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この星が滅ぶまで  作者: 朱井いと
7/14

第七章 奴

 その日、三姉妹とアイちゃん、モモは村に買い出しに行こうとしていた。もちろん魔王はいつものお勤めに出かけている。家から出て五十メートル歩いたくらいか、みな、異変を感じた。これは結解フィールドが張られる感覚だ。早い。瞬く間にフィールドがあたりを覆っていく。

「アイちゃん。急いでパパを連れてきて!」

「はい! わかりました!」

ジェアっとすぐに飛び去った。飛び去ってすぐにフィールドが完成した。モモの直感だが、アイちゃんが狙われている気がした。また、フィールド完成内にこの敷地を脱出できるのはアイちゃんだけだと判断したからだ。モモじゃ間に合わない。

 対面から誰かゆっくり歩いてやってきた。ボクだ!

「やぁ、こんにちは。今日はいい天気だね。お散歩びよりだ。」

「どうも。へぇ、これから土砂降りになりそうだけど?」

かなり警戒されている。そりゃそうだ。ボクの格好を見て、初対面だと友好的な人だとは思わないだろうからね。

「で、何か御用かしら?」

「うん。天帝にご挨拶しに来たんだけど……。さっき飛んでっちゃったね。どうしよっかな。」

なぜ天帝を知っている? 外部の人間でも師匠くらいしか知らないはず。刺客か? でもどうやってそれを……。いや、まさかダーリンの言っていた、「奴」?

「いや、なに、出生時から知っていたよ。天帝が降臨したのを。そして最近、覚醒したからね。」

「ご名答。なぜそんなことまで知ってるの?」

「いやぁ、ボクは昔から天帝と親しい仲だったから。」

「昔……?」

「んー、最近だと先代の魔王、つまり君の旦那さんが先々代魔王の側近の頃かな。先々代の魔王なら知ってると思うけど。もっとも、もうこの世にはいないけどね。」

「先代? 先々代? あなた、何を言っているの?」

「いやいや、事実を言ったまでだよ! 君の旦那さんに聞いてみなよ?」

おそらく「奴」なのだろう。モモはまだ探りを入れる。

「その魔王って、死んだんでしょ?」

「なにを言ってるんだい? 君の旦那さんのことだよ! そして、君はあの日、魔王と対峙して、そのまま婚約して行方をくらませた。あくまでヒト族に悟られないように。」

「え、何故それを?」

「いやー、君、嘘をつけないタイプでしょ? 実は君と魔王の戦いを観ていたんだよ。一部始終をしっかり。彼らしいアプローチだったじゃないか。あんな熱烈な壁ドン!」

墓穴を掘ったようなものだったが、一応聞いた。

「あの場所で覇気があったのは、現魔王くらいだったはず……でしょ? あなた、あふれ過ぎているもの……。」

「いやぁ、なに、シノビみたいにしてただけだよ。それとも、隠れた気配には気づかないのかい? よくそんなんで剣聖になれたね。」

これはもう宣戦布告ではなかろうか?

「そうして君たちは結婚し、結ばれた! そう! そして君たちの素晴らしい愛があの子だ! あ、そこの三つ子ちゃんもね。」

どうやっても動いたらやばい、というくらいはわかっていたので、三姉妹は動けずにいた。

「そしてさらに子宝に恵まれた! そうだ! 天帝だ! 仕方ないじゃん。あの子も天帝として生まれたくて生まれた訳じゃないだろうし。」

「そうよ! あの子はあの子よ! 好きで天帝に生まれてなんかないわ!」

「そうだろうとも。だから、ボクがこうしてお迎えに上がった訳さ。」

「事情はなんとなくわかったけど、あたしたちに何がしたいわけ?」

「天帝が帰ってくるまでお話でもしようよ! ほら、まずは、親御さんと仲良くしていく必要があるだろ?」

「あの子は、渡さない。」

 だめだ。モモは思い込んだら話を聞いてくれない。まぁ、彼女の精神障がいの一部からしても仕方ないけど。モモは帯刀していた剣のグリップに手をかけた。師匠の言いつけで、外出するときは帯刀するように言われていたのだ。

