…………、え?」

諦めかけていた希望を取り戻したかのような顔になった。

「これは万能なものではないんだよ。制約がある。まず、延命しても長くて七日が限度だ。しかし、七日間とは断言できない。また、身体組織の崩壊に比例して、延命の確率は下がる。次に、身体的負荷がかかることだ。本来の命を無理やり引き延ばしている分、身体だけの負担はかかる。その苦しむ姿を見たくないのであれば、ある意味、今ここで眠らせる方がいいかもしれない。」

「七日……。」

「まてまて。必ず七日とは言ってないだろう? この秘術はほとんど例がないんだ。悪いが確証できない。正直、これはモモちゃんに決めてもらうのがいいと思う。」

「今すぐにだよな?」

「そうだね。できるだけ早い方がいいかな。」

「わかった。」

 うえから戻ってきたボクと魔王らはアイちゃんを連れ、モモの部屋に入った。

「お母様。今、お話ししても良いですか?」

「……アイちゃん。どうしたの? あれ? カトレアさんも……。 どうしたの?」

「すまん、モモ。単刀直入に言おう……。モモ……、お前はもう、三日と持たないらしい……。」

「……そう。そんな気がしていたわ……。自分の身体だから、……わかってた。」

静まった。アイちゃんは下を向き、魔王はそっぽを向いている。仕方ない。

「モモちゃん。実は、最大七日間、延命できるかもしれないんだ。七日は約束できない。いつ死ぬかまではわからない。」

「そんなこともできるんですね……。さすがカトレアさん。」

「仮に七日間の延命に成功したとしよう。五日くらいはこれまでみたいに元気でいられる。残りは、今みたいに床に臥せることになる……。おそらく、今よりもかなりしんどいと思う。」

「……、そう。」

「これは君が決めてくれ。」

「……、ねぇ、ダーリン。あたし、SHINKANSEN乗りたい。今度は直行じゃなくて、途中で止まって、KYOTOとか行って、みんなで観光とかしたい……。そしてね、あの十四番ゲートから、また、魔王のお城に行きたい……。」

「超電導浮遊式もあるぞ……?」

「乗ってみたいけど、やっぱり、SUPER‐EXPRESSがいいな……。あたしが、これで、魔王のお城に行ったから……。」

「そうか。……ああ。手配は済ませておく。」

「あ、……、でも……。」

「どうした?」

「六人だから、グリーン車じゃなくて、普通車指定席がいいかもね……。」

「ああ。わかった。貸し切りにしとく。」

「ふふっ……。なにそれ……。」

モモの住居はKYUSHU地区だったので、最寄り駅がHAKATAだったのだ。

「じゃあ、帰りは超電導浮遊式で、すぐに帰るぞ。」

「うん。……超電導浮遊……、初めて。……楽しみ。」

超電導浮遊式というのはリニアのことである。君たちのリニア新幹線と同じ原理だ。こちらの戦士制御は魔術で可能となっている。なにせ、氷と雷があればいいのだから。まぁ、制御が難しく、実用化まで時間を費やしたのだから。

モモはこれまで戦いばかりの日々だった。結婚してからは家事・育児で忙しかった。だが、嫌いじゃなかった。きっと、家族との思いでとともに眠りたいのだろう。空を飛んで移動する、という選択肢もあるが、それは野暮なことだろ?

 三姉妹はモモが危篤のため、休暇を取っていた。取ってはいたが……。

「あんたたち、今日は期末試験でしょ? ちゃんと受けなきゃダメでしょ……?」

(三姉妹)「秒で終わらせてたから大丈夫!!」

「そう……。やるわね……。」

本人の言うとおり、秒で学校に赴き、秒で試験を終え、秒で帰っていたのだ。無論、不測の事態であったため、守秘義務とひきかえに全科目を一斉実施が行われた。さすがというべきか、ほぼ九十点台であった。

 モモの気がかりなこと(試験)も終えたので、明朝、ボクはやってきた。

「もう一度聞こう。これをやると、少しだけ元気が湧いてくる。単にツボを押し、細胞を活性化するだけなので、即効性がある。痛みや苦しみはない。ただし、いつまでもつかはわからない。また、これまでにない苦しみを強いることになる。モモちゃん、君はそれでもいいかい? この施術をやるかい?」

