第五章 三つ子の三姉妹
突然だが、子を宿したらしい。モモがそう言った。
「本で読んだことある。……、これが、つわり?」
「まじか?! ほんとか?!」
魔王は喜びのあまり、モモを思いっきり投げ飛ばそうと、両脇をつかんだが、
「なにしてんのよ。赤ちゃん潰す気?」
「あ、いや、はい。すみませんでした。」
大変そうなモモを見て、魔王はできる限りのフォローはした。実はこの魔王、非常に家庭的であり、炊事、洗濯、掃除と、家事をすべてこなすことができる。強いし家事出来るとかどんな魔王だよ。というのも、事前にすべて予習済みなのだ。家事関係は、別に自分の部屋くらい自分でやってたし、あまりにも暇なら、雑巾がけをして、大広間の雑巾がけタイムを計ってたくらいだ。自己ベストを更新すると、その日はすごく機嫌が良かった。さすがにそこまでするなと、側近をはじめ、魔族たちはビビッて、止めに入ったたらしい。
そうして、モモの妊娠が約半年になったので、ついに、腹部超音波を行うことにした。のちに触れるが、この超音波とは、音術であり、いわゆる物理現象の応用である。無論、魔王単独でも超音波はできるが、一応、産婦人科医も実施し、確実性を高めることにした。
まず、魔王がモモのおなかに手をかざした。
「お、おぅ……。」
魔王がすごく動揺した。そして、産婦人科医にごにょごにょ話し出した。
「え、ちょっと、なんなの?」
「いや、ドクターの見解までちょっと待て。」
次に、産婦人科医の腹部超音波が実施された。
ドクターが手を降ろした。
「はい。旦那さんがおっしゃる通り、元気な女の子です。」
「へぇー、女の子なんだ!」
「多胎妊娠です……、一卵性三生児です。」
「へぇー、……、へ?!」
「その、興味深い、といいますか、過去の文献でも、前例を見たことがありませんが……。」
ここ医者、やたら渋る……。
「この子たちは、魔族、半魔、ヒト族の特徴を有しております……。」
「半魔」と言われるのを嫌う魔王だが、今回ばかりは黙った。
「つまり……?」
「一人が両角、一人が片角、一人が角なしです。」
「モモ、でかしたぞ! まさか三つ子で、しかも、各々の種族の象徴を示すとは!!」
と、滅茶苦茶はしゃいでた。
「そ、そうだんだ……。すごいね……。」
話が飲み込めないモモであった。
そのまま産婦人科医は続けた。
「いいですか? 今後、くれぐれも刺激のある食事、事故、大層を起こさないようにしてください。定期的に超音波を行います。とにかく母体を刺激しないでください。」
(二人)「りょ、了解しましたー……。」
そう言って産婦人科医は帰っていった。
「モモ、トイレのときも俺を呼べ! 連れてってやるから。なんならそのさきm……。」
「バカ!」
モモが宿したのは、MD型の胎児であった。うーん、双子の場合だと、一般的なイメージを持たれる、一卵性双生児と呼ばれるやつかな。ちょっと一卵性双生児で説明すると、羊水で満たされた赤ちゃんの部屋(絨毛膜)が一つで、羊水が二つ。まぁ、説明しないけど、他にはDD型とMM型の三種類がある。モモの場合、赤ちゃんの育つ部屋としては三つになるといえばいいだろうか。ボクの知る限り、多胎妊娠の確率式があるんだけど、その三つ子の発生確率は0.013パーセント未満だ。さらに、各種族要素を込むと、天文学的確率になる。魔王とモモは、今回ばかりは、天帝のお導きだと思った。
当然、ただでさえ双生児でも大変なのに、三生児となると、さらに多胎妊娠の合併症も引き起こされるリスクが高まる。何より、流産の可能性もある。魔王とにかくずっとひやひやしていた。いくら鍛錬を積んだとはいえ、モモは背も低いし、かなり華奢な女の子だ。胎児に異常はないか、五日に一回くらいは超音波エコー、経膣エコーを行っていた。特にこれといった所見(医師の考えやメモ)は見られなかった。しかし、モモはこの経膣エコーばかりは慣れなかった。