「え? ちょっと待ってよ。ボクは争う気はないって! もらうつもりもないって!」

「じゃあ聞くけど、何? このフィールド。しかもただのフィールドじゃなくて、内部からの物理干渉無効化まで施してるじゃない。つまり、内部から物理で破壊することは不可能。あたしたちを閉じ込めるフィールド、魔力無効化フィールド、あと何か三つくらい仕込んでいるでしょ? どんどん魔力を吸い取られて行って、もうすっからかんよ。」

「おー、全くその通りだよ! いや、なに。ボクからの最大限の配慮さ。もちろんボクにも適用されるから、ボクも魔術は使えない。」

「つまり?」

「君、使えるんだろ? 極級魔術。そうでなくても超高難度でも使えば、この一帯が更地になるだろ? ちなみに、ボクも天帝と同様、瞬唱が使えるんだな。」

「脅しのつもり?」

「誤解だよ! うーん、どうやったら納得してくれるかな?」

「じゃあ、何よ、その腕のスカーフ。風属性魔術でも使ってるんじゃないの? 反則じゃない!」

「あー、これね!? じゃーん! 小型扇風機!」

 扇風機でスカーフを煽っているだと? なんだその扇風機って? 私も煽っているのか? モモはイラっときた。こいつはマジなのか、バカなのか、おちょくっているのか。

さすがにモモも限界に達した。

「わかった。もういいわ。あたしたちは買い物に行きたいだけ。そこを通してくれる? でないと斬るわよ?」

ついにモモが抜剣した。鞘の姿からわかっていたが、モモの所持している剣はKATANAだ。

「おー、KATANAじゃんか! いいねえ。強度もいいし使いやすい。じゃあ、ボクはこれでいこうかな。」

ボクが取り出したのは鉄パイプだ。長さは一般的な剣と同じ。

 こいつを出したら、モモが激昂した。無理もない。まともに剣を交えないのであるから。

「ほんっとうにバカにしてるのね?! 三枚おろしにされてもしらないわよ!」

「いやいや、ちゃんと理由があるんだって! 剣だと危ないところまで切れる可能性があるじゃん? こいつなら骨折とか内臓が潰れる程度で済むから。まだ幾分かましだろ? ボクはとっても気を遣ってるんだよ?」

イライライライラッ!!

「(あたしのペースを狂わせるこの感じ、どこかで……。)」

さっきからモモの逆鱗に触れまくっている。モモはかなり殺気立っている。とはいえ、剣聖の型はちゃんと崩さずにいる。側にいる三姉妹はモモのこんな姿を見たこともなく、何も言えないままずっと見ている。

「わかった! かわった。こうしよう。ボクはもうお手上げだ。だからご自由にどうぞ。」

ボクは鉄パイプを下ろし、降参のポーズを取った。いよいよ限界に来たらしい。ついに斬りかかってきた。

「覚悟!!」

スァっ! ぱすっ!

「ゑ?」

ボクは白羽取りをしたのだ。

「そうだ! この感じ! ダーリン!!」

KATANAを割られる前にすぐさま引いた。思いっきり上見(刀の刃にあたる部分)でボクの掌を割いた。

「いってぇぇぇぇ!! ちょっとひどいなぁ!」

モモに掌を見せた。

「ちょっと、やるんなら思いっきり真っ二つに斬ってくれよ! まぁ、無駄だけどね。」

ボクは掌を見せた。ボクの掌はすーっと再生され、元通りになった。

「……え?」

どうもこういう類は初めてだったらしい。なにそれ? どういうこと? 単純に治癒能力が高いだけ? それとももっと別な類? 液体金属とか? モモはかなり動揺していた。間違いない。魔王が話していた。