モモの決意は固まっていたようだ。

「お願いします。」

ボクは施術を行った。すると、何事もなかったかのように、モモはベッドから起き上がった。

「ほんと。嘘みたいに身体が軽い。」

(三姉妹)「ママ~っ!!」

「お母様!!」

魔王はモモにグーサインを出した。しかし、そっと部屋を出た。耐えられなかったからだ。

ボクは魔王の肩をポンとした。

「君は、モモちゃんが死ぬまで、一緒にいる権利がある。いや、一緒にいるんだ。でないと、一生後悔するぞ。」

「あぁ、……そのつもりだ。そのつもりなんだ……。」

 午後になると、モモたちはさっそくSHINKANSENに乗車した。だが、この車両には誰も乗っていないのだ。

(エリカ)「誰もいなーい!」

(アヤメ)「すごーい!」

(アイリス)「貸し切りじゃん!」

「え、本当に貸し切り……?」

「あいつらが好きに使えってさ。」

「まぁ……。」

君たちの試算だと、一車両十六両編成でだいたい千三百席、博多から東京まで片道二万三千円強だから、フルで乗客がいたらざっと三千万強をかかるんだな。これを貸切るのだから相当な金額的負担だ。これは魔王のポケットマネーから出すつもりだったが、現魔王、および魔族のみなさんが支援してくれたのだ。「私たちはあなたによって今の暮らしができたのです。どうかみなさんで楽しんでください。」と、みなが後押しをしてくれたのだ。まだ戦時中とはいえ、以前より暮らしやすくなったので、みな、魔王やモモに感謝していたのだ。

これは当然、ハーフやヒト族にもSHINKANSEN一本分の損失を与える。そこで貸し切り電車を見た、と、くだらない争いが起きても困るため、この列車、モモたちが乗る列車は「Out Of Service」つまり回送列車扱いにしていたのだ。まぁ、プレスリリース的な感じ? もちろん、この駅員が総動員されたのだが……。魔王たちの乗車・下車の目撃者を出さないように、乗車・下車時はホームも貸し切り状態にしていた。

以前にも触れた通り、駅員に種族の垣根はない。現魔王、ゴルベジアとイクセレスは事前に担当駅員を召集し、今回の事情の説明、非常時の対応、その他もろもろの事前研修を実施した。とにかく魔王たちに無駄な思いをさせないため、それぞれの種族の特性を活かすよう駅員および運転手・客室乗務員が仕向けられたのだ。集められたのは精鋭中の精鋭乗務員である。これってたぶん億の金額が動く話じゃないかなぁ……。

「今日もSHINKANSENをご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車はTOKYO行きSHINKANSENです。途中止まります駅は、KOKURA、……、SHINAGAWAです。次はKOKURAです。まもなく発車いたします。」

ピンポーン、ピンポーン。

ウゥウィイィィン……。

「このタービン音、懐かしい……。」

 モモはあのときの胸の高まりを思い出していた……。

ガッタン……。

SHINKANSENが出発した。

「Ladies And Gentlemen. Welcome To The SHINKANSEN. This Is The Super press bounds to TOKYO. So TOKYO is Our Final Destination.」

「ファイナルデスティネーション(終点)、……、か……。」

魔王ははしゃいでいるモモや三姉妹に目もくれず、ぼんやり外を眺めていた。珍しくアイちゃんが魔王に怒った。

「な、何を言うんですか! ここで始まったのですよ! お父様とお母様が! だから、Final Destinationなんかじゃないです! 」

良いことを言うな、この子。

「おぉ、そうか……。そうだな……。わりいな。お前も姉ちゃんたちと遊んでこいよ。」

「あ、はい……!」

アイちゃんのおかげでちょっと気が晴れた。この子は気を和らげてくれる。本当にいい子だな。そうか、モモは、この旅路の果てで、俺と出会ったんだな……。魔王はやっと家族に目を向けた。