とにかく、魔王はできる限りの介抱は行った。そして、妊娠後期に入った。ぼちぼち出産予定日が近づいてきた。三十七週目の予定であった。が、三十五週目……。
「ぬおー……。」
「娠後期だというのに、こいつら元気だなー……。」
「うぅ……。うぅ……。」
「ん?」
「だ……、ダーリン……。」
「お、お前……!?」
そうだ。陣痛が予定より早く始まったのだ。
「おい! てめえら! 急いで医者を連れてこい!!」
「はっ!」
本来ならゴルベジアとイクセレスにパシリ兼立ち合いをしてほしかった。彼らには早く見せたかったのだ。が、こいつらは現魔王であり、まだ、激務中だった。その代わりに、俊敏さがウリの、(元)魔王直属のシノビが付き添っていた。
奇跡的にも破水は免れたが、子宮口はまだ全開になっていなかった。シノビにおぶられてやって来た医者は、帝王切開の指示を出し、すぐさま局所麻酔がモモにかけられた。尚、この世界にも麻酔は存在する。
手術は無事に成功した。母子ともに健康だった。
「まじ、これすげえな……。」
「本当に角が……。」
角は超音波でわかっていたが、実物を見ても不思議だった。角を見れば誰かわかるので、入れ替わりされてもすぐに当てられる、くらいしか実感がわかなかった。ちなみにこの世界でも、双子の帝王切開なんかでも、先に生まれた順から、長女、次女……とされる。君たちの場合だと、戸籍法に該当するかな。三姉妹は、一つ角、角なし(ヒト族)、二つ角(魔族)であった。
そして、もうひとつ問題があった。名前だ。いろいろ考えてはいたが、結局まだ決まっていなかった。できるだけ似ている名前にしたかった。が、太朗、次郎、三郎みたいなナンバリングは嫌だった。次女と三女は名前が決まっていた。次女は「アヤメ」、三女は「アイリス」だ。
「うーん、近しいのもなあ……。」
「スミレとかにしたいけど、なんかねぇ……。」
と、たまたま二人は外を見た。ちょうどラベンダーのような、紫の花が咲いていた。
「エリカだ!!」
二人とも一致した。
こうして、魔族の象徴・長女エリカ、ヒト族の象徴・次女アヤメ、ハーフの象徴・三女アイリスが誕生した。
そして、二年ほどは、魔王は目立つ動きをしなかった。なにせ、育児で忙しかったのだ! たまに、ゴルベジアやイクセレスやシノビがやってくるが、
「うるっせぇ!! こっちは育休中だ!!」
と、よく言っていた。とはいえ、戦闘行為以外のもろもろは、一応、やっていた。
この三姉妹は、二人もかなり手を焼いた。なにせ、三人同時多発的に泣くのだ。双子なら片方ずつでどうにかできるが、三つ子ということもあり、最初はどうするか迷っていた。そのうち、ローテーションをするようになっていった。のだが、一人は世話をしないことになるので、残りが泣き出す。半端に作業をしていて、そっちのけにすると、今度は作業を中断された方も泣き出す。これには頭を抱えていた。
買い出しなど、どうしても外出をせざるを得ないときには、おっさんにも手伝ってもらうことがあった。面白いことに、おっさんにはなぜか泣かない。不思議そうな眼差しで見てくる。伸ばしている髭のせいだろうか? 剣聖誉の風格だろうか? 試しに「べろべろばー」をやってみたことがあったらしいが、「何してるんだこのおっさん」みたいな顔をされたらしい。
三つ子のせいなのか、寝るときも同じだし、興味を示すものも同じだった。しかしながら、喧嘩をすることは稀だった。興味を示す「対象物」は同じだが、「対象領域」はそれぞれ異なっていた。それに、なぜかその領域が三分割になっていた。きっと種族の違いなのだろう……。
いろいろと大変ながら、三姉妹は一歳になろうとしていた。「あんよ」ができつつなっていた。魔王はその日、雑務に追われていた。モモは外出中。三姉妹はあんよの真っ最中だった。ふと、三姉妹がこけそうになったので、
「やべぇ、これこけたら面倒になるやつや!」
と、とっさに浮遊魔術をかけた。
「あっぶねぇ……。」