「奴?!」

「奴? あー、またあいつボクのことを適当に呼んでるな? あれでしょ? 天帝に寄ってたかる、みたいな。」

「ま、まだ、そこまでは言ってないけど……。その頭、真っ二つに斬ったらどうあるのかしら?」

「あー、再生するだけだよ! 昔、心臓を撃ち抜かれたこともあったけど、臓器も再生されて生き返ったよ。やってみる?」

「なに……、それ……。いや……、やらなくていい。」

「他は? 聞いてないのかい? すべての魔術が使えるとか、神の御剣程度じゃ指で白羽取りするとか、あ、これは魔王できたね! ボクのおっぱいはGカップとか? あ、でも彼との身体の関係はないから安心してね!」

「二千五百年を生きる不死身のバケモノ……。」

「あー、バケモノに昇格したか。うん。まぁ、ごもっともだけど。」

「(なにこれ。本当にどこまで人をおちょくっているの? でも全て真実なら、あたし死んじゃう……。ても、あの子たちを守らないと……。)」

モモは三姉妹をかばいだした。

「正直言おう。君は強い! 確かに強い! ボクの知る限りヒト族最強だ! 史実情でもだ! だが残念なことにボクはもっと強い! 故に君は負ける。どうかな? この論法? 横暴かな?」

「好き放題言いやがって……。」

「わかった。じゃあこうしよう! 最低限の魔術を使えるようにしよう! これならKATANAに魔術も込められるだろ? もっとも、込めにくい剣だけど。」

ボクは魔力吸収結界を解いた。ただし、マジックリフレクトフィールド(魔術反射結解)は残したままだ。要はフィールド内での魔術使用は可能となったが、フィールド外に出ようとする魔術は反発される、ということだ。

「確かに魔力が戻ってきた!」

「このフィールド内では高難度が限界かな。まぁ、せっかくなんで面白いものを見せてあげるよ。君も無詠唱といくつかの極級くらいはできるんでしょ? やってみせてよ。あ、極は巻き添え食らうからだめだね。」

「フィールド内だけ地面にでっかい穴が空くだけじゃない。それに加えて、あたしたちは即死。」

「うん。大丈夫だって! やってみなよ。ほれ。」

 モモは三姉妹を見てこう言った。

「できるだけ魔術吸収結解を張りなさい。だめかもしれないけど……。」

(エリカ)「一緒に!」

(アヤメ)「心中!」

(アイリス)「しよう!」

「あんたたちバカなこと言わないの。」

キッ! ボクを消し飛ばさんとするかのごとき、かなり睨まれた。そして、極級魔法を放った。……。

「あれ?」

(三姉妹)「なんともない。」

「いやぁ、こいつを見せたくてねぇ……。」

(一同)「何……それ……?」

 ボクの掌には手に収まるくらいの、白みがかった球体があった。

「これ、君たち知らないの? 魔王は教えてくれなかったの?」

モモや魔王以上の者と言ったら、ボクや天帝くらいなので、魔王は教えなかったのだろう。これがなくても自分の身は守れるので。いや、実は一回見せていた。魔王との決戦のとき、魔剣を抜いたときだ。

「これはね、無のエレメントさ。無のエレメント。本来なら見えないから、ちょっと色を付けているけど。」

(一同)「はぁ?」

エレメント自体はみな知っている。エレメントを媒介にして魔術は使われるのだ。

「いや、これは『属性を持っていない』から無のエレメントではなくて、あらゆる属性を『無に帰す』から、無のエレメントと呼ばれているだけだよ。だからつまり、こいつを身にまとえば極級魔術も帳消しされるというわけさ。」