 モモは事前に駅構内で買っておいたかしわ飯を出した。

(三姉妹)「それ、どうしたの?」

「うん。これね。思い出のごはんなの。これを食べてダーリンのところに行ったのよ。お店の味は真似できなくてね。おいしいわよ。」

(エリカ)「わーい!」

(アヤメ)「なにこれ!」

(アイリス)「おいしーい!」

「そうだったのか。」と、一度モモたちに目をやったが、すぐに窓の外を見てしまった。

「はい、ダーリン。あーん。」

「え?」

「あーん。」

「あーん……。」

「おいしいでしょ?」

「あぁ、うめえ。お前が食わせたからな。」

「言うじゃん、ダーリン。」

  昼食も終わり、モモたちはグリーン車、一号車と、いろんな車両を回った。一号車には特別仕様の席があった。あれだ。一日一往復しない特別ラッピング車両のあれと同じ感じだ。

「こんなのあったんだ……。あたし、魔王を倒すことしか考えてなかったから……。」

うそつけ。遠足気分で楽しそうにしてただろ(笑)。

(エリカ)「ねぇねぇ、ここ座ろうよ!!」

(アヤメ)「こことーっぴ(取った)!」

(アイリス)「あー、ずるーい! 後で変わってよぉ!」

「あたし、ここがいい。へへ……。」

「お父様は座らないのですか?」

「あ? 座るなら運転席に決まってんだろ。」

(一同)「なにそれ~。」

乗務員たちはいつもの役務を全うしているように見えたが、この後に訪れる悲劇と、こんな楽しそうなやりとりに中には思いに駆られ、途中で泣きだす乗務員もいた。ばれないようにすぐさま他の乗務員にチェンジしたほどだ。

「まもなく、KYOTOです。〇〇線、××線、△△線は、お乗り換えです。今日もSHINKANSENをご利用くださいまして、ありがとうございました。」

 そんなこんなでKYOTOに着いた。モモが行きたいと言っていた駅に着いた。「全く人がいない。これが魔族の本気なのか。こういうのと闘っていたのか。」と、モモはぞっとした。

「で、どこ行きたいんだ? 一日でいろいろ回るのはしんどいぞ?」

「うん、決まってるの。HUSHIMI-INARIに行ってみたい。」

「へぇ、意外だな。てっきりUJI-MACCHAとか食うのかと思ってた。」

「一周しなくていいなら、ちょっと最初のあたりだけ……。」

「おう。」

 という訳でHUSHIMIにやってきた。ご存じの通り、伏見稲荷大社(ここではほぼ同等のものだ)には、たくさんの鳥居がある。モモは気づいた。

「やっぱり。」

「あぁ、これな。でけぇだろ?」

鳥居の裏には建設者(社)名が刻まれるが、かつての魔族たちや魔王の名が刻まれていたのであった。魔王はこういう伝承に基づく話は好きだったので、でかい鳥居を奉納していた。そして、その鳥居だが、結構、いや、ヒト族の方が圧倒的に少ない。本来、この神社を建てたのはヒト族というのに。鳥居の意味は諸説あるが、こっちの世界では、疫病退散、平穏の願い、といった意味がある。

「あ? そのためにわざわざ来たのか?」

「ん。魔族がヒト族よりも立派な鳥居を多く奉納しているって聞いたことがあったから。」

「お前を責める訳じゃないんだが、仕掛けてきたのはヒト族だからな。それに、こちらの和平交渉にも一切応じなかった。ハーフを除いて、本当は安寧を望んでるんだよ。俺は、できればハーフにも。」

「よかった! ダーリンはダーリンで!」

「は、はぁ?!」

三姉妹とアイちゃんはおいなりさんを食べながらニマニマしていた。

 もう夕方になっていたので、他の観光名所をよそに、早めにホテルにチェックインした。もちろん貸し切りである。モモと魔王、娘たちで部屋を分けた。

 魔王は露天風呂に一人入っていた。

「よくないねえよなぁ……。こういうの……。あと何日だ……。もう、とっくに悟られているんだろうな……。」

「何がよくないの?」

「うわっ! おっま!!」

「いいじゃん、二人なんだし。」

「そ、そうだな……。」

そもそも二人で風呂に入ったのは何年ぶりだろうか……。アイちゃんの前くらいだったんじゃないか? こんなにモモが大胆になるの。

「あたし、ダーリンが考えてること、わかってるよ。ありがとう。でも、今晩くらいは、一緒に寝よ?」

魔王は思いっきり泣きそうになった気を紛らわすかのように、モモの両胸を鷲掴みした。するとモモは、

「えっち……。でも、うれしい。」

と喜んだ。娘たちの世話で忘れていた、モモの初々しさや肌のつやを思い出したのだ。三十を超えだすと顔面パックとつけだしたりするものだが、一切そんなのは必要なく、とにかくつやも胸の張りも申し分ない素肌だった。