と、雑務に戻ったら、今度はきゃっきゃしている。「今度は何事だ」と後ろを向くと、浮いたままだった! 魔王がかけたのは、すぐに効力を失う程度のものだった。
「は……?」
さすがの魔王も、この魔術適応力には驚いた。三姉妹はまだ指差しの意味がわからないので、とりあえず、魔王も浮遊魔術を自身にかけた。そして、上に浮いてみた。すると、三姉妹も真似ができた! 「まぐれ」と思った魔王は、今度は下に高度を下げた。三姉妹も真似をした。
これはやべぇものを見てしまった。とりあえず家の入口あたりなら、人が来ない限り見えない。なので、家の入口まで浮いてみた。魚が泳ぐ感じで。
「先代、先刻の報告書でs……。」
「あ、あの、これは……。」
ゴルベジアとイクセレスが報告書の件でやってきた。ちょうど入口で鉢合わせた。
「お前ら、これ、どう思う?」
どう、と言われてもねぇ……。とりあえず当たり障りのないことを言った。
「おそらく、先代とモモ様を兼ね備えた、強靭なお方になるかと……。」
「だよなー。」
バサッ。買い物袋を落とした。モモが帰って来たのだ。
「えっ……と、それ……、説明してもらえる?」
ゴルベジアとイクセレスはその場からすぐさま退散した。
魔王は経緯をモモに伝えた。
「お前、一歳って何してた? お漏らしか?」
「バッ、バカ言ってんじゃないわよー!! そんなの覚えてないわよ……。」
「だよなー。俺も知らん。」
魔王はため息をつき、
「もう教える? 魔術?」
「待って! 待って! それは危ないわよ! 反抗期に極級魔術使われたらどうするのよ!?」
「あぁ。お前の言う通りだ。やりかねん。当分は浮遊でいっか……。」
「でも待って。それだと自分で歩かなくなるかも……。」
「あぁ。お前の言う通りだ。なりかねん。」
「ダーリン、さっきから『あぁ。お前の言う通りだ。』ばかり言ってー!!」
「いや、マジックアブソリューションフィールド(魔力吸収結界)の効力で利用できないかと……。」
魔王の言い分はこうだ。魔術自体は使用させても良いことにする。ただし、魔力吸収結解を三姉妹に施す。イメージとしては、目に見えないが、結界を体中にまとう感じだ。これで、えげつない魔術の使用はできない。なにせ魔力を吸い取られる結界であるため、本来なら術者(三姉妹)は魔術を使用できない。そこはうまく調整し、簡単な魔術くらいなら使用できるようにするのだ。ちなみに、浮遊魔術はある種の重力魔術であるため、術者には扱いにくいシロモノだ。なので、三姉妹は浮遊魔術ができなくなり、自立して歩行するようになった
とりあえず、魔王の提案で様子見となった。三歳くらいになると、初級魔術を使用できるようになる。
「そろそろいっか?」
「そうね……。」
魔力吸収結解を解き、三姉妹にモモは言った。
「いい? こういう小さい魔術なら使っていいけど、こういう大きな魔術は使っちゃダメよ!」
と、三姉妹に炎系の高難度魔術のお手本を見せた。
「へ……?!」
ゴー……。でかい火の玉を三姉妹は各々出していた。高難度よりは劣るが、高度魔術には間違いない。
「ちょっと、ダーリン!」
「なんだy……、うげぇ、マジかよ。」
魔王も庭に出てきた。三姉妹は知らぬうちに魔力を高めていたのだ。重りをつけられた足かせが取れた感覚だろうか……。とりあえず、炎を出してしまったので、消すしかない。水系で済むのに、魔王は、
「これはなぁ、こう使うんだっ!!」
と、炎の塊を空に向かって投げた。遠くで爆発音が聞こえた。無論、三姉妹も興味を持った。魔王の真似をして、空に向かって投げだした。
「こりゃぁ、まずったな……。」
「とりあえず、当分は空に投げることをさせようかしら……。」
「あいいつら何しだすか、わからんな……。」
本来なら、この年頃は、自立しだすので、排せつで手を焼くのだが、もう、そういうのはどうでもよくなっていた。ちゃんと四人分(三姉妹用+モモか魔王用)は作ってあるので、トイレの喧嘩はなかった。みな同時にやるので、排せつ行為の前後が大変だったくらいだ。