 剣も駄目。魔術も駄目。モモの残った切り札はこいつしかなかった。

「あなたたちあたしの後ろに隠れなさい。早く!」

三姉妹はとっさにモモの背部に寄り添った。

「あー、もしかしてアレかな?」

モモはハッと軽く息を吐いた。そして、深く息を吸い込み、

「ワッ!!」

と叫んだ。草花がボクの方向に激しく揺れている。竜巻・暴風が起こったかのように……。それもそのはず、モモの叫びは、およそ百二十デシベル(近くで雷鳴が落ちるくらいの音量)だったのだ。

 だがしかし、カトレアは平然としている。それどころか、歓喜に満ち溢れていた。

「いやー、音術にお目にかかれるとは! うれしいねぇ。もっとも、これは物理現象だから魔術でもないけど。」

 音術とは、文字通り音を使う術である。音楽もその部類に入る。子守歌がその典型的な例だ。母親は意図したものではないが、赤ん坊を落ち着かせ、眠りへといざなう過程に音術を使う。ここでいう音術とは、空気振動を増長し、本来の音量の何倍にも飛躍させ、対象へぶつけるものである。その応用の一つとして、三姉妹に見せた腹部エコー診断だ。

「まさか音術も知ってるとは……ね。秘術だったのに……。」

「ボクに知らないことなどたぶん無いよ。でもあれ、使うには相当の演算がいるんだけどねぇ……。極級魔術の方がまだ発動時間は短いし、音術は実用性に乏しいんだよねぇ……。」

モモの頬は汗がずっと流れている。奥の手のタネまで知っているとは。

「いや、君すごいよそれ! あえて微量の魔術を加えることで、まさかあらゆる角度から魔術反射結界を利用してボクを狙うとは。さすがにボクも顔面以外は食らったよ!」

「それはなにより……。」

「それよりさ、あれ! どうしたの?! 驚いたよ。まさか瞬算ができるなんて。これもこのごく短時間で、あの三次元波動方程式を解いたんだよ。ボクだけに狙いを定め、かつ、このフィールド内で出すことのできる最大音圧を当てるように! 有限? 境界? 演算速度的に境界かな? それより、君ってもしかしてサヴァンかい? いや、サヴァンだろ!? すっげえ! 久々に見た!!」

これまで引き延ばしてきて悪かったね。ボクの言ってるサヴァンとは、サヴァン症候群のことだ。発達障害・知的障害の類である。自閉症スペクトラムの中において、サヴァン症候群が顕著にある傾向あるらしい。健常者ではなしえない、超人的な才能を発揮する者がサヴァン症候群と呼ばれる。例えば、ジェット飛行機を一目見ただけで、細部まで描くことができたり。モモはASD持ちであり、精神的な欠陥を持っていたせいか、サヴァン症候群であったようだ。おむすびをよく食べるシーンが多かった、あの原作者も、サヴァン症候群だと言われてたりする。サヴァン症候群の特徴のいくつかがそれに該当した。それは、難解な算術を秒で計算できること、目で見たもの(モモの場合は剣術や魔術)を正確に再現できることだ。モモの強さはここにある。が、モモには別の特徴があった。モモは自分の興味を持つものには異様な執着を示し、そうでないものには全く興味を示さなかった。また、一人でいること(正確には誰もモモについていけなかったので連携ができなかった)が多かったことや、おっさん以外とは、あまり円滑なコミュニケーションが取れなかった。というか、おっさんにもうまく会話が成立しないこともあった。これらから、自閉症スペクトラムであると伺えた。なので、モモに関しては、俗にいうチートではない。ほぼ話に出ないが、一応、ボクや魔王も、かなりの年月をかけていろいろ会得したので、チート扱いしないでもらいたい。ちゃんと努力をしてるんだよ、努力を! もっとも、みながインフレ起こしてみな強すぎるだけだけど。

まぁ、魔王がそういうところもひっくるめて、モモにチュッチュチュッチしてュコミュニケーションをとりながら、うまくフォローしてたっぽいが……。

 モモにはボクが何を言っているのか全く理解できなかったため、そのまま戦闘を続行した。

「さ、サヴァン?? あたしはモモよ! ……なんでもいいわ。ご名答。境界よ。演算式はテンプレも用意してるから……。でも雑だったようね。もっと音圧上げればよかったかしら?」