「お前、いくつになっても若いな。」

「ダーリンが何言うのよ……。ねぇ、このあと、久々にしない?」

「い、いや、俺は全然大丈夫だけど、お前の身体が……。ほら。」

魔王は、ボクの言葉を思い出した。「君は、モモちゃんが死ぬまで、一緒にいる権利がある。いや、一緒にいるんだ。でないと、一生後悔するぞ。」

「よし、久々にやるか!!」

「……うん。」

  普段は魔王ががっつく感じなのだが、ゆっくり、綺麗な華を愛でるかのように、しとやかだった。モモもちょっと驚いていた。こんなにスローな感じだったからだ。初めてというのもあるのか、非常に気持ちがよかった。すぐに反応して反り返ってしまうくらい、気持ちよかった。が、途中から、

「いつものでいいよ。」

と、言われたので、いつも通りになった。

「ダーリンの変態! でも、やっぱりこれがいいな……。」

「そうか! これがやっぱいいのか! ここか? ここがいいのか?」

「ちょっと! もう……。」

あまりの声量で、隣まで聞こえたので、娘たちはどきどきした。

(娘たち)「なんか、……、すごい。」

そして、行為を終え、ピロートークの途中で、魔王はモモの頭を撫でた。

「最期にできて、嬉しかったぜ……。もう、できなくなるのは、勘弁してほしいが……。」

「ダーリン、ありがとう。あたしをまだ女性として見てくれて……。あたし、最後にダーリンとできて、嬉しかった。ねぇ、ダーリン。あたし、最期はやっぱりあの家で、みんなに見守られて、死にたい。」

「あぁ、わかった……。」

「そういうこと言うな」と言いかけたが、言わなかった。最期になるわがままだ。魔王は天井をずっと見ていた。

 翌朝。チェックアウトギリギリにホテルを出た。目指すはTOKYOだ。その前に駅弁選びだ。

「あいつ(ボクのこと)がここのおむすびがうまいって言ってたから、これにするか?」

駅構内の商業施設にちっさく構えているおむすび屋があった。もちろんいろんな種類のおむすびの個別売りもあるので、みなはどれにするか迷っていた。魔王はセットにした。ボクが薦めたのだ。セットだと竹皮にくるまれてくる。三姉妹はさすがというか、ローテーションできるよう、様々な種類を買った。意外にも、モモとアイちゃんは塩だけだった。

「おかず、いる?」

「ううん、大丈夫。」

 そして、KYOTOをあとにした。

(三姉妹)「おいしー!!」

「うん。塩だけでもおいしい! ね?」

「はい! おいしいです!」

「ぼ、ぼくは、お、おむすびが、す、好きなんだn……。」

「やめなさいよー! そいういうネタ!」

「い、いや、リスペクトだって! そもそも、俺は好きなんだって! たまに食べるおむすびに難度救われたか……。まじでリスペクトだって!! こういうのやってみたかったんだって!」

 魔王はたびたび施しを受けていた。米はとれる土地だったので、よくおむすびとたくあんをもらっていたのだ。まぁ、モモには知る由もなかったが…。

KATANAのみならず、ここは米が流通している。なので、普通におむすびも売っている。君たちのコンビニみたいなところでも。

さて、KYOTOを出てから九十分程で見えてきた。 

「ほら、あれがFUJIYAMAよ!」

(エリカ)「すごーい!」

(アヤメ)「あおーい!」

(アイリス)「空中と全然違う!」

そりゃそうだろうよ。頻繁ではないが、君たちは普段は上空からしか見ないからね。

 そして、お待ちかねの終点に着いた。

「まもなく終点、TOKYOです。お出口右側です。お忘れ物のなきよう、網棚や座席回りなど、もう一度お確かめください。また、お降りの時は足元にご注意ください。今日もSHINKANSENをご利用くださいまして、ありがとうございました。まもなく終点TOKYOです。」

ピンポーン、ピンポーン。プシュウゥゥゥゥ!