そして、三姉妹が四歳になったころに、自分たちの使える魔術のバリエーション(高度魔術やそれらの属性)がなくなってしまい、ついに駄々をこねだした。仕方ないので、モモは高難度魔術の本を取り出した。高難度魔術とは、極級魔術、超高難度魔術の次に威力のある魔術群だ。このあたりから、それなりの魔術者でないと使えなくなってくる。モモは、あえてこの難問を三姉妹に出した。これで少しはましになるだろう、と思った。が、一~二か月くらいで会得してしまった。
高難度魔術くらいになると。魔術術式展開に必要な魔力および算術が必要となる。算術は、具体的にいうと、円関数や行列、運動方程式などがあてはまる。これが超高難度、極級になると、さらに難解な算術が必要となる。専ら、ナイトとかに時間稼ぎをしてもらい、そのうちに術式展開を行うのがセオリーだ。
その高難度魔術をあっさりマスターしてしまったのだ。本来ならひらがなを読み書きできるようになるくらいの年齢のはずなんだが……。前々からブロックや立体パズルで遊んではいた。そして、高難度の本に記載している術式や解き方は、なるべくわかりやすく教えていた。三姉妹は、まだ四歳くらいだったので、そういう難解なものは解けるはずはなかった。
「まずったな……。」
「答えのない本を出せばよかった……。」
要は、本の末尾に記載してある答えを暗記していたのだ。問に対する答えを記載している箇所を比較し、その問と解答を照合していたのだ。どこでそんなのを覚えたのかわからんけど……。もちろん、三姉妹は自分らがそんな演算をしているとは知らない。
一度、魔術でおっさんの家を吹き飛ばしそうなことがあり、魔王にすごく怒られたことがあったので、三姉妹は、空に向かって魔術を放っていた。威力が高くなることに快感を覚えていった。
今度は超高難度の話をしだした。さすがに、超高難度以上を今教えるのはまずい、とモモ思ったので、
「あれは年齢制限があるのよ! もうちょっと大人になってからじゃ使えないの。」
と、あしらっていた。
そしたら今度は、庭にでかい球体が発生していた。三姉妹の合体魔術であった。超高難度くらいの魔力があった。さすがのモモも絶句した。まさか単体ではなく、合体でくるとは……。本当にこれはやばい、と思ったので、別の方に興味を向けさせた。
剣術である。
おっさんはいつも通り、素振りをしていた。
(三姉妹)「おじさんこんにちわー!」
「うむ。」
「師匠、あのですね、……、この子たちに稽古をつけてほしいんですが、大丈夫ですか?」
モモはおっさんに事情を話した。おっさんも、自分の家が吹き飛ばされたので、状況はすぐ飲み込めた。
「構わんが、何段を目指すのだ?」
「無段、剣聖です。師匠ほどの腕を……。あたしじゃ言うことを聞かなくて……。」
「はっはっは! 剣聖一家とは面白い! 聞いたこともない。」
「あの、……、ありがとうございます!」
「問題は三つ子をどう均等に育てるかだな……。やってみるとしよう。」
おっさんはうずうず、というかすごく嬉しそうだった。魔王との決戦依頼、死亡扱いとなっていたため、公の場で剣術を教えられなかったからだ。もういっこ理由を言うと、モモと魔王の混血であったため、どれほどの力量を引き出せるか楽しみになったのだ。
(エリカ)「おじさん!」
(アヤメ)「よろしく!」
(アイリス)「お願いします!」
「こら! 師匠と呼びなさい! 師匠と!」
(三姉妹)「わーい、師匠―!!」
おっさんももう五十歳である。なんか孫がやってきた感じがしてた。ちなみに、三姉妹の剣術に関して触れると、最終的には、非公式の無段まで、ちゃんと会得した。モモの会得したときより数か月遅れで。
そのまま、魔術から路線変更し、剣術に励むようになった。もう三姉妹は六歳になった。
いい天気。絶好のお洗濯日和だ。モモは洗濯物を干していた。そこに三姉妹がやってきた。
「ねぇねぇ、ママはどうしてパパと結婚したの?」
ブッ!