「いやぁすごいなあ! 頭の回転じゃボクの負けのようだ。ははっ。ボクはかなり訓練して瞬算できるようになったのに。すごいなぁ、君。ボクでさえ、君の演算時間内だと、二次元の平面が限界なのに。よもや立体音響解析とは……。まぁ、それに、あれだ。ボクも音術は大好きだからさ、つい熱くなっちゃった。波動方程式っていい響きだよねぇ……。」

「あれなら聴覚異常があってもおかしくないのに。……、最低限、耳だけ防御したのね。」

「その通り! わかるだろ? 逆位相さ。」

 簡単に説明すると、カトレアは音波を相殺する音波を顔だけに流し、とっさに顔面へのダメージを回避したのだ。

 三姉妹は「波動方程式?」、「境界法?」、「逆位相?」と、訳のわからない用語だらけでぼへっとしていた。ただ驚いたのは、自分たちにそんな術を見せたことはなかったことだった。一応、「方程式」というワードは知っているので、なんかすごいものを解いたことだけはわかった。とにかく三姉妹が出る幕ではない。というか、出たら足手まといになるため、どうしようもなかった。

 蛇足になるけど、有限要素法とか境界要素法(ここでは有限や境界と略した)という、地場とか音場の解析手法があるんだよ。今回の場合、簡単にいうと、ある特定の位置である音量で音を発した場合、どの場所でどれくらいの音量になるかを計算するものかな。コンサートホールの音響設計でも使われたりするよ。

完全に余談だが、筆者はまともに鉛筆で計算すると、二次元波動方程式で一時間はかかった。もっとも、こういうのは解析ソフトを使うけど。

 モモはいよいよあとがなくなった。まだダーリンとアイちゃんは戻ってこない。万事休す……。

「もう限界のようだね。じゃあ、これで終わりにしようか。じゃ、剣を構えて。ボクは正攻法で斬りかかるから、あとはがんばって!」

 ボクは鉄パイプではなく、ちゃんと剣を出した。君たちのRPGの序盤で出てくるようなロングソード? みたいなショボめな剣だが、魔力をため込んでいた。もちろんモモは気づく。

「え、ちょ……。」

「じゃあ、いくよ? 覚悟はいいかい?」

ドッ!

モモは一瞬ひるんだが、以前の魔王に言われた「ほこりから見える動き」を思い出した。そのまま一直線で突っ込んではまずい。

「今よ! 唯一名前をつけた秘儀! ふわり三段!」

いや、実は技名言ってる暇なんてないんだけどね。ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ、と空中に上って行った。そして上面からの斬り。それは直線的ではなく、ふわりふわり浮いた揺れてながら下って行った。なるほど。三段飛んでからのふわりとした空中切りか。

「へぇ、初めて見た。いいねぇ、そういうの。嫌いじゃないよ。でもねぇ、いくら残像があっても、結局は真上から斬りに来るんでしょ? 君の場合。」

「まずっ……!」

「残念でした。どーん!」

「えほっ!」

 ボクは切り返すのではなく、地面で返した。なに、拳で地面を殴っただけだよ。殴った地面は反動ですぐわきに盛り上がるわけだ。それがモモに直撃した。モモはちょっと吐血し、放物線を描いて飛んで行った。あっ、やべ、やりすぎた……。