「何年ぶりだろう、こうやってTOKYO来るの……。さて、問題です。あたしはこの後、どうしたでしょう?」

(エリカ)「え? 普通に。」

(アヤメ)「パパのお城に。」

(アイリス)「行ったんじゃないの?」

「ブー! この後、トイレに行きました。」

「お、お漏らししそうだったのですか?」

「失礼ね! あたしの戦闘服知らないでしょ?」

(三姉妹)「うん。」

「私も知りません。」

 モモは着替えるだめ、トイレに行った。

(三姉妹)「ママどうだったの?」

「あ? まぁ待てって。」

モモが着替えてきた。

「じゃーん! うーん、さすがにちょっときついけど……。」

「太ったんじゃ……いって!」

魔王に肘うちした。

「魔王のお城はすぐそこよ。」

 十四番ゲートを通過した。通過するとともに、真っ暗になり、たいまつが奥に向かってついていった。そのまま大広間に広がる。

「そう、これが魔王へのルート(直進)よ!」

でかい扉を開いた先には、玉座が一席だけ置いてあった。本来ならば現魔王の二人の玉座があるのだが、あえて戻していたのである。

「ここでだな、モモはこっちの話も聞かず斬りかかったんだ。まぁ、白羽取りして剣を折ったけど。」

「いやいや、その前にダーリンは下痢あとのおなかをさすって出てきたでしょ!」

「あー、あったなー、そんなの。あの頃は過敏性腸症候群だったからなー。下痢が止まらん日もあった。」

まぁ、実際、魔王になった頃は今よりも戦火がひどかったので、先代魔王の引継ぎや戦の鎮圧に多大な労力を強いられ、仕方なかった。

(エリカ)「ここで!」

(アヤメ)「激しいバトル!」

(アイリス)「したの?!」

(魔王・モモ)「いや。」

「圧倒的にダーリンが強かったから根負けしちゃった……。」

うん、まぁ、確かに。

「あの。これって何ですか?」

(三姉妹)「『偉大なる壁ドンの跡』? あっ、あれだー!!」

以前、三姉妹に壁ドンの話をしたことはあったが、よもやこんなものが残っていようとは……。モモにとって死ぬほど恥ずかしいことだった。なにせ、魔王の壁ドンをしたあとのまま、壁面がそのまま残っていたのだ。魔王の手形が残っている。

「ふはは! よくぞ来た! これこそ我々の偉業を成し遂げた先代n……。」

ここぞとばかりに出てきたゴルベジアはモモに吹き飛ばされた。グーパンで。

「だからやめておけと……。」

イクセレスはゴルベジアのカバーに入った。

(三姉妹)「誰?」

「しっ、失礼ですよ! 現魔王です! あちらはどちらとも現魔王です! 知っててください!」

(三姉妹)「は、はい。」

「い、いや、俺はこれ、嬉しいんだが……。歴史が動いた瞬間だったからな……。それに、そもそも、『魔王』とヒト族との婚姻関係は前例がない……。」

魔王は珍しく、部下のしたことを褒めた。

「モモ! この壁面は偉大なる歴史的瞬間だ! 俺は! これは後世まで残すぞ!」

モモは赤面しながら、もじもじしながら、

「……やめてよ……、いいけど……。」

と、答えた。

「これがあたしたちの出会いよ。」

(エリカ)「なんか!」

(アヤメ)「激動の時代を!」

(アイリス)「生き抜いた女!」

「って感じです!」

「ふふっ。そうね。あんな激しいアプローチとかプロポーズとか、なかったわ。言い寄る男はいたけど、なにせ、弱かったから……。」

 モモはちょっとふらついた。モモの身体はいよいよ限界に近づいていた。

「おい! リニアの準備はできてんだろうな!?」

「もちろんですとも!」

「早くこちらへ。最短ルートです。」

「すまんな! また別に礼をする!」

 珍しく魔王が現魔王を褒めた。現魔王はちょっぴり嬉しかった。が、それ以上にモモの安否が心配だった。

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