あまりにも唐突な質問、かつ、恥ずかしいことを躊躇なくいきなり聞き出してきた。そりゃ気も動転する。
「ど、どうしたの? 急に?」
モモは恥ずかしくて答えたくないらしく、質問を質問で返した。
「だってお兄ちゃんがヨモギお姉ちゃんを好きなんだって!」
「へー、そう。」
このお兄ちゃんとヨモギお姉ちゃんは十二歳。お兄ちゃんというのは、村のガキンチョたちをまとめているリーダーだ。ヨモギお姉ちゃんは面倒見の良い女の子だ。そりゃあ、十二歳だとそろそろ初恋をしてもおかしくないだろう。いろいろ調べると、初恋年齢も十歳以下が大半を占めるらしいね。
「で、どうなったの? 告白とかしたの?」
モモはうまく会話を誘導しようとする。
(エリカ)「見事に!」
(アヤメ)「振られ!」
(アイリス)「玉砕した!」
三姉妹は楽しそうだ。まぁ、そういう経験をするような年齢でもないから無理もない。ていうか、恋バナとか理解できる年齢か? 君たち。
(エリカ)「ママは!」
(アヤメ)「パパから!」
(アイリス)「迫られたの?!」
なんという表現。「迫られる」とかどこで覚えたんだ。こうしてモモの誘導は早くも失敗に終わった。モモはなんとか話題転換を図ろうとする。が、ここはそもそも話題性のあるネタがほいほい来るような土地ではない。
「師匠は独身よ? 生涯独身を貫く! ってよく言ってたわ。」
(三姉妹)「ママは?」
だめだ。木の枝でも投げ、それを取りに行く犬(三姉妹)ではなかった。「待て」と言っているのに、餌にがっつく犬だった。
モモは観念した。どのみち、話すこともあるだろうし。
「パパから来たわ。……壁ドンよ!」
(三姉妹)「壁ドン?! って何?」
「こうやって壁にドン! ってやって女を口説くのよ。」
(エリカ)「すごーい!」
(アヤメ)「パパかっこいい!」
(アイリス)「ママちょろーい!」
なぜ娘たちに壁ドンを伝授しないといけないのだ。モモの心境は複雑だった。とりあえず話したし、これで話を切ろうとするのだが……。
(三姉妹)「パパとママはどっちが強いの?」
「ん? パパに決まってるでしょ?」
モモは質問の意図がよくわからなかった。
(エリカ)「でも、パパはママに怒られてる!」
いや、本気で怒っているんじゃないぞ。靴下脱ぎっぱなしだから怒る、というレベルだぞ。まだ怒りの加減がわからないのだろう。
(アヤメ)「でも、パパはママをすごいと思ってる!」
そうそう、カミさんはだぞ偉大だぞ!
(アイリス)「でも、ベッドの上じゃママ弱い!」
「(まずったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! こいつらの狙いは最初からこれかーっ!!)」
話題を誘導させられたのはモモの方だった。モモはひどく赤面し、うなだれた。
まだ幼いのに、ちゃんとした性教育をした方が良いのか。チューしたら子供ができると教えた方がいいのか……。モモの場合は後者であり、剣聖になる手前あたりで、子を宿すための大切な行為を知った。
「うーーーーん……、あれは夫婦にとって大切なことなのよ。それがあって、あなたたちもこうやって生きてるのよ。」
(三姉妹)「?」
三姉妹は狐につままれた感じだった。
「(よし、うまく撒けた……。)」
安堵したモモだったが、
(三姉妹)「今度はいつするの?!」
と迫ってきた! これはもう怒るしかない、と踏んだモモだったが、
(エリカ)「妹か。」
(アヤメ)「弟か。」
(アイリス)「ほしい。」
「……え?」
意外な反応を三姉妹は示した。
「うーーん、ほしいからできるというもんじゃないのよ。中には子供がほしくてもできない夫婦だっているのよ。」
三姉妹はちぇーっ、という顔ぶりだった。
「(でも、確かに最近してないかも…。)」
モモは切なさげに外の景色を眺めていた。
そしてその夕方。魔王が帰ってきた。
「帰ったぞー! いやまじ、あれどうにかしてくれよ。」
ぶつぶつ言いながら玄関に入ってきた。
「ん?」
モモは左手を胸に、右手で魔王の裾をつまんだ。
「ねぇ、ダーリン、今夜、しよ?」
「あぁ……、あ? なんて(言ったんだ)?!」
こんな大胆に誘ってくるモモは初めてだったのだ。ほぼほぼ魔王がモモのベッドにやってくる。