「斬りかかると言ったのに……。反則でしょ……。」

「いやぁ、斬るとは言ってないよ?」

「(そんなぁ……。ダーリン、お願い。早く、戻ってきて……。)」

モモは宙に浮きながら助けを求めていると、バリン!! バリン!! バリン!! バリン!! 幾重にも構築されていたボクのフィールドが破壊された。

ぽすっ。

「だ……ダーリン!」

「すまん、遅くなった。」

モモをそっと下ろし、

「よぉ。よくもまぁ人のカミさんを派手にボコってくれたじゃねえか。」

「いやぁ、ちょっと力加減ミスっちゃって。ごめんって!」

「(え、ダーリンと知り合い? やっぱり『奴』? ……ってあれ?)」

モモの身体は治癒され、もとに戻っていた。いつの間に……。

「お前の目的はアイちゃんだろ?」

「そうそう! 急に飛んで行ったから、モモちゃんとお話しようと思ったんだけど、嫌われちゃってねぇ……。」

「こんな大層なフィールドを構築しといて、そのビジュアルじゃ警戒されるのは当たり前だろ。」

「モモちゃん、ほんとにごめんね~。いや、ほんと、用があったのはあの子なんだ。」

 カトレアは掌でアイちゃんを指し示した。そして、アイちゃんのもとへ近づき、膝まづいた。

「天帝、此度のご降臨、お疲れ様でございました。わたくしはあなた様の忠誠に基づき、今回もお仕えする所存でございます。なんなりとお申しつけください。」

 魔王は知っていたので傍観していた。モモや三姉妹は「えっ?」という顔で狼狽していた。そして、アイちゃんの右手とボクの右手をかざした。すると、紋章が浮かび上がった。

「カトレア。汝、変わらず。良き。汝の力、我とともに。」

「ありがたきお言葉。このカトレア、此度も何卒、よろしくお願いいたします。」

紋章は消え、アイちゃんはいつもの状態に戻った。

「あの、カトレアさん。よろしくお願いします!」

「もちろんだとも。何なりと言ってくれたまえ。」

 モモは色々と解せなかった。

「さっきの態度と違って……、なにあれ? あの紋章、なに? なんでアイちゃんはあなたのこと知ってるの?」

まぁまぁ、落ち着けって。

「いやぁ、ボクは唯一天帝に許された側近なのさ。紋章はその忠誠の証。この紋章がある限り、ボクと天帝の記憶は共有されるんだよ。だから、さっきの間に、先の天帝が消えてからの記憶を注入しといたよ。まぁ、言葉通りなんでもやるってことかな。」

いや、腑に落ちないようだ。

「えーっとですね、あれですよ。天帝というのは、降臨するときに、万物のことわり、心理を頭に注ぎ込まれるのさ。それゆえ、ひとつ行動すると取り返しのつかない場合もある。ただし、天帝の記憶は継承されない。先代以前の思想に捉われるからだろう。そして、天帝は生まれ育った環境にも影響される。ボクは天帝をできるだけ正しい方向にもっていく、というお世話係みたいなものさ。ボクもバケモノだからできるんだけどね(笑)。もっとも、何が正しいのかわからないけど。」

既出の内容でごめんね。

「それで、アイちゃんをどうするつもり?」

「いやぁ、特別なことをしてもらうつもりはないんだけどね。おそらく『時期』がやってくるから、そのときでいいんじゃないかな。」

 モモは安堵したような、しかし、これからの生活が心配になったような、非常に複雑な心境だった。

「『時期』ってなに? ダーリンはどうしたいの?」

「普通に学校に行かせて普通の生活をやればいいんじゃね? まぁ、『時期』がいつになる知らんが……。要は天帝としての役割を果たすときだ。前回はただ降臨したにすぎない。」

(エリカ)「なんかわからんけど!」

(アヤメ)「すごいね! 応援するよ!」

(アイリス)「なんでも言ってね!」

「はい。ありがとうございます。……、私をバケモノとは思わないで、これまで通りに扱ってくれて……。」

「アイちゃん、当たり前でしょ? あなたが天帝でも、変わらない家族なのよ!」

「はい。ありがとうございます。」

アイちゃんはみなの言葉に励まされ、また、親身になって支えてくれるカトレアと再会し、ちょっと潤んだ。

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