魔王の目に映ったのは、なんとこの麗しい表情! モモのうるんだ瞳、火照ったほっぺた、瑞々しい唇。最近おつとめばかりに気が行き、あまりしっかりとモモの顔を見ていなかったのだ。また、やるときは暗いため、あまりまともに表情を見れていなかったのだ。
「(やっぱかわえぇ……。もうやりぇ……!)」
改めてモモの魅力に惹かれた。魔王に火が付いた。
「わかった! 明日は有給取る! だから寝かせねぇぞ!」
モモはニコっと笑顔で、
「うん。」
と答えた。
「うんまぁ、とりあえず飯食って風呂入ってから。」
いつもより晩御飯とお風呂の時間が短かった。三姉妹もいつもと違うことに気付いていた。
じゃあ、三姉妹も寝かしつけた、ということで、始まった。ボクはあまり語る気はないから、はしょるけど、割と普通だったよ。キスから始まり、前戯へと入る、普通のパターン。まぁ、しょっちゅうキスはしてたけど。それで、挿れる前には、魔王はちゃんと穴を広げておいた。久々にやると穴が狭くなって挿れるとは痛いからね。それに便乗して、あのスポットもいじったり……。
三姉妹は気配を消して、そっと二人を見ていた。無論、三姉妹にとって、二人が何をしているかわからない。そして、魔王が挿れだした。シーツをかぶっているので、いまいちわからない。ただ、モモが声を出し始めたのにはドキドキした。自分たちが聞いたことのない声色だったからだ。
意外にも、魔王はビデオにあるような、すごく音の鳴るような真似とか、なんかすごい合体技はしなかった。モモに合わせてゆっくり気味で、たまに早くやるくらいだった。
まぁ、魔王は魔王を継承する前の五十年くらいで、女遊びを派手にやっていた。俗にいうシャンパンタワーとか、高級店で気に入った女性を毎回指名したりとか。高級店は病気とか徹底して取り組んでいるので、魔王はその手の病気にはかからなかった。かかっても、自力で治していただろう。という具合で、そのときにいろいろやっていた。ただ、魔族も生物なので、どんなに気に入った子も、お店をやめていくのが宿命なのだ。なので、だんだんと飽きていった。ボクはそのことを知っていたが、今後のことを考えると、遊ぶ暇もなくなるくらい大変になると思い、黙っていたよ。まぁ、ボクもそっちでいうドンペリタワーくらいしたことがあったからね。
興味本位で二人を見ていた三姉妹だったが、うっかり気配を出してしまった。
(三姉妹)「あ……。」
この様子を三姉妹に見られた魔王はとっさに枕を投げ、
「おい、見せ物じゃねえぞ!!」
と、魔王は叱った。
「早く寝ろ!!」
(三姉妹)「は~い。」
モモは心当たりがあったので、魔王に事情を話した。
「あー、だからお前から珍しく誘ってきたのか……。とはいえ、あいつらに見られるプレイってなんだよ……。」
「うーん、たぶんあの子たち寝れないだろうし……。」
「あんたたち、今からこの部屋を覗いちゃだめよ! ただ、何か聞こえてきたら、『ただのフクロウの鳴き声』だから気にしちゃだめよ。」
(三姉妹)「はーい!」
三姉妹は部屋に戻った。もちろん興味深々なので、壁にコップをあてた。しかしながら、あまり聞こえてこない。途中で飽きてきたので、三姉妹は寝た。
二人はというと、実は結構やってた。モモが作った音術により、防音室みたいなのを作り上げていたのだ。音術に関しては、のちに説明するので、ここでは説明しない。
翌日以降、三姉妹は腑に落ちない様子だった。そりゃ、あんな行為で、どうやって赤ちゃんが産まれるかが謎だったからだ。一応、性教育ということで、三姉妹には説明した。やはり納得がいかないので、そのうち飽き、再び剣術に励むようになった。
それから三か月が経とうとしたとき、
「う……。」
(三姉妹)「ママどうしたの?」
たまたま非番だった魔王もやってきて、モモは告げた。
「あなたたち、弟か妹ができる、……かも。」
「ま、まじで?」
三姉妹は目を輝かせてこういった。
(エリカ)「ねぇねぇ。」
(アヤメ)「どうしてわかるの?」
(アイリス)「ちゅーしたらできるの?」
好奇心旺盛な三姉妹をはぐらかすこともできた。が、魔王とモモはネタばらしするかと、
「お前らが見たあの夜だよ。いろいろしてただろ。」
「あれは子を授かるための大切なことなのよ。あなたたちもそうして生まれてきたのよ。」
(三姉妹)「はぁ……、はぁ?」
さすがに六歳のおこちゃまには早い話だったようだ。やはり腑に落ちなかった。
そしてその後、母子ともに健康で、女の子が生まれた。